転生少女は恋も未来も諦めない   作:紅琳檎

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爆豪のかっちゃんは好きです、めっちゃ。
だからまずは苦難を与えて……ね……ほら、農業でわざと水を与えずストレスをかけて出来を良くするじゃないですか……ね……?


5.「僕が/わたしが来た」

入試倍率300倍を誇る超一流のヒーロー育成校。

名だたるヒーローが卒業し活躍することで、その格は年々高まっていく傾向にある。

そしてまた、今年もその時期がやってきた。

 

「退けデク! クソ女!」

「……ああ、爆豪くん。 朝から元気だね」

「……俺の前に立つな、纏めて殺すぞ……!」

 

校門前で見上げていたわたしたちにチワワがキャンキャンと鳴き喚きながら通り過ぎて行った。

チワワに失礼か。

わたしや出久と同じ折寺中の爆発さん太郎、失敬、爆豪勝己くんだ。

試験前で気が立ってるんだろうが、戦闘向きじゃない(と思われてる)私の個性や、無個性である出久が試験を受けることですらストレスなんだろう。

まァ驚いて腰抜かすといいよ、ふふふふ。

 

「ナイーブだねェ、チワワくん。 安全な檻の中から吠え散らかす気分はいかがなもん?」

「アァ!? ぶっ殺されてェかクソ女!」

「無理だろ。 君にそんな衝動的なことはできないよ」

 

おっと、煽り倒そうとしたら出久に口を出されてしまった。

 

「入試前でこんな人目のある前で暴力行為なんて、そもそも受験資格剥奪もいいところだ。 他のヒーロー科だって受けさせて貰えなくなる。 それを分かっていない君じゃない」

「……チッ……邪魔だけはすんな没個性にナード。 試験で会ったらぶっ殺す」

 

苛立ちを隠さないままずんずん進んでいく彼を見送って、思わず出久の顔を見る。

なんかこう、原作のオドオド感がちょっとでも残ってて、お互い頑張ろう的なことを言うかと思ったら完全に論破しておりますこの子。

 

「……言うねえ。 まぁでもわたしより優しい感じだったけど」

「えっこれ以上のこと言うの割と侮辱罪に値しない?」

「まぁ先に喧嘩売ってきたのあっちだし。 まぁともかく、トラウマはどっかに逃げてった感じ?」

 

「……例えるなら、首輪付けて飼いならしてる気分だよ」

 

ッ……あー、ちょっと、いいね、腹の奥にガツンとくる感じ。

そりゃまあLOVEはオールマイトだけど、これだけ長いこと付き合いのある男なんて出久くらいしかいないしLikeくらいはしてるからさ、いい男の面構えにはやっぱりきゅんとくるものがあるね、いいね!

 

「じゃー芸でも仕込んでみようか。 三回回ってワンと鳴けってね!」

「それは良いアイディアだ。 じゃあまずは資格取りにいこう」

「知らしめよう! わたしたちが来た! ってさ!」

 

ふたり並んで歩きだす。

とんでもなく大きい講堂に受験番号順に座っていく。

1万人越えの動員が可能ってそれ最早ドームとかそういうのなんじゃないのか。

……そして、あんな去り方してるけど、同じ学校で受験するってことは受験番号は基本的に連番になるだろうって想像をしていないとさ。

 

「なんで居る……! ぶっ殺すぞ……!」

「受験番号に従ってるだけなんだから吠え散らかすなよチワワくん。 どうせ受験概要聞いたら別れるんだからさ3/12000だよ確率。 ちょっとは我慢覚えたらどう?」

「そーちゃんもだいぶうるさいから静かにしようね」

 

……ンン?

出久の、これは受験前ナイーブとかじゃなさそうだぞ?

わたしの知らないうちに精神性が1歩も2歩も上がってるけど、昨日の夜まではそんなこと無かったような……さてはオールマイトがなんかしたのかな……?

