復活したと思ったら捕まって振り回されてるんだけど!?   作:雪山崇一

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第七節 幸せの終わり

「ここだよ、お姉ちゃん」

 

 玲奈は祈梨に連れられ、祈梨の住んでいる夜風(やかぜ)家へと来ていた。

 その理由は、遊園地を満喫したので帰ろうとした時、祈梨が思い出したように、

 

『お姉ちゃん、まだ時間ある?

 わたしのお父さんがね、わたしを助けてくれたお姉ちゃんにお礼を言いたいって言ってたんだけど……』

 

 そう言われ、玲奈は祈梨の父親に会いにここまでやってきた。

 祈梨が鍵を開け、『お父さんただいまー』と廊下の奥に向かって叫ぶと、ドアが開き、一人の男が姿を見せた。

 

「お帰り、祈梨。それと――」

 

 第一印象は、優しそうな大人。といったところだ。

 祈梨とは違う(あか)い髪に、ふっとした柔らかな瞳。

 その瞳が祈梨に次いで玲奈を見た瞬間、驚いたように開かれ……そして細められる。

 

「あ、えっと……初めまして、月河玲奈です」

 

「玲奈。――そうか、君が祈梨の言っていた『お姉ちゃん』、だね。

 (わたし)は夜風斉司(さいじ)。祈梨の父親だよ。

 もしかして今日は、祈梨に言われて私に会いに来てくれたのかな?」

 

「はい」

 

「そうか……わざわざすまないね。本当は私から行くべきだというのに」

 

「い、いえ、気にしないでください……!」

 

 慣れていない敬語を使いながら会話していく。

 

「おっと、すまない。立ち話させてしまったね。

 何もない家だが、ゆっくりしていってくれたまえ」

 

 斉司が案内し、祈梨が手を引いていく。

 流れるように客間に案内され、飲み物やお菓子を出される。

 

「まずはお礼を。

 祈梨を助けてくれてありがとう、玲奈くん」

 

「いえ、そんな。……むしろ、」

 

 と、出された冷たい麦茶を飲んでいる隣に座った祈梨を見る。

 

(……助けられたのは、私の方だな)

 

 もしあの場にいたのが自分だけだったのならば、恐らく死んでいただろう。

 

 ――だがあの場には、自分以外にも“守りたい人”がいた。

 

 だからこそ決意は固くなり、ドドメを刺した攻撃方法を記憶から引きずりだし、守ることが/生き抜くことができた。

 

(守りたい人――“誰かの為に(・・・・・)”、か……)

 

 ふと、そんな言葉が浮かんだ。

 

 ――いや、浮かぶのは当然だ。

 だって……魔神(おまえ)()()()()()()()()()()()()()()――――

 

「玲奈くん?」

 

「っ……! す、すみません。少し考え事を……」

 

「そうかい? 熱でぼーっとしてしまったのかと思ったが、杞憂(きゆう)で済んで何よりだ」

 

 あはは……、と笑いながら気を取り直すように出された麦茶を飲んでいると、隣から声が響いた。

 

「ねぇねぇお父さん。お姉ちゃんと遊んでもいい?」

 

「こら、祈梨。確かにお父さんの用事は終わったが、玲奈くんにも都合というものがあるだろう?

 ただでさえ無理に来てもらっているようなものだ。これ以上時間を貰うのは失礼に当たってしまう」

 

「いえ、私は大丈夫ですよ? 特に門限とかありませんし(つまりは今日も親の帰りが遅い)、そちらさえよければ」

 

 玲奈から発された言葉を聞いた祈梨は目をキラキラさせ、玲奈と斉司を交互に見ている。

 

「だって! お父さん!」

 

「祈梨、お客様の前でそんなにはしゃいではいけないよ。

 すまないね、玲奈くん。……こんなにうるさい娘だが、それでもよければ遊んでもらえるかい?」

 

 はい。と返すと、祈梨は『わたしの部屋に行こう!』と腕を引っ張ってくる。

 

