この透き通る世界を俺は機械と骨でハッピーエンドにしてみせる 作:多趣味なオタク
今回も風紀委員会です。タイトルは思いつきませんでした...
後知らぬ間にUAが30000突破してお気に入りの数も700を超えていてひっくり返りました
こんな拙作をお読みいただきありがとうございます!
では、本編どうぞ。
...一日丸ごと休暇を取ってもらおうか。」
「...え?」
俺の言った言葉を理解できないといった様子でこちらを見てくるヒナ。数秒間そんな様子で佇んでいたが、やっと理解できたようで口を動かす
「...えっと...申し訳ないんだけれど、それは受け入れられない。」
出てきたのは拒否の言葉。まあ薄々わかってはいたんだが
「へえ、そりゃどうしてだ?」
「私は風紀委員長、いるだけで犯罪の抑止力になるほどの影響力を持っているの。そんな肩書を持つ人間が急に休めば今まで隠れていた奴らが出てきてどんな被害が出るか想像もできないし、
「...ふむ、なるほどな。わかった。」
やはりそうか、迷惑をかけたくないから休まない。まったく、損な性格をしている
「そう、それじゃあ...」
「だがダメだ、このお願いは必ず通させてもらおう。」
だからこそ、その勘違いを正さなければならない
「...ダメよ、さっきも言ったけれど、本当にどんな被害が出るかわからないの。」
「それならばこう言おうか、かの有名なクロノスにこのことをリークされたくなければ
「ッ!?」
こうでもしないといけないだろう。彼女のケツイはそれほどに強い、悪印象を抱かれることも承知の上だ。...辛くないと言えば噓になるが
「...何の目的?ゲヘナを崩壊させるつもりなの?」
「もしそうなら、ここであなたを鎮圧させてもらうわ。」
ヒナがその警告を発した瞬間、周囲の温度が氷点下まで下がったのではないかというほどに空気が冷える。この体格から出していい威圧感じゃないだろ
「...そうだなあ。
「その目的は?」
やばい、あまりの威圧感に考えたことそのまま言っちまった。言ってしまったからには「何にもないヨー」とか誤魔化せるわけないし...どうしようか
そんなことを考えている間にも目の前のヒナから出される威圧感は増していく。多少本音を混じらせて話すか、別に悪事をしようってわけでもないしな
「...風紀委員会の維持、いや、ゲヘナの治安の維持って言った方がいいか?ま、そんなとこだ。」
「...え?」
ヒナの纏っていた威圧感が一瞬で霧散し、先ほどと全く同じ様子で疑問の表情を浮かべる
「あー、まあ、つまりな?アンタが今休んでくれないと色々とマズいんだよ、このゲヘナの治安的にも、風紀委員会の存続的にも。」
ヒナが言葉を発する様子は見えない。このまま勢いで言うことを聞かせるか
「今日でアンタ何徹目だ?そんな目の下に隈をためてまともに業務ができるわけがない、大人しく寝とくんだな。」
ヒナはやっとのことでその言葉の意味を飲み込み、慌てて反論をする
「でっでも、私がいないと皆が...」
「ハァーー」
ヒナは俺の突然のため息に体をビクッと震わせる
「だ・か・らぁー...休めって!アンタは今まともに業務ができるような体調じゃない!それともなんだ?アンタの部下たち、風紀委員会のみんながそんなに信頼できないか?」
「そ...れは...でも...」
まだ食い下がってくるか。本当は事後報告で済まそうかと思っていたが仕方ない、
「シャーレの副部長の権力を使って外部顧問として風紀委員会に行かせてもらう。そこで俺が業務の手伝いをしたらアンタの分の仕事はなくなる!...これでいいだろ?」
実際俺ごときが手伝いに入ったところでヒナのいない分の穴を埋められるかと言われればかなり怪しいが、一日程度なら何とかなるだろう。最悪俺のコネを使えば何とかなるだろうし
「......」
ついにヒナは沈黙した。 ❋You win! ❋ヒナの休暇を かくとく!
「あ、それと、ちょっと業務形態についていじるかもしれないからよろしくな?まあ、悪いようにはしねえよ。」
「...ええ、わかったわ。...その、ありがとう。」
最後のは正直断られると思ってたけど意外と通ってしまった...まああのバカみたいな業務量を少しでも少なくできるしいいだろ!
