転生少女は恋も未来も諦めない   作:紅琳檎

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今更だけどオールマイトの年齢は雄英1年時に49歳になるよう設定しています。
なのでオリ主との出会いは15-7歳の8年前、41歳としています。
……まァ、イケオジってことでええやろ34歳差だけど転生者だし。

そしてどちらかというと緑谷視点です。



Episode.1 原作開始~体育祭
4.身バレには気をつけろ


Side[明々装]

 

 

えーと、中学3年生の5月某日。

隣人の緑谷出久にわたしの保護者であるオールマイトの存在がバレました。

 

「む? 緊急招集……装ちゃん、ちょっと出てくるよ。 遠くないからすぐ帰ってくるけど、買い物とかあるかな?」

「うーん、無事に帰ってきてくれればそれで! と思ったけど今晩は唐揚げだからおいしいブランド鶏腿肉を買ってきてもらおうかな!」

 

一応オールマイトクラスに招集がかかるレベルのヴィランなんだけどね?

5年前の決戦後、流石に完全までとはいかなかったものの、9割5分ほどの回復をもってオールマイトは現場復帰した。

呼吸器系に若干の後遺症(オールマイトレベルの全力運動をすると咳込む程度)が残ってしまったが、あの件に関わった皆から「生きるか死ぬかの状態からほぼ万全まで回復してるんだから高望みしすぎだ」と口酸っぱく言われて流石に落ち込むのは2年前くらいにやめた。

 

「赤どりってやつが美味そうだね」

「あ、じゃあそれで。 明日のお弁当にも入れるし冷凍しとくからいっぱい買ってきてもいいよ」

「それ装ちゃんが食べたいだけだよね! まぁもちろんいっぱい買ってくるけど!」

 

ごそごそとヒーロースーツを着ているオールマイト(トゥルーフォーム)を凝視しながら雑談に興じる。

……いやその、違う、ただこの完璧な肉体美をヨダレ垂らしながら視姦してるんじゃなくて、原作の今頃にはやせ細りまともな食事ができていなかったことを不意に思い出してしまって、リカバリーガールと自分の功績を再認識していたというか。

まぁ日曜日の昼食後特有な、特にすることのない弛緩した空気にアテられたというか。

 

「じゃあ、行ってくるよ明々少女!」

 

むん、とマッスルフォームになって画風の変わったオールマイトが普通に玄関から出た。

わたしも特に何にも考えてなかったから、いってらっしゃーいなんて返したけど。

その直後、扉の向こうから「オールマイトォ↑!?!?」という聞きなれた絶叫。

かつてない俊敏性を発揮し玄関までダッシュした。

 

「リピーッアフタミッ! 人違いでしたァ!」

「ひ、ヒトチガイデシター!!」

 

見慣れた緑のもじゃ髪を引っ掴んで自宅へ引きずり込みつつ、オールマイトに早く行けと目配せする。

目を白黒させ固まった隣人……いや、今世のヒーロー活動の相棒(予定)である緑谷出久を取り合えず黙ってこっちに来いと居間に座らせ、粗茶ですがとオールマイトがCMに出ている緑茶を出すと、ようやく再起動。

 

「……え、現実?」

「現実ではあるよ、出久の記憶が特に改竄されてなければ」

「怖いこと言わないでよ」

 

いつの間にか身長も抜かされ、ラフなTシャツから覗く隆々とした筋肉。

原作終盤までとはいかずとも、自信を感じさせる表情。

はいやってしまいました、わたしの「解析」を使って原作ブレイクさせちゃいました主人公です。

 

「はー、でもそっか、オールマイトがそーちゃんの保護者……」

 

オールマイトは現役引退を考え始めた。

巨悪を打倒し自身も50歳の節目を控えている状況で、OFAを抱え続けるよりもまだ見ぬ巨悪がいつか生まれ落ちた時に備える。

わたしの「解析」によってOFAの秘密は明かされているので必死に説得した、だってほら、引退したら結婚したいし。

 

「……て、え!? じゃあオールマイトって八木s」

「それ以上言うなよ、思っていても言うなよ」

 

