夏休みに夜食を買ってウキウキで帰宅したら、クーデレとかツンデレお母さんとかオタク系子犬ヒロイン達が織りなす面倒くさいハーレムラブコメが始まった。   作:山城京@カクヨム

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第12話「戦国乙女」

「後必要なのはゴミトリウス座を天井に貼り付けるための両面テープだけかな?」

 

 必要な物のリストアップを紙に書き出し終えたタイミングで、控えめなノックが聞こえてきた。誰かな?

 

「ガンガン行こうぜ!」

「ガンガ……なんの話かしら?」

 

 なんってこったい。3分の2を外してしまった。

 

 僕の予想では天音が必要な物を相談しに来たか、月野さんが仕事関連の相談に来たかだったのに、来訪者は一番オッズが高い真衣華だった。

 

「……」

 

 とても気まずい。

 

 この窮地を乗り切ることのできる神算鬼謀を果たして僕の頭はひねり出すことができるのだろうか。否、考えるまでもない。かの山本カンスケの精神を宿した僕はこう言った。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 いわゆる神謀覚醒。謝罪乙女ってやつだね。上乗せゲーム数は最低保障の100ゲーム。やってられないぜ、まったく。

 

「いえ、あなたの意味がわからないのは今に始まったことではないから大丈夫よ」

 

 僕ってそんな風に思われていたんだね。ちょっぴり泣きそう。

 

「そ、そうか……何か相談事かい?」

「ええ。私達の先行きを決めかねない大きな相談事よ」

「大きく出たね。まあ座ってよ。わざわざ買い物の前に来たくらいだ、急を要する話なんだろう?」

 

 段ボールから出したばかりの座布団を差し出しつつ僕はそう言った。

 

「急、ではないけれど……早く知りたいのは事実ね」

「なるほど?」

「率直に言うわ。司さん、あなた私のことをどう思っている?」

「どうって?」

 

「なんでも構わないわ。思いつく言葉をなんでも言ってちょうだい」

「そうだなあ……綺麗、イベントを運んできてくれる、モデルみたい、かっこいい、びっくり人間、良い匂いがする、足舐めたいなあとか?」

 

「……最後のは聞かなかったことにするわ」

「別に聞いててくれて問題ないけど。今の質問の意図は?」

 

「この数日一緒に生活して思ったの。司さんは私みたいな女は好みじゃないんじゃないかって」

「そんなことはないけど……どうしてそう思ったの?」

 

「天音さんはまだわかるわ。私と会う前からの友人だし、面白い人だと思う。だけど、月野は別。まだ会って数回なのに、あんなに楽しそうに話している。私はそれが不安で……」

「天音も月野さんもそうだけど、打てば響くというか、僕がふざけてもしっかり返してくれるからそういう風に映るだけじゃないかなあ」

 

「そうかしら? ただでさえ私はあなたの人生をめちゃくちゃにしてしまった。こんな面白みのない女と付き合うより、月野と契約し直した方がいいんじゃないかしらって思ってしまって……」

「ん? ちょっと待って。なんか僕の知らない情報があったような」

 

「人生をめちゃくちゃにした?」

「全然、むしろ面白くなってきたと思ってる」

「面白みのない女?」

「定義の問題はあるけど君より面白い人は探すのに苦労すると思うよ」

「じゃあどこかしら?」

 

「月野さんと契約ってどういうこと?」

「月野もエゴよ。まだ誰とも契約していないみたいだけれど……気づいていなかったの?」

 

 なんてこったい。衝撃の事実だ。いや、むしろ今まで気づいていなかったことがおかしいか。窓ガラスを再生させるなんていう特大ヒントがあったんだ。

 

 あまりに振る舞いが普通の人と変わらないからエゴだって気づかせなかっただけだ。

 

「まだあるよ。契約し直すってことは解除もできるってこと?」

「ええ」

「どうやって」

「エゴとコントラクターの信頼関係に致命的な傷が入る。もしくはどちらかの死亡」

 

「わお。じゃあ無理だ。僕は真衣華のことを信用しているし、死ぬなんてありえない」

「私が死ねば解除できるのよ?」

「冗談でもそんなことを言っちゃいけないよ」

「私は本気よ。このままあなたと信頼関係が築けないなら、死ぬのと変わらないもの」

 

