僕は星野に関わりたくない   作:サササ

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2話

やれやれ…昨日は大変だった。まさか鼻血を吹き出して気絶するなんてな。

幸い直ぐ目も覚めて、早退したからそこまで大事にはならなかったが…まじで切実に教室には行きたくないな。

 

だって僕、客観的に見たら可愛い転校生に興奮して鼻血吹き出して倒れた変態野郎だぞ?

 

ヒソヒソ陰口叩かれるに決まってる。アイツら小学生だし。子供はそう言うの大好きなんだ。僕は知ってる。

 

それに今は考える事が沢山あるし…正直学校は休みたかったが…一応皆勤だしな。皆勤賞、若干欲しいんだ僕。

 

…あれ?早退ってどういう扱いに……いやいややめとこう!うん。

 

まあ考え事は登校中の今とか学校内ですればいいか……ぼっちだし。一人の時間は無限にあるしな。

 

…自分で言ってて虚しくなるな。

 

「……星野アイに推しの子の世界……か。……もしかして僕の前世の死因あのカラスちゃんがけしかけたとかじゃないだろうな……流石に考えすぎだと思うが……割と愉快犯な気もするしな」

 

独り言はもう癖だ。誰に聞かれる訳でもないから、思う存分出来るぞ。

 

「……なんで推しの子なんだろうな…しかも原作開始前だし……あー、未来が分かるって結構嫌になるなぁ」

 

……これから、どうするべきなんだろうか。

 

僕は知っている。星野アイが二十歳になる前にストーカーによって殺される事を。

 

…それは恐らく変えられない。何故かそんな確信がある。

 

彼女の死が世界、若しくは神によって決定付けられている、そんな信じ難いような確信が。

 

……だけど、それもあながち間違いでもないかもしれない。

 

何故ならこの世界には神が実在しているからだ。割と現世にガチガチに干渉してくるタイプの神様が。

それも星野アイがあの場で死ぬのが運命、そう考えていそうな神様が。

 

だからこそ思う。

 

……星野アイはその神様が描くシナリオによってあの場で死んでいなければならない存在なのだと。

 

……助けるなんて、出来るわけない……相手は世界と運命だし。……うん無理、どうしようもない。

 

よしっ、諦めよう。見て見ぬふりをしよう。僕は何も知らなかった。そう言うことにしておこう。

 

本来あるべき流れを辿るだけだ。僕に出来ることなんて何一つとしてないだろうし、きっと助けようだなんて余計なお世話だ。

 

……仕方ないよな。僕はただ前世の記憶と原作知識があるだけの凡人なんだから。

 

「あー…関わるとニュースで見た時罪悪感ヤバそうだし…なるべく関わらないように……」

 

そんなこんなで長考から抜け出し、気付いたら教室のドアの目の前まで来ていた。

 

中からは相変わらず小学生ならではの騒がしい声が聞こえてくる。楽しそうですね……。僕の陰口とか叩かれてないかな……。

 

あー…は、入りたくないなぁ……い、いやでも僕はぼっちだし案外自分が思ってるほど他人は僕の事なんて見ていないはず……!

 

だから大丈夫……!よしっ。

 

意を決してドアを開ける。

 

ガラガラー……シーン。

 

先ほどまで騒がしかった教室内に、耳がキーンとなるほどの沈黙が訪れる。

 

……うん、知ってた。

 

居た堪れなくなった僕はそそくさと自分の席に向かっていく。所謂主人公席だ。

 

教室の端っこだね。……何故か隣には誰も居ないけどね。左には本来誰かしら居るはずなのに……何ででしょうね?

 

ははっ。

 

「ふぅー…はー……本でも読むかな…料理本……」

 

自分の世界に没頭出来るいい席だ。ポジティブに捉えようじゃないか。

 

僕は周りがヒソヒソ遠目にコチラを見ているのを完全に無視して料理本に全てを費やす。

 

だって辛いし。

 

そんな現実逃避一級の僕の隣から、突如可愛らしい女の子の声が届いた。

 

「あっ、君昨日の子だよね?席隣なんだ?」

 

…幻聴か。まあ色々大変だったしな……。

 

「……………」

「あれ?聞こえてるかな?おーい」

 

……いい幻聴だな。僕の好きな声だ。聞き覚えある気がするけど……気のせいかな。

 

「んー…まあいいや。それよりおはよー!昨日は大丈夫だった?」

 

……………ん?これ幻聴……だよな?

