この透き通る世界を俺は機械と骨でハッピーエンドにしてみせる 作:多趣味なオタク
マダムに
ともかく、そんな私たちがいつものように上官のもとで教育を受けていた頃。私たちは珍しくマダムに呼ばれ、彼女がここの統治者であることを示す生徒会室に集まっていた
「...失礼します。」
「どうぞ。」
未だ少し慣れていなかった敬語を使いマダムからの御許しを得て入室すると、そこには二人の人物がいた
一人は見覚えのある、頭部に無数の目が付いている赤い異形の女性...マダムと、その横にまるで騎士のように佇んでいる、黒い仮面を着けた...男?
「きちんと来てくれたようで何よりです。...しかし、指定した時間より2分ほど遅れましたね。それに入室前のノックをしていない。」
「連帯責任、という言葉を知っていますか?あなた
「ッ!申し訳ございません!今回の責任はすべて私にあります!ですのでどうか、
普段私たちのいる場所にはまともな時計などは存在しない。殆どが既に破損していてまともに機能しておらず、あったとしても場所が限られており私たちが簡単に時刻を確認することはできない
そしてノックに関しては一度も教えられたことなどない。私たちが教えられたことと言えばこのアリウス分校の歴史についてや戦闘技術。|vanitas vanitatum et omnia vanitas《全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ》という考えだけだ
しかしマダムにとってはそんなことは関係がない。ただ教育のなっていない子供に
...彼がやってくるまでは
【...マダム、そのような奴らに貴重な時間を割くのは無駄かと。
「なっ!」
マダムに対して進言をすることは基本
この後、私がみんなの代わりとして連れていかれ
──マズイ
入室の際の失敗に続く先ほどの失態、そしてこの男?の不用意な発言。マダムの気分を害してしまったことは確実だった
私は目の前にいる男?をひどく憎んだ。この男?の発言のせいで私たちへの
そしてその発言の内容。代わりに
そんな無礼者に、マダムはゆっくりと私からその温度のない視線を移した
...あの目は苦手だ
「...なるほど、あなたが
「!?」
【ありがとうございます。では、この後こちらの方で行います。】
...マダムに認められた?いよいよこの男?がよくわからない。いや、それよりも今回呼び出された要件はなんだ?
目の前で繰り広げられる異常とも呼べる光景に困惑しつつも、今回の要件をまだ聞いていないことを思い出しそのことを細心の注意を払ってマダムに伝える
「...ああ、そうでした。今回あなたたちを呼び出した要件ですね。」
そう言ってマダムはその横にいる男?を私たちの目の前に誘導した
「紹介しましょう。この子供は
【...】
紹介された男は相変わらず仮面を付けたままで佇んでいるだけ。そこからは何の感情を読み取ることはできない...気味が悪い
「さて、それでは私にもしなければいけないことがあるので...」
直接言葉にはせず、言外に「出ていけ」と言われていることを察知したためにすぐさま一礼をして部屋から退出する。それと同時に男も続いて退出してきた
【...来い。】
感情のこもっていない声で一言そう告げた後、私たちの方を見ることなく廊下を進む。後ろにいるミサキたちの様子を伺ってみれば鋭い目つきで私の先を行く男を睨んでいた
「...行ってくる。」
虚しい慰めの言葉すらかけることなく、私は男の背を追った
【...来たな。】
男に続いてたどり着いた先にあった部屋は、長らく使われていなかったのか埃の溜まっている倉庫のような場所だ。しかしその倉庫としての役割以外も存在していたのだろう、よく見れば部屋の隅に血がこびりついているのが見える
「やってくれ。」
多くの言葉はいらない、わざわざ抵抗するなどただ虚しさを強めるだけだ。私は来るであろう痛みに耐えるため、少しだけ体に力をこめた
【...いくぞ。】
パチン
「...は?」
てっきり銃で滅多打ちにされる、意識が失われるまで殴りつけられるなどのことを予想していたが、実際にやってきたのはデコに軽い痛みがあっただけだった
【これでお前の罪は清算された。...さっさと行け。】
そう言って男は私に背を向けた
私はその時、何がどうなっているのかわからなかった。いつものように気絶するほどの痛みではなく、ただ指で額を弾かれただけ。あまりにも内容が軽すぎた
...コイツは何を考えている?