この時、空崎ヒナは三轍の疲労で頭が回っていない上、降って沸いた突然の休暇によって脳が完全に省電力モードへと移行してしまっていた。そのため、今のヒナは正常な判断ができずに返事をしてしまったのだ
「じゃあ、さっそくだけど休日は明日な?しっかり休めよ。」
「本当に急ね...わかったわ。何度も言うようだけど、ありがとう。」
「おう......あ、すまん。明日のことでいくつか聞きたいことがあるんだが...」
俺とヒナは明日のことについてすり合わせを行い、アコやチナツたちなどの幹部たちには先に連絡をした。先生にも連絡をしようかと思ったが、電話をしても忙しいのか出てこなかったのでメッセージを送るにとどめておいた
「結構人数居るな...」
時間は進んで次の日、俺は風紀委員会の朝礼に立ち会っていた。ちなみに俺は昨日の入院だけでケガはほぼ完全に治った。キヴォトス人ってすごい
アコが今日はヒナが休みであること、そして外部からその抜けた分の助っ人がやってくることを話した後、俺に視線が向けられる。正直このそわそわした雰囲気の中に入って行きたくはないが、ヒナにあのように宣言した手前、引き下がるわけにもいかないので意を決して前へと躍り出る
「あー、オイラはサンズ。シャーレの副部長をやらせてもらってる。今日だけになるだろうが、まあよろしく頼む。」
辺り一帯が静まり返った、皆の視線が俺に突き刺さる。
...こんなことある?俺は前世でも味わったことないほどの苦しみを今この瞬間味わっていた
一先ず軽く礼をして、恐ろしく重くなった足を何とか動かし、アコ達のいる後ろの方へ下がる。すると、皆は生き返ったかのように周囲の友人たちと顔を見合わせてざわざわし始めた。あの中でいったいどれほどの陰口が囁かれているのだろうか...考えるだけで泣き崩れそうになったので俺は考えるのを止めた
「...ちょっと?大丈夫ですか?」
意識を遥か彼方に飛ばしていたところ、顔を覗きこむようにしてアコが声をかけてきた。ふと周囲を見渡すと、既に朝礼は解散したようでこの場には俺とアコの二人だけしかいなかった
「すまん。ちょっと考え事をしていてな。」
「そうでしたか、では私たちも仕事をするとしましょうか。」
アコは変わらずの作った笑顔で俺にそう言ってきた。あのメモロビを知っている身からするとあまりにも猫を被りすぎていて違和感がすごい。このままだと仕事に支障がありそうなほどなので、一応もっと崩した態度でいいと言ってみたのだが
「いえいえ、今回はこちら側に非があってのことなので...それに、ヒナ委員長のこともありますし...」
と、断られてしまった。彼女の立場から考えてみると確かに態度を崩せるわけがないので、そのまま仕事をすることになった
風紀委員会の建物についてさあ仕事を始めるぞ、というところでアコに一つ頼みごとをした。それを聞いたアコは怪訝そうな表情をしたが、すぐに行動に移してくれた
アコに頼みごとをしてから二十分ほど、待っている間に少しでも作業を進めようと机に向き合っていた俺に声がかかる。ちなみに、俺はアコの机からちょっと離れたところの机で作業をしている
「サンズさん、言われた通りの人たちを呼んできましたよ。」
顔を上げると、そこには五人の風紀委員たちが横一列になって整列していた。当たり前だが皆原作で見たようなモブの姿はしていない。ゲヘナにしては珍しく制服をきちんと着ており、髪の毛の色や尻尾などに各々の個性が出ている...それで言えば正義実現委員会のモブちゃんはいないのかな...いてほしいな...
