夏休みに夜食を買ってウキウキで帰宅したら、クーデレとかツンデレお母さんとかオタク系子犬ヒロイン達が織りなす面倒くさいハーレムラブコメが始まった。   作:山城京@カクヨム

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第14話「お着替えタイム」

 呼ばれるまま三人で八田さんの元まで行くと、彼は僕達を別室へ通して開口一番こう言った。

 

「すまないね」

「どういうことか説明してもらえるんですよね?」

 

 本来は僕が言わなければいけない言葉を月野さんが代弁してくれた。

 

「もちろんだ。アルターエゴがアプローチ所属であることを内外に示すには、戦闘に出てもらうのが手っ取り早い。というのは建前で」

「建前なんですね」

 とは僕のツッコミ。

 

「そうなんだよ。大人の世界というのはなんでも建前が必要なんだ。筋肉みたいに単純明快だったらよかったんだけどねえ」

「筋肉は爽快ですからね。実にわかりやすい。映画だと大体の問題筋肉で解決しますし」

「そう! そうなんだよ! 僕も筋肉で解決したいと常日頃思ってて――」

 

 ここで月野さん渾身の「んん!」という咳払いが入った。

 

「失礼。えー、どこまで話したんだっけ?」

「アプローチ所属であることを内外に示すっていう建前ですよ」

 

「そうそう、そうだった。我々としてはアルターエゴの持つ力を早期に把握しておきたいんだよ。伝承通り単騎で戦況を左右しかねない存在なのか、はたまた一般エゴと大差ない力なのか。正直、君達の扱いに困っているのが本音でね」

 

「なるほど。ちなみにここで一騎当千な活躍をした場合僕達は前線に駆り出される感じですかね?」

 

「いや、そういったことはしないと約束するよ。精々ちょっと倒すのが大変なイドの相手をお願いするくらいかな? 戦闘においては個々の戦力を把握し、適切な場に適切な戦力を配置することが大事なんだ。そのための試験くらいに思ってくれていい」

 

 いや上手いこと言葉遊びで誤魔化してるけど、戦う力があるの証明したら八田さんの言う適切な場に配置されてしまうやんけ。

 

 月野さんにも手を抜くようにも言われてるし、どう返したものかな、なんて思っていると、

 

「私はイドを倒せるのならなんでも構わないわ。司さんもそうよね?」

「そうだとも」

 

 僕はなんて意思の弱い人間なんだ。けど僕は悪くないよ。だって美人がそう言ったんだもの。美人がそう言うなら白も黒になるってもんだ。

 

 僕がほぞを噛みながらしくしくと泣いていると、

 

「サポートはどうするつもりです? 今回は私が出ますけど、毎回サポートはできませんよ? 私にも通常の業務があるので」

 月野さんが実務的な質問をしていた。

 

「それについては考えがある」

「考え、ですか?」

「今はまだ言えないけどね。さ、あまり話をしている時間はない。月野君、彼の着替えを手伝ってあげてくれ」

「着替えを、手伝う……?」

 

 僕はオウム返しのように八田さんの言葉を口にした。だってそうだろう、美人でお馴染みのあの月野さんが僕の着替えを手取り足取り手伝ってくれるだなんて、それなんてエロゲ?

 

「もう彼用の装備出来てるんですか?」

「いやまだだ。今回は汎用のを使ってもらう」

「了解です。彼用のロッカーはあるんですか?」

「用意済みだよ。装備は一部特別仕様になっているからすぐわかるはずだ。彼が嫌がっても着せてやってくれ」

 

 二人で何か話しているようだったが、僕の頭には一切入ってこなかった。今僕の頭を支配しているのは下着姿で僕の服を脱がせてくれる月野さんの姿だけだ。

 

「ちょっと! ボサッとしてないで、行くわよ」

「え、イク? どこに?」

「着替えよ、着替え」

「ああ着替えね、うん。行きましょうか」

「なんで敬語……?」

 

 前略お父さんお母さん、僕を生んでくれてありがとう。僕は今日、大人になります。

 

 なんて思っていたのに……。

 

「ああ、うん。どうせそんなこったろうと思ったよ……」

 

 僕を待っていたのは着替えの手伝いとは名ばかりの、装備の着用方法の説明だった。

 

「擦り傷とかになりたくなかったら、しっかりプロテクターは付けるのよ? これはここのテープで固定して――」

 

 一生懸命真面目に説明してくれている月野さんには悪いが、僕は身体の動きを阻害しそうな物を付ける気は一切なかった。

 

