僕は星野に関わりたくない   作:サササ

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今回アイちゃんは出て来ません。
お父さんとの会話です。要らないと言えば要らないかもですが、好意の種類について考えるフラグ建て回のつもりで書いているので……ご容赦ください。


10話

「よし…こんなもんかな……い、いややっぱりもう少しだけ練習を……」

 

星野にふわトロオムライスをご馳走するって約束してから毎日、僕は毎晩オムライスを作り続けている。

 

お陰で月曜日から夕食は全てオムライスだ。

 

我ながら美味しく作れているとは思うが流石に飽きるし腹もパンパンだ。

 

まあ正直バカな事してるなって自覚はある。

 

あるのだが……。

 

『だってあと少しで土曜日だよ?私、凄く楽しみなんだ!』

 

あの笑顔を裏切りたくない。僕なんかの料理をあんなに楽しみにしてくれてる星野の事を……裏切りたくない。

 

だから……。

 

「…も、もう一つだけ作るか……」

 

最近の僕は何処かおかしい。理屈に合わない行動をしすぎている。

 

だってそうじゃないか。ふわトロオムライスなんて前世も含めて既に数百回は作っているから万に一つも失敗は有り得ない。

実際今も完璧なパカっと開いてふわトロ〜なオムライスが作れている。

 

練習する必要性なんて欠片もないんだ。ないんだけど……。

 

それでも何故か、ジッとしていられない。

 

少しでも…少しだけでも星野に喜んで欲しくて……既に完璧な出来の筈の料理の練習をやり続けている。

 

…これ以上やっても、そこまでクオリティに差は出ない筈なのにな……。

 

「僕…本当にどうしちゃったんだろ……星野の事になると色々おかしく……」

「星野って誰の事だ?」

 

「わっ!?って…と、父さん?お、おかえり。……な、何で帰ってきてるの?仕事は?」

 

仕事の関係上、殆ど家に帰って来ない筈なのに。偶に帰って来たとしてもかなり夜遅いし。

 

そんな僕の問いに父さんは少しバツの悪そうな顔をしながら。

 

「おおただいまマリア。…いやな…今日は早めに終わったって言うか…色々トラブったって言うかな……ハハハ」

 

……なるほど。

 

「所謂痴情のもつれってやつ?」

 

「相変わらず子供離れした発想だな!?」

 

中身はとっくに成人一歩手前くらいですから。

 

「…早熟だからね」

 

毎回これで誤魔化してるが、流石にちょっと無理があるかなって最近思い始めてる。…て言うか母さんの方は多分ちょっと怪しいって勘付いてる気もするしな……。女性は鋭いんだそう言うの。

 

「いやまあ確かにお前は昔からそうだったが…その発想には流石にビビるぞ」

 

父さんにはまだ誤魔化せている…と思う。恐らくきっと。

 

「だって父さん人気激高のホストでしょ?女性関係のトラブル多そうだし、痴情のもつれで逃げて来たのかなって」

 

実際ナンバー1ホストってどれくらいの女難系トラブル起きるんだろ…今度聞いてみようかな気になるし。

 

「…………」

 

わ、分かりやすいなぁ父さん。…これで本当にホストなんて務まるのかな……いや、仕事中とオフは別物って事なのかもしれないけど…それにしても分かりやすくない?

 

「図星なんだね……」

 

「ハハハ…母さんには内緒にしておいてくれ……」

 

「いや母さんもキャバ嬢だしお互い様では?」

 

「……そう簡単には行かないのが恋愛なのさ」

 

「お、おぉ…何かホストっぽい言葉だね」

 

「ぽいも何も現役バリバリホストなんだが。……それよりマリアよ」

 

「きゅ、急に神妙な顔してどうしたの?父さん」

 

さっきまでのヘラヘラした感じから一変、緊迫した雰囲気と空気を醸し出す父さん。…やっぱオフと仕事用で纏うオーラみたいなの変わるのかな……。

 

急変した父さんの様子に何を聞かれるのかと身構える僕に、父さんは。

 

「……星野って誰の事だ?」

 

そんな事を聞いてきて……。

 

…やっぱさっきの聞かれてたんだね……このまま有耶無耶に出来ないかなって思ってたけど無理か……。

 