「おう、ありがとな。アコ行政官。」
それを聞いたアコは礼をして元の机へと戻っていった。俺もこの子たちに説明しないとな
「...さて、今回君たちをここに呼んだわけなんだが、まず最初に、皆書類仕事はある程度できるって認識でいいんだな?」
俺がそう問いかけると皆コクコクとうなずく。アコのお墨付きだし、そこは信頼していたが
「それならよかった。じゃあ早速で悪いんだが、君たちにはオイラのする書類仕事を少し手伝ってほしいんだ。もちろん、君たちでできるようなものだけを渡すからそこは安心してほしい。んで、これがその書類。」
ドンッと俺の机に書類の山を置く。大体俺の受け持つ分の八分の一といったところか
「もし判断に困るようなことがあればオイラかアコ行政官に気軽に質問してくれ。わからないままに進めてしまったら余計にオイラたちの負担が増えるかもしれないからな。」
少し厳しいような物言いをしてしまったが、しょうがない。実際にそれで問題になったら本当に俺たちの苦労が増えるだけだからな。あと、この子たちに本当にちゃんと質問してほしいってのもある。相手に迷惑だからと質問するのを尻込みしてしまう子がいるかもしれないからな
俺の言葉を聞いたみんなはすぐさま書類の山を五等分にし、各々机に向かって仕事をし始めた。本当にまじめで助かる
あー、やばいな。シャーレでの仕事で少しは慣れたかと思ってたんだが、本物の重みはまた一段と違うなぁ
俺も席について書類との格闘を初めて数時間。多少は量が減ったが終わるかと言われると今のペースだと徹夜が決定しているほどの進み具合で、俺は気分転換がてら皆に差し入れで紅茶とお菓子を用意していた。
紅茶をだすなんてシャーレに行って初めてやったことだったが、何回も練習したおかげで先生から自然と”美味しい”という言葉を引き出せるほどの腕前にはなれた。付き合ってくれたノアには感謝しないとな
そんなことを考えている間に最後の紅茶を淹れ終わる。あとは配膳だけだな
「あの!私にも何かお手伝いできることはありませんか?」
振り返って見ると、そこには先ほどの五人の内の金髪の子がいた。朝礼の時は受け入れられるか不安だったが、こうして手伝いに名乗り上げてくれる子がいると思うととてもうれしい気分になった
「ああ。それじゃあお菓子用の皿をお願いできるか?」
「はい!」
そう元気よく返事をして、彼女は皿を取りに行った。いい子や...
その子の手伝いもあってすぐに準備が終わり、書類と睨めっこをしている皆に声をかけてお茶会が始まった
「お、美味しい...!この紅茶はいったいどこのお店の物なのですか...!?」
紅茶を一口飲み顔を百面相させていたチナツが興奮冷めやらぬ様子でそう尋ねる。ここまで反応がいいと自然と口元がにやけてしまうな。まあ俺はいつもにやけてるんだが
「その紅茶自体は普通にスーパーで買ったやつだぞ。淹れ方はちょっと拘ったけどな。」
皆の顔が紅茶の入ったコップから俺の顔へとぐるんと向く。ちょっと怖い
「サンズさんにそんな特技が...」
「淹れ方だけでこんなに変わるものなの...?」
なんかぶつぶつ言ってるけど気にしてはいけない。難聴系主人公ではないが世の中物事を感じ取りすぎて病む人もいるくらいだ、ちょっと聞こえにくいぐらいがちょうどいい
あ、ちなみにイオリは外で美食の相手をしているためここにはいない。今度労いに行こうと思った
その後も紅茶やお菓子を堪能しながら風紀委員たちとの交流を図ったりしていたが、癒しのお茶会はあっという間に終わり、もとの退屈しない、むしろ過労死しそうなレベルの業務に戻る。
ドタドタドタ
バン!
