萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

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助けてください!

 その日俺は、鬱屈した気分で夜の公園を歩いていた。

 身長は百九十センチ超、体重は百キログラム超のデカい男が、黒いスーツを着て安全靴を履き、街中を歩いていると嫌でも目立つ。

 

 人相は悪くないと思うのだが、イケメンと言われたことなどない。

 顔がどうだとかは関係なく、そんな風体の男にはマトモな人間は近寄らない。

 そんな扱いが嫌なので、人気のない場所を選んで歩いている。

 

 しかし動物には好かれる。

 特に大型犬(主にメス)は無条件で懐いてくるので、それだけが救いだ。

 

 若いころは”悪いやつ”をやっつけることを趣味にしていた。

 街に出て、”悪いやつ”を挑発して喧嘩を吹っかけられるように振る舞い、相手がその気になれば、得たりとばかり打ち倒す。

 

 実に屈折した青春時代だったが、そんなことをしているところをスカウトされ、今の仕事に就いたのだから、人生とは分からないものだ。

 現在は給料を貰って人を殴っている。

 

 俺の名誉のために言うが、仕事は反社会的勢力ではない。

 格闘家やボクサーでもない。人を殴るのも時々だ。

 

 仕事は、とある令嬢のボディガードである。

 その令嬢は幼いころに誘拐され、銃で撃たれて死にかけた過去があり、心配した父親がボディガードをつけたという経緯がある。

 

 俺の仕事は、件の令嬢が外出している間、常に相棒とともに付近で警戒することであり、それは家に帰るまで続く。

 

 いや、その日までは続いていた。

 

 その日俺は、精神的ショックを受けていた。

 俺がボディガードを始めたころは小学生だった令嬢が、近々成人するにあたり、警備体制の変更が計画されることとなった。

 

 要するに俺は男なので、男では入れない場所も多いから都合が悪いと判断されたのだ。

 そしてもうひとつ、二十代後半の女であるところの相棒から、“結婚する”と聞かされたためである。

 

 屈託のない笑顔を向けてくれる令嬢のことは、歳の離れた妹か娘のように感じていたし、相棒のことは、”背中を任せられる女”と評価していただけで、どちらにも恋愛感情を持っていたわけではない。

 

 少なくとも表面上は恋愛感情はないと思っていたが、これほどのショックを受けていると言うことは、心の奥では恋慕を抱いていたのかもしれない。心の奥のことなど、自分にだって分かるものか。

 

 少なくとも、十年近くの付き合いで、家族のように身近に感じていた彼女たちから、離れざるを得ない状況になった。

 そういうわけで、今日俺は、予想外の大ダメージを負ったのだ。

 

 ムシャクシャしながら公園に向かうと、”悪いやつら”が、”嫌がっている女を無理やり誘っている状況”に“出会った”。

 

 出会いに行ったと言ったほうが正しいかも知れない。

 仕事以外で人を殴るのは久しぶりだが、“義を見てせざるは勇なきなり”とか言うから仕方がない。

 あぁ、仕方がないとも。

 

 サップという人を殴るための手袋を着け、いざというときのためにボイスレコーダーを作動させた。

 スタスタと近づいて確認する。

 

「お嬢さん、こんばんわ。十人くらいの変な奴らに絡まれているようだが、助けが必要かな?」

 実に不自然なセリフだが、仕方がない。

「なんだよオッサン!」

「助けてください!」

「りょうかーい!」

 

 気持ち悪いくらいの、邪悪さに満ちた笑顔であったろう。

 

 若いころは木刀を武器にしていたが、今では相手に木刀を渡して、それを素手で叩き伏せるという、二重に屈折したやりかたになった。

 正当防衛を狙ってのことでもあり、歳を経て狡猾になったのかも知れない。

 

 嬉々として木刀を相手に投げるが、元々武装している連中だったので、余計な気遣いだったようだ。

 

 さっさと片付けた俺は、いささかの食い足りなさを感じながら、女に帰宅を促した。

その瞬間。

『ツ……バクカ……ンサ……ルマ!』

 突然、ノイズ交じりの声が響いた。

 

「なに…?」

 俺はとっさに振り返ったが、後ろには誰も居ない。

 

 それもそのはずで、その声は頭の中から響いていたのだ。

 直後、雷のような衝撃と、目もくらむような光が俺を撃った。

 

 そして光の中には、ブロンドの髪とアイスブルーの眼をした女。

“けっこう可愛い…?”とか考えている場合じゃない。

 

「ぐ…がっ…!」

 これは雷じゃない。

その証拠に、目の前の女は、不思議そうな顔で俺を見ている。

 スタンガンでもない。

 あれはもっと痛い。

 

 なにより、文字、言語、音声、映像。

 あらゆる情報が、奔流のように俺の脳内を駆け巡っていく。

 

 今の俺を具体的にあらわすと、ぐるぐるバットをやった後、サンドバッグをぶつけられて、懐中電灯を至近距離から眼に当てられ、耳は早送りの音楽を大音量で聞かされるという状況に近い。

 

 痛くはないが、難しいことを考えたときのように頭の中がむずむずする。

 脳の血管の中を虫が這っているようで、むしろ痛みよりも耐え難い。

 

 それは俺にとって初めての感覚だった。

 違法な薬の禁断症状はこんな感じなのだろうか。

 

「くそ、冗談じゃねぇ…」

 堪らなくなった俺は、女を押し退け、人気のないほうへよろけながら歩き出した。

 早くここを離れなくては。ここで倒れたら、さっきの奴らに袋叩きにされてしまう。

 俺は公園を出て、目立たない路地に向かった。

 

「あの…、救急車呼びましょうか…?」

 あとを心配そうについてくる女。

 返事をするのも億劫になり、いよいよ視野が狭まってきた。

 

 “こいつは…やばい…”

 コメカミをぐりぐり突いて、なんとか正気を保とうとした瞬間、暗闇が襲ってきた。

「うわっ!」

 叫んだと同時に、俺は暗くて深い穴に落ちた。

 

 

間 逃がさへんで!

 

「あれは、あの光は…!」

 森の中で薬草を採取していた少女は、天を仰いで目を見開いた。

 頭上はるかを、燐粉を撒き散らしながら、金色の光が横切っていく。

 

「来たで、来よったでぇ…!」

 ややもすると大きくなる鼓動を抑えながら、手のひらから出した緑の石を、興奮で震える腿に叩きつける。

 緑の光が下半身全体に広がり、足元から立った風が少女の身体を浮かび上がらせた。

 

「何年待ったと思うてんねん。逃がさへんで!」

 かけっこの“ヨーイ!”のようなポーズのまま、風のように木々の間をすり抜ける。

 少女の目は件の光に釘付けになったままなので、自動で木々を避けているように見えるが、実は少女の身体は風のカプセルで包まれており、やんわりと木にぶつかりながらぬるりと通り抜けているのだ。

 

 しばらく追いかけると、光は森に落ちて大きく弾けた。

 

 

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