…いや待てよ?何で僕は父さんに星野の事を聞かれたくないとか思ってるんだ?何もやましい事はないのに……唯の、友達なんだから。

 

……女の子だけど。

 

まあそこだけ明言せずに普通に答えればいいんだ普通に。

 

女の子の友達を呼ぶって何か…言いづらいし。

 

そもそも初の友達が女の子って言うのも……何かアレだし。

 

「ほ、星野はアレだよ。ほら、月曜の夜メールしたでしょ?土曜日に僕の料理食べに来てくれるって友達のことだよ。普通の」

 

それを聞いて父さんは納得が言ったように頷いて。

 

「ああ成る程…半月前くらいからマリアに友達が出来たみたいって母さんが喜んでたが……その子の事か」

 

「えっ!?か、母さんそんな事言ってたの!?いつ!?なんで!?」

 

星野の存在を伝えたのって二日前のメールが初めてだよ!?何で母さん気づいてんの!?殆ど帰って来ないし偶に帰って来たとしても僕が寝てるから顔も合わせてないのに!……帰って来た時朝ご飯は一緒に食べるけどさ。

 

「はっは!母さんは仕事柄人の感情の機微にはかなり聡いからな。そうでなくとも、息子の変化くらいは気づくさ。母さん曰く、最近のお前は以前までと違い、表情が明るくなって随分楽しそうな良い顔してるらしいぞ?」

 

……何だよそれ。

 

「それだけで…友達が出来たって分かるもんなの?」

 

「さあな。だが少なくとも、良い出会いをしたんだなってことぐらいは分かるさ。家族なんだからな」

 

良い出会い…か。……確かに、僕は星野とあの時出会ってから変わったのかもしれない。……多分、いい方向に。

 

僕は、傲慢かもしれないけど生まれた時からずっと退屈だった。

 

一度経験した出来事、幼稚園、そして小学校。新鮮味なんてカケラもない。

 

更に周りの人間とは一切馴染めず、ずっと独りで過ごしていた。

 

だけど僕は平気だった。だって、僕に友達が出来ないのは前世の記憶を有するが故の精神年齢のズレによって引き起こされる現象だと信じ込んでいたから。……独りでも、平気だった。

 

でも…その事で両親に心配されて……それが何故だがとても悔しくて…僕は言ってしまった。

 

『僕は一人でも平気だから。寧ろ一人の方が落ち着いて好きだから。だから父さんも母さんも僕の事は気にせず仕事に行ってよ。それでお金をたくさん稼いで僕にお小遣いとか一杯くれたらそれだけで僕は幸せだから。…それに家に一人の方が、僕は落ち着くし。だから……あんまり、家に帰って来なくてもいいよ』

 

今になって思うと、余りにも捻くれているクソガキの発言だ。見捨てられても全然おかしくない。

 

それでも二人は、僕の稚拙な意思を尊重してくれた。……絶対に、僕のこれが唯の強がりだって事が分かっていながらも。

 

……それから両親とは若干の気まずさを感じながらも、段々と慣れていき、今ではすっかり普通に接する事が出来ている。

 

…一人で居る事にももう慣れた。寧ろ、居心地の良さすら感じるほどだ。

 

一人は落ち着くし、誰に気を使うこともないし、何より息がしやすかった。

 

前世の記憶がある自分は異常だって、心の何処かでずっと思っていたから。

 

…それでも……それでもやっぱり……心の奥底でずっと燻っていた想いがある。

 

このまま死ぬまでずっと独りは……凄く寂しいって。

 

でもそれは仕方がないって諦めてた。

 

だって僕は人と関わるのが怖い臆病者で、周りと馴染めないのは前世の記憶があるからって体の良い言い訳をして逃げ続けて、両親にも八つ当たりをして。……そんなどうしようもない人間なんだから。

 

そうやって色々な事を諦めながら、退屈な人生をただただ過ごしていただけの僕の前に、ある日突然───彼女は現れた。

 

『星野アイです。よろしくお願いしまーす』

 

その一等星と巡り合った瞬間から、僕の人生は滅茶苦茶だ。

 

退屈なんて、感じる暇がないほどに。

 

……ああ、本当…今なら分かるよ。

 

僕は初めて星野を見た時からずっと好きだったんだ。

 

彼女となら、友達になれると思ったから。

 

…だからこそ、関わりたくなかったんだ。

 

やっと出会えた希望の光を失うのが怖かったから。

 

……だけど、それももうやめた。僕はもう逃げない。

 

失いたくないのなら、何としてでも救ってみせる。

 

だって星野アイは僕にとって…初めての────。

 

「友達なんだから……」

 

「……マリア?」

 

「……へ?あっ、いや!そのっ…と、友達!星野は僕にとっての初めての友達で!凄く大切でっ!毎日楽しくて!だからっ……父さんの言うように良い出会いが出来たんだと…思うよ」

 

は、恥ずかしい……!柄にもなく何物思いに耽ってるんだ僕はっ!?