「失礼します!ゲヘナ東部で温泉開発部が活動し、鎮圧を試みていますが人員が足りず押し返されています!至急応援求むとのことです!」
廊下からの足音が聞こえたのち、風紀委員が報告をする。困ったな...今丁度そこに向かえそうな部隊がいない、かといってそのまま見逃すことはできないし...しょうがない、依頼を出すか
おそらくアコからは反感を買うことになるだろうが、こんな状況になったのも俺のせいである以上俺が全責任を受け持ってやるしかない。...結局は他人任せな上それで許されるかはわからないが
「アコ行政官、今温泉のやつらに向かわせられる兵力はない。だからこちらから兵力を出そうと思うんだが...大丈夫か?」
とりあえずアコには伝えておくべきことなので共有しておく。報連相は大事
「はい、こちらとしては願ってもないことですが、何か問題でも?」
無茶苦茶にある。それも下手したら風紀委員会の面子に関わるほどの。なんて皆に筒抜けなこの場で言えるはずもなく、口をアコの耳に寄せて小声で話す
「ああ、便利屋の奴らにこれを対処してもらおうと思ってるんだ。もちろん、オイラ個人の依頼として。あ、もちろん正体は隠してもらうが。」
「ッ!!は、はい。わかりました...そこまで徹底してもらえるのなら、こちらからは何も言うことはありません。」
「サンキュ、助かるよ。」
もっと食いついてくるかと思ったがそうでもなく助かった。正体を隠すことが良かったのだろう
アコの了承を得ることができたので、便利屋68のホームページから電話をする。そういえば電話番号交換してなかったな。今度会ったときにするか
電話からプルルルルとコールの音が鳴る。そして二回目のコール音が鳴る前に通話が繋がった。速すぎだろ...
「はい!こちら便利屋68、陸八魔です。仕事の依頼でしょうか?」
「ああ、昨日ぶりだな、ちょっと依頼があるんだが。今大丈夫か?」
「え!?さ、サンズさん!?...コホン、 ええ、もちろん大丈夫です。必ずや成功させましょう。」
一瞬素が出てきていたがすぐに仕事モードへと切り替え自信満々にそう告げる。俺は少し苦笑しつつも温泉開発部についての依頼をする。もちろん正体を隠すことも忘れずに
正体を隠すと言われアルは少し動揺したが、すぐさま了承した。戦闘が終われば連絡するように言い、電話を切って先ほど入ってきた子に体を向ける
「うし、じゃあその現場にいる子たちには撤退するように言ってくれ。後からオイラの呼んだ助っ人たちがくるからイオリの部隊と合流して巡回を継続してほしい。戦闘が終われば連絡するから、その時は事後処理を頼む。あと、チナツはそのことをイオリに伝えてくれ。」
チナツ達に指示を出して席に着く。便利屋の奴らは十分な実力があるからうまくやってくれるだろうし、俺は書類を減らすとしよう
電話をしてから一時間ほどした頃、俺のスマホが震える。そのまま手に取り画面をスワイプして通話状態にする
「ご依頼のほど、完了しましたので連絡させていただきました。」
「ああ、わかった。報酬はどこで渡せばいい?」
「それでは、★日の〇時に□□の前でお願いいたします。」
「了解した。ありがとうな。」
「いえいえ、では、失礼いたします。」
そうして通話が切れた。すぐさまチナツに連絡してもらい、ひとまず今日のビックイベントはすべて終わった。書類仕事や不良たちの問題行動などはあるだろうが、温泉開発部と美食研究会のネームドを抑えられただけいいだろう
その重圧から解き放たれた瞬間、頭がひどく重くなったように感じる。まずいな、ずっと座り続けてたせいで頭がうまく回らない。こういう時は散歩するのが一番だな
長いこと座り続けていた体を無理やり起こして立ち上がる。体の節々からポキポキと乾いた音がした
「すまん、ちょっと気分転換に行ってくる。十分くらいで戻ってくるよ。」
「はい、わかりました。」
こちらを見ることすらなくそう返事をするアコ。おそらくあちらも佳境なのだろう、下手に刺激しないよう慎重に扉を開けて外に出た
サンズが出ていったことを確認した直後、アコは今まで堪えていたものを開放するかのように叫ぶ。幸いにも今その場にはアコ以外に誰もいなかった
「...いったい何なんですか!あの男は!」
風紀委員会の行政官こと天雨アコはとても憤っていた。自分が相手にけがを負わせてしまったせいとはいえ、風紀委員会で勝手なことをされているから...ということだけではない。むしろ、もう一つの理由との比は1対99くらいにはそちらの方が気に食わない。それは...
「ヒナ委員長に頼られるなんて...!」
そう、ヒナに頼られたことへの嫉妬である。いつも行政官としてヒナを支えてはいるが(時々暴走はするがそれは置いておいて)、それは所詮委員長としてのもので、
そしてまた面白くないことに、彼は風紀委員会内で早くも人望を集めていた。まず朝の朝礼、その時点で初めて彼の姿を見た風紀委員たちはその美貌に言葉を失い、再起動した直後には周囲の友人たちと頬を染めて話し出す始末。風紀とは...
