復讐機、起動
我々が悪かったことを、認めよう。
世間一般的には罪であることを知っていた。
しかし、秘匿された歴史を白日の下に晒すのが我々の使命であるとの一心で歴史を掘り起こそうとした。
悪いことだとはわかっている。
けれども、我々に関わっていない子供まで皆殺しにするほどのことなのだろうか。戸籍なりなんなりすり合わせて、一人一人探り出せばよかっただろうに。
私は死に損ないだ。
死に場所を無くした私は、敵を討たねばならない。
祖父の仇を。
友人の仇を。
幼い子供等の仇を。
故郷全ての魂を背負って、私は歩きださねばならない。
重いなどと泣き言を言う必要はない。
私には、機械の力がある。いくらでも持ち上げられる。支えられる。だから、きっと大丈夫だ。
一人逃げた馬鹿な私を許してくれとは言わない。
恨んでくれ、呪ってくれ。
その思いが私を支えてくれる。
さぁ、海に行こう。
海はすべてを見ていて、知っているのなら、
正しい終わりを知っているのなら、
私の仇のとり方くらい教えてくれたって罰が当たることもなかろうに。
これは、復讐のモノガタリ。
人にあらず、獣にあらず。
ひとの姿をした、機械の復讐ならば
人が鬼に変じた復讐鬼と呼ぶべきではない。
復讐するための機械、すなわち復讐機。
機械は眠らず、夢も見ず。
そもそもなぜ彼だけが生き残ったか。
至極単純に、所要があって外に行っただけなのだ。
近場の島から歴史の本文が発見されたとの噂を聞いて写しを取りに行っていた、その最中にバスターコールが発令されたのだ。
彼が知ったのは、何もかもが終わってから。
消えた故郷に帰ることもできず、一人きり。
失意にくれ、海に沈もうかと考えたとき、声が囁いた。
『熱い』
『痛い』
『苦しい』
『おかあさん』
『助けて』
何人も、何百人もの声が、聞こえてきた。
忘れないでくれと、助けてくれと、彼の足にすがりつき泣き喚く。幽霊を信じていない彼でもわかった。死んでしまった彼らの最後の声なんだと。
だから、それを背負った。
最後の一人が死んでしまえば、みんなの生きた歴史は消えてしまう。
あの空白の歴史のように、忘れ去られて、なくなってしまう。
それが許せなかったから、復讐をしようと心に決めた。
復讐の血で書き上げた悲劇と苦痛の歴史は、そう簡単には忘れられないはずだと思いこんで。
やめてくれ、止まってくれとの声に聞こえないふりをして、力を使う。忘れた記憶を掘り起こし、力で持って組み上げる。かつて正義の味方、憧れのヒーローの力の一端を暴走と暴力のみ抽出し、鎧として身に纏う。
攫われ、力を無理やり与えられたサイボーグたちの。
インターネット世界にて、人格と意志を与えられたプログラムたちの。
未来からやってきた猫型?狸型?の不思議な不思議な秘密道具の。
ありとあらゆる機械の思い出を、力で無理矢理に補って、つぎはぎ機械の怪物は産声を上げた。
それから、少しの年月が過ぎた。
偉大なる航路から少し離れた海軍本部マリンフォード、大監獄インペルダウン、エニエス・ロビーをつなぐ渦巻く海流にある日を境にとある噂が流れるようになった。
真夜中に船を出すと船底を何者かに貫かれて沈められる、と。その予兆として青と赤の人魂が対になって船へとふらふら近寄ってくる、と。
そんな怪談話じみたものを見張り番の海兵達が馬鹿げたことだと笑い捨てさて仕事に戻ろうとすると、闇夜からやけに陽気なメロディが流れ込む。
ハザードオン!
ラビット!タンク!
スーパーベストマッチ!
Are you ready!?
