夏休みに夜食を買ってウキウキで帰宅したら、クーデレとかツンデレお母さんとかオタク系子犬ヒロイン達が織りなす面倒くさいハーレムラブコメが始まった。   作:山城京@カクヨム

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第24話「月野:絆エピソード2」

「それじゃ、乾杯」

「ええ、乾杯」

 

 チンッというグラス同士がぶつかる小気味良い音が鳴った。

 

「おお、美味しい」

「ありがとうございます。九条さんのはサラトガクーラーっていう名前のカクテルです」

 

「へえ、これが。名前だけは知っていたけど飲んだのは初めてです。美味しいですね」

「九条君にも知らないことがあるのね」

 

「僕だってなんでもは知らないよ、知ってることだけ」

「なんだか貴方を見ていると、エゴであるはずの私がちっぽけな存在に思えるわ」

 

「そうかい? 僕から言わせたら月野さん達の方がよっぽどびっくり人間だけど」

「私のこと人間だと思ってくれてるの?」

 

「当然」

「ありがと」

 

 至極当然のことを言ったつもりだったんだけど、何故かお礼を言われてしまった。抱いた疑問は、月野さんがカクテルに口を付けた後、自ら説明してくれた。

 

「貴方も見たからわかると思うけど、エゴになると普通の人にはないはずの異能が備わるの。そして、個人差はあれど身体能力も普通の人から逸脱する」

 

「そうなんだ」

 

「だから、普通の人から見た私は恐怖の対象よ。皆表面上はニコニコしてくるけど、裏では私のことを怖がってる。それはそうよね、ぎゅって握っただけで骨を砕いちゃうんだもの」

 

 薄々感じていたけど、やっぱりエゴの身体能力は常人のそれとは比べ物にならないらしい。握っただけで骨を砕くなんてよっぽどだ。

 

「怖がるだけならまだマシね。近づかなければいいんだもの。面倒なのは私の力を知って近づいてくる人。利用しようと考えるその目が私には怖い。だけど、仕方ないわよね。私は人間じゃなくエゴなんだもの」

 

「そうかな? 月野さんは人間だと思うけど」

 

「ほんとに言ってる? ……まあ貴方のことだから本気で言っているんでしょうね。だけど、今この場で私が貴方の手の骨を砕いたら? それでも私のことを人間って言える?」

 

「試してみる?」

「本気でやるわよ?」

 

「骨を砕かれる恐怖よりも月野さんと手を繋げる喜びの方が大きいかな」

「呆れた。いいわ、痛いって言ってもやめてあげないから」

「ちょ、ちょっと二人共その辺に……」

 

 月野さんの目は本気だった。おろおろしだした優子さんをよそに、僕は月野さんの手を握る。ふわふわして、体温の高い、「普通の女の子の手」だった。

 

「力、入れるわよ?」

「どうぞ」

 

 ゴキゴキという音が鳴った。たぶん、骨にヒビが入った。だけど僕は苦痛に声を上げることもなく、痛そうな顔もしなかった。

 

「貴方、痛くないの?」

 

「痛いことは痛いけど、それよりも月野さんと手を繋げた喜びの方が大きい。見ろよ、この顔を。満面の笑みだぜ?」

 

「信じられない……九条君、そんなに私のこと好きなの?」

「大好きだよ」

 

 僕の心からの言葉に、月野さんは「あっそ」と言ってそっぽを向いてしまった。しかしその横顔が僅かに朱に染まっていたのを僕は見逃さなかった。

 

「照れてる?」

「照れてません! それよりその手、ちゃんと冷やしときなさいよ」

「大丈夫だよ。ほら、この通り。僕の手にはなんの異常もない」

 

 なんでもないことをアピールするために月野さんに手をグーパーしてみせる。その度にビキビキと痛みが走ったが、どうせすぐに治るし、何よりせっかくの月野さんとの絆エピソードを台無しにしたくなかったので顔には出さない。

 

「それにしても頑丈ね。普通の人なら砕けるくらい力入れたのに……」

「僕はスーパーマンだからね」

「そうだったわね」

 

 クイッとカクテルを飲む月野さん。本当に様になるなあ、なんて思っていると、

 

「ねえ、九条君。これってデートに入ると思う?」

 