次に正午近くにあったお茶会の出来事。この時既にアコから見てもわかるほどに惹かれていた金髪の生徒がいた。彼女はサンズによく質問をしに行っており、傍から見てもわかるほどにハートマークをまき散らしていた。当人はついぞ気付くことはなかったが...
話を戻してお茶会の出来事、アコにその時に出された紅茶の美味しさは思わず目を見開くほどだった。今までで一番美味しいかと言われればそれは違うが、それでも上位に入るほどには美味しいものだった。てっきり上質な茶葉でも使っているのかと考えたが、その時に彼が淹れたもので特別なものは何も使っていないと聞いた時にはかなりの衝撃を覚えた
そして極めつけには温泉開発部への対応。ヒナがいない以上鎮圧は厳しいものかと思われていたが、サンズが便利屋68に依頼をして無事鎮圧できたというもの。正直に言えばまだ少しそれに納得のいっていない部分はあるが、彼自身としての依頼であること、そして正体を隠して鎮圧してもらったことは風紀委員会の面子に配慮したよい方法だったと思う。事実、その後情報部に巷の噂を調査させたが風紀委員会の癒着といった噂は出てこなかった
これらのこともあり、アコはサンズを多少は認めざるを得なかった。まだヒナとの関係については認められていないが...
などど煩悩まみれの思考を抱きつつも書類をこなせているのは彼女の日々の努力、並びに慣れによるものだろう。アコは書類を進めていく
「相変わらず銃声が鳴り響いてるなぁ、ゲヘナじゃこれが普通なんだろうが、如何せん慣れんな。」
目的もなく歩き続けて4,5分ほど。結局俺はベンチに座り何もせずにいた。時間は十二時を過ぎてそこそこ経ったくらい。今から昼食を食べれば夕食にはギリギリ腹が間に合うくらいだ
アコに今から電話して昼食を取らせてもらおうかな、なんて考えていると、今休んでいるヒナのことが頭をよぎった。そういえば、彼女はちゃんと昼食を取っているのだろうか?仕送りをする親のような考えを抱いていると、次第に心配になる思いが強くなる。朧げだが彼女は普段過労により部屋に帰っても寝るだけといった限界な生活をしていたはず。そんな彼女の家に果たしてちゃんとした食材はあるのだろうか?居ても立っても居られなくなり、ヒナに電話を掛ける。電話番号はもしものために先日教えてもらった
電話のコール音が2回、3回と鳴り響く。彼女が電話に出たのは二回電話を掛けた4コール目だった
「...はい、もしもし...」
正に起きたてかのような声が聞こえる。タイミング間違えたかな?
「ああ、いきなり済まない。サンズだ、風紀委員長、アンタもう飯は食ったか?」
「...?今、何時なの?」
嘘だろ...ほんとに起きたてじゃないか...
「十二時を過ぎてそこそこ経ったぐらいだ。いまから昼食を食べるなら夕食の時間には間に合うぐらいだが...食べてないんだろうな。」
「...うん。」
本当に意識があるのかも怪しいくらいに声がぽわぽわしてるな...シナシナはしてなさそうだから安心はしてよさそうだが
「じゃあ今からアンタの家に行って昼飯出すから、部屋の片づけなりなんなりしといてくれ。」
「...うん。」
ほんとに大丈夫だろうか...不安になりつつも電話を切る。昼食を用意すると言ってもまさか俺が一から作るなんてことをしたら日が暮れる。それに前世でもまともに自炊をしたことのない俺にそんなことができるはずもない。よって俺が導き出した答えは...
「よお、開いてるか?」
「ええ、開いてますよ。どうしましたか?」
「じゃあ弁当を二人分頼みたい。あ、片方は胃に優しいやつだと嬉しいんだが...」
「大丈夫です!ご用意してますよ!」
俺がやってきたのは給食部。たった二人(ほぼ一人)でゲヘナの食事4000食をどうにかしているキヴォトス屈指のスーパーな部活だ。本当にいつもお疲れ様です...