カクカクと首を縦に振る出久。

顔が真っ赤なのは、まあ、うん、そうだよな、幼少期からわたしが保護者を性的に見てるの話してるからな、記憶を失ってくれないかな、なんで話しちゃったんだろうな……いやほんと。

 

「まぁその、一応大丈夫だとは思うんだけど。 【ナチュラルボーンヒーロー】オールマイトが子供保護してるとか世を忍ぶ姿を持ってるとか、本当に一部の人しか知らない情報だから内緒にしてね」

「あ、うん流石にバラしたりしないよ。 でも、そっか……身体のボリュームと画風が違うとはいえ、よく見れば特徴はまさにオールマイトなんだよなぁ……気付かなかったなぁ」

 

お茶美味しいなぁなんて落ち着いた様子の出久を「解析」する。

OFAの器には、成った。

幼少期よりヒーローになるべく一緒にトレーニングを行い、様々な格闘技を修めたその身体。

個性抜きの身体能力だけであれば超肉体派のヒーローとかでなければ追従すら難しいほどに鍛え上げたのだ。

「解析」はOFAを受け継いだ場合、25%までは無反動で使用可能だと示している。

1/4オールマイトが高校1年生だってんだから今後のヴィランにはちょっと同情するな。

 

「まぁ今日でバレちゃったし、ちょっと出久にも関係する大事な話を今晩しようと思ってたから、よかったら晩御飯こっちで食べない? 唐揚げだけど」

「ちょっと気まずいけど唐揚げなら話は別だね。 じゃあ18時くらいでいいかな」

「多分もう1時間もすれば帰ってくるだろうし、今日はブランド鶏だから期待するといいよ!」

「ヴィラン退治のついでに買い物!? ちょっとオールマイト見る目が変わりそう!」

 

まぁ時間あるし、ちょっとロードワークついでに買い物行ってくるよ、と出久は帰っていった。

もう少しちゃんとした出会いとネタバレをして、しっかりと次世代のNo1ヒーローの継承……みたいなイベントを考えていたにも関わらず、こんなぐだぐだな晩御飯時に全部を話すことになるだなんて……。

 

「まァいいかぁ……とりあえずお米セットして、漬けダレ作って……せっかくだし凝るか! ショウガとニンニク買ってきて摺り下ろしてー……ふふふ」

 

買い物行くかぁと立ち上がる。

……その時のわたしは知らなかった。

まさか、これだけ状況を変えたにもかかわらず、予定調和は起きるということを。

 

 

――――――――――

 

 

Side[緑谷出久]

 

「Lサイズの、隠れミノ……!」

 

身体を覆いつくそうとする泥をバックスウェーで躱し、文房具の入ったビニール袋を泥人間の身体に突っ込んで泥を搔き出す。

襲う前に声を出すなんてヴィランにしちゃ初心者かな、なんてぼんやりと思う。

 

「ケース162、対流動体ヴィラン戦闘……ヒーロー「ラップラップ」がスライム状ヴィランを捕獲した際、身体を少しずつ分離させ自重で動けなくなったところを捕獲……袋に入った時点で動かなくなったけど、お前、自分から離れた泥はその時点で操作できないな?」

 

僕から泥人間に対しての決定打は無いものの、このまま回避を続ければ個性の持続時間の限界がくるだろう。

消耗戦なら個性頼りのヴィランより、それ専用に鍛えられた僕の方が圧倒的に有利だ。

半身に構え泥人間を睨みつけるも、相手も後がないからか逃げる様子もない。

 

「くそ、くそくそくそ……! 金も盗めない、隠れミノも捕まらない……! ツイてない……!」

 

晩御飯間に合うかなあ、オールマイトとそーちゃんと、なんか大事な話があるっていうから楽しみにしてたんだけど。

これ例え捕まえたとしても事情聴取とかで遅くなっちゃうよなあ。

それなりに命の危機だとわかっていても、人間の運動神経の範疇で何とかなるのであれば、もう今の僕が恐怖を抱くようなことはない。

……いろんな意味で、僕も変わったんだ。

無個性でも戦える、ヒーローになれる、それを示すために。

 

