復活したと思ったら捕まって振り回されてるんだけど!?   作:雪山崇一

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第六節 ワクワク☆遊園地ターイム! ~~君は、妹に振り回される姉を目撃する~~

「……こんなところで何をやっている」

 

 メモにペンを走らせていた時だった。

 魔術塔の封印の部屋に男の声が響く。

 

「何って、今まで手に入れた情報の整理をしてるだけだよ」

 

 七美(ななみ)はライロードの言葉にそう返す。

 しかしライロードは不愉快だと言わんばかりに眉間(みけん)(しわ)を寄せ、

 

「……月河(つきかわ)玲奈(れいな)の事は聞いた。

 今から五日前、廃村で魔術の生物と思わしきモノに襲われ重傷を負ったそうだな」

 

「うん……あの(・・)廃村でね。

 偶然近くを歩いていてよかった。発見が遅れていたら、死んでいたかもしれないから……」

 

 あの時――祈梨(いのり)の声を聞き、現場に真っ先に駆けつけたのは何を隠そう、この七美だった。

 調査している最中に偶然その声を聞き、駆けつけ魔術による治療を施したことで玲奈は一命を取り留めた。

 

「……チッ」

 

 ライロードは起きた事を口にする七美に苛立ちを隠せないように舌打ちし、

 

「――ならばこんな事をしている場合ではないだろう!

 貴様は玲奈(あのこ)の母親になったんだぞ? 重傷を負った(むすめ)よりも仕事(しごと)を優先するバカがどこにいるッ!!」

 

 金槌(かなづち)で打ち付けるような衝撃が体に奔る。

 魔力も魔術もなく、言葉のみが発せられただけなのだが、それでも胸の奥に響くような重み(いかり)がその言葉には含まれていた。

 

「――やっぱり良い人だね(・・・・・・・・・)ライロードさん(・・・・・・・)

 

 ペンを止め、そっと七美は微笑みながら、

 

「その事に関しては大丈夫だよ。

 付きっきりで治療して、昨日全部治ったから……後はこの週末様子を見て、大丈夫そうだったら学校に通わせようと思ってる」

 

「……体は治ったとしても、彼女はまだ親に甘える歳だ。(そば)にはいるべきだと私は思うが?」

 

「もちろん傍にいるよ、って玲奈に言ったよ。

 ……でも、こう返されたんだ」

 

          ◆

 

『お母さんは私の封印を解いた奴を追ってるんでしょ? なら、ソイツを追う方を優先して。

 これは憶測(おくそく)だけど……私や祈梨を襲った狼と、私の封印を解いた奴――無関係じゃない気がするんだ。

 私や、祈梨みたいな怯える子を出さないためにも……お願い』

 

          ◆

 

「……そんなこと言われちゃったら、お母さんとして全力で答えるしかないでしょ?」

 

「そう、か。

 ……すまなかった。よく知りもせずに怒ってしまって」

 

「ううん。貴方(あなた)は悪くないよ。

 むしろ、誰かを思って怒れる人は、人生において大切な人だよ」

 

 大仰(おおぎょう)な言い方になってしまったかもしれないが、別に何も間違ったコトは言っていないだろう。

 

「……というか貴様、さっきの月河玲奈の言葉を聞く限り、調査している事をぺらぺら喋ったな?」

 

「……うっ……ご、ごめんなさい。『お母さん最近何やってるんだ?』って言われて、つい……」

 

「……、はぁー……っ」

 

 頭を抑えながら大きなため息をつく。

 コイツに協力させたの失敗だったか? と思いながら片目を開け、

 

「ところで玲奈(そのこ)は今日どうしてるんだ? 寝ているのならそれでいいが、暇をもて余しているのならばレックかハイリィを向かわせよう」

 

 ……ってかレックとハイリィ(あいつら)朝から連絡が取れないな……何かあったのか? とライロードが二人を心配していると、七美がライロードの問いに返してくる。

 

「玲奈は寝てない。朝から玲奈を心配して祈梨(いのり)ちゃんっていう娘が来てくれてさ。

 怪我は完治したし、今日はある種のリハビリも含めて二人に行ってらっしゃいってチケットを渡して、送ったんだ」

 

「? 何処に?」

 

 その言葉を聞き、七美は『うへへ』と嬉しそうに微笑み、

 

「楽しんでるかなー、二人ともー」

 

          ◆

 

 ……ひゅー、と妙に冷たい風が首筋を撫でる。

 

「ひゃう!?」

 

 ビクン! と玲奈の体が小さく跳ねた。

 暗い空間、冷風機の風、聴覚から入ってくる恐怖を上げる呻き声。

 極めつけは……、

 

「オォ、オオオオoooオオオoooォオオーーッ!」

 

「きゃああああーッ!?」

 

 物陰からズウン……! と、時にはのっそりと出てくるお化けの数々。

 それにより腰が抜けて涙目になる玲奈。

 