 

 

――――――――――

 

 

プレゼントマイクのありがたい説明を受けたのち、誘導に従って受験会場へと別れていく。

いやまあ分かってたことだけど、出久がこんな感じだから飯田くんの質問後受験前ナイーブブチ切れが無かったのは原作ファンとしてちょっと残念。

 

「じゃあお互い頑張ろう! チワワくんは落ちてもいいよ」

「アァ!?」

「……入試形式が分かって一安心だ。 ごめんねそーちゃん、ちょっと気になってたことがあったんだけど、もう大丈夫そうだよ」

「それならよかった! じゃあもう一回!」

 

「知らしめよう! わたしが来たって!」

「……うん、僕が来たって!」

 

バスに揺られて10分ほど。

雄英の敷地は出ていない。

 

「広くねー……? 思ったよりでっかいぞ雄英……」

 

事前申請があれば、銃刀法に引っかからない範囲での武器の携帯は認められる。

わたしの「解析」は攻撃力はもちろんないけど、「装填」は十分な武器になる。

……が、わたしの事情を知っているのは極少数なわけで、そうなるとカモフラージュが必要になってくるわけだ。

そこでこの、サポーター付きのグローブ!

拳と甲の部分に金属の鋲と板が縫い付けてある、徒手空拳で戦うヒーロー志望向けの安価なやつだが、これがまたわたしの「装填」と相性がいいのだ。

 

「お、そのグローブ」

「おん? おお、きみも使うんだ?」

「安いけど耐久性あっていいよな、俺も個性柄、使い勝手がいいから持ってきてるんだ」

「申請書類だけはダルかったけどね」

「一応市販品のグローブだってのに3枚も書くなんてな」

「ほんとそれ」

 

……おお、砂藤くん、砂藤くんじゃないか!

原作キャラと同じ会場ってのもうれしいもんだね!

それにコミュニケーションが上手、ちゃんと共通の話題も持ってくるし自分のこともほんのり混ぜてくるし。

きみはきっといいお嫁さんを捕まえるだろうな!

 

「俺、砂藤ってんだ。 よろしく」

「明々。夜明けとかの「明」の字と繰り返す「々」で、あきあけ」

「すっげぇ珍しい苗字だな……」

「世界にわたしオンリー、すごいでしょ」

 

ぶい、とピースサインを見せると若干気まずそうな顔。

……しまった!

オールマイトってか八木さんと苗字が違うのが日常過ぎて、子供は両親がいて同じ苗字ってのが普通なんだった!

 

「あ、いやその気にしないで? わたし、個性事故で孤児だったから自分で付けたんだよ」

「あー……そういうことか、悪い、ちょっとなんて答えたらいいか分からなかったというか、それはそれで重い話なんだけどな?」

「ふふふ、ごめんごめん」

 

そんな雑談をしていればバスは静かに減速していき、ひとつの街の前で停まった。

うおお、知ってても圧巻だなこりゃ。

 

「ふふふ、未来のクラスメイトかもしれないからね、グローブつながりだけど、お互い頑張っていきましょ」

「おう、ありがとうな! お互い頑張ろうぜ!」

 

スタート地点へ向かい、なるべくラインの前の方を確保する。

グローブを嵌めて、柔軟と準備体操。

心拍上げてけ、動くぞ身体!

わたしはどうしたって機動力無いから初速は大事だ!

 

「「はいスタート」」

 

プレゼントマイクの個性、拡声器を通したような地声でスタートが告げられる。

あまりに自然なそれに反応したのはわたしだけで、あとの皆は何事かと首を傾げている。

こればっかりはごめんな、転生特典ってこととわたしの安寧な結婚生活のために許してくれ!

 

「「実戦にカウントがあると思ってんのかぁ!? 走れ走れ!!」」

 

そしてようやく動き出す受験生を尻目に、わたしは適当なロボの群れに飛び込む。

両拳を打ち鳴らし「装填」を発動、目の前のロボに、叩き込む!

 

「ス、マッシュ!」

 

バゴンと大きな音を立てて崩壊する、確か1ptロボ。

自らの拳同士で発生した衝撃を「装填」することで劇的に破壊力を上げるわたしオリジナルの近接戦闘、なかなかどうしていいんじゃない?

結構脆いっていうか、これ外装樹脂だしポリ素材とかも使ってるからビビらず突っ込めば割と壊せるタイプの奴だ!

3ptになってくると金属系だけど、これもしかして洞察力と体力があれば戦闘外個性でも稼げるようにしてあるな?