「僕が逃げればお前は他の人を襲うだろ」

 

ちょっと手間だけどバラバラになるまで袋で掬って遠くに放り投げるか……。

と覚悟を決めた瞬間。

 

「緑谷少年、お困りのようだね!?」

 

ヒーロースーツで、買い物袋をぶら下げたオールマイトが、空から降ってきた。

 

「TEXAS SMASH!!」

「う、おおぉぉ!?!?」

 

負ける要素は無かったとはいえ、ちょっと苦労しそうだなと思っていたヴィランを一撃で行動不能にしてしまうこの力。

オールマイトの、個性。

物が違う、と言ってしまえばそれまでだ。

持たざる者ゆえの劣等感と言ってしまえばそれまでだけど、戦闘向けじゃない個性で戦い続けるヒーローだって居るんだ。

腐るな、緑谷出久、ヒーローになるんだろ。

 

「……ま! 相性ダヨネ! 戦い方も間違ってなかったし、緑谷少年ならやっつけられたんじゃないかな!?」

「……まあ、勝ち筋は見えてましたけど。 一撃っていうのは流石に堪えるというか、なんというか」

 

HAHAHA!と笑うオールマイトに、不躾だとは思いつつ不満を露わにしてしまった。

 

「……まぁ、それもそうだよね。 とりあえずさ、緑谷少年。 今晩の話ってのがさ、君のこれからにすごく関わっていくことなんだ。 明々少女も晩御飯作る時間があるし、鶏肉も駄目になっちゃうかもだから、帰ろうか」

「……はい!」

 

ボフン、と効果音と煙付きで、オールマイトからお隣の八木さんに変身してしまった。

ヒーロースーツでなく何故かカッターシャツとスラックス姿で。

先の一撃で気づいたのか、シンリンカムイが数人の警官を引き連れてやってきた。

 

「通報があったが、こちらにヴィランが?」

「ええ、泥状になる個性のようですが、私たちの前に出てきた瞬間、通りがかったヒーローに吹き飛ばされまして。 急いでいたようでヒーローは去ってしまいましたが」

「……随分と間の悪いヴィランだな……いえ、無事でよかった。 ご安全にお帰りください」

「ありがとうございます」

 

お昼も今も目の当たりにしたけど、本当に同一人物には見えないよなぁ……。

オールマイトはアメリカンなノリと画風で他のヒーローとは一線を画す存在感だけど、八木さんになれば物腰柔らかで丁寧なおじさんって感じだ。

……まあ、これだから僕も気付かなかったんだろうけど、オールマイトオタクを名乗るには少し修行が足りなかったな。

 

「さて出久くん、買ったもの駄目にしちゃったんじゃないか? 帰り道に寄れそうなところで買っていくかい?」

「いえ、ノートとシャー芯くらいなんで大丈夫ですよ。 予備なんで」

 

 

――――――――――

 

 

「あれ? なんでふたりで帰ってくるの?」

「いや、ははは。 帰ってきたら出久くんがヴィランに襲われてるのを見つけてね。 退治してから一緒に帰って来たんだ」

「そうなんだ! まぁどうせ怪我無いでしょ? 鶏肉ありがと! じゃあ準備しちゃうからまた夕方にね! 引子おばさんにもおすそ分け持ってくから、その時に迎えに行くからさ!」

 

にこにこ、ぱたぱたと隣の部屋に消えてくるそーちゃんを見送る。

取り残された僕と八木さんに、きっと気を使ったんだと思う。

僕の表情を見てはっとした顔をしていた。

 

「……気を使われちゃったね」

「八木さんも分かりますか」

「そりゃ、君と同じくらいには私も付き合いがあるからね」

「……お茶、飲んでいってください。 お礼ってほどじゃないですけど」

「じゃ、遠慮なくいただこうかな」

 

八木さんを見たお母さんは嬉しそうに笑い、出久の部屋にお茶持っていきますね、とキッチンに向かってしまった。

小学校の時の気弱で泣き虫だった僕を変えてくれた八木さんとそーちゃんには甘いし全幅の信頼を寄せているのはわかるけど、今のこの内心では、話が早いのも困りものだな、なんて。