「わ、わかったわかった。ついていくから腕を引っ張るな」

 

「では、飲み物やお菓子は私が部屋にまで運んでいこう」

 

「わざわざすみませ――うおあ!? だから引っ張るなってのー!?」

 

「ふふふ――っ」

 

 自分が『お姉ちゃん』と呼び慕う彼女の反応に笑みを溢しながら、ルンルン♪ と客間を出て廊下を先導する祈梨。

 無理やり引っ張られたものだから、ドアなどに体のあちこちをぶつけながら玲奈は廊下へと出て、

 

(……?)

 

 ――ふと、廊下の奥を見た。

 

 ドアがある。

 別にそれ自体には何の変哲(へんてつ)もない。

 斉司がそこから出てきた(・・・・・・・・・・・)という事実以外は何もない、正真正銘ただのドアだ。

 ……でも、

 なぜ――こんなにも気になる?

 その答えを得るよりも先に玲奈は祈梨に手を引かれ、この家の二階にある祈梨の部屋へと連れ込まれた。

 

 

 

 ……玲奈は知らなかった。

 それは直感(ちょっかん)であり、不吉の予兆を感じ取っていたことに。

 

 ――玲奈は気づくべきだった。

 その直感(かんかく)に。本能が鳴らした警鐘(けいしょう)に。

 

 

 

 …………そうすれば、

 …………“この娘”が■■(・・)ことはなかったかもしれないのに…………。

 

          ◆

 

「つ……(づが)れ゛だァァァ……」

 

 正直、遊園地の時よりも疲れた。

 祈梨の部屋に連れ込まれてからというもの、

 

 まずは格ゲーをやり(ちなみに 三七(さんじゅうなな)(ゼロ)という惨敗)、

 次にトランプをやり(玲奈(このこ)結構顔に出るようで祈梨に弄ばれた)、

 最後にツイスター(最終的には玲奈が限界を迎え、祈梨の上に覆い被さる形になった)。

 

 これだけの事をやったため、神経がすり減るはすり減るはで、もうクタクタ。

 

(まぁ、心地よい方の疲れ(・・・・・・・・)ではあるし、別にいいんだけどさ……)

 

 よっと、とソファーから起き上がり七美が用意していった晩御飯を暖めて食べる。

 片付けた後はお風呂に入るのだが、まだ夜の七時。

 お風呂には早いと思い、自分の部屋へと戻る。

 

「……やってみるか」

 

 言って。――魔術の鍛練(・・・・・)を始める。

 

“元”魔神、月河玲奈は魔術を使えない……というのは、実は正確じゃない。

 正しくは――使用自体を自ら控えている(・・・・・・・・・・・・)、といった方が正しい。

 何故なら……この体を得てからというもの、魔術を使おうとすると体に激痛が奔る(・・・・・・・)のだ。

 

 ……まるで、体の血管一本一本が膨れ、内側から破裂するような、

 

 ……まるで、内臓一つ一つが抉じ開けられ、あるいは無理やり引き裂かれているような、

 

 ……まるで、体中の骨全てに亀裂が奔り、やすりでゴリゴリと削られているような、

 

 そういった経緯で玲奈は魔術を使用しない。

 ……それに、たとえ魔術を使用できたとしても、使えるのは今の状態では初歩中の初歩の魔術が関の山。

 魔術一つ使うのに激痛で絶叫し、最悪気絶してしまっては元も子もない。

 

 ――けれど、

 

「……ッ――!」

 

 今回は違う。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

 焼かれた廃村(はいそん)で意識を失う際、()()()()()()()()()()()()()、視界と聴覚が過去(いつか)の風景を捉えていた。

 

 人々を殺す魔術師。

 黒焦げになっていく村。

 そして――――

 

「……っ、」

 

 ――思い出せない。

 ……それともう一つ、重要な事(・・・・)を思い出したハズなのに。

 あの瞬間の自分ならばその事を認識していたハズだが、体中から血を流し、すぐに意識が落ちたせいか、その辺りが曖昧だ。

 

 それでも断片的にとはいえ思い出した。小さすぎるけれど、一歩前進したと言っていいだろう。

 

(神経を研ぎ澄ませろ、他の魔術の事は考えるな……私が今からするのは、魔術の生み出し(・・・・・・・)だ。それだけに全神経を注げ……!)

