エレメンターズ冒険記 ~源の龍を追って~   作:テルー

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10-6 連なる災い、過去に重なり 後

「よし、次の方!」

 

 先ほどまで感じていた冷たさはどこへやら、シェラは額に汗を浮かべながら捜索隊の面々を治療していた。

 最初に襲われた班は蛇に丸呑みにされ、号煙弾(スモグナル)を見て駆け付けた者達もサーペンタレスを前に逃げ惑うしかなかった。ノエルが来るまでに、複数人の負傷者が出ている。

 

「や、もう十分だ。ありがとうな」

「皆さんは軽傷で、良かったです」

「これでも、生き汚さには自信があるんだ。最初に出くわした連中は、気の毒だけどよ」

 

 猟銃を背負った若者が、得意げに鼻を掻く。野蛮で過酷な人生経験が危機回避に繋がっているのか、命に関わるほどの傷を負った者はいなかった。

 汗をぬぐったシェラは、変わらず煙を吐き出す高炉の方角を見つめる。無傷の者達が先行して援軍を呼びに向かってくれてはいるが、サーペンタレスに勝てる戦力をすぐに準備するのは難しいかもしれない。

 

「援軍、いつ頃になるんでしょうか……」

「さあな。どのみち、俺達じゃあれには手が出せねえよ」

 

 その言葉で、シェラは戦場を改めて振り返る。何やら準備しているノエルの足元で幻素(エレメント)が渦巻き始め、その先ではクラレンスがサーペンタレスに必死で喰らいついている。

 しかしサーペンタレスは甲殻を撫でる旋風を最早意に介さず、ノエルへと狙いを定めてしまった。口元を両の爪で固めたその様は正に移動する砦。障壁も迎撃も弾き返し、目標を轢殺せんと走り始める。

 表情を凍り付かせ、若者が周囲へ避難を促した。

 

「そのまま俺達の方に来るかもしれねえ! 急いで離れろ!」

「待ってください!」

 

 シェラはその声を制し、若者の銃へ手を伸ばす。他人の道具を勝手に触るのはご法度だが、時間がない。

 

「嬢ちゃん!? 気持ちは分かるけど、こんなもんあの化け物には通じねえから!」

「通じる可能性があるんです! ()()()()()()()から!」

「外してこっち来ても、助けねえぞ? 良いんだな!?」

「はいっ!」

 

 華奢な少女に似つかわしくない強情さに、若者は猟銃を手渡す。

 シェラは地面に膝をつき、銃を構えた。宣言通り遠ざかっていく蹄の音は、強く大きくなる自身の鼓動にかき消されていく。

 

「貴き光よ。獣を追い、悪を討ち、魔を祓う神の御使いよ。遥か地平まで暗澹を照らし、安寧の時代を示し給え──『神聖閃砲(サンクティス・ルクスイグニシモ)』!」

 

 一射入魂。

 平時を遥か上回る出力で撃ちだされた銃弾が、未だ仄暗い荒野を斬り裂く。シェラの光属性幻素(ブライト・エレメント)により弾道の制御を受けた閃光は、音をも置き去りにして目標へ突き刺さる。

 

 

 

 

 

「うぉおっ!? な、にっ──シェラか?」

 

 全身全霊でサーペンタレスの突進に齧りつこうとしていたクラレンスは、上から降ってきた液体に大慌てで退避。しかしそれが無害なものと分かると、何が起きたかおぼろげながら察した。

 シェラが狙ったのは、尾の大蛇。高々と掲げられたその頭は、地表からの白兵戦では狙えない。しかし一点を目指し直進している最中、意識外から狙撃してやれば不可能ではない。

 

「──っ! 好機到来、ですね」

 

 衝突ギリギリまで術式を練り上げていたノエルの背を、衝撃波が襲った。急激に勢いを減じたサーペンタレスに、やや遅れて銃声が轟く。

 誰の援護かは、今は考えない。地中で練り上げていた術式を解放する時が来た。

 地底から重低音が這い上り、時折地表がひび割れる。ノエルが溜めに溜め、磨きに磨いた渾身の術式が放たれる。

 

「地に巡れる命の父よ。削り抉りて崩して固め、深淵の礎を築きたまえ──」

 

