復活したと思ったら捕まって振り回されてるんだけど!? 作:雪山崇一
(まさか学校に通う事になるとは……)
ホームルームが終わり、大きなため息を吐く。
記憶の欠落、魔術使用不能、保有している魔力も並みの魔術師以下。
これだけのデバフがかかった状態で、他に行くあてもないと来たものだ……大人しく七美の養子になり、言うことを聞いておこうと思い、何度もため息を吐きながら学校へとやってきた。
「初めまして、月河さん!」
「入院生活してたらしいけど、大丈夫なの?」
「部活なに入るか決めてる? オススメはね――」
ホームルームが終わると途端に質問責めにあった。
ここは中学校の二年生の教室。
その中でも玲奈は他と比べて背が小さい。だからか、周りのクラスメイトがまるで妹に接する姉か兄のような感じで可愛がってくる。
「あ……あー、いやー、その……もう体は大丈夫で、部活は特に決めてなくて……」
玲奈自身も学校生活などは初めてかつ、
(た、頼むっ! どうか放っておいてくれ! 私はただでさえ色んな事が起きすぎて困惑しているんだ……っ!)
心の中からの必死の訴えも言葉にできず、質問にどんどん押されていく玲奈。
――と、
「――玲奈、ちゃーーーんっ!!」
「――ぐぼぉ……ッ!?」
突然、玲奈を囲む生徒たちを突っ切って、その胸に飛び込んできた少女がいた。
意味不明な奇襲を受けた玲奈は胸に鈍いダメージを感じながら飛び込んできた者を視界に納める。
「聞いてた通り可愛いね! 玲奈ちゃん!」
赤いショートの髪の少女。
よく見ればその娘は、先ほど玲奈が自己紹介した際、玲奈と隣同士になりたいと先生に頼んでいた少女だ。
その身長は驚くことに玲奈よりも頭一つ分小さく、まん丸の瞳と元気一杯の明るい表情が、彼女の無邪気な雰囲気を前面に押し出していた。
「い、いきなりどうしたのルイナちゃん!? 月河さんと知り合いなの?」
「うん! 昔っから知ってるんだ!」
「へ……? ……はぁ!?」
意味不明な奇襲を行った少女は、理解困難な事を次々に並べてきた。
……知り、合い? 自分とこの娘が? ……いや、残っている記憶が確かならば、五〇〇年前の自分に知り合いなどいな――
「な、なに言ってるんだ? 私はお前なんて知ら――」
「――ちょっと玲奈ちゃん借りるね!」
「どわぁ!?」
ばびゅーん! と玲奈の手を引きながらルイナと呼ばれた少女は教室を飛び出し、誰もいない階段にまでやってきた。
「ぜぇ……! ぜぇ――うっ、おえっ!?」
短距離の全力疾走。
全力とはいえ少ししか走っていないのに玲奈の息は上がっていた。
……いま気づいたが。
……どうやらこの体、魔力や魔術のみならず、体力すら他者の平均を下回っているらしい……ッ!
もう笑うしかない。
「玲奈ちゃん大丈夫!?」
「――大丈夫なわけあるかァ!!」
ガバッと顔を上げながら返事を返す。
「そもそもなんなんだお前は! いきなり知り合いを名乗るわ駆け出すわ振り回すわ!」
「ご、ごめんね、勝手に知り合いを名乗っちゃって。……みんなから一気に質問されて困ってそうだったからこうしてみたんだけど……」
どうやら知り合いというのはあの場から玲奈を引き離すための嘘だったらしい。
……まぁそのおかげであの質問責めから脱出できたわけだが、
「……一応、ありがとうって言っとく。
でも、だとしてもあのタックルはなんだ、意識が飛びかけたぞ」
「あっはは……会えたのが嬉しくて、つい」
玲奈の呼吸が整いつつある中で、彼女は手を差し出す。
「改めまして。わたしはルイナ=ミーフェット。ルイナでいいよ! これからよろしくね、玲奈ちゃん!」
「……知ってると思うが、月河玲奈だ。よろしく」
ツンツンとした様子でルイナの手を取る。
するとルイナは『ひひひっ』と少年のように笑った。
「な、なんだよ……」
「さっきから思ってたんだけど、やっぱり自己紹介の時、猫かぶってたんだなーって」
「あ……」
思いっきり口調が
最初の印象は良くしよう、という七美の意見から学校に順応するまでは性格を柔らかくしようと猫をかぶる事にしたのだが……目の前のコイツに一瞬で化けの皮を剥がされた。