「はい、どうぞ!」
「ああ、ありがとう。」
ビニール袋につらされた二つの弁当を受け取り、ヒナの家へと向かう。ちょっとはコミュニケーションを取りたかったが、今は早くヒナのところへ行かなければ餓死してしまうかもしれないし、あっちもやっとピークを終えたころだろうから邪魔をしてしまうのは良くないということで自粛。また今度あいさつにでも行こうと思う
...そういえば、俺ヒナの家知らねえじゃん...てかアコに言った十分はもう過ぎてるし、ひとまずヒナの家の住所聞くついでに謝らなければ...
心なしか重い指を走らせ、アコに電話を掛ける。ついでにスーパーでも寄っておこう
「もしもし?どうかされましたか?」
「いや、ちょっと風紀委員長の様子を見に行こうと思うんだが、行っても大丈夫か?」
「ハア?」
アコがとんでもなく低いドスの効いた声を出した。普通に怖いがあの取り繕った態度よりはマシだと思える。
「...私だって見に行きたいのに...なんで部外者が...うらやましい...」
なにやらぶつぶつと言っているが電話越しなこともあってほとんど聞き取ることができない。まあ内容は十中八九”私が行きたい”とかだろうが
そんなことをしていると、電話から風紀委員が緊急事態だとアコを呼ぶ声が聞こえる。あっちは忙しそうだ
「こんな時に...~ッもう!わかりました!サンズさんは委員長の様子を見てきてください!住所は~~です!その代わり、帰ってきたら馬車馬のように働いてもらいますから!!!」
そう言って乱暴に電話を切られてしまった。でもようやく俺の知ってるアコを見られた気がしてどこか安心した
その後スーパーに寄って少し食材を買ってからヒナの家に行った。不良たちに絡まれなかったのは幸運だったな
ピンポ~ン
アコに教えてもらった住所でピンポンを押す。すると少しドタドタと音を立ててから扉が開く。
「ごめんなさい...あの時ちょっとボーっとしてて...とりあえず、中に入って。」
出てきたのはパジャマ姿のヒナ。正直私服を見れるかもと期待していたが、忙しすぎて買いに行く暇がないのかもしれない...とりあえず言われるがままに中に入る
中に入ると思ったよりも整理されている部屋だった。ここまでしっかりしているのは凄いな...と素直に思う
「すまん、ちょっと冷蔵庫の中見るぞ?」
「ええ、大丈夫よ...本当に何もないけれど。」
きちんと許可を取ってから冷蔵庫の中身を見る。どこぞの勇者じゃないんでね
(うわぁ)
思わず口に出して言いそうになってしまったが精一杯口を閉じて言葉にはしない。まさか俺が自分の冷蔵庫を見た時と同じ反応をするなんてな...
表情を崩さないように、いたって平静な様子で冷蔵庫の中を探索する...探索できるほど物は入っていないが。中にあったのは数本のエナジードリンクやブロック状の栄養バー数本。それ以外には何も見当たらない。ディストピア飯か?
続いてキッチンの探索に移る。戸棚を開けてみると、長いこと使っていなかったのか軽くホコリを被ったフライパンや食器たちが出てきた。幸いにもそれ以上に悪化している様子はなく、軽く料理をするには問題なさそうだ...というか必要なものはあらかたあった
必要なものの確認が終われば、とりあえずヒナに持ってきたビニール袋を差し出す
「...これは?」
「給食部の弁当。あ、委員長のはこっちな。食べやすい胃に優しいもんにしてもらったから大丈夫だと思うが、なんかあったら言ってほしい。コンビニに行ってなんか買ってくるからな。」
説明を終え、俺はキッチンに入って行く。え?何をするのかって?そりゃあ俺自ら料理をするんだよ。と言っても一品だけだけどな。人は他人に作ってもらった手料理を食べないといつか精神がぶっ壊れるらしいからなぁ、給食部に作ってもらったものとはいえ、目の前で作ったものの方が良さそうだし
確実に俺に刺さっているヒナの視線を知ったことかと一蹴してフライパンに油を敷いて準備をする。今回用意した食材は卵4つと砂糖適量、牛乳少々にネギ三分の一本だけだ。俺がコイツらを使って作るのはネギ入り卵焼き。ちなみに甘めのやつ。糖分は正義
調理の過程はすっ飛ばしていざ昼食。食卓の上に並ぶのは給食部の食事たちと少し焦げてしまった俺の卵焼き...久しぶりに作ったから失敗してしまった。穴があったら入りたい...