 

 魔術は大きく分けて、二種類存在する。

 

 一つは、各属性ごとに存在する魔術。

 

 もう一つは、魔術師が自らの技術で生み出す今までにはない、オリジナル(・・・・・)の魔術。

 

 今から玲奈がやろうとしているのは後者だ。

 もっと言えば、

 今から行おうとしているのは――魔神(まじん)としての力を取り戻せる魔術の創造。

 

(――よし、魔術は完成した(・・・・・・・)。後は使用するだけ――だ、が――ッ)

 

 これが問題だ。

 今も行使しようとしただけでズキンッ――と痛みが奔った。痛みに引き出されたように吐き気も込み上げてくる。

 

「ガ――ァッ!? へぶ、おえ……ッ!」

 

 気を抜けば気絶しかねない激痛が体内で暴れ狂う。

 それでも無理やり魔術を行使しようとするが……不意に、今までにはなかった痛み……頭の中に手を捩じ込まれ、内側から掻き乱されるような感覚があった。

 

「ひッ!? いや……あ゛! あ゛ァ!?」

 

 反射的に行使をやめる。

 これ以上続けていたら、文字通り狂ってしまいそうだった。

 

「はぁ――はぁ……、ダメかぁ……」

 

 力尽きるようにベッドへと仰向けに倒れ込む。

 

(魔術を作れたって事は、以前の自分と比べて変わったってことなんだろうけど……行使まではいかないかー)

 

 だらしがないくらいに脱力する。

 時計を見れば七時半。自分が思っているよりも長い間、魔術の創造に時間をかけていたらしい。

 ……三〇分くらい寝たらお風呂に入ろ。

 そう思って目を閉じて……、

 

「――っ!」

 

 跳ね起きた。

 先ほどの魔術行使によるダルさが残っているが、今はそんな事どうでもいい。

 

「――――」

 

 ……この部屋の窓の方から(・・・・・・・・・・)()()()()()()()()()

 七美の魔術ではない。

 なら誰の、そして何の為の魔術だ?

 考えている内にその魔術(・・・・)は鍵がかかっていた窓をすり抜け、部屋にまで入ってきた。

 

 ……光の玉。

 見たままを言うならばそうなるであろう。

 白くて小さい光の玉。それが魔術の正体だった。

 

「っ、」

 

 身構えていると、光の玉は部屋の中心にまでやってきて――パリンッ、と割れた。

 割れた光の玉の中から、折り畳まれた手紙が現れ床に落ちる。

 

「手紙……?」

 

 (いぶか)しげに手紙(ソレ)を見る。

 怪しいことこの上ないが、恐る恐る近づき、数秒間様子を見た後に手に取った。

 警戒しながら手紙を開き、そこに書かれている文を目で読み始める。

 そして――、

 

「――ッ!?」

 

 血相を変え、手紙を投げ捨て部屋を飛び出した。

 投げ捨てられた手紙には、こう書かれていた……。

 

          ◆

 

『これより午後八時から、夜風祈梨の解体ショーを始めます。

 阻止したいのであれば、指定の場所まで一人で来るように。

 来ないのであれば明日の朝、貴女の家のお庭にバラバラとなった彼女を撒いておきます。

 お客様のご来訪を心よりお待ちしております』




【用語】

魔術(まじゅつ)』(※補足説明)

 魔術には二種類ある。

 一つは、各属性ごとに存在する『魔術』。

 もう一つは、魔術師が生み出す今までにはない『オリジナルの魔術』。
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