僕は星野に関わりたくない 作:サササ
星野が転校してきてから数日、特に変わった事はなく、何時も通りの日々が過ぎていく。
…いやまあ、休み時間とか放課後とか登下校中にやたらちょっかいを出されるイベントは増えたけど……まあそれくらいだ。
相変わらず星野は僕の名前を覚えてないし、ずっと天野くん呼びだし……いや別にいいんだけど。気にしてないけど。
きっと彼女の中で僕はそこら辺の背景Aと対して変わらない認識なんだろう。
それでいい。寧ろそれでいい。…僕は星野に関わりたくないんだから。
関われば関わるほど彼女が死んでしまった時辛くなってしまう。だから僕は逃げている。傷つきたくないから。
……記憶が蘇ってから僕はずっと思ってる。…なんでよりにもよって僕なんだよと。
どうせだったら『星野アイを死の運命から掬い上げてやるっ』とか決意表明出来る主人公みたいな奴に記憶を植えつけろよ。ゴロー先生とかアクアとかさ。…僕に有ってもどうしようもないじゃないか。くそっ!……どうしようもないんだよ…僕は主人公じゃないんだから。
……星野、悪いヤツじゃないよな…話すのは…割と楽しいし……僕が原作で見知ってるほど擦り切れてはいないし……結構明るくて、ちょっと変わってるけど何処にでも居そうな普通の少女って感じで……。
…彼女は一体いつから完璧な嘘の仮面を被れる様になったんだろう……。少なくとも今はまだ被ってはいない…と思う。
…多分、これは完全に僕の予想に過ぎないけど……星野アイが完全に壊れてしまった瞬間は母親に虐待されていた時でも、ご飯の中にガラス片が入っていた時でも、母親が捕まって施設に入ってしまった時でもない。
……釈放された母親が、自分を迎えにきてくれなかった時だ。それが、既にボロボロだった彼女の心を壊してしまった……んだと思う。少なくとも、僕は。
……今はまだ、何も起こっていない。だから彼女の瞳の星はまだキラキラ輝いている。……アレが真っ黒に染まった時、全てが終わっている。……見たくないな、そんなの。
「はぁ…何考えてるんだ僕は……しんどい……」
「何が?」
益体のない長考に耽りながら登校していた僕の背後から、突然声を掛けられ、思わずビクッととする。
「わっ!?…って星野か……びっくりさせるなよ」
「あははごめんねー。それよりおはよっ!そ……あ、天野くんっ」
「だから僕の名前は空野だって…まあいいけど」
「ごめんごめん。えーと…雨野くん?」
「絶妙に惜しいな……態とやってない?」
「え?何のこと?」
「知ってた」
何時も通りの会話。星野が転校してきてからは、大体こんな感じだ。
登校中、もしくは下校中に割と高頻度で絡まれる。……理由は分からないが、何故か彼女は僕に関わろうとしてくる。
もしかして気に入られているのかとも思ったけど……名前覚えられてないし、きっとただの気紛れだろう。
その内飽きて話しかけてこなくなるさ。……ちょっと寂しい気もするが…って違う。それが本来の目的の筈だ。
見失うな。……僕みたいな、関わりたくないとか言っておきながら、完全に無視することも邪険にする事も出来ない、かと言って割り切って助けようと行動する事もできない中途半端な矛盾野郎が寂しいとか思っちゃいけない。
……だけどやっぱり、彼女の星が翳るのを見るのは気分が悪い。だから、僕は中途半端に彼女に優しくする。
少なくとも、僕の前では綺麗な星でいて欲しいから。……本当に自分勝手だな僕は。
「星野。今日何かあった?」
僕は星野に確信を持って問い掛ける。
……僕には星野の瞳の中の星が見えている。それはもうハッキリと。
当然星の色も識別出来る。機嫌が良い時は白っぽく輝いているし、逆にちょっと落ち込んでいる時は今みたいに若干黒く翳っている。……心を読んでいるみたいで嫌だなと常々思っているが、見えてしまうものはしょうがない。
「……え?どうしたの突然?」
困惑している。……当然だな。
「なんか…機嫌悪そうだったから……」
「……!」
驚いた様に僕を見てくる星野。……やっぱり、まだ完璧で究極の嘘吐きにはなれてないんだな。
「……別に、何もないよ?」
すぐさま取り繕って返してくる。…表情は何時も通りだけど、瞳の星は嘘をつけないんだな。
少なくとも、今はまだ。
「そう、ならいいけど……あーそうだ。よかったら……これあげるよ。間違えて買っちゃったから」
僕はそう言って朝自販機で買った缶ココアを星野に渡す。
甘い物を飲んだら少しは気分が和らぐだろうと愚考した結果だ。
……引かれないよな?
「………」
……これ引かれてないか?た、確かにかなり唐突でちょっと…いやかなりきもかったかもしれないけど……!
「い、いやその…要らないんなら別に……!」
慌ててココアを鞄の中に引っ込めようとする僕の手を星野が掴んで。
「う、ううん!いるっ要るから!」
やたら焦りながらそう言ってきた。
…よ、良かった……引かれてないみたいで……。
「そ、そうか。…じゃ、はい」
「わっ、結構あったかいね」
「そうかな……」
「うん。あったかい」
両手で缶ココアを包んで…随分幸せそうだな。
…ココア好きなのかなこいつ……。
「あっ、ねえ」
「……ん?」
突如僕に向き直り星野が声を掛けてくる。
……なんだ?
「その…これっ、ありがと!」
そう言って笑う彼女の笑顔は嘘偽り無い年相応の少女のそれだった。
……瞳の中の星は、翳る事なく輝いていた。