お陰で余計な事まで言っちゃったじゃないか!くそっ!!

これで益々星野が女の子だって言えなくなっちゃったぞ……!

 

いやそんなつもりも感情もないけど!星野の事は友達としての好きであって恋愛的な意味での好きではないけれども!

 

だけど今の発言を客観的に聞いてみたらほぼほぼ告白みたいなものな気もするし!?父さんに勘違いされるのも面倒臭いし!?

 

……よし、逃げよう。

 

「じゃ、じゃあ僕そろそろ寝るよ。おやすみ。…ご飯はそれ、食べていいから」

 

そうしてそそくさと寝室へと逃げようとする僕の肩をガシッと掴む存在が一つ。……父さんだ。

 

「まあ待ちたまえマリア君」

 

嫌な予感がする。て言うか父さん滅茶苦茶ニヤニヤしてるし……これって不味いのでは?

 

「……な、何?僕、早く寝たいんだけど?」

 

だがそんな悪足掻きも無駄に終わり。

 

「その星野…いや、星野ちゃんって子……女の子だろう?」

 

心底楽しそうにそんな事を聞いて来て……!

 

「は、はぁっ!?な、何でそうなるのさ!」

 

「いやいや…流石に分かるぞ?そうかそうか…マリアも遂に恋の季節かぁ……うんうん、父さん嬉しいぞ!頑張れ!!」

 

何ふざけた事抜かしてるんだこの親父は!

 

「だ、だからそんなんじゃないって!そもそも星野が女の子って証拠もないじゃないか!」

 

「……男友達の為に、あんなに真面目に料理の練習するかぁ?それに…星野さんの事語ってる時のお前の顔は完全に恋する男の"アレ"だったぞ?」

 

「男も女も関係ないだろ!友達には喜んで欲しいし!そ、それに…僕は星野に恋なんてしてないし!本当だから!た、ただそのっ!大切な友達ってだけで!!いや好きは好きだけどそれは友達としての好きって言うか!」

 

顔を真っ赤にし、慌てて捲し立てる僕を見て父さんは真剣な眼差しで。

 

「…マリア。その…父さんは別に同性愛とかに偏見はないからな。きっと母さんも同じだ。だからマリアが星野くんに恋をしてても父さん応援するからな……」

 

「何言ってるの!?星野は女の子なんだから仮に恋してたとしても同性愛にはならなっ…………い……よ」

 

「ほう。やはり女の子だったか」

 

し、しまったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

くそっ、何て高度な誘導尋問なんだ!流石ナンバー1ホストは伊達じゃないって事か!?小学生の子供相手に大人気ないじゃないか!

 

「……ず、ずるいよ父さん。誘導尋問なんて……」

 

「ハッハッハ!悪い悪い!お前の反応が余りにも面白くてなっ!いやぁ、母さんにも見せてやりたかったなぁ……本当に変わったな。マリア」

 

何か良い感じの事言ってるけど僕は許してないからな!

 

「……か、母さんに痴情のもつれのこと言いつけてやる」

 

「すまん俺が悪かったそれだけはやめてくれ!」

 

変わり身はやっ!?父さん…こんな一面もあるんだな……。

 

「ふっ、ククっ…はははっ!」

 

思わず口から笑い声が溢れる。

 

「……マリア、お前……そんな風に笑えるんだな」

 

「はははっ!……え?どう言う事?」

 

「……いや、何でもないさ。ただ…その星野ちゃんって子には感謝しないとなって思っただけだ」

 

「?何故星野?」

 

「恋をすると人は変わると言うだろう?マリアを変えてくれたとしたらそれはきっと……なぁ?」

 

