死せる英雄∞生ける冥王   作:千里亭希遊

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死せる英雄

「そのうちふらっと帰るさ。いつものことだろ」

 

 へらっと笑ってみせたのに、まったく納得いってなさそうな顔で睨まれた。

 そりゃあそうだ。俺自身あまりその自信がない。そんなことくらいお前にはお見通しなんだろう。

 俺はくるりと背を向けた。これ以上面と向かってると絶対発てなくなってしまう。

 

「……お前らの身を切るような決断に賛成できないのは、単なる俺の我がままだ。代案立てれないのにただ反対してるだけなんだしな。でもそれでもどうしても頷けない。だから……せめて行かせてくれ。自己満足でも、手の届く範囲だけでも救える人を救わせてくれ。それが甘っちょろい駄々こねてる俺の責任だ」

 

 これ以上話し込んでたら本当に進めなくなる。なんでもないことアピールでひらひらと軽薄に手を振ると、俺は転移で──お前から逃げた。

 そして焼け石に水でしかなくても出会う人々を必死に助け続けた。

 様々な元素の暴走に逃げ惑う人々を、地の崩壊に巻き込まれる人々を、獣に襲われる人々を──。

 そして。

 当然すべてを救うことなんてできず、己すら。己、すら……。

 

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 いつかも思い出せない幼い頃から妙な夢を見ていた。

 流星の降りやまないどこまでも不穏な空の下、誰かを助けたくて走り続けて。

 それでも。

 最終的にはいつも死ぬ。

 

(助けられなくてごめん……)

 

 この不吉でしかない夢を何度も繰り返し見る。

 

(……やっぱ、帰れなかった、な……ごめん……)

 

 いったい誰に謝ってるんだ。

 異常でしかない状況よりもなによりも、俺の心に刺さる一番の針はそれだった。

 

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 その夢がなんなのか思い出すのはいつもいつも最期だ。

 なんせお前がいつも殺しに来る。

 

 ……何なんだよ。何でこんなことするんだ?

 

 服装は時代によってまちまちではあれ、お前はいつ現れても昔と変わらない顔をしていた。そのせいで毎度今際の際なんて遅すぎる時に過去を思い出して最低な後悔に襲われるんだ。

 

 お前いったい何抱えてんだよ。

 話くらいさせろよ。

 

 しかしということは、転生ってのはほんとにあり得ることだったんだな。しかもそれが自然の摂理だってくらいに繰り返されてるらしい。

 

 ならいつかきちんと話せる時は来るんだろうか。

 

 もう何度目かも分からないその日が来る。

 決まって周りに誰も居ない時を狙ってお前はいきなり目の前に現れる。

 いくら身体を鍛えてようと抵抗らしい抵抗をできたためしがない。気配読めるくらいになってても何の意味もなく、お前が現れるのを察知できたことがない。

 まだ鼻垂れのクソガキだろうと育ち切ってない青年だろうと容赦がない。……そういえば爺にまではどうしてもなれなかった。その前に殺される。

 

 お前問答無用で首を掴むんだよな。

 そうされると呻き声すら出ない。当然何の言葉も交わせない。

 変わらない白い髪と無表情を晒してただ淡々と即座に俺の首を折る。だから抵抗の暇が少しも与えてもらえない。

 

 その姿のせいで毎回俺が過去を思い出してるのにお前は気づいてるんだろうか。

 

 ぼぐっ、と、鈍い音が骨を伝う。衝撃のせいで身体が跳ねて、そのままの状態で硬直したあとに、だらりと無様に力を失くす。

 首折れると即死らしいんだけど少しだけ意識は残ってるんだ。だから前世とお前についてぼんやり思い返しながら無明の闇に落ちていく。

 

 ……こんなことをしてくるのはお前なのに何て顔をしてんだよ。

 

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 もう何度繰り返したのか、どれだけ時が過ぎたのか分からない。

 しかし今回は事情が違った。

 

