僕は星野に関わりたくない 作:サササ
「───で、本当に着いてくるのか……」
「?当たり前でしょ?」
てっきり冗談だと思っていたのだが…星野は普通に着いてきた。
「大体…帰る時間とか大丈夫なのか?家の場所、僕知らないんだけど……」
そうなのだ。星野は下校中とか割とちょっかいはかけてくるのだが、暫くすると『じゃ、また明日ね!』とスルスルーと帰っていってしまうので僕は彼女の家を知らない。
登校中も気付くと背後に居るし…まあらしいといえばらしいのかも知れないな。星野はやはり、得体が知れない。
……そこも魅力の一つなのかも…って違う!知りたいそのミステリアスじゃない!変な方向に思考を飛ばすな僕!
「うーん…多分大丈夫だよ。……何時に帰っても、お母さんはそんなに気にしないと思うから」
「……それは」
ここに来て漸く、僕は星野アイの闇に触れた気がする。……何で話してくれたのかは分からないけど…ちょっとだけ、嬉しいと思ってしまう僕はやはりクズなんだろうか?……クズなんだろうな。
「放任主義…って事?」
「…まあそんな感じかな?別に、空野くんが気にすることじゃないと思うよ?だから安心して!」
笑ってるけど…なんか……くそっ、なんかもやもやするな!これが空元気的な物だってのは星の色が見えなくても分かるぞ流石にっ!
……あれ?て言うか今こいつ僕のこと……普通に……!
「……い、今、空野って呼んだ?気のせいじゃなければ……そう、聞こえた気が……」
「!?……そ、そうかなー?き、聞き間違いじゃないかな?だって君の名前は確か……そうっ、天野くんだったよね!?」
「……だ、だから!僕の名前は空野だってば!このクソアイド……間抜け女め!」
「…酷いなー!口悪いよね?本当にっ」
「…で、でも絶対空野って呼んでたよね?」
「よ、呼んでないよ!?だって覚えてないし!気の所為だってば!私、才能ある人とかの名前しか覚えられないしね!」
「……へー、そうなんだ」
「う、うん。そうだよ?」
……こいつ…誤魔化すの下手すぎないか?これ、本当にあの星野アイか?……いや、違うか。僕が勝手に彼女の事を原作通りの星野アイとして見ていただけで……彼女は、創作のキャラクターではなく、僕と同じ世界を生きる一人の人間なんだ。
……似ているだけで、推しの子のキャラクターではないんだ。……ちょっとだけ、フィルター越しで見ていたのかも知れないな……それは反省しよう。うん。
「まあいいや…それより、ここが僕の目的のスーパーなんだけど……家、近かったりするの?僕の家は割と近いんだけど……」
「……え?ここなの?本当に?」
「……ど、どうした?なんか…その……呆然としてるけど……だ、大丈夫?」
「…私の住んでるマンション……直ぐそこに見えるアレなんだよね」
……直ぐそこって……えっ!?徒歩五分くらいの場所じゃないか!滅茶苦茶近いな!
てことは僕の家からもかなり近いわけで……。
「ま、マジか…僕の家から星野の家まで徒歩二十分くらいじゃん……ご近所さんじゃん……」
星野もそれには同意のようで。
「こんなに近かったんだねー…ちょっと驚きだよー」
感心した様に呟いていた。
「……こ、こんなに近いんだったら一緒に買い物しても問題なさそうだな。直ぐ帰れるし」
「…うん、そうだね」
いい事の筈なのに何故か少しだけ気落ちしている様に見える星野。…な、何でだ?……分からない…取り敢えず、当初の目的を果たすとするか。
「じゃあ僕は今晩の夕食の材料を買いに行くけど……ほ、星野も来るよな?」
その為にここまで着いてきたんだんだろうし…違ったら黒歴史だな……た、頼むぞ星野?