「素の方が可愛いよ。無理せずいつもの自分でいった方が良いと思うな」
「そ、そうか?」
「うん。――それっ!」
「ほわぁ!?」
油断していたところに彼女は再び抱きついてくる。
「お、お前また――み、みんなの前だぞ!?」
先ほどの全力疾走を目撃した生徒や、玲奈の大声を聞いた生徒などで、階段の周囲には沢山の生徒が集まっている。
あたふたした感じで玲奈は羞恥心から抱きつくのをやめるように言うが、
「わたしは気にしないよ?」
「私が気にするんだよっ! お前は羞恥というものを知らないのか!?」
「知ってるよ――独り言を言ってるところを誰かに見られたり、アニメキャラの技の
「――やめろぉぉぉッ!! 想像しただけで体が震えてきたじゃねーかぁぁぁ!!」
……黒歴史など存在しないはずなのに、何故か話を聞いている自分までゾクリとし、恥ずかしさを覚えた。
◆
「はぁー……」
お風呂のバスチェアに腰掛けながら玲奈はため息をつく。
時刻はもう夜の八時。七美は遅くなるとのことで家にはいない。
「……私はまだ生後二日だぞ? ……なのになんでこんなに振り回されなきゃならない……」
あの後も結局はルイナのペースに乗せられた。
昼休みの時間にもルイナは自分の元へとやってきて、
『……なんでお前は私と一緒にお弁当を食べてる?』
『玲奈ちゃん一人で食べようとしてたから、寂しそうだなーって思って。あと、新しく入った人って注目されるからさ、友達と一緒にいた方が緊張も和らぐんじゃないかなって』
『っ……別に寂しくはないし、緊張もしていな、』
『自己紹介、すっごい緊張してたでしょ?』
『ぶっ! ……あ、あれはだな……そ、そう! 武者震いだ! 決して緊張していたわけでは――』
『あ、玲奈ちゃんの唐揚げ美味しそう! わたしのアスパラガスのベーコン巻きと一つ交換しよう?』
『人の話を聞けぇぇぇーッ!』
……そのマイペースぶりは、自分に合う部活を探すことになった放課後になっても変わらずで、
『ぜぇ――げ、へっ――があ!?』
『れ、玲奈ちゃん大丈夫!?』
『こ、この状態見て大丈夫に見えるのかお前はァ! なんでいきなり運動部なんだ!? お前、朝のアレで私に体力がないこと察してなかったか!? どうして初っぱなから陸上部なんだよ!!』
『う、げほッ!? ……ぐ――っ』
『玲奈ちゃん大丈夫っ!?』
『お前の頭が大丈夫か!! ……なぜだ? なぜ体力ないこと再認識した上で次の部活が野球部なんだ!? 周りの奴ら――『え、この娘走って大丈夫なの?』――って顔してたぞ!』
……色々と見学しながら体験させてもらったが、わかったことは自分に運動部は致命的に向いていないという事くらい。
(……ま、世の中には帰宅部というのもあるらしいし、最悪入らなくても大丈夫だろ。……今日のもルイナに連れられて無理やり見て回ったんだし)
シャワーを浴びた
「……にしても、」
体にスポンジを滑らせながらぼそりと呟く。
「あんなに喋れる相手ができるとは思わなかった」
正直な話、学校には七美が無理やり行かせたようなものなので、玲奈は嫌々向かっていた。
だけど、話せる人ができて、一緒に色んなところを回って……なんだコイツは……とは思ったけれど、不思議と嫌ではなくて――むしろ、途中から晴れやかな気分になって――。
「そういう気持ちをくれる
「……友達、か」
そういえば昼休みの時、ルイナも自分から友達と言っていた気がする。
……まさか自分にそんな存在ができるだなんて思ってもみなかったけ、
「――ひゃああああああーッ!?」
――“元”魔神、昨日から続けて何度目かの叫び。
バスチェアから転げ落ち、床に尻餅をついた玲奈は突如として背後から聞こえた声の正体を見る。
そこには、
「うへへ~、なになに~もう友達が出来たの~?」
自分と同じ一糸纏わぬ姿でいつの間にか風呂場にやってきていた七美の姿があった。
心を読んだかのような言葉に驚きながらも、玲奈はさらに気になる事を問いかける。
「お、お前! なんで家にいるんだよ! 今日遅くなるって言ってなかったか!?」
そうだ。
七美は今日遅くなるとあらかじめ玲奈に伝えていた。だからこそ玲奈は一人で晩御飯を食べ、こうしてお風呂に入っていたのだ。