 薄っすらあの時代に血縁でもあってそれに先祖返りでもしたのか、俺の姿は昔とほとんど変わらないものに成長していた。俺自身はあの頃子孫を残さなかったものの兄弟姉妹がいた。だからその血が薄っすら続いてたというのはあり得るのかもしれない。

 その姿のせいか、十代半ばを越えてある程度子供っぽさが抜けてきたあたりですっかり何もかも思い出してしまった。相変わらず繰り返し見てた夢のせいもあるんだろう。

 

 だから、俺は待った。

 きっとまたあいつは俺を殺しに来るんだろう。

 今度こそ何が何なのか絶対聞くからな……。

 

 独りになる時間は他の何時にもまして精神を研ぎ澄まして身構えた。寝てようが何か不穏な気配があれば飛び起きれるくらいに感覚を鍛えた。俺にはあいつみたいなエーテルを見通せる目なんてないから、こうして受け身になるしかない。……十中八九あの目のせいでいつもいつも魂見つけられて殺されてたんだろう。隣に立ってた頃はこれ以上なく頼もしかったのに、今はそれが自分の命を奪う脅威になってるなんて意味が分からなすぎて笑えねえ。

 

 あの時代とはかなり様子が違うとはいえ、こうして世界は続いてる。だからお前たちはこの世界を守り切ったんだろう。

 それでそのあといったい何を抱えることになったんだ。

 聞かせろよ。

 こんなふうに変わってしまった世界の中で変わらずに居るお前は、なんであんな苦しそうな顔をするんだ。

 教えろよ、独りで何を思い詰めてるんだよ。

 

 

 

 しかし。

 

 お前はいつまでたっても現れなかった。

 そのおかげで、あの時代を除けばだが今までにないくらいに俺は生きた。

 そして。

 

 

 俺は第七霊災というものに、遭遇した。

 

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 霊災周辺からはなにもかもが目まぐるしく過ぎて行った。きっと俺自身だけではなくすべてのひとが生きようと必死に足掻いていたからなんだろう。

 そしてそんな中で時折『アシエン』というものの影を見る。

 なんだそいつら。怪しすぎるだろ。

 俺は何かいつの間にか英雄なんて持ち上げられ始めて、流されるままそいつらとしばしば衝突するようになっていった。どいつもこいつも人類は滅ぼしてやりますお前らの敵ですって雰囲気ばりばりで襲い掛かって来る。黒いローブに仮面つけてそんなことするなよ。過去の思い出が土足で踏みにじられるような気分に襲われる。……多分関係ないんだから被害妄想でしかないんだけど。

 このうえ親玉らしき奴は赤い仮面をつけてるらしい。

 赤い仮面に黒いローブ……嫌なものしか感じなかった。そんなのがこんなおどろおどろしい活動してるなんて、まるで十四人委員会が『闇堕〇』とかいうのをしたみたいじゃないか。世界を救ったあいつらに限ってそんなの考えられないからきっと思い過ごしだ。

 

 ああ、くそ、なんで来いと構えてる時に限ってお前は俺を殺しに来ないんだ。

 よく分からない偽物(被害妄想)の相手ばかりしてると気になりすぎて気が狂いそうだ。

 早く来いよ、そして話を聞かせろよ、それで、こいつらはお前らと関係ないって言ってくれ。

 

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 親玉みたいなやつは『アシエン・ラハブレア』って名乗ってるらしい。本当に『アシエン』ってなんなんだ。ancientかなんかか。……ますます嫌な予感がする。

 遭遇してみればあの爺さんのイメージとはどうも重ねきれなかった。やっぱきっと別人なんだだろう。

 あいつらくらいになれば、座の名が後世に伝わったりしててもおかしくないんだからさ。

 

 そして。

 ついに帝国のエオルゼア進出拠点のひとつでラハブレアと決着をつけるとなった時には、奴はサンクレッドの身体を乗っ取ってやがった。だから元の姿なんてわかりようもなかった。まあアシエンって奴はそうやって身体を乗り換える奴らしいから、外見から情報を得ようなんてのはそもそもが望み薄なんだろう。

 

 しかし奴は『ゾディアーク』の名を出した。

 まごうことなくあいつらが創ったはずの『星の意思』の名前だった。けれど奴の語り口からは『悪しき者』というイメージしか受け取れない。後世に都合よく捻じ曲げられて伝わってる……のか……?

