有難い限りです。
神野で支配者面したのっぺら野郎に泡吹かせるための話です。
OFAとAFOの因縁。
正直、原作の漫画やアニメに触れた程度じゃ理解できるものじゃない。
わたしがいま生きているこの世界で、明確な悪意をもって活動し、かつての継承者や個性を持つ人々を害する存在……いっそ悍ましく感じるほどだ。
だからこそ、だろう。
「出血多量!!! このままじゃ持たん!!!」
「回復系個性の持ち主はどんな弱いのでもいい!!! 現場まで来てくれ!!! オールマイトが、オールマイトがヤバいんだよォ!!!」
「外傷だけじゃない臓器がぶっ潰れてやがる!! 現場じゃ限界がある!!! 移動系個性もこっちに寄こしてくれ!!!」
「な、に……これ、……こんな……」
正直、こんな、何もかもがぐちゃぐちゃになる戦いだとは思っていなかった。
神野市の悪夢……林間学校後の決戦ですら、弱ったオールマイトで戦えたのだからと、とにかく見通しが甘かった。
目の前で、人が、オールマイトの、命の灯が。
吹いて消えるほど、弱くなるなんて。
わたしという存在がいるだけでも何か変わると思っていた。
何も変わらなかった。
あまりにも、無力。
「おーる、まいと……!」
「あき、あけ……少女……HAHA……恰好、わるい、ところを……見せたね……」
「喋ってはダメですオールマイト!! 今リカバリーガールが手術の準備をしています!!! それまでは、それまでは何としてでも!!!」
私に近い方が安全さ、いくら相手がAFOだとしても守り切って見せよう!
その言葉をヒーローも警察も、みんな信じて、わたしは程近い中継所で戦いを見守っていた。
そして言葉通り、守ってくれた。
自らの生命を懸けて。
「よし、搬送準備完了!! 行くぞ!!!」
何も変わらない、変えられない。
結局、この戦いの後でオールマイトは大きく力を落としていくことになる。
そしてAFOは力を蓄える準備を進めていく。
……だが、それだけで終わらせてたまるものか。
無力だった、それは確かだ。
私の個性は、この戦いで生かせる類のものではないから。
「……やらせない」
奴に押し付けられた不良品個性「装填」。
これは、わたしがもつ反撃の一手になる。
私の存在だけでは結果は変わらずオールマイトが死にかけたのは事実だ。
動揺したのも事実。
だが、これで歩みを止めてはいけない。
獲れるだけ獲る、もちろん、オールマイトのことだって例外じゃない。
冷静になれ、死んでない、死にかけてる、しかも少なくない身体機能を失おうともしてる。
「オールマイトは、戦った!! 助けてくれた……次は、私の番……!!」
――――――――――
決戦半年前。
「私の「治癒」の使い方を変える……?」
「そうです。 前に治してもらったときに思いついたんですけど、わたしの個性「装填」でちょっと変わったことができるんじゃないかって」
そうしてわたしが取り出したのは、活きた魚だ。
締めて、内臓を取り除く。
あ、一応、汚れてもいいように準備はしてるし許可も得てる。
すいすいと捌いていく私に、リカバリーガールは目を丸くしていた。
「随分と上手だねぇ」
「このお話を持ってくるときに下手だと恰好付かないんで、練習してきました」
捌き終えたあと、手にしたナイフで指先を薄く傷つける。
ぷくりと浮かんできた血の玉を眺める。
「リカバリーガールの治癒は、治癒を掛けられた対象の体力を使用して自己治癒能力を高める個性、ですよね?」
「その通りさ。 だから、そもそも体力が残っていない重傷患者には使えない」
「その前提を覆します。 わたしの個性「装填」を使って」
捌いた魚の内臓を元通りに戻し、あふれ出ないよう腹を軽く押さえておく。
「リカバリーガールに治癒をかけてもらったとき、もうひとつの「解析」で見てみたんです。 そうしたら面白いことが分かって。 リカバリーガールの治癒、あれ、極々少量ですがリカバリーガールの体力も流れ込んでいるんです。 その体力が治癒された側の体力を引っ張り出して、回復される部分に集中し、治癒……正確には、正常な状態へ修復していく……そういったプロセスを踏んでいました」
ということは、
「第三者を回復するときのエネルギーの流れを「装填」することで、純粋な回復力のみを抽出し、対象を癒す……そんなことができるんじゃないかって」
「……驚いたね。 そんな使い方、考えたことはなかったよ……いや、その「装填」って個性があるから思いついたってことかい」
「でもまだ机上の空論なので、実験がてら、私に治癒をかけてもらえませんか?」
緊張の一瞬だ。
