復活したと思ったら捕まって振り回されてるんだけど!? 作:雪山崇一
一方その頃……、
「へ……、へっくしょんっ!」
復活した魔神は本格的に風邪を引きかけていた。
あっさり捕まり牢屋にぶちこまれてからはや一時間。せめてもの情けか、体を覆えるくらいの布はかけられていたが、この冷たさの中では意味を成さない。
暗い空間。鉄格子。石の部屋。
「……
何せ
一時間前に生まれたばかりの“
「うぅ……魔術を使えない。魔力は使えるがそれも少しだし……そもそも何なんだこの体は」
そう。……そもそも自分は何でこんな体になっているんだ?
封印される前に何か手を打っていた、というのなら話は別だが……封印される瞬間にそんな事をできる隙はなかった。
(それにこの知識……)
頭の中を巡る現代の知識。
無論、復活した際に現代の知識が入るよう手を打っていた訳でもない。
……ならば、これらの
「――今日から君は私の娘だァー!!」
「ぎぃぃやあああああああーーッ!?」
突如として
もはや恐怖のソレに飛び上がった薄い紫髪の少女は牢屋の奥まで後退し、布で体を隠しながら涙を浮かべる。
「な、なに? なに!? いきなりなにーっ!?」
「ぷっ――あっははははは! いやー、ごめんごめん。緊張をほぐそうとしたんだけどびっくりさせちゃったね」
言って手にした鍵で牢屋の入口を開けると、ピクニックに持っていくようなバスケットを片手に中に入ってくる。
そして涙目の少女の近くに膝を折ると、バスケットに手を入れ、
「ぁ……ふぇ?」
何かを包んだ四角いアルミホイルを差し出す。
「色々と話はあるんだけど、まずはお食べ。お腹空いてるでしょ?」
「べ、別に空いて……」
ぎゅるるるる……! と。
アルミホイルの中からする美味しそうな匂いを吸った瞬間、お腹がそれを求めて鳴き声を上げた。
「あ――、」
「ふふっ。――ほらっ」
頬を赤らめる少女が可愛くて微笑み、食べるように促す。
少女は少しの間
「あ……ありが、とう」
お礼を言ってからそれを受け取った。
アルミホイルの外からでもわかるように中身は温かく、指先から解凍されるような感覚の中……開いていくと、中には――、
「あ――――」
目玉焼きが乗ったトーストが入っていた。
それもホカホカで、ふるふると揺れる黄身と、かけられた
「いただきます……!」
ぱくっ、と食欲のままにかぶりつく。
「っ――、う――うぅぅ……っ!」
自然と涙が出てくる。
味わい、飲み込み、空の胃袋へと落とす。
「どう? 美味しい?」
「す……すっごく、美味しい……!」
「そう、よかった」
頭を撫でてくる。
少女はその心地よさを堪能し、七美は少女の心地よさから緩んだ表情を微笑みながら見つめる。
やがて食べ終わると、七美は水筒に入った暖かいスープをコップに分けながら、
「それを飲みながらで良いから、私の話を聞いてくれる?」
「んー?」
コップの
完全に無防備を晒している少女の隣に七美は座り、簡潔に、的確に聞きたい事を問いかける。
「いくつか質問があるんだけど、まず、君は何者なのかな? 私は魔神だと思ってるんだけど……あと、できれば名前とか教えてくれる?」
七美の問いに、思っていたよりもスープが熱く、舌を
「あちッ、あちちッ……! ――っ、あぁ、わた、しは、魔神だぞ……お前の言う通り。……名前はない……ふー、ふー」
「魔神ってさ……聞いてる限りじゃ、当時存在していた魔術師を殲滅したってくらいヤバい奴って話なんだけど……女の子、だったの?」
顔を覗き込むように聞いてくる七美。
対する少女は舌の次は喉を火傷したようで小さく暴れていた。
……数秒後、七美が容器違うのにすればよかったかな? と心配していると、どんどんどん! と胸を叩いて、通っていく熱さをどうにかしようとしていた少女が咳き込みながら、
「こほっ、こほッ! ……そ、そんなの私が聞きたいよ。やっと復活したと思ったら
……逆に聞くが、お前らが何がやったわけではないのか?」
「残念だけど、私たちが何かしたわけではないよ。……魔神が復活したと思ったら女の子が出てくるから驚いたくらいさ」
ふー、ふー……とスープをもっと冷ます少女の隣で七美は
「じゃあ次の質問」
やっとマトモに飲めたのか、少女は『はぁ~~~』とへにゃへにゃ~な顔でスープを