 

「見たところ2ptに集中した方が稼げそうだし、もう少し奥に行こうかな……」

「う、うわぁあ!?」

「おっとそこの少年、まだ始まったばかりだから怪我はするもんじゃないよ!」

 

紫もじゃツン髪のヒョロガリくんを3ptから救い出し、殴り壊す。

装甲の裏側も脆いな……ふーん、合理性に欠くだなんだといいながらも、ちゃんと道は残してる……こりゃ、仮にOFAなくても出久なら合格できちゃっただろうな。

 

「た、助かった、ありがとう」

「いいっていいって。それより、1ptは樹脂とポリ素材が主だから鉄パイプとかで殴っても十分壊せるよ。 2ptは脚部パーツがどうやら脆いから壊して行動不能でポイント貰えそう。 んで3ptは装甲の内側は1ptと似通ってるからうまくやりな!」

「え、あ、ちょっと」

「じゃあ気を付けてね!!」

 

ってかあれ心操くんじゃなかったかな!?

ヒョロガリとか思ってごめんって感じだけど、戦闘外どころか無個性の出久があそこまで鍛えてるからちょっとしょうがないかな!!

まぁ道は示した、これで彼が上がってくるなら、力を貸してやるだけだ。

 

「「残り時間、4分!! まだまだ頑張れリスナァ諸君!!」」

 

大体30ptってところで残り時間はあとわずか。

原作の得点表を思い返すに、レスキュー60ptの原作出久が7位だったことから、合計点数で45ptも超えていればヒーロー科は合格と見ていいだろう。

さて、レスキューptだけは審査制で読めないから40ptくらいまでは稼いでおきたいところ!

 

「に、逃げろおおぉぉおお!!」

「なんだあれ!! シャレにならんくらいデケェ!!」

 

遠くで爆発音とともに姿を現す0ptオジャマロボ。

おー、でっかい、20mくらいはありそう?

 

「さーすがに装填じゃどうにもならなそうだけど……立ち向かう受験生は居ない感じか」

 

近づきながら道中のロボを破壊し、様子をうかがう。

ほとんどの受験生とすれ違っていることから、通りすがりにpt稼ぐって頭もない奴が多いみたいだ。

……まあ、単純な破壊力ならわたしも大したことはないし、近づくだけなら旨味はないんだけどな。

 

「さて……万が一もあるし」

 

「解析」を使って逃げ遅れがいないかを確認する。

……ひとりいるな……というか……なんか、見え方が変……?

 

「う、ぐぅ……うご、けない……!」

 

は、葉隠ちゃんじゃないか!?

結構盛大に瓦礫に挟まれてるけど大丈夫なのかな!?

 

「きみ! 大丈夫!?」

「あ、危ないよ!? オジャマロボが来ちゃう!」

「大丈夫、こっち壊した後、ルート変えていったから! それよりも怪我は!? 挟まれてるけど、腹部圧迫で内臓損傷とか怖いよ!」

「痛みはないけど、その、ちょうど隙間に挟まっちゃったというか、出られないだけで」

 

……んん?

あまりにも様子がおかしいので「解析」で詳しく状況を見てみると。

 

「……か、壁尻状態……!? 随分なBH(ちちしり)をお持ちで……!?」

「うわぁん恥ずかしいから言わないでいたのにぃ!」

 

ご想像にお任せします。

まぁそれはそうと助け出さないとあんまりだし、想像力豊かな男連中が来たら葉隠ちゃんが邪な目で見られてしまうからなんとかしないとな。

自分の力だけだとちょっと足りなさそうだな……。

 

「ちょっとだけ待ってて。 すぐ出してあげるよ」

 

崩れたコンクリ片から鉄筋を引っ張り出す。

ある意味で必殺技を使う時が来たか……終わったらリカバリーガール、頼みますよ。

 

「え? ちょ、ちょっと、なにして」

「いっっっった……!!」

 

左手に思い切り振り下ろす。

甲の金属板に当たるが、わたしの「装填」は衝撃を無視できない。

ワンチャン骨にヒビが入ったかも、ってところだけど、まぁもう試験も終わるし大丈夫だろう。

傷む左手を我慢しながら、右の掌に叩きつける。

拳合わせはちょっと痛みが強くて覚悟が足りない……!

