僕は星野に関わりたくない 作:サササ
結局昨日はあの後眠れなかったな……何で急に名前呼びしてくるんだよ星野のヤツ……家でご飯作りながら冷静に振り返って見たけど、明らかに聞き間違いとかじゃなかったよな流石に……『マリア!』って呼んでたよな……なんだよ、僕の名前、やっぱちゃんと覚えてるじゃないか……。
「……嬉しかったな…って違う!別に嬉しくなんてっ……!いや、誰に言い訳してるんだ僕?独り言ヤバいな……自重しないと……はぁ…でも」
星野のあの笑顔とマリアって呼んでくれた時の表情が頭から離れない。
あの時の事を思い返すたびに顔に熱が集まってきて平静になれない。
…ああもうっ、何なんだこれはっ!?名前呼んでくれただけでこんな悶々とするって!恋する乙女か何かかっ!?
僕はそんな純情じゃないぞ!くそっ!
……あーでも、星野の事だからもしかしたらそんなに深い意味はないのかも知れないな…て言うか普通に聞き間違いだった可能性も少しは……けどなんかそれはそれで少し残念な気も……。
「(って違う違うっ!ちが…う……よな?……はぁ、ほんと何でこんな動揺してるんだろ…意味分からん……)」
昨夜起きたことに未だ気持ちの整理がついていない。…何で星野は、僕の事を名前で呼んでくれたんだろう。
それに、何で僕なんかの名前をちゃんと覚えていてくれたんだろう。そこもまた疑問が尽きないところではある。
だって、僕には星野の興味を引くような特別な才能なんてないのに。…本当、何で何だろうな。
「(しかも苗字でもマリアくんでもなく、呼び捨てで呼んでくれたし……)」
…少しは好かれていると自惚れても良いんだろうか?彼女が僕を名前で呼んでくれるくらいは好意を持たれていると。
もし、そうだとしたら……星野が僕に多少なりとも好意を持ってくれてるんだとしたら、それは凄く嬉し……うれ…しい?……いや、違うだろ。違うだろっ!そんな嬉しいとか感じる資格なんて僕にはないだろ!関わりたくないとか言って逃げてきてるんだからっ!なのにっ……!虫が良いにも程があるっ……!!。
そもそもの話、僕は何で彼女に好かれたいとか思ってるんだ!?僕は星野に関わりたくないんだろ?だったら好かれたいとか、名前で呼んでくれて嬉しいとか、そんな感情抱く理由なんて何処にも……ない筈だろ。
……僕は、何でこんなに星野の事を邪険に出来ないんだろう?関わりたくないなら最初から無視してれば良かった筈なのに……どうしてなんだろう?…本当に、分からない。
……関われば関わるほど辛くなるのなんて分かっているのに…それでも彼女が悲しそうな顔を見せると……優しく接してしまう。笑っていて欲しいと、笑顔になって欲しいと、そんな感情が溢れてきて止まらなくて…星野アイに笑ってほしくて……不合理な行動を取ってしまう。……関わりたくない…筈なのに。
……分かってるよ。…本当に関わり合いを持ちたくないのなら、冷たく接するのが正解で、無視するのが正解で、嫌われるのが正解だって事は。心の中ではちゃんと分かってるよ!
だけどどうしてもっ、そんな感情と行動が一致してくれないっ……!
だって……!
僕の脳裏に、スーパーでの星野とのやり取りがよぎる。
『……本当に、いいの?』
『!暇っ、凄く暇だから大丈夫!絶対いくっ!』
『!オムライス!あのふわトロのやつ!この前テレビでやってた!!』
『やったっ、ありがと!』
『オムライスすっごく楽しみにしてる!……またねっ、マリア!』
僕の言葉に本当に嬉しそうな、幸せそうな笑顔を浮かべる星野を見て…邪険になんて……出来るわけないだろ……。
「(僕は…どうすれば良いんだろうな…死なせたくないって……助けるための勇気が持てれば……何かが、出来るのかな……)」
何処までいっても中途半端で吹っ切れられない自分に嫌気がさしてくる。
…失ってしまう恐怖に耐えられない。やっぱり僕は、本当にどうしようもない……。
「臆病者のクズ野郎…なんだな……」
「どうしたの?」
「わっ!?ってほ、星野か……驚かせないでよ」
「あははっ、ごめんごめん!何か一人でブツブツ言ってたから……心配で」
「……き、聞いた?」
「ううん。何を言ってるかは聞き取れなかったよ?」
「そ、そうなんだ…良かった……あっ、お、おはよう星野」
「!おはよっ!」
ゆ、油断してた…独り言も気を付けないとな……。
「それよりどうしたの?何だか凄く疲れた顔してるけど……大丈夫?マリア」
「えっ?そ、そうかな…別に問題ない……ってアレ?今名前……」
普通に呼んだよな?やっぱ昨日のあれ聞き間違いじゃなかったのか……?
「ブラックマリアは長いからマリアだよ!……駄目?」
不安そうに目を伏しながら様子を伺ってくる星野。
「い、いや!……呼び方くらい…別に気にしないよ」
名前本当にちゃんと覚えてるのが意外だったってだけで……。
「良かった…じゃ、これからもマリアって呼ぶね?いい?」
「……好きにしたら?」
「分かったっ、好きにするね?……マリア」
「っ……ぐっ」
妙な気恥ずかしさに襲われてその場に蹲ってしまう。
「(だから何で名前呼ばれただけでこんな事になるんだよ!あーもぉぉぉぉぉ!!!!!)」
「えっ!?ど、どうしたの?」
星野が心配してくれてるけど今は耳に入らない。
それどころじゃない。て言うか顔が凄く熱い……!
「……な、何でもない。それより早く学校行くぞ」
そそくさと僕は星野を置いて学校の方へ早足で進む。
「あっ、待ってよ!マリア!」
今絶対、星野の方へ顔向けられないから!
僕は全力で追い付かれないよう走り出したっ!