 

「……いつ見ても壮観ダネ! これなんて10年前くらいに出た限定品じゃないか?」

「去年の誕生日にそーちゃんからもらいました。 ずっと探していたんですけど、とあるヒーローから「ついに布教用の出番が来たか。 これを彼に」って渡されたらしくて」

「なんかすごく覚えのあるヒーローな気がするな私」

 

お母さんがお茶を持ってきてくれて、もう少し雑談を挟んで、どちらともなく会話が途切れた。

沈黙を破ったのは、八木さん、いやオールマイトだった。

 

「出久くん、いや緑谷少年。 この後の話についてだが、事前に私からいくつか話しておこうと思う。 これは私の今の姿、トゥルーフォームと同じ最重要機密だ。 君だから、私は伝えようと思う。 覚悟はあるかい」

「……はい、あります!」

 

そして語られる、オールマイトの秘密。

個性を譲渡する個性、ワン・フォー・オール。

かつての巨悪との決戦、そーちゃんとリカバリーガールによる治療で復帰できたこと。

50歳(年齢不詳だったけど48歳だったなんて)を目前にして次世代の育成を考えていること。

同時に雄英高校の教師に誘われていて、返事を保留していること。

そして。

 

「……私は、この力を受け継ぐに値する志を持ったヒーローを探していた。 君を初めて見たときは、まあ単なるファンボーイで、無個性だから、難しいかな……なんて思っていたけれど、明々少女と共に頑張る君の精神性は、まさしくヒーローだった。 折れることなく逆境に立ち向かい、自らの境遇に腐ることなく、出来ることを出来るようになるまで努力する……並みの、個性やアイテムに頼るヒーローじゃ、できないことだ」

「そんなことないですよ。 現に僕は、さっきのヴィランを吹き飛ばしたあなたを見て、劣等感と、恨みを抱いてしまった」

「それは人間として間違っていないさ! 自己に無いものに対する渇望ってものは仕方ないもの! なんせ私も、この力を受け継ぐまでは無個性だったからね!」

「え!?」

「本当さ。 だからこそ君なんだ。 さっきのヴィラン、君はただ逃げるだけなら苦労しなかっただろう。 しかし逃げなかった。 他に傷つく人の苦痛を想像し、矢面に立つことで守ろうとした。 打算無しでできるなんて、そこにヒーローを見出さなければ誰がヒーローになれるってんだ!」

 

ああ、憧れのヒーローにこんなに言われて嬉しくないやつはいないだろう。

涙が浮かんで、ぼやけた世界で、なお輝くオールマイトの青い双眸。

強い意志を宿した瞳に射抜かれ、そして次の言葉に、僕は。

 

「君なら、私の力……受け継ぐに値する……!!」

 

 

――――――――――

 

 

「ええええええええ!? 話しちゃったの!? いやまぁ確かに気を利かせて一旦ふたりで話してもらおうかなって思ってたけど、わたしも一応当事者だし仲間外れにされるとは思ってなかったなぁ!?」

「す、すまない装ちゃん! いやまぁ出久くん聞き上手だから、想定よりいっぱい話しちゃってね!?」

「ふーーーんだ! 知らないもんね!! 今日はせっかくの唐揚げだけどマヨネーズ禁止なんだから!!」

 

わいわいばたばたと、半分くらい取っ組み合いになってる食卓で、至高ともいえる唐揚げと完璧な炊き具合の白米を頬張る。

相変わらず美味しい。

多分10歳くらいからだと思うけど、そーちゃんが料理にドハマりして以来、日に日に美味しくなっていくご飯に、ちょっとだけ八木さんが羨ましく思ってたこともあった。

……まあでも「好きな人の体細胞すべてが私の料理によって再構築されていくのってすごくえっちだよね……」って聞いてからは特に感情無くなったけど。

 