 その考えは困るぞ。非常に困る。これを約束のデートにカウントされてしまってはとても困る。僕が寝ずに考えたデートプランがパアになってしまうじゃないか。

 

「どうかなー? デートといえばデートだし、そうじゃないといえばそうじゃない気が……」

「ほんとはね、これでデートってことにしようと思ってたの」

 

 やっぱりな。こんなたかだか1時間やそこらの逢瀬をデートに数えられちゃたまったもんじゃない。なんとかして方向転換しないと。そう思ったんだけど、

 

「でも、気が変わったわ。1回だけ本当のデートに付き合ってあげる」

「え、いいの?」

「ええ。その代わり、ちゃんとエスコートしてよね」

 

 ふむ、これは月野さんから僕に対する試験とみた。その1回のデートで僕が漢を見せることができれば、晴れて絆レベル向上ってことに違いない。

 

「任せてよ。実はとっておきのデートプランを考えているんだ」

「あらそ。楽しみにしてるわ」

 

「けど一つだけ問題があってね、どれもこれも外に出ないと出来ないんだ……」

「あら残念。けど、それは時間が解決してくれる問題だと思うわよ」

 

「だといいけど」

「ここだけの話、八田さんが何か考えてるみたい。それによっては、九条君は自由行動が認められるかもね」

 

「マジかよ。それは実に朗報だ」

「確定した話じゃないわよ? 可能性がある程度に聞いて」

 

「1%でも可能性があるなら僕はそれを引き寄せる自信がある」

「ふふ、ほんとに面白い人ね、九条君って。今まで会ったことのないタイプだわ」

 

「それ褒めてる?」

「褒めてるわよ。男の子とこうして二人で飲むなんて、昔の私からしたら考えられないことだもの」

 

「それはよかった。そういえば月野さんってどうして男が嫌いなの?」

 

 前々から気になっていたことだ。こんな機会でもなければ面と向かって聞くことも難しいので聞いてみた。

 

「だって皆イヤらしい目で見てくるんだもの」

「それは許してほしい」

 

 実に単純明快な理由だった。

 

 確かに月野さんほどの恵体ならば、世の男性は思わず目で追いたくもなるというものだ。

 

 発育の過程を考えるに、子供の頃はペチャパイだったというのは考えにくい。きっと昔からクラスの中で一番おっぱいが大きくて、それが理由で男の子にからかわれていたのだろう。チビガキはおっぱいの大きい子をからかうものだからね。

 

「だから身体のラインが出にくい袴を着ているの?」

「それも理由の一つだけど、単純に好きなのよ」

 

「似合ってるもんね」

「ありがと。和服はいいわよ、九条君も着てみたら?」

 

「和服デートか……そういうのもアリだな」

「なんでもデートに繋げるわね」

 

「そりゃ楽しみにしてるからね」

「なんだか私まで楽しみに感じてきたかも」

 

 バーという薄暗い照明の効果も相まってか、実にアダルティな雰囲気だった。このまま上手いことやって、しっぽりルートに突入できないかと思案していると、

 

「ジントニックを」

「あら今泉さん、お疲れ様です」

「おや月野さん。偶然ですね、お疲れ様です……九条にも一応言っておくか」

 

 何が偶然だ。これだけ空席があるというのにわざわざ僕達の座る席の、よりにもよって月野さんの隣に座ってくるだなんて完全に狙って邪魔をしにきている。

 

「やい今泉、何をしにきた」

「見てわからないのか、俺は仕事終わりに酒を飲みに来たんだ」

 

「見てわからないのか、僕らはデート中なんだ。邪魔するな、あっち行け」

「お断りだね。お前みたいなヤツと月野さんを二人きりにしてたまるか」

 

「やっぱり邪魔しにきたんだな。お邪魔虫はどっかにいっちまえ」

「お断りだと言っただろう。お前みたいなおこちゃまはミルクでも飲んでとっとと寝ろ」

 

「何が『ジントニックを』だ。いっちょ前に映画みたいなかっこいい注文しやがって、ズルいぞ。僕だってやってみたい!」

 

「悔しかったらイケメンになるんだな。俺は面がいいからどうやってもそういう雰囲気になるんだよ」

 

「あの、私を挟んで喧嘩するのやめてもらえません……?」

「おっとこれは失礼。俺としたことが、九条のバカに付き合ってしまった」

 