 あれれ~おかしいぞ~。真衣華ってお姉さんキャラじゃなかったっけ。僕のために死ぬだなんて、発言がまんまヤンデレなんですけど。

 

「オーケーわかった落ち着こう。とりあえず、契約解除はなし。僕は真衣華を信用している。だから死ぬ必要なんてなし。オーケー?」

「本当に? 今契約を解除すればあなたはイドと戦う必要もなくなる。普通の生活に戻れるのよ?」

 

 流石にここはおふざけが許される状況じゃない。僕は彼女に真剣に向き合って思いの内を打ち明けることにした。

 

「天音にも言っていないんだけど、僕は夜中に星空を見るって趣味があるんだ」

「星空を?」

「うん。星空を見ることで、僕の中にある焦燥感が少しだけ満たされるんだ」

「焦燥感って、どんな?」

 

「なんて言ったらいいのかな、言語化が難しいや。何かをしなければいけない、何かをしたい。そんな気持ちだけはあるんだけど、何をすればいいのかがわからない。焦りだけが募るんだ」

「その気持ちわかる気がするわ」

「ほんとう?」

 

「私も、なんのために戦っているのか、なぜ戦っているのか、今でもわからなくなるもの」

「そっか」

 

 彼女は戦うことを宿命付けられているにもかかわらず、自己の確立もままならないままこの世に生を受けたと聞いている。

 

 今でこそ「ソレ」がイドと戦うことだと判明しているが、「ソレ」の正体に気付くまでは、ひょっとすると僕が持ち続けている「焦燥感」にも似た何かと同じものを抱き続けていたのかもしれない。

 

「僕はね、学園に行って、天音をいじって、休みの日にはゲームでもやりながら夜更かしする。その繰り返し。そんな代わり映えのしない日々も、それはそれで楽しいと思うんだ」

 

 だけどね、と続ける。

 

「僕は、そう、冒険がしたいんだ。ずっと思っていた。代わり映えのしない日々を生きるだけでは得られない刺激を欲していたんだ。君と出会って、やっと言語化できた」

 

 だからね、と僕は更に言葉を重ねる。

 

「僕は、真衣華、君と出会ってよかったと思っているんだ。だってそうだろう? 全てはあの夜、君と出会ってから始まったことなんだ」

 

「そう、ね」

「君のおかげで退屈だった日常がせっかく面白くなってきたんだ。それを今更降りろなんてのはなしにしてくれよ」

 

「ふふ、あなたの気持ちはよくわかったわ。じゃあ、これからもよろしく頼むわね、私のコントラクターさん」

「任せてよ。僕のエゴさん」

 

 と、いい感じに話がまとまったと思ったんだけど、真衣華が次に言った言葉で雰囲気は台無しになった。

 

「それはそうと、司さんの好みの女は月野なのよね?」

「あれ今そんな話するムードだった?」

 

「大事なことよ。胸は難しいかもしれないけれど、身長くらいなら厚底ブーツを履けばなんとかなるかもしれないわ」

「いやいや、真衣華は真衣華のままでいいよ。無理して月野さんに寄せなくていいってば」

「そうはいかないわ。エゴたるものコントラクターの好みの女にならないといけないの。少しでも好きになってもらえる可能性があるならなんでもするから言ってちょうだい」

 

「いや、マジで真衣華は真衣華のままでいてよ。てかもう若干キャラ崩壊してるから! 真衣華には姉キャラでいてほしかった!」

「姉キャラ……なるほど、そういうのがあるのね。ちなみに参考資料とかあるかしら。あれば見せてほしいのだけれど」

 

 過去一押しの強い真衣華に根負けした僕は、秘蔵の姉物エロゲを渡して退室してもらった。彼女はどうせパソコンが使えないから無用の長物だろう。

 

 万が一のことを考えて変なものは渡していないけど、万が一、億が一、彼女がパソコンを使えた場合、僕の理想とする姉キャラになって帰ってきそうでそれはそれで怖かった。

 

 それから数十分後、再び部屋に控えめなノックが聞こえてきた。

 

 先程の真衣華とのやり取りで憔悴しきっていた僕は水性ペンで顔にほうれい線を書いて、

 

「ゆ……許してください……!」

 と来客を出迎えた。

 