「...お前は何を考えている?」
ふと浮かんだ疑問が口から洩れ、その瞬間私は自分が言ってしまったことに気付き口をすぐさま覆う。しかし言葉を声にした後でいくら口を塞ごうとも、放った言葉が無くなるわけではない
私の言葉を聞いた男は私を振り返ることなく、いつもと同じように無感情の声で答えた
【...俺はただ、マダムの言う
そのまま男は私に背を向けて部屋から出ていった
「...分からない。」
「何だ、お前は...」
一人残された私は、何もない部屋でそう呟いた
そんなことがあったのもつい数か月前の話だ。...正確な時間はわからないが、おそらくそれぐらい経っているだろう
あれから彼とは主に戦闘訓練で、たまに座学で関わることになった。マダムの言っていた通り彼の戦闘技術はかなり優れており、私とヒヨリ、姫とミサキと彼との四対一の戦いでもほとんどが彼の勝利で収まっていた。時折アズサが私たちの側について訓練を行うこともあったが...あまり勝敗の割合は変わらずにいた
そして先述の通り、彼の戦闘能力は私たちより遥かに優れている
まずはそもそもの出力の違いだ。彼が男ということに関係があるのかもしれないが、筋力・体力などすべてが私たちよりも上だ。近接戦闘になるとよりその違いが顕著になり、私たちが不利に陥ることが多い
次にその卓越した戦闘センスがある。座学で習得した知識をすぐさま実践で活用し、時にはそれを応用させて用いることがある。かと思えば私たちが未だ教わっていない戦法を感覚だけで駆使してくることもある。私が思うに、彼には私たちとは違う”戦闘の才能”があるのだろう
また、彼が使用する武器もその強さに直結するだろう。彼が基本持っているのは一本のナイフのみだが、どういう理屈かナイフを投擲した後に別のナイフを携えて攻撃してくるということを行ってくる
初見の相手はナイフの投擲の後、武器を失っているものと考え好機と見て攻撃の一点のみに集中してしまうが、その隙をついてナイフを用いた近接戦闘を行い制圧するという摩訶不思議な戦闘方法だ。彼に一度その仕組みを尋ねたことがあるが、全て感覚で行っていると聞いた時には驚いたものだ
加えて、彼は武器を選ばないということも挙げられるだろう。たとえナイフのない状況だとしても近くにある石1つで戦況を大きく変え、また敵から奪い取った銃を使うという柔軟さは私も学びたいところだ
「...リーダー、最近ずっとアイツを見てない?」
「そうか?だが彼の動きは見ていて参考になるぞ?」
「...そう。」
「?」
「...いや、何でもない。」
「...ああ、分かった。」
...何だったのだろうか
思えば、ミサキたちも彼に対する対応が柔らかくなったものだ。以前は積極的に関わろうとせずにいたが、今では戦闘訓練の後に雑談をするようになっている。纏めるものとしてはこれを注意するべきなのだろうが...彼女たちの様子を見ているとどうにもできそうにない。時折私も彼と話していることもあるが
まずミサキは以前よりも自分を傷つけることが少なくなった。手首や首につけている包帯が最近ではどんどんと短くなっている...いい傾向だと思う反面、そんな彼女の様子をどこか不安に思ってしまう
次にヒヨリだが...少し悲観することが多くなったかもしれない。事あるごとに「これが最後」などと言っては雑誌を読んでいる様子を見かけるが、毎回違う雑誌を読んでいるのだからそう悲観するすることはないと思うのだが...それよりもその雑誌の出所が気になるところである
そして姫は...少し雰囲気が柔らかく?なったように思える。彼と同じように仮面を付けているため表情から読み取ることが難しいが、手話の内容からは彼や花についての話が多くなったと感じる
また、アズサに関してだが、彼女に関してはあまり変わったように思えない、ということしか言えない。元々マダムの教育を受けて尚あがくような頑固者だ、彼と接して変わるようなようなことはないと思う。しかし最近では少し活気があるように感じる
そして私だが...私は、このような状況に正直恐怖していた。彼とかかわった途端に彼女たちは以前まで教えられてきた教え(|vanitas vanitatum et omnia vanitas《全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ》)を忘れたかのように振る舞っているように思えた。そのような行動をするのは決まって私たちしかいない状況であるので、誰かにマダムに報告されるようなことはないと思うのだが...それでも、彼女たちを変えた彼を、私は恐怖していた