 

あまりにクリアに聞こえる声に思わずその音の発信源に目を向けたら……。

 

「おっ、やっとこっち見た」

 

星野アイが居た。……星野…アイがいた。可愛い……じゃなくてさ!はっ!?なんで!?

 

「………!?」

「なんか凄く驚いてるね?どうしたの?」

「えっ、いや…な、何でここにいるの?」 

「なんでって…ここが私の席だからだよ?」

「はぁ!?」

 

嘘だろ!?星野の席僕の隣だったのかよ……!くそっ、確かに僕の隣は何故か誰も座ってなかったけどさ!

主人公席なのに左に誰も居ないって言ういじめ待ったなしの状況だったけども……!

よりによってお前が隣か星野アイ……!

 

ああもうっ、関わりたくなかったのに!これじゃ嫌でも関わってしまうじゃないか……!

 

……いや待て、無視すればいいのでは?それなら勝手に嫌われて結果オーライでは?

 

…よし、無視しよう。

 

若干心は痛むが……僕の精神衛生上彼女と関わるのは良くないし仕方がない。

 

……まあでも挨拶くらいはしておくか…流石にな。

 

コイツ面白えな的な印象を持たれない為に当たり障りのないくっそつまらない挨拶を返しておこう。

 

「……おはよう」

 

これで大丈夫だろう。クソつまらない奴として彼女には認識された筈だ。完璧だな。

 

そう判断して僕はすぐ様本に目を移す。

 

……なにやら視線を感じるが気のせいだ。間違いない。

 

「……ねえ、昨日はなんであんな凄い事になってたの?私鼻血を吹き出して気絶する人なんて初めて見たよ。面白かったなー」

 

……無視だ無視。僕は星野と関わりたくない。

 

…関わってしまうと僕はきっと彼女の事を好きになってしまう。恋愛的な意味ではなく、恐らくは人として。

こう見えても僕はキャラクターとしての星野アイはかなり好きだったんだ。恋愛的な意味ではなくてな。

ここ重要だぞ?

 

……僕が星野アイを好きな理由は色々あるが…まず一つ。彼女は寂しがり屋でそれでもそれを表に出さずに、必死にみんなに愛される為に頑張り続けるとても努力家なところが好きだ。……頑張ってって言いたくなる姿に惹かれる。

 

それに嘘がいつか本当になる日を願って愛してるって嘘を吐き続ける所も好きだ。……滅茶苦茶頑張っているじゃないか。

 

そんな姿を見て、ついつい応援したくなると言うか…必死に頑張る彼女は何よりも輝いて見えて、好きになる。好きになってしまう。

 

あっ、恋愛的な意味じゃなくてね?……本当だぞ!?人としてキャラクターとして好きってだけだからな!勘違いすんなよ!

 

だから…だからこそ……こんなに好きだからこそ、僕は星野に関わりたくない。

 

だって、そんな彼女が死んでしまった時、僕はかなりの喪失感を味わうことになってしまう。

 

そんなの僕はごめんだ。……世界によって死が運命付けられている人間と関わってたまるか。

 

……僕は星野に関わりたくない。本当に……関わりたくないんだ……。

 

……これはエゴだってのは分かってる。自分がクズだって事も分かってる。

 

自分が星野の死によって傷付きたくないから関わりたくないだけ。そんなことは分かってる。

 

でも…僕は……何も出来ないんだから仕方ないじゃないか!身代わりになれるのならなりたいくらいだよ!

だけどそんな事は不可能…不可能なんだよ……仕方が…ないんだ……っ!

