エレメンターズ冒険記 ~源の龍を追って~   作:テルー

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10-7 合流と考察、魔竜を偵察?

 シェラ達が鉄血都市に帰還してからおよそ半日。サーペンタレス出現の知らせは、荒くれ者をして外出を控えさせるものであった。

 とはいえ外でチャンバラできぬなら中でどんちゃんやるのがここの住人。魔竜襲撃から復興の途上というのを忘れさせるほど、都市の内部は喧騒に包まれていた。

 

「ホント、きったない声……『帰ってきた』って感じがするわ」

「ここの出身だったのか?」

「出身じゃないけど、長く世話になってたから」

 

 喧騒をどこか遠くに聞き流しながら、一組の男女がメインストリートを歩いている。

 女の方はボリューミーな桃色のウェーブロングと、透き通るような薄紅の瞳が目を引く。勝気に吊り上がった目尻にはシワの一つもない。まだまだ少女の面影も強いが、纏う雰囲気は物騒そのもの。

 その横を歩く男は逆立った栗色の髪と薄茶色の瞳、揺れる黒い瞳孔が勇壮な雄獅子を想起させる面持ち。エッジの利いた漆黒の鎧も相まって、道行く者を避けさせる凄みを放っている。

 幻嵐(ファンタージュ)によってウェストランファーで足止めを喰らっていたテレザとジークフリートも、ようやく都市へと足を踏み入れていた。

 

「さて。着いたは良いが……合流はどうする?」

 

 ジークフリートが周囲を見回す。件の手紙では、集合場所を詳細に詰めていなかった。こうも混みあった中で探し人を見つけ出すのは骨が折れる。

 

「平気平気。シェラもここで生活したし、安全な場所と都市の生活リズムは教えてあるわ」

 

 しかしテレザの返答はあっけらかんとしたもの。その足取りは迷いなく、竜の巣(ドラゴネスト)を目指して歩を進める。

 三カ月も一つ屋根の下で過ごしたテレザは、シェラが危ない場所にむざむざ踏み込むような子ではないと知っている。この時間帯にシェラがいそうな場所にも見当がつく。

 

「ま、都市に入れてればの話だけど……」

「まずは俺達も、この荷物をどうにかしなくてはな」

「そういうこと」

 

 辺境から王都を往復できるよう、食料、飲料水、服など結構な荷物を持つことになっている。これから解放されないことには、他人の面倒など見に行けない。

 馬車で固まった体には些か重すぎる荷物を引きずるように竜の巣(ドラゴネスト)の階段を上がり、三カ月前にしつらえた寝床の前へとたどり着いた。

 

「おりゃ!」

 

 手の塞がったテレザは行儀悪く右足を上げ、扉を押し開け……られない。ドアノブは彼女の横着を咎めるように微動だにせず、踵を引っかけて重心を狂わす。

 

「わっ! ととっ」

「何をやってるんだ貴様……」

 

 当たり前のように鍵がかかっていた。ジークフリートの困惑気味な視線を感じながら何とかバランスを保ち、足をドアノブから逃れさせようと格闘するテレザ。

 しかしその顔は、どこか安堵しているように見えた。施錠されているということは、逆に言えば誰かが部屋にいるということ。

 竜の巣(ドラゴネスト)は都市の権威を示す建物であり、宿泊施設ではない。この部屋をピンポイントで使うなど、元々寝泊まりしていた者くらいだろう。

 

「今の声、テレザさんですね! 今開けますから!」

「えっ」

 

 そんなテレザの安堵を引き裂くように、ドアの向こうから愛らしい声が聞こえた。その声は確実に会いたかった後輩のものだが、今急に鍵を開けられると──

 というテレザの思考を置いて、ガチャンと小気味良い音がする。右足の支えが突然消え、最早テレザは重力に身を任せるしかなくなった。

 

「おかえりな、ぴゃぁっーー!!」

 

 満面の笑みで出迎えたシェラの視界が、倒れ込んでくるテレザと大量の荷物で埋まる。絶叫と共に一目散に逃げたシェラの背後に、テレザと荷物がドサドサと積み重なった。

 

「ただいま、帰りました……」

 

 気まずさのあまり床に突っ伏したまま、顔を上げられないテレザの情けない声が部屋にじんわりと広がった。

 

 

 

 