...これも過去の話だ。今ではそんなことはない。むしろ彼がいてこそという場面も多々ある
しかしその時の私は視野が狭かった。そのような続いたある日、いつものように私たちに歩み寄ってきた彼の腕を掴み、いつかの倉庫のような場所にやってきた。以前よりも埃が積もっていて、あまり使用されていないようだった
そこで私は彼にこれ以上私たちに関わらないように強く言った。これ以上関わるのなら、今までの私たちを惑わすような彼の行動をマダムに報告すると。しかし彼は何も言うことなく、また相変わらず感情が読み取れない様子で、しばらく続いた無言に耐えられなくなった私はつい心情を漏らしてしまった
彼が私たちに関わりだしてからみんなが彼に絆されていき、今までの鬱屈とした様子を無くしたこと。抱いたところで無駄な希望を与えたこと。なにより、私がまとめていた時よりも生き生きとした様子を見せる彼女たちを見て、私の存在意義が分からなくなったこと。...そして最後に、私ではなく彼がみんなをまとめればいいなどと言ってしまった
ひとしきり自身の心情を言ってしまった私はもう引き下がれなくなっていた。その時、私の頭の中では彼がみんなを率いればいいのだという投げやりな思考が頭を支配していた
..今思えば彼女たちを置いて身勝手にも程があると思うが
そして彼は私の考えを聞き、やっと一言。言葉をこぼした
【...俺には不可能だ。】
「ッ!何をッ!」
飛び出した言葉のあまりの情けなさに私は声を荒げた。しかし彼は何でもないかのように話を続ける
【...今までアイツらをまとめていたのはお前であって俺じゃない。】
【俺は...所詮、部外者に過ぎない。】
「...」
いつものように感情がのっていない言葉。しかし、私はその言葉にどこか淋しさを覚えた
【これまでアイツらが生き延びていけたのもお前の力があってのことだろう。お前がもし俺にアイツらを任せると言うのなら、アイツらは確実に俺じゃなくお前についていく。】
【...お前がアイツらにどれだけ想われているのかということを自覚した方がいい。】
「...そう、か。」
これは慰め...か?
思わぬ言葉に呆気に取られていると、以前と同じように彼は私に背を向けた
【それと、お前が言っていたことは正論だ。俺がお前たちの輪を乱したと言うのなら、俺は二度とお前たちに関わらない。】
「...は?」
【これで終わりだ。邪魔をして悪かったな。】
嫌にあっさりとそう宣言した彼の背中を見続けていると、自分の内側からよくわからないグツグツとした何かが込み上げてきた。居ても立ってもいられなくなった私はついに彼の背を追い、そして彼の前まで回り込んで胸倉を衝動のままに掴み上げた
「お前はッ!なぜそうやって淡々と...!」
【...】
「お前はみんなから信頼されている!想われている!...それなのに何故お前はッ!」
その時、私が胸倉を掴み揺すった拍子に留め具が緩んでしまったのか、彼のつけていた仮面が額から滑り落ちた
そして私は初めて彼の素顔を見た
息を呑むほど整った顔に、病的なまでに白い肌。そして...真っ黒に染まり何も映さない濁った瞳
「...!」
私は以前にもこのような目をした者を見たことがある。それはマダムからの”教育”の後だったり、いつかの見せしめにされた生徒だったり...ここではよく見る、全てに絶望した者の目だった
【...不快なものを見せた。】
そう言って彼はしゃがみ込み足元の仮面を拾って再度付け直す。私はその様子を呆然と見ることしかできなかった
そして私は彼が仮面を付けたと同時に、胸の奥に溜まっていた思いを吐き出すようにして話始めた
「...すまなかった。」
【何がだ?】
「お前を...お前を、邪魔だと言ってしまったことだ。」
【...】
「...私はお前に...嫉妬してしまっていたのだろう。私よりもよく導いているお前を見て...きっとどこか焦りを感じていたのだと思う。」
たどたどしくも自分が思うままに話していると、その抱えていた思いを改めて自覚することができた。それと同時に自分の未熟さが恥ずかしくなってくる。まさか嫉妬などと...あまりにも幼稚だった
「...だから...その...さっきは【別にいい】...!」
【お前の懸念は正しいものだ。逆に自身の地位が貶められると感じて何もしないよりは断然いい。気にすることはない。】
同じだ。先ほどと同じように彼はまた私を立てようとする。...そんな彼に、私はいったい何を...
