隣の席の彼女は今日もアホ可愛い   作:138ネコ

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第30話

「駿介、夏休みだ!」

 

「そうだな。夏休みだな!」

 

 元気いっぱいのアホな笑顔のこのはに、冷ややかな笑みを浮かべる駿介。

 時刻は朝の7時を過ぎたあたり。夏休みに入り、自堕落な生活を始めたばかりの駿介にとってはまだ朝の早い時間。

 当然、今の今まで寝ていた駿介、そんな寝ていた駿介の部屋に何故かこのはが突撃し、馬乗りしながら元気に駿介を叩き起こしていた。

 

「で、これはどういう事だ?」

 

 頭をぼりぼりと搔きながら、上半身を起こす駿介。

 駿介に馬乗りしていたこのはが、「わっわっ」と両手をバタつかせながら駿介のベッドから転がり落ちていく。

 そんなこのはに目もくれず、駿介が半眼になりながら、ドアの前に立つ真紀を見る。

 

「分からないの駿介。つまり、夏休みって事よ!」

 

 腕を組み、ドヤ顔で答える真紀。

 

「分かるかぁ!!」

 

 早朝の米内家に、駿介の声が響き渡る。

 寝起きを感じさせない駿介のツッコミに対し、真紀は動じる事なく腕を組む。

 

「というか、お前も共犯なのか?」

 

「どっちかというと、被害者だと思う……」

 

「あぁ……」

 

 真紀の隣で眉を下げ、申し訳なさそうな顔を見せるとも。

 その反応で駿介は理解する。多分ここに来る前に、ともも自分と同じように叩き起こされたんだなと。

 

「それで、要件はなんだ?」

 

「今日花火大会があるんだって! 駿介も一緒に行こう!」

 

「ほうほう、花火大会か」

 

 自分を叩き起こした時に言った「夏休みだ!」と若干噛み合っていない気がするが、どうせこのはの事だから何も考えずに夏休みと言ったのだろう。アホだからと結論付けツッコミを抑える駿介。

 それに、それよりも、気になる事があるので。

 

「それで、花火大会とやらは何時から始まるんだ?」

 

「夜の8時!」

 

「そうか。寝る」

 

 12時間以上も先の話である。

 花火大会に一緒に行くことはやぶさかではないが、流石にまだ早い、いや早すぎる時間帯。

 先ほどの真紀へのツッコミで少々目が覚めてしまってはいるが、それでもまだ眠気は残っている。

 このまま布団に入れば数分もしない内に眠れるだろう。そう思い、横になる駿介。

 

「良いの駿介? このはちゃんが遊びたがってるのに無視して」

 

「いくらなんでも限度があるだろ」

 

 眠気交じりのふにゃふにゃした声で返事をする駿介。もはや寝るまで秒読み状態である。

 そんな駿介のベッドに近寄る真紀が、それはそれはとても恐ろしいくらいの笑顔になっている事を駿介は気づいていない。

 駿介に対し、笑いをこらえ切れず無理やり笑いをかみ殺している真紀。

 

「駿介が寝るんだったら、これおばさまに見せちゃおうかな」

 

 言葉の最後に、ハートマークが出そうな声色で囁く真紀。

 その声色に、嫌な予感がして駿介が少しだけ目を開く。

 目の前には、真紀が置いたのであろうスマホから、動画が流れていた。

 

『……んっ……ゴローさんか……』

 

『わん!』

 

 そこには、ベッドで寝てる駿介が、馬乗りしてきたこのはを抱き寄せ、優しく頭を撫で続けている動画が映っていた。

 ゴローさんゴローさんと言いながらこのはを撫で続けている。勿論そんな事をした記憶は一切ない。

 一瞬で目が覚める駿介。ガバっと上半身を起こし、このはを見ると、アホっぽい笑顔で4足歩行をしながらベッドに近づき「ワン!」と言って頭を差し出す。

 撫でろというこのはの意思表示に、駿介が困惑しながらともを見ると、顔を背けながら笑いをかみ殺している。

 

 この動画が精巧な作り物の可能性もない事はない。

 だが、完全に寝ぼけていた自分には否定する材料がない。

 それに、もしこれがフェイク動画の偽物だとしても、真紀は母親に見せると言っているのだ。

 こんなものを親に見せられた日には、しばらくはいじられる事が確定だろう。もはや駿介の詰みである。

 

「オーケィ、分かった。俺の負けだ。要求を聞こう」

 

 上半身を起こし、ため息を吐きながら両手を上げ降参のポーズを決める駿介。

 そんな駿介のベッドに、このはが乗り込む。

 

「わん!」

 

「お前はゴローさんじゃなく、このはだ。良いから人間に戻れ」

 

「わん!」

 

 頭を撫でろと要求するこのはの頭に、駿介のゲンコツが落とされた。

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