「ごめんね月野さん、僕にはプロテクターとかはいらないよ」

「どうして?」

「真衣華が僕の装甲になるんだよ。中世の甲冑みたいなものをイメージしてもらうといい」

「そうなの?」

「うん。だから動きを阻害しそうな物は極力身に付けたくない」

「せっかくだけど、私もいらないわ。動きづらそうだし」

 

「うーん……なら、黒鉄真衣華はともかく九条君はプレートキャリアーだけでも付けていきなさい。万が一の時これがあるのとないのとでは生存率が違うから」

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 

 プレートキャリアーを受け取った僕は、それを身に着けようとするが上手くいかない。

 見かねた月野さんが僕の後ろに立って装着するのを手伝ってくれた。

 

「次からは一人でやるのよ?」

「わかったよ母さん」

「誰がお母さんよ!」

 

 装着を終えて立ち上がる。当然だが、何も付けていない時とは比べ物にならないほどの重量感があった。

 

 月野さんには悪いけど、次回はプレートキャリアーより軽いものがない聞いてみよう。これじゃ当初懸念していた身体の動きを阻害されてしまっている。まあ今回はしょうがない。

 

「これ目立つところにアプローチって書いてるんだね。広告みたいだ」

 

 特殊部隊が着ていそうな黒一色のシャツの胸と背中部分に大きく「アプローチ」と書かれている。プレートキャリアーも同様だ。はっきり言ってとてもダサい。

 

「特別仕様よ。貴方がそれ着て目立てばアプローチ所属ってわかるでしょ。私達のは腕章になってるもの。ほら」

 

 と言って見せられた月野さんの制服は普通にスタイリッシュな黒色のアンダーウェアだった。羨ましいぞ。僕のなんてとてもダサいのに。

 

「交換しない?」

「絶対、嫌!」

 

 彼女も内心ダサいと思っているようだ。尚更これ着るの嫌になってきた……。

 

「着替えたんなら出てってちょうだい」

「なぜ?」

「なぜって私が着替えるからよ」

「ガッテン」

 

 おかしいとは思ったんだ。広いロッカールームに誰もいないし、そもそも僕が入ったロッカールームにはデカデカと「女性マーク」が描かれていた。

 

 きっと他の職員はすでに着替え終えて、僕達の到着を待ちわびているのだろう。だとすれば、月野さんみたいに真面目な人は急いで準備を終えなければと思うはずだ。

 

 そんな彼女の邪魔をするわけには、するわけには……邪魔したいよなあ!

 

 だって扉開けたら月野さんが着替えてるんだぜ。ここで覗かないなんて男が廃るってもんよ。そうと決まれば突入だ。いざ鎌倉!

 

「ぐえ」

 

 ヒキガエルみたいな声が出た。意気揚々と花園へと続く扉に駆け出そうとした僕の首根っこを真衣華が掴んだからだ。

 

「ひどいよ真衣華、なんてことするんだ」

「ごめんなさい。でもここで私が止めないと司さんは覗きに行ってしまうでしょう? そうしたらあの女の裸を見ることになる。私には耐えられないわ……」

 

「具体的な理由をどうもありがとう。それでも僕は覗きたかった……」

「今度私のを覗かせてあげるから」

「それじゃダメなんだよ。覗きをする時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ」

 

「私の裸を見るなら邪魔しないわよ?」

「なんてこったい強すぎる」

 

 ネタにマジトーンで返される時、人は無力になるのである。

 

 なんてやり取りをしている内にすっかりと着替え終えたらしい月野さんが扉から出てきてしまった。

 

「ああ、なんてことだ。美人が台無しだお……」

 

 思わず語尾がネット掲示板の住人になってしまう程度に僕は落胆した。

 

 フル装備の月野さんは全身をガチガチのプロテクターで固めてしまっていて肌色がどこにも見当たらなかった。特に顔なんてフルフェイスヘルメットだから誰が誰かわからない。

 

「え、どうしたの? 何か変?」

「気にしないでくれ。変だったのは僕の常識だから」

 

 ビキニアーマーなんて言葉があるくらいだから、悪者と戦う美人さんは肌色多めの装備だと信じて疑わなかった僕が悪い。

 

「やだ怖い。なんで私睨まれてるの? 私何かした?」

 

 落ち込む僕をよそに真衣華が月野さんを睨んでいた。

 

「気にしないでくれ。睨まれているのはきっと僕のせいだから」

「全部貴方のせいじゃない! これから戦いだっていうのに気が抜ける……」

 

「ヘイヘイ肩の力抜いていこうぜ」

「はぁ……貴方、命懸けっていう自覚ある?」

 

「僕が死ぬわけないだろう」

 

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