【...”今回は俺の落ち度だ”ということで終わりにしよう。俺は今までのようにアイツらと接する。お前も今までと同じようにする...これでいいだろう?】
「...ああ。」
【これで話は終わりだ。...じゃあな。】
以前と同じように彼は私に背を向けて去っていく。そんな彼の背中を見て私は、煮え切らない罪悪感と微かにだが何か胸に温かいモノを感じていた
その後、私たちはいつものような関係性に戻った。いつものように戦闘訓練をした後は軽く雑談をし、座学ではあまり関わらない...本当にいつもと変わらない日常
相変わらずマダムに支配されている恐怖を感じ、生活する環境は悪いと言える。全ては虚しいという教えも刻まれたままだ
...しかし、みんなとの生活は温かいものだと感じる。この過酷な生活の中、みんなとの関わりはまるで陽だまりにいるかのような気分に浸ることができた
これからいつまでも、みんなで過ごしていけると思っていた
...そう、
ああ、なんと甘ったるい考えだろうか。みんなでこのままの関係で、このままで生きていけるなど、あまりにも幼さが過ぎる。そんなものは全て虚しいだけだと言うのに
だからこそ、きっとこれは私への罰なのだろう。みんなをきちんとまとめ上げ、そしてみんなが、私が、彼に希望を見出だし、見せてしまった。結局は全て無に帰るということを無視し続けた私の報いなのだろう
...でなければ、目の前に広がる光景は何だと言うのだ?
襲撃のために使用されたミサイルをなぜ、彼がくらっている?なぜ、彼の体はバラバラにはじけ飛んでいる?なぜ、彼の体から血が溢れ出している?
「...あ...うあ......」
その答えを尋ねようにも口から出てくるのは情けなく言葉ですらない音のみ。視界もぼやけ、耳鳴りが響き意識が遠くなるように感じる
──じゃあ、なんで?
ボト
「...?...こ、れは...」
何か物が落ちた来たような音につられて、その落下物に目を移す。移してしまった。そして私は、この世界の全てにに絶望した
「...みぎて...」
彼の右手が、アズサやヒヨリの頭を撫でていた右手が、私たちとは少し違う少し太い腕が、どうしようもないほどの血、ちにぬれて、わたしのめのまえにころがってきて
「...はは、ははは...」
──嗚呼、やはりこの世界には
vanitas vanitatum et omnia vanitas
全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ
私はこの教えを、完全に理解した
・サンズ君
主人公の癖に今話では視点がなかった男の子。次回からは彼がメインになるはず...!
サオリの独白?を聞いて本気で自分は邪魔なんだと思った。ので、そのほうがいいのならしょうがないかと思ってあっさり縁を切ろうとしたやべー奴。この後汚い花火になる。
・サオリ
サンズ君がアリスクにちょっかいかけまくっているのでめっちゃ警戒してちゃんと反発した。その後からはサンズ君をよく見るようになった。...?参考になるから見ているだけだが?
自分の感情に疎い子。花火を見てその美しさに思わず笑みを浮かべた。
・ヒヨリ
相変わらず図太い。最初は警戒していたが、サンズ君に雑誌を見ているところを見つかってからサンズ君の”特殊任務”のたびに雑誌をもらっていたらいつの間にか懐いていた。頭を撫でられたことがある。
狙撃手であることから視力がよく、花火が咲く様子をしっかりと目にした。
・ミサキ
サオリを除けば一番信用するのが遅かった子。警戒心があって大変よろしい。
自傷しているところをたまたまサンズ君に見られたが、その時は何も言われることはなかった。後日、誰も見ていないようなところで傷を隠す用の肌色のテープをもらった。サオリたちの前ではそのテープを使って誤魔化しているが、自傷は止めていない。
落ちてきた手を見てまず最初に発した言葉は「...跡を残さないと」湿度は高い。
・アツコ
お姫様。結局サンズ君は手話を習得することはなかったが、ボディランゲージで大体何とかなった。任務帰りのサンズ君に簡単な押し花をもらったり、たまにヒヨリの雑誌を覗いては花についてのページや恋占いについてを読んでいた。
花火を漠然とキレイだと思った。
・アズサ
反発強めのわんぱく系少女。よく訓練後にサンズ君に撫でられていた。
友達と出かけていたため生憎花火は見ていなかった。
いやぁ...サンズ君の身にいったい何が起こっているのでしょうか。気になって夜しか眠れませんね。