暗闇から覗く赤と青の瞳のようなもの。
闇夜を固めて人を作ったような怪物。それは海の上を踏みしめて走り出した。狙う先は海軍の戦艦の船底。一人の海兵が銃を乱射するが、強固な装甲の前には役に立たない。
砲撃も始まるが、死角に潜り込まれては当たるわけがない。
船底につくなりけたたましい金属音と、爆発音、そしてあまりにも大きな振動が船内を揺らす。
ぐしゃり。
一人の海兵が踏み潰された。
いつの間にか甲板に飛び上がっていた怪物の下敷きになったのだろう。
海兵の中央に立ち、まるで首をほぐすかのように両手で自分の頭を掴み、ぐるりぐるりと全方向を見回す。
人ならば骨が折れて死ぬ角度。
それを平然と数度繰り返した。
そうして、ピタリと止まる。
一点を凝視し、歩き出す。
恐怖に染まった海兵たちが引き金を引く。
心地良いほどの金属が砕け散る音を奏でながら、一人の海兵の首をつかんだ。
覇気使いの一般兵という貴重な存在。
鍛えれば将官クラスは当たり前ともいえるそれを、片手で高く持ち上げる。
そしてあっさり首を握り潰して、海に投げ捨てた。
怒号と悲鳴があたりを埋め尽くす。
怪人は笑いもせず、喋りもせず、再びあたりを見回す。
降りそそぐ弾丸に興味もなく、意味もなく。
事態の深刻さを理解したのか、部屋にて本部と連絡を取り終えた海軍中将が剣を片手に怪人めがけて急襲する。
悪魔の実 動物系 トリトリの実 ヒクイドリ。
その持ち味は飛べぬ代わりに得た強靭な脚力と鋭い爪と嘴。
中将の中でもその実力は大将に近いと噂される「火食らいのカオーゴ」。その最大速度から繰り出される蹴り技は山をも穿つと評判であった。
「六式乱舞・嵐脚 悲爪ゥゥ!」
剣を振るうように見せ、本命は左足の爪にまとった武装色の嵐脚。それは怪人の体を大きく切りつけ、欄干へ叩き付けた。
が、起き上がった怪人の傷口からはスパーク放電が漏れ出すものの、じわりじわりと癒着し、数分もすれば完治するだろう。
得意のインファイトで方を付けようと距離を詰めようと飛びかかるも、怪人は軽く飛び退き、ベルト部分からボトルを引き抜く。
弾丸と剣戟、その2つを避けながら腰のポーチをあさり、目当てのものを探り出す。
何度目かの飛び蹴りをしゃがんで避ける際にボトルを装填し、横のハンドルをくるくると回す。
嘲るように、喝采するかのように、電子の声が鳴り響く。
『ホーク!』
『ガトリング!』
『スーパーベストマッチ!』
双眼の色が変色し、橙色の翼が黒色の装甲から飛び出る。最適思考ですべてを滅ぼし尽くすブラックハザードの回路は、まずその場に現れた中将から殺すべきだと判断したのだろう。一番強いものから殺して、弱いものの心を削ぐこともまた戦略の一つだ。
そもそもインファイト専門相手に近距離なんかやってられない。
羽ばたきもしないのに、ふわりと宙に浮かび上がる。
「なっ……!」
弾丸を食らいながらも、中将はどうにかその場から離れようとするが、逃げ場などない。高速で周囲を飛び回る弾丸の雨相手から逃れる手段などない。月歩や剃で逃げ出そうにも怪人の高機動の前では殺意の球に押し込められるだけである。防ごうとするも、そもそも弾丸に実体がないために防ぎようもない。黄猿のレーザーにも似ているが、これはまた別の光弾だろう。
マックスハザードオン!
オーバーフロー!……ヤベーイ!