「「いただきます。」」
両手を合わせて俺たちは食事を始める。給食部の料理は普通に美味しい。今日のメニューは和食中心のようでお米と焼き魚が実によく合う。俺の卵焼きもうまくいっているようで、俺の想像したとおりの味になっていて満足。焼き魚は醤油を必要とせずに塩のみでここまでお米を食べられるのはフウカの腕前故だろう。美食の奴らがあの子を捕まえる理由が少しわかった気がした。共感は絶対にしないが
ふとヒナの方を見てみたが、何の問題もなく食を進められているようだった。日々のストレスが祟ってまともに食事も食べられないなどとなったらどうしようかと危惧していたが、どうやらその様子はなさそうで安心した...いや何様だよ俺は。でも先生たち諸君はきっと俺のこの感情をわかってくれると信じたい。俺は彼女に日々を健やかに過ごしてほしいだけなのだ
「...どうしたの?」
いかんいかん、じっくり見すぎたらしい。俺も食べねば
「いや、何でもない。ちゃんと食欲があって安心したってだけだよ。アンタは
「......」
特に何も考えずに答えたが、何か気に障ってしまったのだろうか。俺の言葉を聞いたヒナはピタッと動きを止めてこちらを凝視してくる。そして気まずい雰囲気のままに数秒経ってヒナが口を開く
「...
ヒナは俺の言った言葉をそのまま繰り返すかのように発する
「え?ああ、頑張ってると思うぞ?いつもあんな量の仕事をしつつ戦闘にも出張ってるんだしな。本当に尊敬するよ。」
いやもうほんとにすごいと思う。まだ半日程度しか仕事をしていないが、あの量は本来一人でできる量じゃない。俺なんて風紀委員の子たちに仕事を押し付けてるくせに終わりそうにないもんな...あ、今俺はそんな子たちに仕事押し付けてここにいるのか。マズイ、とんでもない自己嫌悪が...うごご...
「...そう...なの...」ポロポロ
「!?」
は!?なんかいきなり泣き出しちゃったんだが!?お、落ち着け...素数を数えるんだ...
「ッヒグ...わたし...ほんとうに...がんばってて...つらくて...」
何かを考える前に俺の体は動き、ヒナを抱きしめていた。ヒナは驚いた様子でビクッとして俺の顔をくしゃくしゃになった顔で見上げる
「そうだよな...いつもくたくたになるくらい頑張って...本当にすごいよ。尊敬する。
「ッ!っ...うぅ...」
ヒナは顔を俺の腹に押し付けるようにして泣き続けた。その背中を俺は何も言わずにさすり続けた
ヒナが泣き始めて数分後、ヒナはどうやら落ち着いたようで、ゆっくりと俺から離れていった
「グスッ...ごめんなさい。なぜか止まらなくなって...不快な思いをさせてしまって...」
「ぜんぜん大丈夫だ。それくらい辛かったってことなんだろ?むしろこれからも吐き出してくれてもいいんだぜ?」
「フフッ...ありがとう。明日からはいつも通りするから、もう心配いらないわ。本当に、ありがとう。」
ヒナはそう言って俺にまぶしいほどの笑顔を向けてくる...このままだと浄化される!
「ああ、それじゃあ、俺が後片づけするから...」
俺は動こうとたが、ヒナに俺の手を掴まれる
「いえ、大丈夫。後は私がやっておくわ、だから戻ってアコの手伝いをしてあげて。あの子、今きっと大変だから。」
言われてスマホを開くと、すごい数のメッセージと電話が来ていた。これはすぐに戻らなきゃどやされるな...
