僕は星野に関わりたくない   作:サササ

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8話

体育は嫌いだ。チームプレイとかマジで面倒くさい。

 

『ペア組んでね!』って言われた時の疎外感ヤバいんだぞ。

 

最初から決めといてくれよペア。出席番号順とかでいいからさ……。

 

「なー、一緒にペア組まね?」

「……へ?ぼ、僕?」

 

今日も今日とてぼっち特攻好きな人とペア組んでねモンスターの出現に鬱々としていた僕の耳に、信じがたい音が届いた。

 

……ペアに、誘われたのか?何で?コイツ、結構カースト中位くらいの陽キャだよな?……い、いじめか?遂にイジメが始まったのか?

 

「いいだろ?なっ」

 

恐ろしい可能性に戦々恐々としている僕の内心など知る由もなく、ソイツの中では既に僕とペアを組む事が決定しているらしい。

隣に居座りやがった。

 

「よーし!全員ペアは決まったな?じゃあまず準備体操からだ!お互い協力してやれー」

 

公的にも決まってしまった。……まあいいか。流石にこんな堂々といじめてくる訳はないだろう。…ないよな?

 

「なぁ、えーと…天野、でいいんだよな?」

 

嘘だろ……僕ってクラスメイトに名前覚えられてないのか?ブラックマリアだぞ?一発聞いたら絶対忘れないだろ……名字だからか?下が強烈すぎて上の影が薄くなってるのか?それとも僕の存在感が薄すぎるのか?……何かちょっとショックだな……。

 

……取り敢えず訂正しとくか。

 

「……空野なんだけど。僕の名前」

「えっ!?そ、そうなのか!?わ、悪い……星野さんがそう呼んでるの聞いてたからつい……ご、ごめんな!空野!」

「い、いや別に…そんな謝らなくてもいいけど……」

 

予想以上に本気で謝ってくる様子に思わずちょっと引いてしまう。

……結構いいヤツなのか?コイツ。

 

て言うか星野ってそんなに呼んでたかな…僕の名前。

学校じゃそこまで絡んでない気がするんだが……。

 

「……何時聞いてたの?星野が僕の名前間違えて呼んでるの」

「いつって言われりゃあ……いつも?」

 

…えっ。それって……。

 

「ス、ストーカー?」

「ばっ!?違えよ!教室内でだよ教室内っ!着いて回ったりはしてねえ!何話してるか聞いてただけだ!」

 

慌ててそう返してくるが正直説得力はない。

教室内でもずっと聞き耳立ててたら結構アレだろ……。

 

「そ、そう…。でも何で聞き耳なんか立ててたの?星野の事気になるなら直接話せばいいのでは……」

「……そ、そんなの無理だろ……!」

「……な、何で?」

「だって星野さん…すげー可愛いじゃん。緊張して話せねえよ……!」

 

初心かよ!何だコイツ、滅茶苦茶初心じゃん!警戒してて損したわ!

 

てか星野ってやっぱモテるんだな…まあルックス最強だし可愛いし……当たり前か……そりゃモテるか……うん。

 

……?何か今モヤッとした気が……気の所為かな……。

 

「そ、それで空野にお願いがあるんだけどよ……」

 

「………」

 

星野…告白とかもされてるのかな……いや僕には関係ないけど……関係ないけど……!

 

「そ、空野?聞いてるか?」

 

肩をゆさゆさと揺すられ、思考が現実へと引き戻される。

 

「へっ!?あっ、いやうん聞いてる聞いてる!なにっ!?」

 

不味い…!全く聞いてなかった……!でも何か焦って聞いてるって言ってしまった……!どうしよう!?

 

「お、おう…だからよ……その、星野さんの事で……お願いがあるんだけどよ……」

 

……星野の事でお願い?……何故僕に?

 

その疑問はそのまま口を突いて出た。

 

「何で星野の事で僕にお願いするんだ?意味が分からないんだが……」

「だっ、だってよ……空野、クラスで一番星野さんと仲良いだろ?」

「えっ!?そ、そんな事は……」

「?仲良くないのか?あんなに一緒にいるのに?」

 

ど、何処まで見てるんだコイツッ!?やっぱストーカーだろ!

 

「……仲良く、見えるかな」

「羨ましいくらいにな……なんだよ、自覚ねえのかよ?」

 

自覚……僕と星野は仲良く見えるのか?そもそも僕とアイツってどんな関係なんだ?クラスメイト…知り合い……それとも……。

 

「友達……なのかな。僕と星野って……!?あっ、いや今のはその……!」

 

気が緩んでいたのか、思っていた事がそのまま口に出てしまった。

 

か、確実に聞かれたよな……くそっ、何してんだ僕!