 

 

だから僕は無視をする。関わっても、いい事なんて何もないから。

 

「おーい聞いてるー?」

 

めげないな星野は…らしいっちゃらしいけどさ。

 

だけどこれは無視だ無視……心は、少し痛いが。

 

我慢だ我慢……。

 

しかしあんまりにも強情な僕に対して、星野は口元に手を当て何やら考え始めたらしい。

 

……可愛いなほんと。……いやだから違うだろなに考えてんだ僕はっ!?最低だぞ!死ねっ!!

 

そんな僕を尻目に星野は口を開いて。

 

「んー…そう言えば名前……なんだっけ」

 

……名前?…この局面でどうしたんだコイツ?

 

いや待て…名前覚えられる=印象持たれるフラグ全開では?

 

……よし無視しよう。心は痛いけど……。

 

「………」

 

しばらく悩んでいる星野だったが、ぽんっと名案を思い付いたかのように自信満々な顔で口を開いた。

 

「あー!確か鼻血ブー太くん…….だったけ?」

「誰が鼻血ブータだバカにしてんのか!?」

「おっ、反応した。やっぱり無視してたでしょ?もー」

「……あっ」

 

し、しまったぁぁぁぁ!!!!余りにもふざけた呼び名につい突っ込んでしまった……!

浅はかだった……!おのれ星野アイめ!

 

「もう、聞こえてるんなら返事してよ」

 

まだ無視しよう。悪あがきな気もするが…やらないよりはマシだよね。

 

「……………」

 

尚もシカトを続ける僕に、星野はイタズラっぽい笑みを浮かべて。

 

「ふーん……じゃあこれからは君のこと鼻血ブー「それはやめて!」太……じゃあ無視してないで反応してよ」

 

ごもっともなご意見だが……なんでこんなにしつこいんだ星野?何か彼女の琴線に触れるものでもあったのだろうか?

 

……いや、露骨に無視されてたら誰でもこうなるか。僕だったら殴ってる。

 

「……それで何か用?僕忙しいんだけど」

 

星野は僕の問いに、若干目を逸らしながら言いにくそうに口を開いた。

 

…なんでちょっとモジモジしてるんだこいつ。コミュ障か?

 

「えーと…用って言うか……名前教えて…みたいな」

「…なんでそんなもじもじしてるんだ?」

「べ、別にもじもじなんてしてないよ?見る目ないんじゃない?目大丈夫?」

「お前ちょっとムカつくな。…ま、いいけど」

「えっ?じゃあ教えてくれるの?……名前」

「他のクラスメイトに聞けばいいと思うけど……まあいいよ。教えたところでどうせ……」

「?」

 

どうせ教えても覚えないだろうし。まあいいけど。僕的には覚えられない方がいい訳だし。

印象残らない方がいいしな。

打算まみれの極みで僕は口を開く。

 

「……空野」

「空野…空野……」

 

あれ、これもしかして普通に覚えてる?……いや、復唱しただけか。なら安心だな。

 

「それで、下の名前は?」

 

興味津々だな…どうしたんだ星野のやつ……まあいいや。

 

僕には関係ないんだから。

 

「……黒石って書いてブラックマリア」

 

キラネーにも程があるよなこれ。……ちょっとカッコいい気もするが。

 

「ブラック…マリア……あははっ、変わってるねー」

 

将来子供にアクアマリンとかルビーってつける子に名前変わってるねーとか言われたくないんだがっ!?

 

「でもそっかー…空野ブラックマリア……いい名前かもねー」

「…そ、そう?」

 

やばいなんかちょっと嬉しくなってしまった。どうしよう。

 

……って違う!絆されるな僕っ!しっかりしろ!

て言うか僕の名前覚えてないかコイツッ!?

不味くないか!?フラグ立ってないか!?

 

だがそんな僕の心配を他所に彼女は僕をこう呼んだ。

 

「席も隣だし、これからよろしくね!えーと……天野くんっ」

「僕の名前は空野だクソアイド……クソ女」

「わっ、口わるーい」

 

これからどうなるのかは僕にはわからない。

 

それでも確実に言えるのは一つだけ。

 

僕は星野に関わりたくない。それだけは事実だ!

 

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