 岩石を寄せ集めて撃ちだす。原理は土杭(ガイアパイク)と同じく単純明快だが、尖端の生成にかける圧力と、磨き上げる精度があまりにも違いすぎる。

 二百年以上を生きるノエルを以てしてなお、一対一(サシ)では使えぬほど時間を要して磨き上げた螺旋状に連なった鈍色の刃。それは複雑に光を反射し、勇壮に大地を削る。

 

「──『岩地深削(グランディル)』!!」

「──ッッ!!」

 

 危険を察知したサーペンタレスが爪に一層力を込め、守りを固める。難攻不落の堅城に対し、撃ちだされた尖端は愚直に真っ向からぶつかり合う。

 

「・・・・・・ッ~~?!」

 

 拮抗は、一瞬。

 恐ろしいほど高密度に圧縮され磨き抜かれた刃は、柔らかいロウを削るようにサーペンタレスの爪を浸食し、大顎をへし折って口元へと到達。柔らかな肉をこそぎながら前へ前へと進撃していく。

 巨大な外殻が見る見る細切れにされていく様を、クラレンスもシェラも呆然と見守るしかなかった。

 

「ふぅ……前衛、ありがとうございました」

 

 音が止み、役目を終えた刃は複雑に地を走る跡を残して崩壊する。削り残したサーペンタレスの脚も地に横たわり、土台を失った大蛇がのたくる不気味な音だけがその場に響く。

 プレッシャーから解放されたノエルは長く息を吐き、まずはクラレンスを労った。ノエル一人では、これほど短時間での撃破は望めなかっただろう。

 

「結局振り切られてしまいました、申し訳ありません」

「いえいえ。一人であそこまで抑えられる幻導士(エレメンター)はそういませんから」

 

 撤退しかけていた捜索隊も、事態の収束を確認してノエルの元へと集合してくる。青白い顔をしたシェラも、その隊列に混じっていた。

 

「シェラ。最後の一撃はお前か?」

「はいっ。あの位置なら、って」

「見事なカバーだった。ありがとう」

 

 クラレンスの確認をちょっぴりドヤ顔で肯定したシェラに、ノエルが目を丸くした。

 

「ほぉ、シェラさんでしたか。おかげで私も、目一杯術式を練れましたよ。ありがとうございます」

「いえ。少しでもテレザさんの役に立とうと思って、大きめの術式も勉強して──っとと」

「大丈夫ですか!? ……軽い幻素欠乏(イグゾースト)ですね」

 

 後ろへ傾いたシェラの背中を、ノエルが抱えてくれる。

 少々の医療術式と銃撃一発でガス欠に陥った自身の貧弱さを実感し、シェラは一転して顔を曇らせる。この程度でへばっていては、まだまだ本格的な戦闘参加はできそうもない。

 

「そんな悲しい顔なさらずとも。幻導士(エレメンター)としてのキャリアを考えれば、上々だと思いますよ」

 

 ノエルの発言は決して慰めではなく、本心からのもの。シェラの幻導士(エレメンター)歴は半年にも満たない。腰を据えればサーペンタレスに通じる威力が出せるだけでも上等である。

 

「私、また上を見過ぎてました……?」

「そうですね。今は、出来たことを喜ぶ方が良い。テレザさんに話せば、褒めてくれるはずですよ」

「そっか……会うの、ちょっと楽しみです」

 

 先ほどの長距離狙撃にも見られたが、シェラの幻素(エレメント)制御技術は幻導士(エレメンター)として紛れもない才能である。だからこそ、技術に全く追いつかない体力面をもどかしく感じてしまうのだろう……とノエルは推察していた。

 

「一旦都市へ引き返しましょう。我々が新たな行方不明者になってはいけませんから」

 

 シェラの顔に小さくも笑顔が咲いたところで、ノエルは実務へと考えを切り替えた。既に死人が出ていることもあり、反対意見も上がらない。

 サーペンタレスの死骸から無事な甲殻などを拾い上げ、捜索隊は足早にその場を後にする。

 

「クラレンスさん。また近いうち、ここへ来る手筈を整えます」

「分かりました。テレザ達と合流して、それからでも?」

「もちろんです。夕方以降に、また──」

 

 クラレンスの背中にしがみつくシェラの耳を、ぼんやりと二人の会話が通り抜けていった。

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