 ここは遊園地のアトラクションの一つ、お化け屋敷。

 七美から遊園地のチケットを渡され、玲奈と祈梨でやって来たのだが、祈梨が興味本位で入ってみたお化け屋敷にて、祈梨ではなく玲奈の方がお化け屋敷の格好の餌食となってしまっていた。

 そしてその祈梨は、

 

「お姉ちゃーん! こっちだよこっち、出口ー!」

 

 全然驚いていない……むしろ楽しんでいる様子でグイグイ前へと進み、すでに玲奈よりも先にお化け屋敷の出口にて大きく手を振っていた。

 

「で、出口……ッ!」

 

 希望を見たように涙で濡らした顔を明るくし、腰の抜けた体をなんとか動かしながら出口へと駆け込むように進む。

 まぁ、その間にも、

 

 

      “ひゃああああ!?”

 

      “イヤァアアア!?”

 

      “ごめんなさぁぁぁい!!”

 

 

「wwwwwwwww」

 

 祈梨ちゃんが爆笑不可避な絶叫が連発した。

 絶叫具合だけを見ればどっちが年上かわからなくなるくらいの叫びっぷり。

 お腹を抑えながら爆笑し、指で涙を拭う。

 

(ふふっ……お姉ちゃん可愛い)

 

 お化け屋敷の出口から、あたふたする玲奈を見ながら祈梨は頬を紅潮(こうちょう)させ、アブナイ笑みを浮かべていた。

 

 思った事を具体的に並べるならば、

 ……心がゾクゾクする。涙を浮かべる(こういう)お姉ちゃんがもっと見たい。といったもの……。

 

「で、出口、……出口ー!」

 

 腰が抜けた状態で何度も転びながら走ってくる姿さえも愛おしい……だから、その……つい――

 

 

「ばいばーい☆」

 

 

 ガコン! と、ニヤニヤしながら出口を閉じた。

 

「――ブチのめすぞテメェェェェッ!!」

 

          ◆

 

「ご、ごめんってお姉ちゃん。わたしが悪かったから機嫌戻してよー!」

 

「二度とお化け屋敷になんて入るもんかっ(ぷいっ)!」

 

『S』に目覚めかけた祈梨が玲奈の腕に掴まりながらそう言ってくるが、対する玲奈は顔をぷいっ! と、そっぽ向けながら可愛らしい怒りを(あらわ)にする。

 

 しかし微笑ましい姉妹喧嘩は数分ともたなかった。

 クレープの屋台を見つけた玲奈が『……食べるか?』と、怒りをそっちのけにし、祈梨に問いかけたからだ。

 

 祈梨は目をキラキラさせながら二つ返事で返し、玲奈はクレープを二人分購入するとベンチに腰かける。

 

「ありがとうお姉ちゃん! いただきまーす!」

 

 元気よく言ってパクリと祈梨は食いつく。

 ほっぺにクリームをつけながら『んー!』と幸せそうな顔を露にする。

 

「いただきます。はむっ」

 

 続くように玲奈も大きく噛みつく。

 知識でクレープというものは知っており、実際に食べてみたいと思い買ってみたが、

 

「んんん~! 美味しい!」

 

 どうやら正解だったらしい。

 前にルイナと食べたソフトクリームにも負けないくらいの美味しさが口の中に広がる。

 

(色々あったけど、復活してよかったって思える事の一つがこの美味しい食べ物の数々だな~)

 

「お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

 呼ばれて顔を向けると、食べていたクレープを差し出している祈梨の姿があった。

 

「はい! 一口あげる!」

 

「い、いいのか?」

 

「うん! その代わり、お姉ちゃんのも一口ちょうだい」

 

 わかった、と返して祈梨のクレープを一口食べる。

 祈梨が頼んだのはフルーツが沢山入ったクレープだ。一口と共に口の中に飛び込んできた様々なフルーツの甘味と酸味がクリームとマッチしていてとても美味しい。

 

「――こ、こっちも美味しいな」

 

「でしょー! わたしフルーツ大好きだから、この組み合わせはさいきょーだと思う!」

 

 ルンルン気分で説明してくる祈梨に『元気だな』と笑顔になり、自分の食べていたチョコクレープを祈梨の口の前へと差し出す。

 

「ん~! チョコも良い……!」

 

「ホント美味しそうに食べるな……そんなに美味しそうに食べてくれるなら、こっちも買ったかいがあるよ」

 

 言って頭を撫でると、『うへへ~』と気持ち良さそうに祈梨は受け入れ、『もっと撫でて』と言わんばかりに頭を寄せてくる。

 

 誰が見ても微笑ましい姉妹の休日。

 実際、通りすがりに二人を見た人はつい笑みを溢してしまっている。

 その光景に癒されていたのは通りすがる人たちだけではなく――――

 

          ◆

 