「君は、これからどうする気?」
場の空気が変わる。
これこそが本題だと言わんばかりに七美は目を鋭くする。
少女は両手でコップを持ちながらも、横目で鋭い眼差しに対抗する。
「五〇〇年前、魔術師を殲滅していた君は……復活した今も、魔術師を殺して回るのか――答えてくれる?」
「――――ハッ、」
何を聞くかと思えば、とでも言いたげな様子で少女はその場から立ち上がり七美を見下ろす。
「
そもそもの話、私が生まれたのは――――」
少女は初めて七美を強く睨みつけ……、
「――――――、あれ?」
……一秒持たなかった。
「君が生まれたのは……?」
「わ、私が……生まれ、たのは……」
勢いよく立っておきながら言葉が出てこない。
七美の言葉を聞いた途端、駆り立てられるような衝動を覚えた。
――
頭を突き抜けるようにして出現した感情。
その保有者である少女は言葉を荒げようとしたが――何故か喉にまで出かかった言葉は出てこない。
いや、
そもそも、
(なん、だ……? 何で私はこんなに怒っている――?)
衝動はあった。怒りもあった。
だが――どうしてそれらを覚えたのかが、一向にわからない。
そこから先が、真っ黒く塗り潰されたように……少女の頭に浮かんでこなかった。
「……あのー」
「ッ……!?」
立ち上がったまま言葉を閉ざしてしまった事を不審に思った七美が声をかける。
だが少女も、自分に起きた予想外の現象に頭を悩ませていた。
「とりあえず、座ったら?」
「ま、まて、少し待ってくれ! こういう流れからストンと座るのはなんか超ダセェー気がするッ!!」
「いや……でも、」
七美が少女の纏っている布を指差す。
いや、正確には布と布の隙間を……はだけている布の隙間を、
「“中身”見えてるから……座った方がいいと思うんだけど……」
言いながら七美は頬を赤くする。
言われた少女は小さく首を傾げながら七美が指を差しているところを見る。
胸から腹、腹から腰、腰から――
「~~~~~ッッッ!?」
顔を真っ赤にしバサッ! と布を羽織り直すと七美に殴りかかる。
「ちょっ!? いたッ、イダい! 痛いってーっ!?」
「バカ! ボケ! このッ、見るな変態!!」
「ご、ごめん、ごめん! ――っでも見ようと思って見たんじゃないって! 君が立ち上がるからじゃん!」
数発殴って落ち着いたのか、肩を大きく上下させながら
殴られたところを擦りながら七美は体勢を戻していく。
「……ごめん」
「……いや、その、私の方こそごめん、見ちゃって」
少女は息を整えた後に、静かに口を開く。
「さっきの話だけど……正直に言って、覚えてない」
「覚えてない?」
うん、と少女は頷いて、
「私が魔神って事とか、魔術師を殲滅したとか、そういう事は覚えているけど……それをやった理由。
……何故そんな事をしたのか、何故やろうと思ったのか――そういうところは覚えてない。
……何かに、記憶を塗り潰されてるみたいに」
「…………」
「だから、その――」
また考えているのか、それとも怪しんでいるのか。
再び顎に手を置く七美に向かい顔を上げる。
「魔術師に対する殺意とかはないよ。……
「……
込み上がった感情は怒りであり、殺意ではない。
だが、その感情を覚えた理由がわからない以上、自分でもどうなるかわからない……だからこそ、“今のところ”。
「……………………そっか」
長く短い沈黙の
「覚えてないんじゃ仕方ないね。
ごめんね、一応聞いておかなくちゃいけなくて、別に責めるつもりはなかったんだ」
「……へ?」
つい、そんな呆けた声が漏れる。
いや、別に嘘をついているわけではないため、信じてもらえたのならばそれに越したことはないのだが、こんなにも簡単に受け入れてもらえるとは思わなかったため、少し拍子抜けしてしまった。
「それに、今の君じゃその気があっても誰も殺せないだろうしね」
「……お前、一言多いって言われないか?」
……確かにその通りなのだが、改めて指摘されると少しムッとしてしまう。
「さてと――」
そんな少女を
そしてさっきとは打って変わって柔らかな雰囲気を纏いながら、
「質問は以上。――それじゃあここから出るからついてきて。
あ、そうだ。服とかもそうだけど名前とかも決めなくちゃ――」
「は? ――は!?