「ぷっ! 貴方なんて顔してるのよ。うふふ、鏡見たら? ぷぷっ!」

 

 成し遂げたぜ。今度こそ僕は賭けに勝った。

 

 ほうれい線プラス渾身のじじい顔は果たして月野さんには効果絶大だったようだ。初めて彼女が声に出して笑っている姿を見ることができた。それだけで日夜顔芸の練習に熱い血潮を流してきたかいがあるというものだ。

 

「やあ月野さん、何の用だい?」

「買い物、ぷぷ、行く時間だから呼びにきたのよ。あはは、ダメっ、面白すぎるわ」

「月野さんが笑ってくれてとても嬉しいよ。じゃあ買い物に行こうか」

 

「貴方その格好で行くつもり? うふふ、ダメ、想像して笑っちゃう」

「月野さんがお望みなら」

「いやよ。そんな人と一緒に歩きたくないわ。さっさとインク落としてきなさい」

 

 気持ち普段より優しい声色の言葉を受けて僕は洗面台でインクを落とすことにした。途中、天音にも見られて爆笑された。

 

「さて、ここはアプローチの中とはいえ支払いを私がする以上、全員一緒の行動を取ってもらいます」

 

 2階にあるショッピングモールに移動した僕達を出迎えたのは、所狭しと並べられた物、物、物。まるで百貨店のようだった。

 

 なぜ一応はオフィスビルのはずであるアプローチにこんな場所があるのかという疑問はさておき、到着して早々月野さんは僕達に向かってそう言ったのだ。

 

「こういうのって経費で落ちるんじゃないの?」

「落ちるけど、それはそれ、これはこれ、よ。経費だからってあんまり高いのばかり買おうとしないでよ?」

「わーい宮崎県産の高級マンゴーだー。20個くらいカゴに入れてやれー」

「貴方みたいのがいるから先に言ったのよ!」

 

「なんだよちょっとふざけただけじゃないか。僕だって分別くらいはあるつもりさ」

「イマイチ信用できないのよね」

「とりあえず今日買うのは皆の日用品と食材とたこ焼き器って感じかな?」

 

「後、私の服を買ってもいいかしら。いつまでも司さんのジャージを借りているわけにもいかないから」

「そうね。時間かかりそうなら先に見とく?」

「どうかしら、司さん次第ね」

「ん、なんで僕次第?」

 

「司さんの好みの服を買うつもりだもの」

「え、ちょ、え? 司さん呼びもそうだけど、あたしがちょっと見ない間に何があったの?」

「それはもう濃厚なベーゼを交わしたのさ。なあ真衣華」

「そうね。濃厚だったわ」

「えええええええ!」

「チッ……これだから男は。ちょっと気を許したらこれなんだから……!」

 

 予想だにしないところから流れ球が来てしまった。この誤解は解かねばならない。

 

「違うんだ月野さん。今のは冗談であってだね」

「そうかしら? 私は濃厚だったと思うわよ?」

「おおい真衣華、話をややこしくしようとするのはやめてくれ」

「事実じゃない」

「やっぱり不潔ね」

「だから違うって! 僕は真衣華と話をしただけなんだ!」

 

 頼みの綱の真衣華がこれではどうにもならない。僕は救いを求めて天音を見た。

 

「天音からもなんとか言ってやってくれ、いつもの軽口なんだよ」

「嘘つき」

「ブルータス、お前もか」

 

 こんなにもこの言葉を正しい状況で使える時がくるなんて。できれば一生きてほしくなかったよ。

 

 仕方がないので正直にさっき真衣華が部屋に来て話したこと言った。もちろん、人に話しづらいところとかはぼかしてね。

 

「そういうこと。それならそうと言えばよかったのに」

「ほんとだよ。濃厚なベーゼを交わしたとか言うから誤解されるんだよ?」

「あれおかしいな。僕誤解だってちゃんと言ったはずなんだけど」

「いーえ言ってない」

「うん、言ってないよね」

 

 悲しいかな、ここは日本、民主主義の国です。彼女達がそうだと言えばそうなってしまうのだ。しょんぼりした僕は彼女達に連れ回されるように買い物を行った。

 

 ちなみに真衣華が買った服はAラインワンピースと動きやすさを求めたジーパンとシャツだった。モデル体型の彼女によく似合っていて、実に眼福だった。

 

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