「はぁあああああ――! なーんですかあの甘々姉妹は!? ちょっとレック(くん)、もっと近づきましょうよー!」

 

「ダメですってハイリィさん、これ以上近づいたらバレます!」

 

「だってぇ、せっかくチケット買ってまで遊園地に入ったのにやることが『ただ、見守る』だけだなんて! なんて拷問ですかこれは! ……せめて、せめてちょっと遊ぶくらいはしたい!」

 

 二人に気づかれないくらいの距離に、魔術塔の魔術師、レックとハイリィは隠れていた。

 こんなコトをしている理由は一つ……頼まれたからである。

 誰に? ……現代の魔帝(エンペラー)の一人、月河七美にだ。

 

 ……ちなみに先ほどライロードが二人に連絡がつかないと言っていた理由がコレである……七美の頼みで二人の遊園地の様子を見守っているように頼まれたから。

 

 

 

 ……誰も彼も気づかないだろうが、

 ――今しがた勝手に部下を使ったことがライロードにバレた七美は、魔術塔の地下でライロードとの命懸けの鬼ごっこを開始していた。

 

          ◆

 

「美味しかったー!」

 

 クレープを食べ終わると遊園地を再び二人で歩きながら次に何をするか、何に乗るかを話し合う。

 

「さっきはわたしの遊びたかったお化け屋敷(アトラクション)に連れていってくれたから、今度はお姉ちゃんが遊びたいアトラクションに行っていいよ!」

 

「そうか。じゃあ――アレだな!」

 

 祈梨並みのウキウキしたテンションで玲奈はあるアトラクションを指差す。

 

「何のアトラクショ――」

 

 玲奈の指差した方向に振り向いた祈梨の声が言い切られるより早く、

 

 

『きゃあああああああーーー!!』

 

 

 という、絶叫とも歓喜とも取れる叫びがその方向より聞こえてきた。

 玲奈が乗りたいと指差したアトラクションは……、

 

「ジェットコースター! 見た時から乗ってみたいと思ってたんだ!」

 

 どうやら玲奈にとって同じ絶叫系でも、

 お化け屋敷のような『恐怖』と『驚き』に重きを置いたアトラクションと、

 ジェットコースターのような『驚き』と『解放感』に重きを置いたアトラクションは違うらしい。

 

 その証拠に、お化け屋敷には入る前からビクビクしていた瞳が、今はランランと輝き星までが映り始めている。

 だが――、

 

「おお、お姉ちゃん! それはやめよう!?」

 

 ジェットコースターに向かおうとする玲奈の服の(そで)をむんず……! と引っ張りながら、祈梨は首を振った。

 

「なんでだ? あんなに楽しそうじゃないか。それに今さっき、私の遊びたいアトラクションを優先してくれるって言ったじゃないか」

 

「そ、そうなんだけど……アレはちょっと、そのー…………」

 

 言葉が思いつかず、目が泳ぐ。

 そんな祈梨を見て、玲奈は『はっはーん』とからかうような笑みを浮かべて、

 

「さてはお前、ジェットコースターが怖いんだな?」

 

「ッ……! そ、そんなコト……ない、よ……?」

 

「あ、目を逸らしたな? ――さっきのお化け屋敷。嫌だと言ったのにお前に無理やり連れて行かれたコト、私は忘れてないぞ!」

 

「う、ぐ……ッ」

 

 自分の発した言葉、やった事に今さら後悔しても遅い。

 どんどんどんどん逃げ道が失くなっていく事を感じながら、最後の抵抗として、

 

「じゃ、ジャンケンしようよお姉ちゃん!

 もしお姉ちゃんが勝ったら大人しくついていく。

 でもわたしが勝ったらジェットコースター(あそこ)は……あそこだけは諦めてッ!!」

 

 本気で嫌なのだろう。

 祈梨は血走った目でジャンケンの拳を構える。

 もはやそのまま殴りかかって来るのではあるまいか……そう思わせるほどの気迫で、

 

「ジャン! ケン――!!」

 

          ◆

 

「――いぃぃぃやあああああああーーッ!?」

 

 ジェットコースターの急降下と共に祈梨の悲鳴が炸裂した。

 涙を流す祈梨に対して、

 

「――いぃぃぃやっほおおおおおーーッ!!」

 

 見事に勝ちをもぎ取った玲奈は急降下の中、歓喜からの叫びを上げる。

 

(わたしジャンケン(よえ)ぇぇぇーー!!)

 

 あいこにもならなかったー!! と、追加で心の叫びを上げながら、祈梨はこのアトラクション最高の反応(お客様)となった。




 最後の最後にまさかのタイトル回収ならぬタイトル変更!

『第六節 ワクワク☆遊園地ターイム! ~~君は、姉に仕返しされる妹(・・・・・・・・・)を目撃する~~』

          ◆

【次回】『第七節 幸せの終わり』
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