「──ということでな。執務長から協力を頼まれているんだ」

 

 大荷物を下ろしたテレザは、シェラとクラレンスが幻嵐(ファンタージュ)に遭遇したが大事なかったこと、さらにノエルの頼みについてクラレンスから聞かされる。

 

「断る理由はないわ。あなたも、良いでしょ?」

 

 テレザにとって鉄血都市は育ちの故郷。それに関する重要な頼みを断る理由がない。

 

「ああ。魔竜とそれを従える男について、俺達は無知過ぎる」

 

 話を振られたジークフリートも即座に同意する。彼とて、同じ敵を二度も逃すわけにはいかない。魔竜についての知識は、何であれ欲しい。

 

「決まりだな。早速──」

 

 クラレンスが話をまとめて腰を上げる。その直後、コツコツとドアから控えめなノックの音がした。

 

「ノエルです。テレザさん達が都市へ入ったと聞きまして」

 

 続いて聞こえたのは丁度話題にしていた男の声。わざわざノエルの方から四人の方へ出向いてくれたらしい。クラレンスが中へと招き入れる。

 

「わざわざ探す手間は、かけさせませんよ。私の頼み事ですから」

 

 そう言ったノエルは、四人と共に車座になる。ノエルはまず、小さな箱を円の中央に置いた。

 

「これ何? ……何か、嫌な感じがするけど」

「先日の戦闘で回収した、魔竜の鱗です。何かの役に立てば、と」

 

 質問したテレザの目が見開かれる。本当にそんな縁起の悪い物が入っているとは流石に思っていなかったが、予想以上にありがたいプレゼントである。

 

「魔竜と接触した動かぬ証拠ってわけね」

「実物があれば、帝国での信憑性も格段に上がるでしょうから」

「流石は鉄血都市、抜け目のないことだ。ならば、ただ安置していたわけでもあるまい?」

 

 その有用性に頷きつつも、ジークフリートはさらにもう一つ踏み込む。調べた成果はないか、と。細められた瞼から、気の弱い者ならば呼吸すらままならない圧が放たれた。

 しかし鉄火場を生き抜いてきたノエルもさる者、柔らかい笑みのまま首を横に振った。

 

「一応、幻導士協会(ウトラメール)にもサンプルを送ってあるんですが……返事は未だに」

「そうか。王立考古学館には? まだなら、俺の名を使って送りつけてやると良い」

「ありがたいことです。そうしましょう」

「では、これは頂戴するとして……執務長の頼み事について」

 

 クラレンスが誰も発言しなくなったのを確認し、本題を促す。

 

「頼みというのは、五十年前に潰したとある採石場の調査です。サーペンタレスが出たのも、そこの近く。あの地に眠る()()()()が関係しています」

「──!」

 

 シェラの息を飲む音が、弱々しく夕日の差し込む部屋にくっきりと残る。他三人も、臨戦態勢と遜色ない表情に変わった。

 

「人目に付かぬよう坑道ごと埋め、それっきり問題もなかったのですが……あの場所で魔竜が復活した可能性は高い」

「なるほどな。で、具体的に俺達は何をする? その瞳とやらを掘り出すのか?」

「まさか。例の場所を封じ込める方法を調査隊が探る間、護衛をお願いします。またサーペンタレスなんて出てこられたら、堪りませんからね」

「……楽しみにしておこう」

 

 ジークフリートが目を細めた。最大戦力を上手いこと乗せ、ノエルは小さく息を吐く。サーペンタレスまで出現した以上、件の坑道周辺は魔物の巣窟になっている可能性が高い。都市外部の実力者がいてくれる内に対処したい、というのが彼の思惑だった。

 さらにノエルは、魔竜についてさらなる情報を提供する。

 

「それから、魔竜が鉄血都市で何をしようとしたかについてです」

「そんなことまで分かってるの!?」

「あくまで仮説、ですがね」

 

 思わず食いついたテレザに笑顔を向け、ノエルは語り始めた。

 

「テレザさん、気になりませんか? 何故魔竜は翼を使わず、地上戦に拘ったのか」

「あ、確かに」

 

 ノエルの問いかけに、テレザはハッとする。言われてみれば、魔竜は上空から攻撃を仕掛けることもできたはずだ。

 

「それは、最優先で破壊したいものが地下に埋まっていたから──と、私は考えているんです」

「最優先で……? うーん、幻鉱石(エレメンタライト)は一杯採れるけど……」

 