ま、待て待て待て――!?」
七美のように立ち上がりながら少女は詰めよってくる。
「ここから出る? どういう事だ!?」
「どういう事って、言葉のままだよ?
私の娘になるんだから、ここから出て当然でしょ? 最初に言ったはずだけどな……?」
そう言われ、少女は思い出す。
確か……七美が最初に自分に話しかけてきた時――
◆
『――今日から君は私の娘だァー!!』
◆
そんな事を言っていた気がする。
しかし、それはそれとして、
「娘!? 私今からお前の娘になるのかッ!?」
「そーいうこと。じゃあ少女ちゃん――」
ガシッ、と少女の両肩を掴みながらノシノシッと七美は興奮したように迫ってくる。
「私の事は『お前』なんて呼ばずに、これからは『お母さん』と呼んで!」
「誰が呼ぶかっ! いいから離れろー!」
渾身の力で引き離そうとするが、多少揺れ動くだけで離れる様子が
どうしたものかと打開策を考えていると――
「――貴様まだここにいたのかッ!!」
「――ひゃああああああー!?」
牢屋の外からの
対する七美は突然の来訪者に『まぁまぁ』といった感じで笑いながら対処する。
「そんなに怒らないでよお爺ちゃん。頭の血管切れるよ?」
「貴様がいつまでもこんなところにいるからだ! 連れていくならさっさと連れていけ! いま私はただでさえ胃が痛いんだッ!」
「トップのせいで? いやーホントまいっちゃうよねー、あの職務放棄ロリは――」
「トップだけではない、貴様もだ貴様もッ!!」
ぜぇ、ぜぇ、と。肩で息をしながらライロードは怒号を飛ばす。
七美は後ろに隠れた少女の頭をよしよししながら、
「お爺ちゃん。あんまりウチの娘を怖がらせないでくれる?」
「はぁ、はぁ……娘?」
七美の後ろに隠れた少女へと視線が動く。
そこにはびくびくと震え、七美にしがみついている少女の姿があった。
「ひっ!? ……う、うぅ……ぅぅぅ……!」
震えている少女が涙目で口を開く。
「
生後一時間の少女に、ライロードの鬼の形相はインパクトがありすぎたのか……。
よわよわメンタルから溢れ出た“お母さん”は、七美を歓喜に飛び上がらせた。
◆
――キーンコーンカーンコーン。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り、生徒たちが席についていく。
「はーい、みんな席についたねー。
今日はホームルームを始める前に、みんなに新しい友達を紹介します!」
女性の担任の先生が『入ってきてー!』と促すと教室のドアが開き生徒が入ってくる。
否応なしに視線が集まる中、先生が黒板にその子の名前を書き終わると、
「自己紹介してくれる?」
「は、はいッ」
緊張を解きほぐすように心を落ち着かせると、少女は自己紹介をし始める。
「つ、
最近まで入院生活を送っていたので、色々と不慣れなところがありますが――みんなと一日でも早く仲良くなりたいです! よろしくお願いします!」
自己紹介が終わり、クラス
「かーわいー!」
「わからない事、なんでも教えて上げるよ!」
「せんせー! わたし玲奈ちゃんと隣の席がいいでーす!」
クラスの生徒たちが各々の声を上げていく。
そんな様子を見て『あはは……』と玲奈は笑い、
(……なんで呑気にJC生活スタートしてるんだ、私は)
はははー……と、乾いた笑いを
【用語】
『魔力』
全ての生命が持つ、体内エネルギー。
『魔術』
魔力を消費して行使される術。