「……まぁその、そういうことでね。 わたしの「解析」の結果、出久はOFAを受け継いでもある程度までは使いこなせるだろうってことで、少し前からオールマイトと話してはいたんだ。 使いこなせればもちろん同じ活躍ができるわけだから、実質No1のポジション譲渡なわけで、だとしたら劇的にやりたいじゃんって思ってたのに、この人は……」

 

そーちゃんはそーちゃんなりに、僕とオールマイトの関係性とか、いろんなことを考えて準備をしてくれていたそうで。

まさかそれが今日、いきなりご破算になるなんて思ってもみなかったようだ。

 

「まぁそこも含めてオールマイトだから仕方ないけど! とりあえず話は聞いた通り、オールマイトはこの先数年で完全に引退って流れになる。 そのための後継者探しをするために雄英高校に行くっていうシナリオだったんだけど、それ以前に緑谷出久を見出した。 そしてオールマイトは出久を弟子にして力を譲渡、わたしと出久は雄英高校に入学して卒業後に事務所を立ててNo1ヒーローとその相棒って寸法よ!」

「……その心は?」

「卒業直後にオールマイトの弟子がNo.1ヒーローでビルボードチャートに載ってそのサイドキックも有名だってなれば、わたしがオールマイトと結婚したのを有耶無耶にできるんじゃないかって」

 

そんな顔で見ないでください八木さん。

 

「そーちゃんの野望はわかったよ。 でも本当に僕でいいんですか?」

「まァ他ならぬ私と、ある意味で最も理解者である装ちゃんが良いって言ってるんだし、あとは君の気持ち次第なんだよね実のところ」

「……正直なところ、迷っています。 僕は無個性でもヒーローになれると、その証明もしたくてここまで鍛え上げてきましたから」

 

いくつもの消えない痕が残る、けっして綺麗とは言えない拳に目をやる。

意地を張っても仕方がないけれど、僕の原点は結局、そーちゃんからもらったあの言葉だから。

 

「……それでもきっと、このまま意地を張っていても……肝心な時に力がなく、誰も助けられないヒーローじゃ意味がない。 僕の憧れは、みんなを助けて笑顔を絶やさないオールマイトだ」

 

茶碗や皿を少し避けて、僕は勢いよく頭を下げる。

ゴン、とテーブルに打ち付けた額が少し傷んだが、それでしっかり覚悟が決まった。

 

「お願いしますオールマイト。 僕は、あなたですら助けられるヒーローになりたい。 ここまでお膳立てしてもらったんだ、覚悟をもって、ワン・フォー・オール、受け取らせていただきます」

 

そうして始まった入試までの10か月。

そーちゃんにコントロールを、オールマイトに力の引き出し方を教えてもらいながら、海浜公園の掃除をしながら過ごした。

初めて手にした個性に悪戦苦闘しながらも、形になっていく過程は希望そのものだった。

毎日が進歩の日々。

そして、No.1ヒーローの「力」の重圧。

それでも、やはりふたりから褒められればそれも自信に変わっていく。

 

「OFAは強大な力の塊みたいなものだ。 初めから全力を出せば、ここまで鍛え上げた肉体といえど簡単にぶっ壊れる。 であればコントロールは必須だ」

「でも僕は個性を使うって感覚は全く分からない。 今、この身体の中で渦を巻くような力、出すか、出さないかって選択くらいしかできないよ」

「だからこそ視点を変える。 想像してみて。 頭の中に大量のツマミがある制御盤がある。 視力、聴力、神経、循環器、呼吸器、骨、筋肉……ありとあらゆる能力に対するON、OFFだけじゃない、強弱をつけられる制御盤だ」

「……うん、想像はできた」

「まずは聴力の強化だ。 近くの音を大きくするんじゃなくて、遠くの音を大きくするイメージをもってツマミを回す。 今オールマイトがレンタカーを運転しながらこっちに向かってきてる。 歌うように指示しているから、何の歌かを聞き取るんだ」

「……これは……ベストジーニスト活動5周年記念の……超強火オタクを自称する女性アーティストの……なんでオールマイトが……」

「ちょっと待って何その歌気になるんだけど」

 

聴力に始まり。

 