「デートの邪魔するなんて子供じみた嫌がらせするから悪いんだい」

「恋愛は戦争だぞ。手段なんて選んでいられない」

 

「それには同意だけど、実際邪魔されたらムカツクだろ」

「俺は人の邪魔をするのが何より好きなんだ」

 

「性格がひん曲がってる」

「なんとでも」

「あの、せっかくですけど私は今九条君と飲んでるので……」

 

 やったぜ。月野さんからの明確な援護射撃。しかもクリティカルヒットしてる。今泉のヤツ信じられない顔して「な……!」とか言って驚いてる。

 

「やーいフラレてやんの、今泉。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるんだぜ」

「お、俺よりそんなちゃらんぽらんでお調子者で間の抜けたアホ野郎を選ぶんですか?」

 

 ひどい言われようである。確かにそういった要素がないとは言わないけど、僕だって決める場面では決める主人公気質があるんだぞ。

 

「今日はほら、例の件で聞きづらいことを聞いてしまったからそのお詫びも兼ねてるんです。九条君、私のことが大好きみたいだから今泉さんがいたらお詫びにならないでしょう?」

 

「なんだそんなことか。それなら俺が月野さんの代わりにお詫びしますよ。おい九条、ここの支払いは俺が持つ。だから俺も飲みに参加させろ」

 

「僕がうん、て言うと思う?」

「言わせてみせる」

「どうやって?」

 

 今泉は「ちょっとこっち来い」と言って僕を月野さんから少し離れた場所まで誘った。

 

「なんだよ、わざわざ月野さんから離れて……」

「俺を参加させてくれたら、次ここの支払いを全額俺が持つ」

 

 今泉が僕の耳に顔を寄せて小声でそう言った。本当にやめてほしかった。男からのASMRなんて罰ゲーム越えて苦行だよ。

 

「そんなんで僕がいいよって言うわけないだろう」

「本当にいいのか?」

 

 今泉はそう言って、ある場所に向かって顎をシャクった。

 

 そこでは頭にネクタイを巻いたおじさんがきらびやかな服装をした女の子達から接待を受けていた。女の子のドレスから溢れる巨乳が実に美しい。

 

「ま、まさか、あれをやっていいと……?」

「俺は稼いでるからな。少しくらいなら多めに見てやる」

 

「……契約成立だ」

「その気になったら声をかけろ。空いてる日なら付き合ってやる」

 

 僕達は固い握手を交わした。

 

「というわけで、俺も飲みに参加させてもらいますよ」

 

「そういうわけだから、少し不本意だけど、今泉も飲みに参加させることになったよ。同じ会社で働く者同士、飲みニケーションは大事だからね」

 

「ふーん?」

 

 手のひらを返すが如き僕の行動に月野さんは不信感を覚えた様子だったが、まさか女の子達との接待を条件にした裏取引があったとはわかるまい。

 

「九条君は私よりも有象無象の女の子達をとるのね?」

 

 しっかりバレていたようだ。エゴの聴力を侮っていた。

 

「ち、違うよ? 僕は月野さんが一番さ」

「でも今泉さんに接待してもらうんでしょ?」

 

「そんなわけないだろう! 僕は月野さん一筋さ!」

「あらそ。約束できる?」

「当然さ」

 

 僕は月野さんが差し出してきた小指に自らの小指を絡める。

 

「ゆーび切―りげんまん、嘘ついたらデートしーない」

 

 とんでもないペナルティだ。これは接待を諦めるしかなさそうだ。

 

「指切った。約束、破らないでよ? 私をガッカリさせないで」

「も、もちろんだとも」

 

 僕が血の涙を流している横で、今泉は肩を震わせ笑っていた。野郎……一度許可してしまった以上今更あっち行けは通用しないし、完全に今泉が得する結果になってしまった。

 

「あんまりだぜ……」

 

 こんな時お酒が飲めたらきっと浴びるほど飲んでいたことだろう。

 

「フラフラしてるのがいけないのよ」

「月野さん、意外と浮気にうるさいタイプ?」

「当然よ。浮気する男の人は大嫌い」

 

 月野さんが意外と束縛するタイプだったという事実が発覚した夜だった。

 

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