夏休みに夜食を買ってウキウキで帰宅したら、クーデレとかツンデレお母さんとかオタク系子犬ヒロイン達が織りなす面倒くさいハーレムラブコメが始まった。   作:山城京@カクヨム

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第20話「ヒロインが主人公に強敵を倒すよう発破をかけるイベント」

「で、ほんとのところは何の用なの? 天音の前だから言えなかったんだろう?」

「貴方本当にそういうところだけは無駄に頭が回るわね。模擬戦をやってほしいみたいよ。相手は今泉さん」

 

「おいおい勘弁してくれよ。僕は虚弱体質なんだ、模擬戦なんてしたら死んでしまうじゃないか。しかも相手は今泉だって? なんでまた今泉なんだ」

 

「八田さん的には誰でもよかったみたいなんだけど、今泉さんが立候補したみたい」

「冗談キツイぜ。テキトーにやって流すか」

「私もそれがいいと思うわ」

 

 今から気が重い。僕に気を使うように背中に手をやってくれた真衣華に押されながら、エレベーターに乗る。どうやら目的地は8階、トレーニングルームのようだった。

 

「はぁ……」

 

 ため息の一つもつきたくなるというものだ。つい先程まで女の子の良い匂いがする空間にいたというのに、なんの因果か今は汗臭いトレーニングルームにいるんだもの。

 

 目に映る光景も汗をダラダラ流したムキムキマッチョ達がガチョガチョバーベル上げる姿だ。ここ最近女の子の美しい姿しか目に入れてなかった僕からすると正しく目に毒だ。

 

「道場の前にいるみたいなんだけど……ああ、いたいた。お疲れ様です」

「お疲れ様、月野君、九条君、黒鉄君」

「お疲れ様です、月野さん」

 

 八田さんと今泉だった。すでに汗を流した後なのか、二人からムワッとしたものを感じる。

 

 というか今泉、明らかに僕と視線が重なったのに僕らには挨拶なしかい。相変わらずムカツクヤツだなあ。

 

「いやあ突然呼び出して悪かったね」

「自らの運命を呪ってますよ」

 

「これも業務命令ってことで、一つ納得してくれ。要件は月野君から聞いてるかな?」

「なんか今泉と模擬戦をやれと」

 

「そうだ。昨日までの戦いで概ねエスの海における君の戦闘力は把握したからね、次は生身での戦闘力を把握しておきたい」

「把握も何も僕は素人ですよ」

 

「しかし現実に、君はエスの海で活躍している。それが黒鉄君の力に依るものなのか、僕は知っておく必要があるんだ。お願いできないかな?」

「嫌って言ってもやるんでしょう? ならさっさと終わらせましょう、天音が待ってる」

 

「うむ、善は急げだ。審判は僕がする。月野君は九条君に訓練用の装備を付けてあげてくれ」

「わかりました」

 

 道場に入り、僕達は右の更衣室に、八田さんと今泉は左の更衣室に入った。

 

「模擬戦ってどんなことするんだい?」

「早い話が防具付きの喧嘩ね」

「穏やかじゃないな」

 

「一応目つき金的はなしだけど、それ以外は何をしてもOK。やっている人は見たことないけど、噛みつきも許可されてるわ」

「ますます穏やかじゃないな。僕嫌だよ、そんなことするの。痛いのは嫌いだ」

 

「そう思うならサクっと負けることね。適当に一発イイの貰えば終わるでしょう」

「うーむ……」

 

 どっちにしろ痛い思いをするじゃないか。何か良い方法はないものか。

 

「訓練用の装備といってもファウルカップとオープンフィンガーグローブくらいのものかしら。胴プロテクターは付ける?」

「動きが阻害されそうだからパス」

 

「そう言うと思ったわ。じゃ、付けるのはその2つね」

「ねえ月野、今泉って男は生身でも強いの?」

 

「ウチ、毎年無手の大会開かれるんだけど、今泉さんは二年連続優勝してるわよ」

「そうなの。あなたとも戦ったことあるの?」

 

「私はないわね。試合を見たけど、だいたいの相手を一発で倒してる」

「へえ……」

 

 興味なさそうに返事をした真衣華は、ズボンを脱いでファウルカップを装着している僕を見て「ねえ司さん」と言った。

 

「ん? なんだい真衣華」

「ちょっ! なんでズボン脱いでるのよ!」

 

 真衣華が何かを言うよりも先に月野さんがそう言った。

 

「なんでって、脱がないとファウルカップ付けられないだろう?」

「そうだけど……普通私達の前で脱ぐ?」

「僕達寝食を共にする家族じゃないか。セーフセーフ」

 

「思いっきりアウトよ! というか、黒鉄真衣華も少しは慌てなさいよ!」

「この程度で慌てるなんてウブなのね、月野」

 

 馬鹿にしたように言う真衣華に対し月野さんがカチンと来たのがわかった。

 

「慌ててません。私は常識を説いただけです」

「ふっ、つまらない常識ね」

「つまるつまらないは関係ないでしょ?」

 

「関係あるわよ。常識に囚われていてはいざという時にベストを尽くせない。そうは思わない?」

 

「常識っていうのは先人達が積み重ねてきた知識なのよ? まだ生まれて間もない貴方には理解できない感覚なのかしら?」

 

 バチバチと視線をぶつけ合う二人をよそに、僕はすっかり準備を終えていた。

 

「ところで真衣華、さっき何を言いかけてたの?」

「ああ、そういえば。月野がどうでもいいことに反応するから流れてしまったわね」

 

「どうでもいい?」

「おいおい二人共、話が進まないからその辺で頼むよ」

 

 そう言って、真衣華に先程の言葉の続きを促す。

 

「月野、今泉って男はアプローチで最強の男なのよね?」

「言ってしまえばそうかも。それが?」

 

「なら、今泉に勝った男が最強。間違いないわね?」

「そうね」

 

 おやおや、僕この展開知ってるぞ。ヒロインが主人公に強敵を倒すよう発破をかけるイベントじゃあないか。あー嫌な予感がする。

 

 果たしてそんな僕の予感は次に真衣華が口にした言葉で確定した。

 

「司さん、今泉を倒してちょうだい」

「無理に決まってるじゃない」

 

 月野さんが僕の気持ちを代弁してくれた。

 

「どうしてかしら?」

「今泉さんは戦闘のプロよ? 日夜戦闘の訓練を受けてるの。それに比べて九条君はついこの間までただの学生だったのよ? 勝てるわけないじゃない」

 

 事実なんだけど、月野さんみたいな美人に言われてしまうと見返してやりたいと思ってしまう今日この頃でした。

 

「そうかしら? 私のコントラクターはその辺の男には負けないと思うけど」

「いくらイド相手には圧倒的な力を持っていると言っても中身はこれよ? 無理よ」

「いいえ、司さんならやってくれるわ」

 

 なんだろう、僕そっちのけで勝つか負けるかの議論が始まってしまった。肝心の僕は全くやる気がないというのに。僕はどうしたらいいんでしょうか。

 

「失礼するよ。そろそろ準備はできたかな?」

 

 八田さんがやって来たことで議論の決着を見ることなく、僕は強制的にバトルフィールドへと移動することになった。

 

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