復讐機と呼ばれた化物   作:ばリオンズ

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復讐機、遭難

実を言うと、別に目的があって東の海なんかに来たわけじゃない。というより、完全に事故でしかない。

 

うっかり凪の帯に突っ込み、海王類の巣のど真ん中で適当なものを何とかなれとばかりにぶん投げたらどこか知らない場所に来ていただけなんだ。能力が暴走したのが悪いんだ。

 

決して方向音痴とかじゃないんだ…。

 

とかなんとか本人は抜かしているが、この男は典型的な方向音痴である。徒歩二分のところでも始めてきた場所なら逆走したり迷ったりを繰り返して一時間かかることなんて当たり前と言わんばかりだ。よくもまぁ考古学者なんかできていたものだ、と祖父にはつねづね笑われていたものだ。

 

ゆえに海の上でなんかまともに進むことすら怪しい。マリンフォード近くで暴れていたのは何も考えずに直進していただけである。

 

航海士もいないのに直進し続けられたのは、彼の悪魔の実が万能であったからでしかない。

 

小舟で海軍基地から逃げ出した双魂は、波に揺られて流されるままである。

能力で観測機は出せるし、見たことはあるのでイメージで作ることはできる。

が、しかし。

使い方がいまいちわかってないので能力が有効に機能しない。レーダーを作ればいいのか、魚群探知機を作ればいいのか、ソナーを作ればいいのか。

そう、興味ない分野のことはざっくばらんにしか覚えて居ないのだ、この男は。

 

こんな有り様で軍艦を襲い続けられたのは、水面に立って正義の門の渦巻きの中心にいたからである。偵察用のドローンを数機飛ばし、見つけた瞬間に渦から飛び出て襲いかかる。

さながら蟻地獄の如きスタイルのハンティングである。

 

 

ジリジリと照らされつつ、小舟はゆらゆらと進み続ける。能力で推進力を補強してはいるが、目的地はどことも分からない。

そうして、数日が過ぎた。

干からびかけつつも島にたどり着いた彼を待ち受けていたのは、女性と銃口である。

 

彼女はベルメールと名乗った。

 

そっちも名乗れと言われても口がカラッカラなので水をもらうしかなくどうにかこうにかパントマイムじみた動きで水をもらおうとしたところ、普通にぶっ倒れた。

行き当たりばったりで動きすぎたせいで、この男食料すら持ち合わせていなかったのだ。

 

「寝起きに銃口ってのはどうかと思いますよ、お嬢さん。」

「まぁ、お口が達者なようで何よりね。」

 

人の家のベッドで開口一番、頭に銃口をゴリゴリ押し当てられている。美人目の前にしてこんな目に合うのはやだなぁ、なんてぼやく男と、からから笑って銃を下ろす女。

 

ドアの隙間を見れば2人の子供。

髪色は違えど、目の前の女性によく似た2つの顔。

気が強そうで、いい子に育ちそうだ。

故郷のあの子を思い浮かべつつ、軽く手を振って見せれるとぴゃっ、と引っ込んだ。

 

うちの子を怖がらせてるんじゃないよ、と軽いげんこつを受け、おおいてえ、と痛がってみせる。

そんな軽いやり取りをしているのを見て、子供たちも悪い人じゃないのだろうと思ったのか、ベッドの端によってくる。母親の服の裾を掴み、恐る恐る話しかけてくる子どもたちに、昔話やおとぎ話、自分の航海の話をしてみせる。 

オレンジ髪の子も、薄紫色の髪の子もキラキラした目で楽しそうに話を聞いてくれる。遭難した話は腹を抱えて笑われてしまった。

 

 

亡くした家族の形を、そこに見て。

いいなぁ、と腹の底で思った。

 

暫くの間、泊めてもらうことになった。

ナミとノジコの姉妹に連れられてあちらこちらを歩いて回る。

みかん畑を眺め、海図を描くのが夢だと言うナミの地図を見せてもらうが、方向音痴の彼はそもそも地図が読めない。

 呆れながらも笑いつつ、ナミに地図の読み方を教わる。何とのどかなことか。何と緩やかなことか。

 

…恥を知るべきだ。

これを享受すべきではないと。

敵討ちを、まだ終わらせていない。

人殺しの自分に、これは眩しすぎた。

 

だから、夜に旅立とうとした。

これ以上は、欲しくなってしまうから。

過ぎた物を。

あの人を、あの子達を。

 

ビルドドライバーを腰につけ、くるくるとハンドルを回す。

村のはずれとはいえ、変身音が消せないこれは隠密に向いてないな、と顔をしかめる。

 

がさり。

藪の中から誰かがやってきた。

欲しい人が、来てしまった。

 

「お礼も言わずに出ていく気?」

「本性が出る前に逃げたかったんだよ。」

 

「こんな化け物の顔が出る前に、ね。」

変身プロセスは完了していた。

 

空中から現れたプレス機に潰され、

漆黒を固めた怪物が姿を現す。

近頃世間を恐怖に陥れている、張本人。

双魂のビルド。

 

「大層なコスプレ趣味ね。」

『私の手配書出てなかったっけ…?』

 

反応が軽すぎた。

銃くらい突きつけてくると思ったのだが。

ノジコから昔話を聞いていたため、元海軍なのは知っている。

だから、目の前の犯罪者にいい顔なんてしないと思っていた。

 

「ナミやノジコがただの殺人鬼に懐くわけないでしょ?それに、数日一緒に過ごせば人柄なんてわかるものよ。」

 

「壊れたミシンを直したり、電伝虫の通信機能を調整したり、動いてないと気がすまないって顔して村中の便利屋してたのも知ってるのよ。ゲンさんなんかこのまま村にいてくれるように説得してくれ、って私に頼んできたのよ?」

 

「だから、あんたが良ければ一緒に住もうかな、って。」

暗がりでわからないけど、照れ臭そうな声だった。

甘い毒だ、これは。

平和という、甘い甘い毒だ。

私は、死ぬまでその毒には触れない。

 

『俺は殺人鬼だ。』

『だから、今回の礼は貸一つだ。』

『もう、いい人に戻るには手遅れなんだよ。』

海に向かって歩き出した背に、涙混じりの声がかかる。

 

「…じゃあ、私に何かあったとき。2人をよろしくね。」

『縁起でもないこといわないでほしいな。頼む相手も変だと思うんだけどなぁ…。』

 

さよなら、ベルメール。

 

背中から生えた飛行機構にエネルギーを回し、飛び立つ。

欲しかったものはたくさんあったけど、でももう、地獄の道を歩き始めている。

 

 

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