 

「万が一があるから、頭は庇っててね……!」

 

「装填・倍! スマッシュ!!」

 

鉄筋+左拳+純粋な右腕力!

一時的に単純計算3倍の衝撃を上部コンクリにアッパーカットを叩き込む!

吹き飛ぶほどではないものの打ち込んだ側が浮き、反対に滑り落ちていく。

ま、まぁ……スマッシュ言いながらこの結果なのはわたしの個性的に限界だからちょっと恥ずかしいけど、助け出すことはできたしOKだな!

両拳が痛いけど!

 

「わ、わ! すごい! 衝撃を溜める感じの個性!? 私「透明化」だけど物理接触しちゃうから、どうしようもなくて! 助かったよ!」

「いいっていいって。 困ったときはお互い様だもんね。 とりあえず、両手損傷気味だから、残り時間、わたしを助けてくれたら嬉しいな」

「もちろん! これでも結構やっつけてるからね! 任せて!」

 

そうしてオジャマロボから離れて安全ルートを辿りつつ、協力していくつかロボを倒し……。

 

「「終了ーーー!!!」」

 

たった15分だっていうのに、随分と濃厚な試験だったなぁ。

原作キャラにもなんだかんだ出会えてるし、多分受かる程度のptは稼げてるし、ああでも……やっぱり出久がオジャマロボぶっ壊すところ見たかったなぁ。

 

「はいはい、おや。 あんたこの会場だったのかい」

「ご無沙汰してますリカバリーガール。 わたしも怪我してますけど、ちょっとこの子からいいですか? 瓦礫の隙間に挟まっていて外傷とか自覚症状は無いんですけど、腹部圧迫がちょっと怖いかもって」

「ちゃんと勉強してるようだね。 はいよ、じゃあ、チユーーーーーー」

 

ふたりして治してもらって、グミをもらってぐみぐみしながら会場を後にする。

バスの中で砂藤くんと葉隠ちゃんと話していると、心操くんがやってきた。

その表情は、暗い。

 

「……さっきは、ありがとう。 アドバイスも貰ったってのに、壊せたのはたったの3ptだけだった」

「まぁ仕方がないとは思うよ。 恐らく戦闘向きの個性じゃないっぽいし、何かしら身体を鍛えてるわけでもなさそうだし。 突き放してるように聞こえたらごめんね」

「いや……これは、俺の怠慢だから……」

「そうだね! 実際にやってみて分かったと思うけど、鍛えてればもっともっと可能性は高かった。 じゃあこれはきみの今後の課題だね」

 

雄英高校ヒーロー科は入試時点で20人2クラスの採用を行うことは周知の事実ではあるが、同時に卒業時にヒーロー科の人数はかなりの確率で増減している。

普通科、経営科、サポート科との転科は学期ごとに行うほど自由度の高さがウリでもある。

 

「ヒーロー科を受けるくらいだ、きっと普通科だって受けてるでしょ?」

「まぁ……一応、合格はしてる、けど」

「多分だけどわたしたちは受かっている。 スタートは違えど、ヒーロー免許取って現場に出れば誰だって横一線の「プロヒーロー」だからね! 先に行ってるよ、心操くん!」

「……ああ!」

 

アツいんだな明々って、情熱の人って感じ。

だなんてふたりと話していると、最初の説明会場に戻っていた。

バスを降りれば、出久が。

 

「い、ず……」

 

どこか凪いだような表情の奥に、溶岩のような熱を感じて、思わず声を掛けられなくなった。

恐らくオジャマロボをぶっ飛ばした右手を見つめているその顔。

知らない顔をしていて、少し、恐怖を感じた。

 

「……あれ、そーちゃん。 お帰り。 僕の方が会場近かったのかな?」

「あ、お、うん。 ただいま。 出久もお疲れ様。 大丈夫だった?」

「あのでっかいロボ、そっちも出た? ちょっと驚いたよね」

「わたしは流石にスルー! ありゃ流石に人間の範疇じゃ難しいって!」

「あはは、それもそっか」

 

……気のせい、だったのかな?

拭いきれない違和感は残ったものの、無事に雄英高校入試日程はすべて終了。

あとは結果を待つだけになった。

 

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