 テレザの当てずっぽうは、当たらずとも遠からず。

 

「方向性は合ってますね。正解は、『龍涙石(レヴィアサイト)』です」

「ぇえっ!? そんなの埋まってたんだ……ここの幻鉱石(エレメンタライト)は、その影響?」

 

 飛び上がらんばかりに驚くテレザ。まさか自分の住んでいた場所に御伽噺のアイテムが埋まっていたとは。クラレンスとジークフリートも、太古の秘宝の名には背筋が伸びる。

 

「その通り。ちなみにこの話、他言無用でお願いします。争いの元ですから」

「そうねー……どうしたのシェラ?」

龍涙石(レヴィアサイト)……?」

 

 一人だけ話に置いていかれたシェラが、気になったワードをオウム返しする。

 

「あー……。幻龍大戦の時に死んだ、龍族の瞳よ。たまーに入るらしいわ、『龍族の遺物があるらしい。取ってきてくれ』なんて依頼が」

「貴重な、物なんですよね?」

「もちろん。少なくとも、私は名前しか知らない」

 

 テレザの解説にシェラが頷くのを待ち、ノエルは考察を再開する。

 

「魔竜と龍族は、互いに相容れぬ存在。有象無象(人間ども)を無視してでも、どうにかして破壊したかったのではないかと」

「なるほどねえ。おかげで私達は助かったけど」

「あの……じゃあ、なんですけど」

「どうされました? シェラさん」

 

 シェラのおずおずと挙げた手に、ノエルが素早く反応した。

 

「私達のギルドに魔竜が飛んで行ったのって……もしかして、ギルドマスターさん? 大分高齢の、森妖人(エルフ)だって」

「執務長の仮説が正しいなら、可能性はあるわね」

 

 真っ先にシェラの真意を察したのは、同じく辺境のギルドマスターを知るテレザ。エンシャロン・グランドレイは、世界でも希少な幻龍大戦の経験者だ。魔竜は彼への憎悪に導かれ、辺境のギルドへ眷属をけしかけたのかもしれない。

 龍族に関わる別の秘密が隠されている可能性も無論ある。が……それはそれで辺境の田舎町で収まっていることに違和感が出る。

 ノエルはシェラの意見に何度も頷き、自らの考えを総括した。

 

「魔竜は、幻龍大戦と縁のある物に執着している可能性があります。帝国で行動する際、何かの参考になるかもしれません」

「オッケー」

 

 何故、あの辺境ギルドが襲われたのか。その疑問に一定の答えを見たテレザがすっきりした面持ちで応じる。

 四人のやることはハッキリした。魔竜復活の要石、旧採石場の調査を手伝うこと。クラレンスが、最後の予定を詰めにかかる。

 

「執務長。調査はいつ頃に?」

「できる限り早めにしたいですね。調査隊の厳選に、あなた方の回復具合も見つつ……三日後でいかがでしょうか」

「自分は構いません。三人は?」

「私は、いつでも」

「今日でも良いが」

「大丈夫です!」

 

 三者三様の答えに、ノエルは満足げに笑った。

 

「ありがとうございます。では、ごゆっくり」

 

 そう言い残したノエルを見送り、テレザは床へと転がる。麗銀という階級とそれに見合う戦闘能力は備えていても、込み入った話にはすぐ気疲れしてしまう。正式に幻導士(エレメンター)になってから数年、この辺はまだまだ若輩である。

 

「寝ましょっか」

 

 立ち上がる気力すら惜しんだテレザは床をゴロゴロ転がり、ソファへと辿り着く。シェラが信じられない物を見る目をしたが気づかないふりをした。

 テレザの行動をきっかけに、ジークフリートは静かに立ち上がると荷物から毛布を取り出し、装備類を外して床で寝そべる。クラレンスも同様に就寝の準備を進め、シェラも毛布にくるまりながらローブの中に着込んだ帷子(かたびら)を脱ぐ。……何だか最近きつくなったような気がする。出発する前に、調節してもらった方が良いかもしれない。

 

「おやすみなさい」

「ほやしゅみー……」

 

 シェラの挨拶に、既に寝息を立てている男性陣から返事はなく。欠伸交じりのテレザの声を最後に、部屋の中は静寂が支配していった。

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