「当たり前じゃーん。着いていきたいって言ったのは私だよ?」
ほっ…良かった。一旦きもち悪がられずに済んだ……マジで良かった……。
そんな安心感を抱えながら、星野と一緒にスーパーの中へと入っていく。
そしてある程度色々見て回ったところで。
「ねっ、そう言えば今日は一体何を買いに来たの?ご飯、何作るの?」
そんな質問を投げかけられた。やたらと目をキラキラさせながら。
……気になるのかな、こう言うの。
「え、えっと…取り敢えず家にぶりがあったから……それに合わせてぶり大根でも作ろうかと思って……だから大根とか…あといくらあっても困らない卵、その他調味料かな。買うとしたら」
やたら饒舌になる僕に対して星野はおーと感心した様な眼差しを向けてくる。……ちょ、ちょっと気分がいいな…ふふん。
だが急に感心したかのような表情から一変して。
「……ぶり…大根?」
きょとんと首を傾げる星野。……そう言う分かりやすい表情、するんだな……。やっぱり彼女は僕が知っている星野アイではないのかも知れないな。
「……もしかして知らない?ぶり大根」
「……知らない。食べた事も…ない……美味しいの?」
「うん。滅茶苦茶美味しいよ」
「そうなんだ…あははっ、自分で作れるっていいね?…どんな味なんだろう?……一回くらい食べて見たいな……なんて、冗談だけどね!あっ、本気にした?やっぱり君、見る目ないねー?」
やたら饒舌に捲し立ててるな星野のやつ。…まあ一見揶揄ってて楽しそうに見えるけど……悲しそうな顔が隠しきれていない。……あーくそっ!また僕は理屈に合わない行動をしようとしてる……!だけど……。
「……そ、そのっもし、もしなんだけど……」
馬鹿な事言おうとしてるな僕。……だけど、ここで止まったら僕は後悔する気がする。だから……。
「……なに?」
意を決して僕は口を開いた。
「星野が…食べたいって言うなら……べ、別に僕が作ってもいいけど……一人分くらい変わんないし……」
「……………」
沈黙が流れる。
……あー!やっぱちょっとキモかったか!?いきなり家に呼んで僕の料理食べさせてあげるよは流石にキモかったか!?
…い、言うんじゃなかった……!
だがそんな内心黒歴史でのたうち回ってる僕を尻目に、星野は僕の顔をちょっとだけ縋るような…そんな目で見て。
「………本当に、いいの?」
そう、言ってきた。
…あれ!?何これ!?取り敢えず引かれてないって事で……いいのかな?…よ、よかったー!
「星野が嫌じゃないなら…全然、食べに来てもらっても構わないけど……ど、どう?」
彼女は僕の言葉を受けたあと、少しだけ目を瞑って……。
「うん。行く、絶対行く」
心底嬉しそうにそう返してきた。
……やっぱり彼女は僕が知っている原作の星野アイじゃない。同じ世界を生きる紛れもない現実の人間なんだ。
だってこんな顔、僕は前世で見た事ないから。
「そ、そうか…あっ、だけど今日いきなりは流石に無理だからな?準備とかあるし……」
「……し、知ってたよ?」
露骨に残念がられて言われてもな……目の星黒いし……。
「だから次の土曜の昼時とか……どう…かな?暇だったりする?」
「!暇っ、凄く暇だから大丈夫!絶対いくっ!」
「そ、そうか…うん、じゃそう言う事で……予定立てとくよ」
「うんっ、ありがと!楽しみにしてるね!」
「…ち、因みに何か食べたいものとかある?」
「!オムライス!あのふわトロのやつ!この前テレビでやってた!!」
「あ、ああアレか…うん、アレくらいだったら僕でも作れるし……それにしようかな」
「やったっ、ありがと!」
こんなに感情を表に出す子だったかな?…でもまだ小学生だし……これくらいが、普通なのかな?
そしてやたらテンションが高い星野と買い物を終えて、スーパーの前まで出た。
「じゃあ私こっちだから…また明日ね」
「う、うん。…その、送って行こうか?」
「あはは、大丈夫だよ。直ぐそこだし。……ありがとね」
「べ、別にそこまで感謝される事では……まあじゃあ……ま、また明日……な」
「!また明日っ!」
そう言って星野はマンションの方へと走っていく。
それを眺めながら、僕も帰るかと帰路に着こうとした時、遠くの方から星野は僕の方へ向き直り、手を振りながら割と大きな声で。
「今日は色々ありがとうね!オムライスすっごく楽しみにしてる!……またねっ、マリア!」
こんな事を……。
「う、うん!また学校で……ってはっ!?え、おまっ、今名前で……!」
問い詰めようにも星野は既にマンション近くまで行っていて追いかけるのは少し抵抗がある。
と言うか……!
「(え!?今あいつ僕のことマリアって呼んだよな!?き、聞き間違えとかじゃないよな!?な、なんか…なんか……!えっ!?嘘だろ!?)」
それどころではなかった。
兎に角不意打ちによって思考がぐちゃぐちゃになってるがそれ以上に。
「(なんか…滅茶苦茶……嬉しいっ……みたいな……なにこれ!?どうなってるんだ!?)」
嬉しさと気恥ずかしさとその他諸々の激情で追いかけるどころではなかったのだ。
「……もしこれで聞き間違いとかだったら結構病むぞ僕」