夏休みに夜食を買ってウキウキで帰宅したら、クーデレとかツンデレお母さんとかオタク系子犬ヒロイン達が織りなす面倒くさいハーレムラブコメが始まった。   作:山城京@カクヨム

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第17話「タコパ、はじまります」

「ところでエスの海に行ったら人がいなくなるけど、僕達以外の人はどうなっているんだい?」

 

 帰りの車内で僕は隣に座る月野さんにそう尋ねた。

 

 ちなみに行きと違い今泉の姿は車内にない。どうやら別の車に乗っているらしい。更にちなむともうかたっぽには真衣華が座っているので両手に花ってやつだね。

 

「恐らくだけど、時間が停止してる」

「恐らく?」

 

「観測できないのよ。監視カメラの類もその間のデータが存在しないから、エスの海にいる間のことは私達にはわからない。反対に、現実世界の人達も今の私達を観測できない」

 

「それじゃよくわからないよ。噛み砕いて説明してくれないか?」

 

「例えばだけど、私達はさっき天音さんとたこ焼きをしようとしていたでしょう? だけど、今この場でエスの海を抜けると、現実世界での私達の姿はここにいることになる。天音さんからすればいきなり姿を消してしまったということになるの」

 

「エスの海にいる間の記憶は天音にはないの?」

「ない……というのが通説ね。だから、恐らく時間が停止してるって言ったのよ」

 

「なるほどね。ということは天音に違和感を持たれないようにするには、僕達はたこ焼きパーティーが開始される直前のノリを持った状態で部屋に戻らないといけないわけだ」

 

「そういうことになるわね」

「こりゃ大変だ。月野さんはいつもどうやって気持ち切り替えてるの?」

 

「私はそういうのが煩わしいから一般人とは一定以上の関係を持たないようにしてるの」

「要するに友達いないんだね」

 

「と、友達くらいいるわよ!」

「大丈夫、ボッチは恥ずかしいことじゃないよ?」

「だからいるって言ってるでしょ!」

 

「ほんとにぃ?」

「なんで疑うのよ!」

「月野さん性格キツイからボッチかなって」

 

「言ったわね!? 貴方こそ友達いないんじゃないの?」

「天音がいるだろ」

「同性の友達は?」

 

「……提案なんだけどこの会話やめない? あまりに不毛だ」

「そうね。誰も得しないわ」

 

「月野、私達はこの後何かすることがあるのかしら?」

 

「本当だったら報告書を書かないといけないんだけど、今私達は特殊な状況に置かれているからわからないわ」

 

「特殊ってどういうことかしら?」

 

「天音さんを保護しているでしょう? 優先されるのは天音さんだと思うんだけど。ちょっと待ってて、八田さんに聞いてみる」

 

 月野さんがイヤホンマイクで通信をしている間、手持ち無沙汰だった僕は真衣華に話しかけることにした。

 

「報告書だってさ、一足早く社会人になったみたいだ」

「人間社会は面倒なのね」

 

「面倒を背負うのが大人になることだって聞いたことがある」

「司さんは大人になりたいと思う?」

 

「どうだろうね。放って置いてもなるものなら、今しかできない経験を積みたいかな?」

 

「そう言われればそうね」

「そういえば真衣華って普通の人みたいに老いるの?」

 

「どうなのかしら? 生まれた時からこの背格好だったからわからないわ」

「今明かされる衝撃の真実。失礼かもだけど真衣華って今何歳?」

 

「詳しくは覚えていないけれど、たぶん半年とかじゃないかしら?」

「ひょえ……普通ならまだハイハイもできない年齢だよ」

 

「そうなのね。できることなら、あなたと一緒に老いたいけど」

「そうだねえ」

 

 なんて話をしていると、通信を終えたらしい月野さんがこう言った。

 

「すぐ部屋に戻っていいらしいわ」

「月野さんも?」

「そ。暫くは貴方達と同じ扱いってことね。楽でいいわ」

 

 ということで、アプローチに戻った僕達は急いで着替えて部屋へと向かった。

 

 まだエスの海にいるので、当然というかなんというか部屋に天音の姿はない。

 

 ここから現実世界に戻ると、びっくり玉手箱のように天音がポンッと僕に10万ドル渡しに現れるのだろう。

 

 さて、エスの海に行く直前の僕は何をしようとしてたんだっけかな。

 

「司さん、準備はいい?」

「オッケー」

 

 真衣華が頷くと、例の「ザザザザッ」という音が聞こえて世界に時間が追加された。

 

「あはははははははっ! 司、なんて顔してるのさ!」

 

 エスの海から抜け出す寸前、僕は天音が現れるだろう場所に向かって渾身の変顔をキメていた。いわゆるFXで有り金全部溶かした人の顔だ。

 

 天音からしたら僕が唐突に変顔をしだしたことになる。僕は天音を笑わせるのが得意なのだ。これくらい朝飯前よ。

 

「……考えたわね。ここまで派手にやれば天音さんも違和感を覚えないものね」

 

 月野さんがなんか都合のよい方向に解釈してくれているが、僕は天音を笑わせることしか考えてなかったのでそれは誤解というものだ。しかし都合が良いのでそういうことにしておこう。僕って頭いい。

 

「さて、たこ焼きでも焼くか。自慢じゃないが僕はたこ焼き屋のおっちゃんから免許皆伝を受けているんだ。皆安心して焼き上がるのを待っていてほしい」

 

「嫌よ、こういうのは自分で焼くから楽しいんじゃない」

「あたしもー。自分の分は自分で焼きたい」

 

 皆冷たい。最後の望みをかけて真衣華を見るも、彼女も初めて見るであろうたこ焼き器を前にワクワクしていた。そんな彼女から焼く楽しみを奪うことはできなかった。

 

「まあじゃあ、皆それぞれで焼きますか……」

 

 たこ焼き器に油を塗って、生地を流し込む。タコと天かす、そして何よりネギ好きの僕は過剰な量のネギを放り込んだ。

 

「だんだんいー匂いしてきたね」

 天音は待ち切れない様子で両手に串を持ってそう言った。

 

「生地の端が白くなってきたらひっくり返すタイミングだ」

「そろそろかしら?」

 

 僕の言葉を受けて月野さんが串を端に突き入れた。しかし生地の焼きが甘かったようで失敗してしまった。

 

「あちゃ、やっちゃった」

「大丈夫だよ。まだ修正が効く範囲だ」

 

 ちゃっちゃと崩れてしまったたこ焼きの形を修正する。

 

「貴方本当にたこ焼き焼くの得意だったのね。てっきりいつもの冗談かと」

「こういう時のために練習だけは欠かさない男だ」

 

「あたし以外とやる機会なかったけどね」

「そこ、うるさいよ」

「司さん、これはもういい?」

 

 真衣華は自身の陣地のたこ焼きを指しながら聞いてきた。

 

「うん、頃合いだ。端を浮かせて……そうそう、後はひっくり返すだけだね」

「慎重に……できた!」

 

 初めてだというのに綺麗にひっくり返すことができた。嬉しそうな笑顔を見ると、たこ焼きパーティーを提案したかいがあるというものだ。

 

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