ベルトに付けられたスイッチを押し込むと、黒い瘴気のごとく強化剤が装甲から溢れ出す。
ベルト側面のレバーをくるりくるりと回しつつ、めがけて襲いかかる様は猛禽が獲物を襲う姿と瓜二つだ。
ヒクイドリが猛禽に狩られるとは何たるざまか。
『レディーゴー!』
『ハザードフィニッシュ!』
カオーゴの首を掴み上げ、上空へと投げ上げる。さきほど漏れ出した強化剤が意志を得たかのように空中でまとわりつき、固定する。落ちることも身動きも取れない哀れな中将の額と心臓、各部大動脈を的確に光弾が打ち抜き、骸を一つ生み出した。
「何が起こっていやがる……」
誰かが呟いた言葉は誰に向けたものなのか。
だが、それが誰の言葉であろうと関係ない。この事態を引き起こした者にとっては、今目の前にいる全ての人間を殺すべき対象なのだから。
「所属と目的を名乗れぇっ!」
今聞くことか?とも思うが、ようやく正気に戻った海兵が必死に捻り出した叫び声にそれは答えた。
『目的は殺戮。』
『躯を晒せ、仇討だ。』
数分もしないうちに、死体だらけの軍艦は真っ二つにへし折られて海に沈んだ。こんなことが何十件と続けばそれはもう当然マリンフォードは混乱に包まれる。突如として現れ暴れ回る謎の生物により海軍本部基地は壊滅状態に陥り、さらには世界政府加盟国にも被害が出始めているという情報が入った。
事態の収拾のために、大将サカズキを筆頭に七武海のジンベエ、そして海軍最高戦力と呼ばれる元帥センゴクまでもがマリンフォードより出撃した。
だがしかし、その日被害にあったのは全く別の所の海軍基地であった。偉大なる航路どころかそれ以前、最弱の海と呼ばれる東の海の果ての果て。
そこにある小さな名もなき島の海軍基地だった。
軍艦を襲った存在と同じ怪物と思しきものが、そこでも破壊の限りを尽くしていた。
基地の壁はことごとく殴り壊され、海兵は異常な重さの何かに跳ね飛ばされたかのようなネギトロめいた轢死体へと。指揮官と思しき男は首を掴まれ、壁に叩きつけられて死亡した。
海兵達は武器を手に取るが、怪物はこちらを一
『ニンジャ!』
『コミック!』
『スーパーベストマァーッチ!』
ーちらりとも見ずに目の色を変える。
『四コマ忍法刀!』
『分身の術ゥ!』
『イヤーッ!』
「グワーッ!」
ドロン、と白煙が姿を覆い隠した。
ほんの数秒で煙が消えたが、そこから現れた怪物は四体であった。
一人でも大惨事を招いた怪物が四人。
数が増えればそれだけ被害は増える。
『機構変動《ギミックチェンジ》』
右手に握られた忍者刀を地面に突き立てる。
超人系の悪魔の実が覚醒すれば、どうなるかはわかっているだろう。
海軍基地一帯がひどく大きな機械の一部分に置き換わったのだ。
ぞふっ、と音を立てて抜かれた刀はその姿を留めていなかった。
持ち主の身の丈を三倍したほどの長さ。
剣とは思えぬ程の配管、配線。
いびつな機械の塊でしかないそれは、遠目から見てようやく剣だと認識できるだろう。
大きく振りかぶって静止した瞬間に、青い光が部品の隙間から漏れ出す。
漏れ出したそのエネルギーは螺旋を描き、武器に纏わりつく。
そのまま一気に振り下ろした。
【
蒼と機械の斬撃が通り過ぎたあと、そこに残ったのは肉片だけであった。
こうして、海軍基地がまた一つ消えていった。
世界各地に被害をもたらすことや、オハラという言葉に過敏に反応した海軍は、その怪物に高い懸賞金をかけることとなった。
懸賞金額 25億6000万ベリー。
2色の揺れる光から双魂と呼ばれることになった。
危険性がこの程度で収まるわけもなく、被害はじわりじわりと増えてゆく。海軍を、天竜人を、権力者を片っ端から襲う悪夢の始まりだ。
歴史に背を向けて、怒り狂う悪機羅刹。
歩いた道は、死肉の塊。
奇しく進めよ機構の王よ
狂わず壊れず底はなく
悪しく笑えよ機械の王よ
汝の果てに終わりなし
さぁ進め歯車の王よ
さぁ進め死出の道へ
さぁ進め暗闇の底へ
「どのみち他に、行くところはない。」