魔竜が森を飛び去った後。集落にいた六人は森から出てきたジークフリートたちと合流し、ギルド酒場でつかの間の休息を取っていた。ジークフリート自身は鎧が焦げた程度だが、五人いた部下は二人減り、残った三人も満身創痍と言っていい状態。本人たちが語るまでもなく、森の中で激闘を繰り広げていたことが分かる。
結果として、魔竜の討伐は失敗に終わった。その場の誰もが話のきっかけをつかみ損ねる中、ジークフリートだけは重い事実と率直に向き合う。
「……今回の失敗、俺に全ての責がある。面目ないとしか言いようがない」
「えっ」
真っ先に反応したのはテレザだった。驚いたというか、もはや恐怖にすら見える表情が覗く。
「何よ。そんなに、まっすぐ謝られたら……い、いじりずらいでしょ」
まさか素直な謝罪が来るとは思わなかったが、どうにか軽口を返す。だがジークフリートは構うことなく、淡々と反省を口にする。
「いや、そんな意図はない。魔竜に重傷を負わせはしたが、一緒にいた人間……なのか。そいつの力量を見誤った。結果部下を失い、魔竜の逃走を許した」
「……別に。鬼の首を取る気はないわ」
テレザにしても、万全の仕事ぶりだったかと聞かれたら首を縦に振りかねる。一人だったら、間違いなく無事に帰ってこられなかった。苛立ち、無駄に疲弊し、いらない危機を招いた。黙りこんだテレザに代わり、オーガスタスが会話を繋ぐ。
「一緒にいた人間ってのは、どんな奴だったんだ?」
「ライン、と魔竜は呼んでいたな。属性は……分からん」
「分からん?」
「少なくとも、俺の知識にはないものだった。そもそも、
「どうにも、だな……」
答えに頭を掻くオーガスタスだが、
「何にせよ王都へ戻り、王に報告をせねばならん。このギルドからも、報告者がほしいのだが――」
「なら、私が行くわ。ここでできることないし」
テレザが立候補した。カミラが何か言おうとしたが、オーガスタスに制される。テレザの傷自体は決して深くないが、
「分かった。が……そこの娘はどうする? お前について来たがっているようだが」
「シェラのこと? ……ギルドに残しておきたいわね。
「それに?」
ジークフリートに答えるかわり、テレザはチラリと酒場の入り口を見る。先ほどから、チラチラと視線が向けられているのを感じていた。
「──何やってんのよ、三人とも。さっさと入って来ればいいじゃない」
「ごめん。何ていうか……空気が重くて、入りづらかったんだ」
「あっ……お久しぶりですカインさん! ピジムさんに、グラシェスさんも!」
テレザの手招きで酒場に現れた顔に、シェラが椅子から跳び上がらんばかりに喜びをあらわにする。シェラとパーティーを組む三人組。彼らもまたギルドの
「鉄血都市から戻ってきてたのは知ってたけど、僕たちも色々任されてたんだ。二人とも、無事でよかったよ」
ようやく顔を見られた、と三カ月ぶりの再会にカインの顔に安堵が広がる。ピジムとグラシェスも、それぞれ再会を喜んでいた。
「おかえり、二人とも! センパイね、ずっと心配してたんだよ」
「お、おかえりなさい。た、大変だったみたいですね」
「ん、ただいま。……あなたたち、結構腕を上げたみたいね?」
テレザは麗銀級としての目で三人を観察し、纏う雰囲気が大分変わっていることに気づく。三カ月前は新米だと丸分かりだったピジムとグラシェスも、この緊急事態にすっかり落ち着いて見える。カインは元々聡明だったが、やや物足りなかった
「せっかく会えたし、シェラもゆっくり話がしたいでしょ」
「……」
テレザの言葉に、シェラは黙って頷いた。彼女にしろ、テレザに付いて行ったところで何もできないことは分かっている。
「決まりだな。すぐに出発するぞ」
やり取りを見て、ジークフリートは短く指示を飛ばす。テレザも立ち上がり、少し寂しげな笑顔を残る者たちへと向けた。
「そういうことだから。シェラをよろしくね」
「……分かった。気を付けてね」
「報告だけとはいえ、無理すんじゃねえぞ」
カインとオーガスタスがそれぞれ声をかけてくれた。カミラもクラレンスも、手を振ってくれる。完全に無反応なのはサイラスだけ。最後にテレザはシェラを向く。
「シェラは、安静にね?」
「テレザさんには言われたくないです」
「言うようになったわね、このっ、このっ……!」
「きゃぅっ」
生意気な。ぐりぐり、とテレザは小さな頭を拳で撫でまわしてやる。
「悪いが、さっさとしてくれ」
どうやら馬車も準備を終えているらしく、既に外へと出ていたジークフリートが急かす。
「はいはーい」
繊細な金髪の感触を名残惜しく、テレザはシェラから離れた。ジークフリートの隣に並んで歩き、長身の彼の顔を覗き込む。
「王様への報告って、どのくらいかかるもの?」
「報告自体は大してかかるまい。が、いかんせんここから
「王都ってどんなところなの?」
「王のいる都だ」
「……あ、そう」
テレザとしては美味しい食べ物とか、そういったものを聞いたつもりだったのだが。
やっぱり