「視力の強化は少し難しい。 単純な肉体強化として行うと眼球内の筋肉が吹っ飛んで失明することになる。 今度は肉体を弄るんじゃなくて、眼球の表面にコンタクトレンズが入ってるようなイメージで力を集中するんだ。 ここから2㎞先でオールマイトに何かするようにお願いしてるから、それを見つけるように」

「あれは……ワイルドワイルドプッシーキャッツの500万再生を誇る踊ってみた動画の……マンダレイパート……!?」

「なーーーーんでわたしが見えないところで面白いことばっかりするかなぁ!?」

 

コツをつかんだのかそーちゃんの教え方がいいのか、視力は早々にクリアし。

 

「次はパワーだ。 そのまま使えば力は行き場を失って「骨と筋肉が自壊する」ことで発散されてしまう。 そうならないようにまずは骨を筋肉を強化する」

「……っ、ぐ……多分、少しは、出来てると思うけどっ……!」

「力が上半身に寄ってる……パンチを放つなら、むしろ重要なのは下半身だ。 もっと力を抜いて構えてみよう、制御盤の意識は必ず持つようにして。 まだ攻撃動作はしないよ、強化だけだから、もっと弱く構えてみよう」

「イメージ……下半身強化……5%……! この強大な力から、ほんの少しだけ切り出すイメージで……! 上半身、3%……!」

「うん、出来てる! そのイメージ方法、いいね! 口に出すことでイメージ力が上がって制御レベルが段違いだ! そのまま3%のパワーで拳を振るおう!」

「っ、ワン・フォー・オール! 3%! スマッシュ……ッ!!!」

 

たった3%の力とはいえ、振るった拳は空気を切り裂いた。

腕を振った「ブン」なんて音じゃない、「ガオン」とおよそ普通の人間から聞こえるような音じゃなかった。

 

「できた……そして、これが……OFA……!」

「ふふ……まさか譲渡して次の日に3%とはいえコントロールしてしまうとは……将来有望だなぁ少年!」

「そういうオールマイトはどんな練習をしたんですか?」

「え? 私、受け取ったときには8割くらい使えたからなぁ」

「……まァ分かってましたけど、オールマイトって人にモノ教えるの上手じゃないですよね」

「緑谷少年!?」

「まァ役立たずは放っておいて出力上げてみようか。 「解析」は25%まで行けるってさ!」

「明々少女!?」

 

そんなこんなで10か月。

海浜公園のゴミ掃除は1か月程度で終了し、あとは海や山や森を巡ってトレーニングの日々。

そうして迎える雄英高校入試前日。

オールマイトに呼び出された僕は、海浜公園に来ていた。

 

「……来たか、緑谷少年」

「……オールマイト?」

「君は力のコントロールを身に着けた。 この10か月で40%……つまり君は今、ほとんど私の半分程度の力を存分に操れるということだ」

 

トゥルーフォームから、マッスルフォームへ。

何故か着ているヒーロースーツが気にもならないほどの、力の高まりを感じる。

 

「最終テストだ。 その力……人間に振るうとどうなるか、しっかり理解してから雄英に行ってもらおうと思ってね!!」

「なるほど……! じゃあ、遠慮なく……!」

 

バチバチと体表を弾ける電流が身体を覆う。

いつからか、自在に出力を変えられるようになったら発生したのだが、オールマイトをもってしても分からないと言われた。

だがこの電流は、僕の肉体を最大活性してOFAによる自己崩壊を防止してくれている。

「解析」されたそれは、まさに今の僕に必要なもので「外骨格」と名付けた。

 

「さァ待ってやるから全力で来な! 緑谷少年!!」

「骨筋肉循環器呼吸器神経系強化50%! OFA外骨格40%! デトロイト……ッ」

 

想像以上だぜ、少年。

たった40%だっていうのに、音を置き去りにした一撃にオールマイトの言葉が、溶けて。

 

 

――――――――――

 

 

「さ、まずは夢への第一歩だ」

「雄英合格はあくまでスタートライン……ヒーローに、なる。 それもまだ途中」

「ここで躓いたら結婚できないからねわたしは!」

「……締まらないなァ……」

 

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