 

「……なあ、一つ聞きたいことがあるんだけどよ」

 

ソイツは慌てふためく僕を無視して。

 

「空野って……星野さんの事好きなのか?」

 

そんな事を───。

 

 

 

「……はぁっ!?そ、そんな訳ないだろ!?きゅ、急に何言い出すんだ!?」

 

僕が星野を好き?そんな筈はない。そうならない為に僕は彼女と関わりたくないと思って……!……思って………僕は……。

 

「い、いや悪い!空野が星野さんの事好きだって言うなら俺のお願い聞いてもらうの諦めようと思ってよ!」

 

…はっ、駄目だ考えるな……!今はとにかく目の前の会話に集中しろ……!

 

「別に…好きじゃないよ」

 

好きじゃない。そう口に出して明言した時に走る胸の痛み。

 

…なんだよ、何なんだよ!僕は星野の事好きじゃ───

 

『おっ、やっとこっち見た』

 

『あー!確か鼻血ブー太くん……だったけ?』

 

『えーと…用って言うか…‥名前教えて…みたいな』

 

『でもそっかー…空野ブラックマリア……いい名前かもねー』

 

『席も隣だし、これからよろしくね!えーと……天野くんっ』

 

『あー、変なのー……君、面白いね』

 

『瞳の中に星が浮かんでる…なんて、すっごくロマンチックな口説き方じゃない?』

 

『う、ううん!いるっ要るから!』

 

『わっ、結構あったかいね』

 

『その…これっ、ありがと!」

 

『私の事見てたでしょ。君』

 

『見てたよね?』

 

『あっ、ねえ。……今日一緒に帰ってもいい?』

 

『ねっ、それ私も行っていい?』

 

『……ぶり…大根?』

 

『そうなんだ…あははっ、自分で作れるっていいね?…どんな味なんだろう?……一回くらい食べてみたいな……なんて、冗談だけどね!あっ、本気にした?やっぱり君、見る目ないねー?』

 

『………本当に、いいの?』

 

『!オムライス!あのふわトロのやつ!この前テレビでやってた!!』

 

『またねっ、マリア!』

 

『ブラックマリアは長いからマリアだよ!……駄目?』

 

『良かった…じゃ、これからもマリアって呼ぶね?いい?』

 

『分かったっ、好きにするね?……マリア』

 

 

…………………。

 

 

 

「ごめん。好きじゃないって言ったの嘘」

 

「……え?」

 

僕は星野が好きじゃない。……それは、嘘だ。

 

好きじゃなかったら、関わる事に恐怖なんて覚えない。

 

好きだからこそ失う事に恐怖する。

 

好きだからこそ悲しい顔なんてして欲しくない。

 

笑っていて欲しいと思う。

 

僕は星野アイの笑顔が好きだ。幸せそうな顔が好きだ。

 

それが永遠に失われる未来が怖い。恐ろしくて堪らない。

 

……だから多分、僕は星野の事が好きなんだろう。

 

ただその好きの種類は……。

 

「友達としては……好きかな。普通に」

 

友達として、友人としての好き。友愛だ。

 

……異性としての好きでは…ない筈だ。

 

「…空野お前……バッカじゃねえの?」

 

「はあっ!?誰が馬鹿だ失礼なヤツだな!それよりお願いってなんだよ早く言えよ聞いてやるから!」

 

「え…えぇ……本当に良いのか?」

 

何急に遠慮してんだよ!しかも人を馬鹿を見る目で見やがって!

 

くそっ、何なんだコイツ!

 

「良いよよっぽど変なお願いじゃなければ聞いてやるよ!だから早く言え!」

 

「……まあお前が良いなら良いんだけどよ…ほ、星野さんの好きなものとか……聞いて欲しいなー……みたいな……」

 

「……それだけ?」

 

どんな変なお願いが飛んでくるか覚悟してたのに、その内容のあまりのしょぼさで逆に頭に登っていた血が一気に冷めて冷静になる。

 

「それだけってお前っ、大事な事だろうが!直接聞くのは気恥ずかしいしよ!」

 

「……聞いてどうするの?」

 

「……ぷ、プレゼントとか色々あるだろうがよ……」

 

プレゼント…プレゼントか……成る程ね……。

 

……友達でもない人から貰うプレゼントって重いのでは?

まあ小学生だし……その辺りは大丈夫かな。

 

「分かったよ聞いとく」

 

「……ほ、本当に良いのか?空野も星野さんの事好きなんだろ?」

 

「……友達としてな」

 

恋愛的な意味で好きな訳ではない。あくまで友達としての好きだこれは。

 

「お前それ本気で……」

 

残念なものを見るかのような目で僕を見てくるのやめろ!

 

「うるさいな!これ以上ゴタゴタ抜かすなら聞いてやらないからな!」

 

「わ、分かった!悪かった!もう何も言わねえ!」

 

その後体育は無事に終わった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

学校も終わり、今日も着いてきた星野と一緒に下校する。

 

「ねえねえ、マリアのお家ってどんな感じなの?大きい?」

 

「うーん…結構大きいかな。多分来てみたら驚くと思う」

 

「わっ、そうなんだ。楽しみっ」

 

「……ぼ、僕も…楽しみかな」

 

「!お揃いだねっ」

 

さて…何時聞こうか……。

 

…タイミングとか考えず普通に聞いた方が自然かな?

