ノエルは約五十年前を思い出しつつ、クラレンスに忠告する。
「こいつは過去に、棟梁と交戦しています。このサイズに歪な大顎、ほぼ間違いないかと」
「……棟梁によってへし折られ、再生したと?」
「ええ。その時も、魔竜関連の遺物に釣られて姿を見せているんです」
「ここで倒さねば、何度でもやってくると」
「魔竜そのものが現れた今、その可能性が高いと思います」
「なるほど……」
頷いたクラレンスは、それ以上は聞かず愛用の槍と盾を構える。サーペンタレスは離れていく捜索隊に構わず、目下の脅威である二人に狙いを定めた。無機質な顔の奥に、小癪な
ノエルは改めて、彼我の戦力を考える。クラレンスは優秀な
「クラレンスさん。その盾、奴の酸には耐えますよね?」
まずは戦術の大前提として、クラレンスの武装を把握する。前衛を頼もうにも、ただの金属製では盾ごと溶かされて終わりだ。
「
自慢げに装備を語るクラレンス。炎で炙られるような苦痛を伴うバーナビーの猛毒だが、毒が回っている間は他の毒を受け付けなくさせる特殊な性質も持つ。
ノエルは頷き、その防御力を信用できるものと判断した。
「少々、時間を稼いでください。倒してくれると一番良いですが」
「全力を尽くしましょう。──
背中でノエルの狙いを察したクラレンスは、風を纏ってサーペンタレスへと突撃した。加速の切れ味は疾風の如く、
返す刀、もとい鋏がクラレンスの背中に迫る。腹下に潜り込んで凌ごうとするも、サーペンタレスは勤勉に足を動かして間合いを保つ。
避けられないと悟ったクラレンスは咄嗟に足を地面から浮かし、体に盾を密着させた。
「ぐ、ぉおっ!」
鋏の運動エネルギーを盾で受け入れ、クラレンスはサーペンタレスの腹下へと転がり込む。鋏は来ないが、首筋にチリッと嫌な予感が走り抜けた。
あえて回転の勢いを殺しきらず右後方へと跳ね起きたクラレンスは、足の間をすり抜けて側面へと脱出。直後、大蛇の咢が砂地を食んだ。腹下だからと悠長にしていたら頭を食いちぎられていただろう。
一連の攻防を目の当たりにし、地面にかざされたノエルの手が汗ばむ。
「……五十年前より、明らかに強くなってますね」
ノエルは今
焦りとは雑念であり、雑念とは不純物。それを追い出すように一度大きく深呼吸し、ノエルは術式を練り続ける。サーペンタレスがクラレンスにかかりきりになってくれる時間は、そう長くない。
「──『
追い風に乗せた渾身の穂先に、風の刃が収斂していく。クラレンスの放った渾身の一打は過たず、サーペンタレスの脚関節に吸い込まれた。
が、手応えはあまりにも軽く寂しい。他の箇所に比べて装甲こそ薄いが、それでも巨体を機敏に動かす脚の強靭さは尋常ではなかった。幾度となく差し込む風が、その度虚しく散らされる。
「……まずいな」
クラレンスの攻撃は、サーペンタレスの弱点たりうる口元や関節部を徹底的に狙っている。それゆえ意識を引くことに成功しているのだが……ダメージはゼロ。例えるなら、小虫がうるさく顔の周りを飛び回るようなものだ。
なりふり構わずノエルに向かわれてしまうと──。焦燥感に、クラレンスは美貌を歪めた。