エレメンターズ冒険記 ~源の龍を追って~   作:テルー

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9-3 王の城、漏れる明かり

 咳ばらいすら躊躇われるほど清潔かつ荘厳な空間に、テレザはジークフリートと共に跪いていた。ギルドから王都・フレーレキまで約4日。ようやく到着し、まずは先日の戦いの垢を落とした。そして今、国王ハイクツェルペ・ロードランとの謁見に臨んでいる。

 

「お初にお目にかかります、国王陛下。ギルドより参りました、テレザ・ナハトイェンと申します」

 

 緊張しつつ名乗ると、玉座から貫禄ある声が飛んできた。

 

「遠路はるばる、大義である。(おもて)を上げよ」

 

 伏せた顔を上げ、テレザは真っすぐにハイクツェルペの顔を見る。過去に仕事先に飾ってあった肖像画よりも、生で見る方が若々しい。その側には、老齢の幻導士(エレメンター)が控えている。名をゲーゲンス、その名声はテレザも知っている。

 ハイクツェルペはゆったりとテレザからジークフリートへ目を移す。

 

「此度の戦い……その顔を見るに思わしい結果ではなかったようだな、ジークフリートよ」

「申し訳ございません。魔物の襲撃は凌げましたが……肝心の魔竜を取り逃がしました」

「市井の者に犠牲は?」

「ゼロとはいきませんが……ギルドの尽力により、人命の被害は最小限で済んでおります」

 

 それを聞いたハイクツェルペは、再び俯いたジークフリートを責めるでもなく「うむうむ」と頷く。テレザのイメージしている「王」とはかけ離れた、愛嬌のある仕草だった。

 

「ならば、良い。ひとまず、魔竜の脅威は去ったということだ」

「しかし、ここからどうなさ──」

「やめよやめよ。そなたの敬語はむずがゆくてかなわん、美人の前だからと無理するでない」

 

 本当にくすぐったそうに笑うハイクツェルペ。反応に困るテレザをよそに、ジークフリートはボソリ、「早く言え」と呟いてため息をついた。

 

「……分かった。俺からの堅苦しい報告は以上だ」

「では、もう一人の報告を受けるとしよう」

 

 そう言ってハイクツェルペは人懐っこい笑顔を引っ込め、「王」としての顔に戻った。

 

「テレザ・ナハトイェンとやら。頼む」

「は、はい」

 

 テレザは集落で繰り広げた戦いの様子、そしてオーガスタス達の目撃した狼王(ジェヴォーダン)の不可解な最期について話した。

 

「──以上、で、ございます」

「ふむ。尋常ではない数の魔物に、跡形もなく崩れた狼王の死骸……魔竜の影響か。色々と調べさせる必要があるな」

 

 ハイクツェルペは少し考え、隣のゲーゲンスに耳打ちした。頷いたゲーゲンスは年齢を感じさせぬ軽い足取りでテレザたちの脇を通り抜け、謁見の間から退出し――すぐさま、一人の騎士を伴って戻ってきた。どうやら出入り口付近で鉢合わせたらしい。

 

「陛下! 至急、お耳に入れておきたいことが」

 

 たっぷりとした髭と眉に覆われたゲーゲンスの顔に焦りが見える。百戦錬磨の彼をしてそうさせる何かを、あの騎士は持ってきたということだ。

 

「何事だ。申してみよ」

 

 ハイクツェルペが発言を促すと、騎士は震える声で奏上した。

 

「はっ。宝物庫の内部で、何かが突然輝きだしたのです! 火事ではございませんが、光っている原因は分からず……こうして、報告に参った次第でございます」

「何だと?」

 

 ハイクツェルペの眉が跳ね、確認を求めるようにゲーゲンスを見る。老参謀は神妙な顔で頷いた。

 

「宝物庫の中には、かの『鏡』を始め――幻龍や魔竜との戦争に関する品もございます。今回の襲撃と無関係ではないでしょうな」

「そうであるよな……。素早い報告に感謝するぞ、ジェラルド。余は急ぎ宝物庫へと向かう。そなたは他の者が近づかぬよう、頼む」

「承知つかまつりました!」

 

 ジェラルドと呼ばれた騎士は、被っている兜のひさしを持ち上げるように敬礼し、立ち去っていく。それを見届け、ハイクツェルペはテレザとジークフリートの方を見た。

 

「二人とも、余に付いて参れ」

 

 その意外な言葉に、テレザは失礼に当たると思いながらも聞き返してしまう。

 

「よろしいのですか? 特に私は、王宮の外の者ですが……」

「構わぬ。むしろ、そなたらがいた方が都合がいい。余は王宮に籠りきりゆえな、外の世界を見てきた幻導士(そなたら)の知見がある方がいい」

 

 そう言ってハイクツェルペは謁見の間を出ていく。慌てて、テレザも立ち上がって後を追った。宝物庫までの道中、テレザはジークフリートの脇を肘で小突く。

 

「その、チラッと聞こえた『鏡』って……?」

「俺も詳しくは知らん。……噂では、幻龍大戦の時代に作られた秘宝らしいが」

「いきなり光ったって、一体何があったのかしらね」

「それを今から見に行くんだろう」

「分かってる。けど、気になるじゃない」

「無駄なことに頭を回すな、はぐれるぞ」

 

 言葉は正しいのだがムカつく。が、ここで噛みついては先日の繰り返しだ。不満を胸にしまいこみ、テレザはジークフリートの背をついて歩く。二頭引きの大きな馬車が悠々とすれ違えそうな通路を抜け、掴むのがはばかられるほど華美に彩られた手すりのついた階段を地下へと下り……王宮の広さ、豪華さに辟易し始めた頃。

 

「これは……」

 

 思わず息を呑む。テレザが目の前にしているのは、白く厚く、巨大な扉。その色艶は少々くすんでおり、長く外気から中の空間を守り続けてきた風格が漂う。扉の上には浮彫(レリーフ)があり、そこにあしらわれた王国の国章──森の上を翔ける鷹が四人を冷たく見下ろしていた。

 しかしそれよりもなお目を引くものがある。扉の隙間とも呼べぬような極小の空間から漏れ出る光。決して眩しいわけでもないのに、ただならぬ圧を放っていた。

 

「では、入りましょう。ジークフリートとテレザ殿、何があるか分かりませぬ。陛下をよろしく頼みます」

 

 ゲーゲンスの言葉に頷き、二人がハイクツェルペを庇うように前に立つ。それを確認し、ゲーゲンスは扉に手をかけ、力を込めて引っ張った。

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