『星野好きなものある?』って。

 

……いきなりすぎるかな。

 

…好きなものに話を持って行くのって結構難しいな……いやもう普通に聞いちゃうか。そこまでおかしな質問でもないだろ。

 

「星野って好きなものとかあるの?」

 

「え?どうしたの突然」

 

や、やっぱり唐突すぎたかな……早まったかも。

 

「あ、あー……いやちょっと気になって」

 

「……ふーん?」

 

あ、怪しまれてる……。

 

「……な、何?」

 

ジト目で見てくる星野に出来る限り平静を装って問い掛ける。

 

「……別に?ただ何で急にそんな事聞いてくるのか不思議だなーって思っただけだよ」

 

…ど、どうしよう完全に警戒されてる……クラスの男子に聞いて欲しいって言われたとかは……言わない方がいいよな……アイツも言われたくないだろうし……。

 

……星野に嘘は通じない。だったら嘘じゃなく本音で……!

 

「…と、友達の好きなもの聞くのがそんなにおかしいか?知りたいだろ、友達なんだから」

 

嘘ではない。僕は星野のことを友達だと思っている。知りたいって言うのも本当だ。

 

だから大丈……?

 

「……星野?」

 

ふと違和感を感じて辺りを見回すと、隣を歩いていた筈の星野が僕の後ろの方で立ちすくんでいるのが目に入った。

 

「……どうした?」

 

「……え?べ、別に!何でもないっ」

 

慌てながら僕の隣に走ってくる姿を見て何でもないと言うのは流石に……。

 

まあ触れないでおこう。

 

「それで星野は……好きなものとかあるのか?言いたくないなら言わなくてもいいけど……」

 

「……好きなもの、かー……考えた事もなかったなー」

 

「ふ、ふーん…そうなんだ……」

 

「あっでも嫌いなものと言うか苦手なものはあるよ」

 

今の星野が苦手なもの?それって……。

 

「……白米?」

「!凄いね、何で分かったの?」

「え?あっいやその」

 

し、しまった!ついポロっと言ってしまった……!口元緩すぎないか僕っ!?

 

て言うか本当に白米苦手なのか…アレって暗喩とかじゃなくてマジな事だったんだな……それとも、この世界の星野はやっぱり僕が知っている"星野アイ"とは違うって事なんだろうか……考えてもしょうがないな。

 

今はとにかく誤魔化さないと!

 

「え、えーとほら、給食のご飯食べる時ちょっと表情翳ってた気がしてそれで!」

「……本当に私の事よく見てるんだね?」

「の、覗き魔みたいに言わないでくれ……」

「ふふふっ、ごめん」

 

何とか誤魔化せたか…よかった。

 

「じゃあ星野は……好きなものとかないんだな」

 

好きなものなんて考えた事もない、逆に苦手なものは思いつく。

 

そんな彼女の姿に僕は好きなものはない。そう結論付けた。

 

しかし、星野は口元に手を当てうーんと悩むような素振りを見せて。

 

「……ココアは好きかも」

 

少し気恥ずかしげにそう言った。

 

「……ココア?それって粉とか入れるタイプのやつ?ミルクとか」

 

「…ううん、自販機に売れてる缶のやつが好き」

 

そう溢す星野の顔はとても幸せそうで────。

 

「そうなんだ…缶ココアの方が好きって変わってるね。……何で缶の方なの?」

 

星野は僕の方をチラッと見て、少しだけ不機嫌そうに。

 

「……秘密っ」

 

そう返してきた。

 

…な、何でちょっと怒ってるんだ?不味い事言っちゃったか?

 

……でもそうか。星野が好きなら…土曜日に向けてまた買っとこうかな……あそこの自販機のやつ。

 

きっと喜んでくれる……ん?缶の…ココア?……アレそれってもしかして……。

 

「い、一応聞いとくけど……」

 

「……何?」

 

勘違いだったら死ぬほど恥ずかしいな……!でも……!

 

「星野が好きな缶のココアのやつって……ぼ、僕があの時あげたやつだったりする?」

 

「!」

 

「あっ、いや…ごめん。忘れてくれ」

 

勢いに任せて言うんじゃなかった……!自意識過剰にも程があるだろ僕のバカっ!!

 

頭を抱えて悶々としている僕を見てか、星野の方からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

 

「…た、確かに滑稽かもだけどそんな笑わなくてもいいじゃん……僕があげたやつだったらそれを土曜日に用意しとこうと思って聞いただけで……」

 

「……うん」

 

あ、あれ?否定しないのか?

 

「…ほ、星野が好きな缶のココアってやっぱり……その…あの時のやつであってる?」

 

「ふふっ、秘密だよ!」

 

言葉は同じ。だけどそう返す星野の表情は先程とは違い輝いていた。

 

……用意しとこう。あのココア。

 

 

 

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