リカバリーガールの治癒が始まった瞬間、「解析」でエネルギーの流れを見る。
指先に一度、大量のエネルギーが集中し、必要な量での修復が行われようとする。
その瞬間に「装填」を発動。
この個性を研究していて気付いたこと、「装填」は装填される側を損なわないことだ。
つまりこの場合、「修復するという事象」はコピーされる。
「修復する力」は装填され「指先の切り傷は修復される」のだ。
つまり装填される力は、傷を修復しようとして引っ張り出された、わたしの大量の体力だ。
「……これ、きっと、成功です」
「装填」された個性を、たったいま捌いたばかりの魚に放出する。
すると、腹を裂いて内臓を取り出しエラも傷つけ致命的なまで出血した魚は、水槽から取り出した瞬間のように元気に跳ね回る。
「こいつは……たまげたねぇ……まさか、こんな使い方ができるなんて……」
「確実に体力、生命力が欠けたであろう魚を、他から持って来た生命力で補い修復する……これが技術的に確立できれば、スーパーヴィランの襲撃や災害時の怪我人に対して低リスクハイリターンが見込めます」
「まぁ、確かに研究は必要だろうけど、これが確立すれば救える数は圧倒的に増える。 お手柄だねあんた。 他のエネルギー貯蔵系の個性持ちにも応援要請してさっさと試してみるさね」
「よろしくお願いします! わたしの「装填」ももちろんお役に立てますので、いつでもお声掛けください!」
「いや、あんたは今すぐに私と実験研究だ」
え、と固まる私をよそに、リカバリーガールはどこかへ電話をかけだした。
「あああんた、明々の嬢ちゃんに特災の免許を発行しておくれ。 技術革新が起きるかもしれなくてね、今すぐにでも嬢ちゃんが必要なんだよ。 ……ああ、それでいいさね。 送付先は私のところで頼むよ、オールマイトが見たら腰抜かすかもしれないからね。 はい、はいはい」
にんまりといった笑顔でリカバリーガールは私に向き直る。
少しだけ嫌な予感がした。
「特別災害臨時ヒーローの申請を通しておいたよ。 あんたの個性が必要になったとき、私のサイドキックとして医療行為を行えるようにね」
「それって、もしかして」
「あんたがこの話を持って来た時ピンときたよ。 ……オールマイトの因縁の相手、だんだんと尻尾をつかんできてるってね」
決戦に間に合うように、しかして不自然に準備をしているように見えないように。
時期的に塩梅が難しかったけど、今にしてよかった。
「であるなら、内臓や骨や筋肉の欠損、それに一度治癒した後に移植した場合、塞いだ傷に対する治癒の効きを調べなきゃねぇ。 オールマイトなら大丈夫だとは思うけど備えあれば憂いなし、その後の応用も利くもんだしね。 気合い入れな明々の嬢ちゃん」
「……はい! 頑張ります!!」
――――――――――
そうしてわたしはいま、特災ヒーローとしてリカバリーガールの横にいる。
この半年間は、今日のために。
「嬢ちゃんにこんな顔させた反省をさせなきゃならないからね。 力いっぱいひっぱたいても大丈夫なよう、しっかり治すよ」
「はい! やりましょう!」
わたしは医療従事者ではないので手術の内容……切って縫ってみたいなことしか分からなかったけど、三桁に及ぶ治癒の「装填」を繰り返し、十数時間に及ぶ手術を乗り越え、精魂尽き果てたわたしは、どうやら気絶してしまったらしい。
でもしっかり手術は終わったよってリカバリーガールの声は聞こえたから、きっと大丈夫なはずだ。
「……はっ! おーるまいと!」
がばりと飛び起きると、そこは病院のベッドだった。
最後の、手術終了の言葉で大丈夫だとは思っているが……自分の目で確かめるまでは安心できない。
と思っていると。
「ふふ、はははは。 いや失敬。 なんだ、こうして見ると、本当に君は私を好いてくれているんだね」
左隣の窓際のベッド。
ガリガリのじゃない、前に見たままのトゥルーフォームのオールマイトが朗らかに笑っていた。
思わず、感極まったというか、必ず治せると思ってはいたし、リカバリーガールを疑ってなんかいなかったけど、やっぱり、心配で。
張りつめていたものが決壊して、わたしはオールマイトに飛びついていた。
「おーる、まいと! ごめんなさい! わたし、もっと怪我しないで勝っちゃうと思ってた!」
「それを言われると痛いな……すまなかったね、明々少女。 でも約束通り勝ってきた。 それに……」
「私を助けちゃうなんて、すごいヒーローがいたもんだ。 助かったぜ、ヒーロー!」
そして時は流れ。
数多くの原作ブレイクを引き起こしながら。
ついに、『僕のヒーローアカデミア』原作開始の14歳、中学3年生が幕を開ける。