ヒナの様子を改めて確認する。先ほど泣いていたこともあって目尻は赤くなっているが、どこかすっきりしているように思える。これなら戻っても大丈夫だろう。そう考え、俺はヒナの提案に甘えて風紀委員会に戻るのだった
「つ、疲れた~」
風紀委員会の仕事が終わったのは風紀委員のみんなが定時で帰って数時間経った頃だった。手伝いに来てくれた五人にはお礼を言って定時に帰らせたり、アコには今後もこのような体制で業務改革したらどうかと提案をするなど、今日一日でかなりハードなことばっかりだった。帰るときにバイクがあってよかったと心底思う
それはそれとして、帰っている間にも俺は脳裏にヒナを抱きしめていた瞬間が何度もフラッシュバックしていた。今更ながら俺はなんて大胆な行動を...!あの時はあれが正解の行動だったが、にしてもいきなり抱きしめるなんて...前世じゃ女子と手すらまともにつないだことないのに...
後悔や羞恥心は絶えないが、何とかして心の奥底に沈める。俺は今果たして客観的に見て正常なんだろうか...
そう考えているうちにアビドス高校の前に着く。バイクを置き、校舎の中へ入ろうとしたところ、外に人影が見える。そういえば、先生がカイザーがなんだとメッセージを送ってきてくれていた。そして外の人影、まさかと思い全速力でその影を追う
「待て!」
自分でも驚くほどの大声が出る。しかしその影は止まらない。必死にその影を追いながら俺は自分の記憶を引きずり出す
先生から来たメッセージから見るに、今日あったイベントはおそらくカイザーPMCとの接敵だろう。そしてこの夜中にアビドスを出ていく人物と言えば...
「よお、いい夜だな?」
「ッ!...サンズ...君...」
ホシノしかいない。追ってきた俺を見て明らかに動揺している。まさか先生に続き俺に引き留められるとは思わなかったのだろう
さて、どんな風に進めようか
ーオマケー
・先生の防御手段
シャーレの部室内
カキカキカキ...
「ふうーやっと終わったー!」
「お疲れ、先生。どうだ?まだちょっと時間あるしお茶にでもするか?」
「いいね!サンズの紅茶すごく美味しいから、ぜひともお願いしたいな。」
「りょーかい、じゃ、準備頼むぜ。」
......
「じゃあ、いただきます!ズズッふう...やっぱりサンズの紅茶は美味しいねぇ...このキヴォトスの中で唯一の癒しと言っても過言じゃないよ...」
「それはさすがに言いすぎだろ...ああ、そういや先生、いつも戦闘で指揮を執っているが大丈夫なのか?銃弾とか、当たったらただじゃすまないだろ?」
「え?えっと~それは~...あ!そう!このタブレット、シッテムの箱にバリア機能があって、いざとなったらそれで守ってもらうよ!」
「ふ~ん、他は?」
「え?他って?」
「他の防御手段だよ。まさか一発でも撃たれたら重傷になる先生の防御手段がそれだけなわけないよな?」
「......」
「マジかよ...なあ、先生。そのタブレットが手元にない場合はどうすんだ?まさか大人しく撃たれるわけじゃないだろうな?」
「いや、でも私は先生だから生徒に危害を与えるわけにはいかなくて...」
「別に危害を与えなくても他に方法はあるだろ...煙幕とか、閃光弾とか...」
「うっ...」
「しゃーない、せめて防弾チョッキだけでも着ておくべきだぞ。ミレニアムのやつだったら軽量化されてるやつもあるし、今度持ってくるよ。」
「い、いや、さすがに生徒にそんなに頼ってしまうのは...」
「こんだけ書類押し付けといていまさら何言ってんだ。それに、先生に倒れられたら困るのは俺なんだから、ちゃんとしてくれよな?」
「はい...ありがとう、サンズ。」
「いーよ、これぐらい。」
❋ センセイは 防弾チョッキを てにいれた!
※先生はサンズ君と二人きりなのでかなりラフな雰囲気になってます
ちなみにサンズ君の紅茶の美味しさはギリ美食研究会に爆発されないレベルです。一番美味しいわけではないんですね
coza 様、
syake 様、誤字報告ありがとうございます!
志奈 様、
ムクロウ 様、☆10評価ありがとうございます!体に良く効く!
回送快速 様、
不可能 様、
旋風士 様、
剣舘脇 様、
バナナパフェ 様、☆9評価ありがとうございます!
また、今回もアンケートを設けさせていただいてます。物語の本筋には関係のないことですが、お答えいただけると幸いです。
サンズ君の字幕は他と差別化するべき?(鍵カッコを変えるとか)
-
するべき
-
しなくてもいい