 だいたい『絶対の神』ってさ……あいつら自分たちで創ったモノを『神』とか言うか? そもそもあの時代『神』とか名乗る偉そうなのは存在を想定されてなかった気がする。……今の俺からみれば世界を創造してた当時の人々自体が神に思えはするけど。

 ゾディアークは……現代で妙な宗教団体に信仰されてて、そんで座の名もその信者の間に伝わってて、それで名乗ってる、とかいうのは……有り得るのかもしれなかった。

 

 あと、アルテマから守ってくれたハイデリンについても。

 俺をずっと守ってくれてるらしいそれの名も、人々を贄にしてゾディアークの枷を召喚するって決めた奴らがそれをそう呼んでたものだ。

 俺には人を贄にするなんて肯定できることじゃない。それで委員会から離反さえした。そんなだからもちろん勧誘されても応じなかった。

 ……だというのに守ってもらってるのは何だか罪悪感がないでもない。

 そしてそれは今でもゾディアークと対立するモノとされてるらしい。

 

 ……世界に、何が起きたというんだ。

 

 そう色んな疑問と困惑を抱えながらも、どう見ても人類の脅威にしかみえなかった『アシエン』の親玉の討伐に成功した。

 

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 ……成功なんてしてなかったらしい。本当に『アシエン』なんなんだよ……。

 身体を滅ぼす、あるいはサンクレッドの時のようになんとか追い出す、などしても、奴らは闇のクリスタルに退避するだけらしい。厄介すぎだろ。

 

 そして『アシエン・ナプリアレス』を名乗る者が現れた。

 賢人たちがアシエンを完全消滅させる方法を模索していて、それを初めにぶつけることになった奴。

 こいつも全然かつてのナプリアレスとイメージが繋がらない。こんないかにもワルな雰囲気なんてなかった。

 

 ……嫌だ消えたくないと叫んだ彼の声は心に突き刺さった。

 消滅ってどういうものなんだろう、な……。

 

 そして同時にムーンブリダを喪った。

 

 ……別の冒険でも、死別じゃないが……もう二度と会えないだろう別れを、した。

 

 ノラクシアを始めとして色々話したことある連中が何人も何人もリウィアに殺されたあの日以来、もうこんな目に遭う人を見たくないとひたすら自己強化に努めてきたはずだった、のに……な……。

 いつだって肝心な時にはまだまだ力不足なばかりで、この手では何一つ繋ぎ止められやしない。

 

 それからも、所詮できる範囲でしかなくても、俺はがむしゃらに走った。

 

 そして更に目まぐるしく時は過ぎて行った。

 めちゃくちゃ酷い裏切りに遭いながらも盟友のおかげでなんとか心を保つことができた。

 

 だというのに。

 また喪った。

 

 ……多くの、別れを、経験した。未だどう折り合いをつけていいのか分からない。

 これからまた誰かを喪わないために、色々と鍛えるくらいしか……今はできない。

 ……情けない。

 

 そしてやっぱり同一人物だとは思えない『悪』にみえるラハブレアとイゲオルムの消滅を見送って。

 

 ハイデリンとゾディアークのことを聞いてますます嫌な予感に襲われながら、ミンフィリアと闇の戦士たちを見送って。

 

 ムソウサイを見送って。

 

 パパリモを見送って。

 

 ヨツユを見送って。

 

 テスリーンを見送って。

 

 そして──……そして。

 

 俺はようやくお前に再会した。

 

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「『アシエン・エメトセルク』と申し上げる」

 