自分しかいない筈なのに背後から声をかけられるという恐怖体験をした玲奈が心臓をバックンバックンさせていると、ニマニマと笑いながら七美が口を開いた。
「そうだったんだけど、玲奈が心配だったから仕事を全部押し付けて帰ってきた」
「今すぐ戻れ! とっとと帰れ! そして仕事押し付けた奴に謝れバカヤロー!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。その人と私、大の仲良しだから今頃怒りはせずに笑ってるって」
……余談だが、
仕事を押しつけられた魔術塔のお爺ちゃんは怒りのあまり、魔力を暴発させ魔術塔の一室を消し飛ばしたそうな。
「玲奈、ここに座って。お母さんが体洗ってあげるよ」
「い、いいよ別に! ってか私は中学二年だぞ? 親と一緒にお風呂なんていうのはとっくに卒業してる歳だ」
「君、生後二日の赤ちゃんでしょ?」
「経歴だけみればなッ! だけど二日でも中学生の少女なんだ私は! お母さんと一緒にお風呂というのは流石に抵抗がある!」
「えぇーっ!? いいじゃん、いいじゃん! 一回だけ、一回だけ……ね?」
抵抗の意思を示す玲奈に対し、瞳に星を浮かばせながら迫ってくる七美。
玲奈は後退りしながら、
「さてはお前、自分がやってみたいだけだな!?」
「な、なんでわかったっ!? さ、さては玲奈、テレパシーの能力者――」
「そんなキラン☆キラン☆な目を見れば小学生でも気づくわーッ!!」
◆
……結局洗わせなければ引きそうになかったので、自分の体を洗わせることにした。
「うんうん! いいねー、この親子って感じ!」
「……さっきのやり取りだけ見たらどっちが親でどっちが子だこれ」
玲奈が呆れた目をしてることなど知りもせず、七美はルンルン気分で娘の体を洗っていく。
「今日初めての学校だったけど、どうだった? さっきのを聞く限り、一人ぼっちでいたっていうのはなさそうだけど」
背中を手際よく洗いながら七美は問いかける。
「ま……まぁまぁだったな。授業はなにかと興味深かったし、担当の先生はユーモラスだし、全然退屈しないし……それに――」
「それに?」
『それじゃあね玲奈ちゃん! また明日ー!』
「友達……も、できたしな」
午前に出会ってから午後に別れるまで、ルイナは自分のことを振り回し続けたが、それはそれとして少し楽しかったのも事実。
(
自分でも気づかないうちに頬が緩む。
すると、シャワーの下に取り付けられた鏡にその表情が写っていたのだろう。後ろにいた七美の顔が一瞬きょとんとし……次第に表情が笑顔へと変わっていく。
「そっか――なら良かったー!
お母さんそれが一番心配だったんだー!」
「おわ!? お、おい――!」
だばぁ、と背中に抱きつかれたかと思うと、七美の手が前へと伸び、そのまま体の前を洗い始める。
「ひゃあっ!? ――や、やめろ! 前は自分で洗うか――ひゃんっ!?」
「玲奈、その友達ってどんな子なの? 名前とか教えてよー」
「体洗うか質問するかどっちかにしろッ! って、てかどこ洗ってんだ! ――っていうか何でどいつもこいつも私の話を聞かねぇーんだよぉぉぉ!!」
【月河玲奈】
五〇〇年の封印から解き放たれたかと思えば女の子になっていた“魔神”。
魔術と魔力は弱体化し、記憶も欠落しているが、そのおかげで周りと馴染めて(?)いる。
復活してからというもの、以前では開花しなかったツッコミの才能に目覚めている。
【ルイナ=ミーフェット】
ショートの赤い髪を持つ少女。
性格は無邪気なマイペース。それ故に、誰とでもすぐに距離を詰める。
玲奈とは話を聞いた時から友達になりたいと思っていた。
【月河七美】
仕事を押し付けて帰ってきたクソ野郎。
風呂場に入る際には普通に入ったのではなく、服や下着を『転移』で脱ぎ、そのまま自分を風呂場に『転移』させるという高度な技をやってみせた。
【ライロード(魔術塔のお爺ちゃん)】
仕事を押し付けられたためブチ切れて暴走。
レックやハイリィ、ちょっと様子を見に帰ってきた『トップ』によって取り押さえられた。