長らくお待たせいたしました。
苦みを伴う決着にはなりますが、それがいつか、友と語らう席での酒のように、それまで楽しめるようになれば。
短いですが、次回。
上鳴電気に、刮目せよ。
[Side:明々装]
ねんがんの いちねん かいじょう だ!
移動中のバスの中でお昼をかっこみ、みんなを探してうろついてる時だった。
「この後はレクもあるみたいだし、ちょっとはみんなと話せるかなぁ」
「……オイ」
「んぉう! 爆豪じゃんお疲れ! 3人ともいい成績で最終競技が楽しみだよわたし!」
「そいつぁよかった。 ちょっとツラ貸せ」
「……? いいけど、どうしたの?」
なんだかとってもシリアスな……?
「轟の事情、知ってるか」
人気のない非常出口横の階段にて。
ぽとりと零された言葉に、ああ、とため息が出た。
何かの折に聞いてしまったんだろうと想像はできるけど、そんなことで止まるような奴じゃないだろきみ。
「まぁ、大体は。 もしかして同情してたり?」
「ンなわけあるかよ。 生まれとヒーロー観を叩き直すのは別問題だろ」
「じゃあ何が聞きたいんだい」
「あいつが言ってんのは全部本当のことなんか」
って言われても轟くん視点の語りが分からんのだけれども。
そんな顔をしてたら要約してくれた、のだが……。
「うーんと、個性婚に関しては本当だね。 排熱問題に対して明確な答えが無かったエンデヴァーは
「怖いわ。 聞きたいことより深いこと喋んじゃねぇ」
「えー、でもエンデヴァー本人から聞いたんだけどなぁ」
「……成程な、つーことは、実は轟のやつの認識よりは、実際問題は軽いんか?」
「まぁそうだねぇ。 奥さんの方は焦凍くんに行き過ぎた教育をしてたエンデヴァーとお兄さんが大怪我をした事件があったせいで別居してるけど、致命的な感じではないよ」
「正常性バイアスか。 子供の時の記憶が邪魔してんだろうな」
勘のいい人は分かるだろうけど、今の話、実はとんでもないことになっているのだ。
轟燈矢は荼毘になっていない。
わたしがこの世界で目覚める前の話だったので、結構覚悟をしていたのだが……まぁそれは別の機会に思い出すとしよう。
家族仲は決して良いとは言えないが、致命的にバラバラにはなっていない、それがこの世界の轟家である。
「で、轟くんの語った内容だっけ? 大体は想像上のものだよ」
「……やっぱりか」
「まぁ自分やオールマイトを超える子供をってのは初期構想にあったと思うんだけど、それ以上に「自分の炎を継いでしまった子供が困らないように氷の個性を求めた」って方が正しいかな。 それとエンデヴァーは一人っ子でさ、お父さんもヒーローだったんだけど殉職されてて。 きっと危険な仕事だし自分に何があっても兄弟で乗り越えてほしかったんじゃないかなぁ」
しばらく考え込んでいた爆豪は「なるほどな」と呟いて踵を返す。
最近めっきり感じていなかった不機嫌そうな様子に、素直じゃないなと笑みが零れた。
「きみもおせっかいだねぇ」
「ウルセェ。 ヒーローは見るもん見ねぇで勤まる仕事じゃねぇのを教えに行くだけだ」
この世界の轟家は奇跡だ。
いや実際そうなわけで、母親の冷は精神病を患わず、父親の炎司は苛烈だが原作より思慮深い部分があり、兄弟仲は燈矢を失っていない関係で更に良好なのだ。
それでもあれだけ深い恨みを抱いているのは、幼少期からの訓練と母が家を出たのと、父に焼かれた左目から額にかけての火傷。
これらの記憶が幼いころの認識からずっと続いたせいで歪められた結果なのだろう。
「にしても、なんでエンデヴァーは現状を話さないんだろうな」
轟くんはもちろん馬鹿じゃないんだから話せばわかるだろうに。
――――――――――
[Side:上鳴電気]
轟焦凍はすげぇやつだって1-Aだったらみんな分かってることだ。
まずはたった4人の特待生、そんでとにかく顔がいいし、ちょっと尖ってるけど声も良い。
戦闘訓練でもとんでもない凍結能力で一瞬で決着、USJのヴィラン騒ぎだってビビらねぇで結局撃破スコア負けたし。
交流を持とうとしないだけで、当然一目は置かれてる。
……が、幼馴染ーズからの評価は散々だ。
「半燃半冷で炎使わんの意味わからん」
「まぁねぇ。 父親に対する反抗なのかもね」
「持ち腐れてんなら僕が欲しいところだよ」
……とまぁ、今まで個性の発現が無かった緑谷が居るからなんだろうけど、持ってるモンを全部使わないってスタンスが気に入らないらしい。
俺も似たような考えも持つようになったけど、でもそれって明々に個性の解釈を広げてもらって訓練して、それで変わったところだから。
俺としては轟にだってあると思うんだ。
全部使って、もっと強くなって、
胸張って言える時がさ。
「って、思ってたんだけど……なぁ、誰かちょっとトーナメント順変わってくんね?」
「いやーご愁傷様! 初戦から轟となんて、ここまでの快進撃の運も尽きたねー!」
「上鳴か……悪ィな、手は抜かねぇぞ」
昼休憩とレクが終わり、緊張のトーナメント発表。
俺は初戦で轟と、緑谷と爆豪は反対の山であいつらが会うのは準決勝。
勝ち進んだとしたら俺の方の準決勝は常闇かなあ。
「うーん。 まぁ当然俺も本気で行くけど」
「……一瞬で終わっても恨むなよ」
「それ俺のセリフね」
すっげぇ目で見てくるじゃん、いっそウケる。
まぁなんだ、心操じゃないけど、今の俺の現在地点をしっかり見直すいい機会だ。
本気は出すけど全力ではない。
それは足を止めちまった轟じゃなくて、俺の前を走り続けてるあいつらにぶつけなきゃな。
「親父が見てんだ。 俺はここで全員に勝たなきゃならねぇ」
「親に成果を見せるのはそりゃ良いことだけど」
「違う。 俺は氷だけでヒーローになって、奴を否定する」
「もったいなくね? 炎と氷なんて何でもできるじゃん」
「うるせぇ……こんな炎に頼ってまでヒーローになりたくねぇんだ」
「は? お前それ、できることあるのにやらないつもり? それにヒーローになりたくないって?」
瞬間、沸騰。
個性がなくてもできることをし続けた緑谷と、自分より遥か先にいる幼馴染に追いつこうと死に物狂いの爆豪と、ヒーローになりたくて足掻き始めた心操を。
それを、恵まれた轟焦凍が、否定するのか。
抑えきれない感情に、バチバチと制御から外れた電気が弾ける。
「取り消せよ轟。 お前、此処にいて絶対に言っちゃいけねぇこと言ってる自覚あるか」
「俺の事情も知らねぇクセにデカい口叩くんじゃねえよ。 トーナメントが始まれば嫌でも思い知らせてやる」
あー、駄目だこれ。
勘違いを正してやろうなんて甘っちょろいこと言ってる暇なかったわ。
「上鳴くん」
「緑谷。 ちょっとこれ、やっちゃうけどいいか?」
「あははは、上鳴くんは本当にいい人だよね。 君に対しては何も言われてないのに、僕らのために怒っちゃうんだもの。 いいよ、見せてほしい。 君の本気と全力を」
ちょっとばっかし痛ぇだろうけど、思い知ってもらおう。
そんな面白くない理由が、轟焦凍の根っこじゃないだろうって。