 唖然として何も頭に入ってこなかったのが、その名乗りだけ妙に頭に響いた。

 その後もなにやら大仰に色々と言ってたがほとんど頭に入ってこねえ。

 というかお前その雰囲気何なんだ。もっとからっとした奴だっただろ。

 ……いや……顔が似てるだけのベツモノなんだろうか。

 俺だって何のつながりもないはずなのに外見だけならあの時代とほとんど一緒だ。他人の空似なんて案外ごろごろしてるもんなのかもしれない。

 

「……わかりあって手を取り合う道も、あるかもしれないぞ?」

 

 奴がそこまで言ったときに横から不穏な雰囲気を感じて慌てて割り込む。

 

「……痛っってッ……」

 

 いやガチガチの鎧着こんでるから痛みはないんだけどさ、背中にカードがぶち当たった衝撃でつい口走った。……ウリエンジェよ。カードでこんな衝撃食らわせるとかどういう理屈だ。筋肉か?

 みんながみんな固まったのを感じる。

 その隙をついて俺は『そいつ』に歩み寄って胸倉をできるだけそっと掴んだ。喧嘩売りたいわけじゃないからな。『こいつ』も目を丸くしてた。

 

「……なあ。お前本当にエメトセルクなのか。それとも偽物か? 顔は……なんか老けてるけどそっくりだし……。色々ガレアン人っぽいのはどうにでもなるんだろ、多分……。ってかなんだよその図体。俺お前より小さいのか今……成りはこんななのに……」

 

 暁の皆に聞こえない程度に、エメトセルクと名乗る者を睨みつけながらぼそぼそと言う。

 

「……は?」

 

 今度は奴が茫然とする番らしい。

 その反応に俺は眉根を寄せた。

 

「……やっぱ偽物か」

「……待て……待て。何を言ってる。お前……まさか……」

 

 ……やっぱり、お前、なのか……?

 確かめるために俺は言い募る。

 

「……ハーデス(・・・・)、お前、なんで今回は俺を殺しに来なかった」

「……ッ!?」

 

 奴は驚愕、というのが見事に当てはまる表情を浮かべた。

 こういう反応するんなら、本人なんだろう、な……。

 

「随分ころころ表情が変わるようになったな。……まあ、そのほうがなんか良いわ」

 

 苦笑しながらそう言うと、奴は憮然とした表情を浮かべた。

 

「記憶が、あるのか」

「……まあな。お前なら分かるだろう。この外見のせいでまるっきり思い出した。いったいどういう理屈でこうなってるんだか」

「……毎回、覚えてたのか」

「いや。言ったろ、今思い出してるのは多分この外見のせいだ。あとあの時代に死んだときの夢ずっと見るのもあると思う。……今までに関してはさ、お前があの頃の姿のまま殺しに来るからそれで思い出すんだよ。死に際に思い出すとか遅すぎるんだろって毎度毎度最悪な気分になるんだぞバカヤロウ。いったい何してくれてんだお前。……何があったんだよ」

 

 数秒黙してから、エメトセルクは盛大にため息を吐いて、苦々しい様子で言った。

 

「……今は話し込んでる空気じゃない」

「……それもそうだな」

「そのうち声をかける」

「……わかった」

 

 俺が目で頷くと、エメトセルクは芝居がかった仕草をとった。

 

「『次回は』注意するとしよう。ではな、諸君……またすぐに会おう」

 

 そしてアシエンが消える時に何度も見たことのあるあの消えかたで奴は去った。

 

「……あなたは、あれが写し身だと気づいておいでで?」

 

 ウリエンジェが困惑の色濃い声で問う。

 だからカードぶん投げたんだよな。

 ……分かってるよ。それを問い詰めてたようには見えてないだろ。でもエメトセルクの言に今は乗ってやるんだな。混乱は収めたほうがいいに決まってる。

 だから俺もそれに応える。

 

「……ああ」

 

 未だ全員困惑の色が解けないながらも、今は解散して一旦休むことになった。

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