「なぁ?じゃないんだよ!父さん、本当にしつこいな!だから僕は……!」

 

星野に恋なんてしていない!…そう続けようとして口が止まる。

 

…なんで。だって僕は……友達として…星野アイの事が……。

 

「…なぁマリア。恋をする事は別に恥ずかしい事じゃない。父さんだって今まで何度もしてきた。まあその度に刃傷沙汰になったんだが……それはいいとしてだな」

「いやそれ凄く気になるんだけど」

 

父さんは僕の言葉を無視して続ける。

 

「マリア。自分の気持ちに嘘を吐くのはやめておけ」

 

「…だから、僕は嘘なんて……」

 

「いいかマリア。一つ、大事な事を教えてやる」

 

父さんは目を逸らそうとする僕の顔をガッシリと掴み、真剣な眼差しで僕の目を射抜いてこう語った。

 

「自分の気持ちに嘘を吐き続けると何時かそれが本当になってしまうかもしれん。……お前は、それでいいのか?」

 

……分かってるよ、そんなこと。だけど…だけどっ……!

 

「それでも僕は、星野の事は友達として好きだって言い続けるよ。絶対に」

 

こればっかりは譲れない。何が何でも。

 

「お前…何でそこまで……」

 

「…僕に、星野に恋する資格なんてないから」

 

失うのが怖くて、関わりたくないとか逃げて、嫌われるのも完全に関係が断たれるのも嫌で……色々言い訳して、中途半端に関わり続けていた僕みたいなクズが今更どの面下げて星野の事を好きだなんて言えるんだよ。

 

そんな資格…あるわけないだろ……。

 

「はぁ…マリア。一つだけ教えてやる」

 

「……なにさ」

 

呆れ果てた様な顔で父さんは淡々と口を開いて、こう言った。

 

「恋に資格なんて要る訳ないだろうが。アホか」

 

──────それ、は。

 

「全く…昔から大人びてて賢いやつだと思ってたが……こんな簡単な事も分からないとは……ああ、そう言えばまだ小学生だったな。忘れてたよ」

 

小馬鹿にした様な口振りとは裏腹に、優しい手つきで頭を撫でてくれる父さん。

 

……恋に、資格なんて…いらない……かぁ……。

 

………………それでも。

 

「…だけどやっぱり、僕は星野の事は友達として好きだよ」

 

少なくとも…今はまだ。

 

「……オムライス、喜んでくれるといいな」

 

「……うん」

 

父さんがホストとして人気な理由が少しだけ分かった気がする。

 

…話しただけでも、気持ちが大分楽になった。

 

……今なら、聞けるかな。

 

「ねえ、父さん」

 

「ん?何だ?」

 

「父さんって仕事中どんな感じなの?ちょっと見てみたいんだけど」

 

実はずっと気になっていた。だってホストってらもっとこう…チャラいイメージあるし。偏見だけど。

 

「……如何に大人びてるとは言え、小学生の息子にホスト業を見せるのはなぁ……」

 

中身結構行ってるから大丈夫だよ、お父さん。

 

「別にいいじゃん。お願いだから見せてよ」

 

「うぅむ…まあ珍しいマリアの我儘だからな……母さんには内緒だぞ?」

 

「え?ほんとに見せてくれるの?やった!」

 

正直ダメ元だったんだが…言ってみるもんだな。

 

楽しみだ。

 

「少しだけな?──────マリア」

「っ」

 

空気が変わった。いや、正確には目の前にいる人物が纏うオーラその物、魂の根幹その物が変化したかのような変貌ぶりだ。

 

たった一言、名前を呼ばれただけなのに、この人から目を離せない。

 

それだけでなく、己を構成する存在全てが彼を求めてやまない。

 

気持ちが止められない。止まってくれない。

 

この人の為なら全てを捧げても良い。そう思える程の安心感。

 

ああ、なるほど。これが父さんの実力……。

 

「…って……えっ!?」

 

「まあこんなもんだよ。…マリア?どうした?」

 

父さんが心配してくれてるが、そんなの耳に入らない。

 

だって……!

 

「(さっきの父さんの右目…一瞬だけど金色の星が輝いてた様な……え?嘘だろ?人を騙す目、父さん持ってるの?)」

 

結局僕は今日もあんまり眠れなかった。

 

最近ほんと、心労ヤバいな!

 

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