萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

24 / 60
第二十三話 フフフ、怖いか?

 なんだかんだあったが、俺たちはいつもの初心者洞窟にやってきた。昨日エーリカが言ったとおり、今日を含めて三日間、ここの二階以上は俺たち専用となる。

 …まぁ、今までも専用同然に過疎だったのだが。

 

 俺たちが現場に着くと、互助会の職員らしき女が洞窟前にいた。

 体格のいい、大柄な女だ。胸の名札には、当地の言葉で“カレン”と書いてある。

俺は軽く会釈をして、会員の証であるペンダントを見せた。

 

 刻まれたシリアルを確認した後、カレンがミスズの方を向いたので、俺は自分とミスズを交互に指差した。

 これはもちろん、同伴者ですという意味だ。

 

 しかしカレンは首を横に振り、ミスズの採集ペンダントも確認した。

 何か明らかにしておかねばならない事情があるのだろう。 

「他に同伴者はいるかい? 後から来たりする者は?」

 

 執拗に確認を続けるカレン。

「いや、このふたりだけだ」

「了解した。じゃあこれを二階の入り口に置いておいてくれ。三日後の日没までは、二階以上に誰も入れないようになる」

 

 そう言ってカレンは、インターネットルーターのようなものを出した。

 なるほどコイツに、入場できるシリアルが登録されているってわけか。

 魔法の道具だろうが、どういう原理なんだ?

 

 あと、ペンダントなしで通ろうとするとどうなるのか、気にはなるが俺はもう大人だから試したりしない。危険だからな!

「これ、ペンダントなしで通ったらどうなるんやろ? 気になるわ」

 

 ウチのパーティには子供がいるのを忘れていた。

「ミスズさん? 危険だからな? 試すんじゃないぞ?」

 しつこいくらいミスズに念押しして、俺はカレンに向き直った。

 

「それにしても、随分と厳重に管理するんだな?」

「そりゃそうさ」

 と前置きをして、カレンは長々とした説明を始めた。

 

「新しい洞窟が見つかると、街が活気付くだろ? だけど、新しい洞窟を見つけてもらうには、褒章を出さねばなんないよな。そうは言っても、互助会に褒賞を出すほどカネはない。所詮互助会だからね。てわけで、単独探索期間を褒章代わりにすることにした。でも、その期間も余り長くすると他のヤツの探索意欲が下がる。てことで、三日十日の規定ができたってわけさ。単独探索期間の保障は最低限のご褒美だから、こいつだけは忽せにしちゃならないんだ」

 

 三日十日の規定というのは、“既存洞窟の新領域を発見した者は三日、新洞窟を発見した者は十日の単独探索期間を得る”という規定だ。

 なんとなく、昔の“墾田永年私財の法”とか“三世一身の法”を思い出した。

 

「まったく同感だ」

 大きく頷いて同意した後、俺は、ここのところ抱えていた疑問を口にした。

「ところで、互助会の職員は女ばかりなのか? 男を見たことがないんだが?」

 

「あぁ、互助会の給料は安いからね、男は探索に行ったほうが稼げるから、やりたがらないんだ。だから、職員はアタシらみたいなカヨワイ女しかいないのさ」

「お、おう…」

 

 ニイナはまだしも、エーリカやこの女は、どう見てもカヨワクはない。

 この女も俺より強いかもしれない。異世界恐るべし!

「…だが、カヨワくても魔法使いとかならどうだ?」

 

「おいおい、エーリカに聞かなかったか? 魔法が使えるってのは、かなりの特殊技能なんだ。そんなヤツ、首都辺りじゃいざ知らず、ラウヌアには数えるくらいしか居ないよ」

 カレンは言葉を切ると、手のひらを上にしてミスズを指差した。

 

「その嬢ちゃんとかな」

 ちらと見遣ると、得意そうな笑みを浮かべたミスズと眼が合った。

 

 なるほど。各集団に魔法を使える者が居るなら、さすがに死者の名札も壁一面になるほど増えはしまい。俺はかなり恵まれていたわけだが、“ミスズを薬草採りの女”と断じて無視した男たちも、魔法使いと知ったら歯噛みするだろうな。

 

「分かったよ。色々教えてもらって、ありがとう」

「最終日に洞窟から出るときは、魔関門を回収してきてくれよ?」

 

 手にしたインターネットルーターぽい物体をちらと見て“コレ、魔関門って言うのか”と思いながら、もう片方の手を挙げて応えた。

 カレンを見送って振り返ると、勝手知ったる初級洞窟が、今日は七色に輝いて見える。

 

「さあ、鬼が出るか蛇が出るかやな」

 後からついてくるミスズが言った。

 

「ああ、蛇と言えばなんだが、ここにはチョーダという蛇のバケモノが居るらしい。俺たちは今まで見たことが無いから、かなり珍しいバケモンのようだ」

 

「もしかしたら、本当は普通に上の階に居るようなヤツが、間違って下の階に出てきてたんちゃうかな?」

「鋭いなミスズさん。俺もそう思っていた」

 

 俺は指を鳴らし、振り向きざまに脇の下からミスズを差した。

「ほんで、そのチョーダってどんなバケモンなん?」

「…“とにかく長い蛇。決して手を出すべからず”と書かれていたな」

 

「なんなんそれ。全然分からんのと同じやん」

 腰に手を当てて、ミスズは大袈裟にため息をついた。

 

「ガイドブックによると、出会ったパーティは全滅して、最後の生き残りが“長い蛇”と言い残して事切れたらしい」

 俺たちの間を、いろんな意味を持った沈黙が支配した。

 

「そんなにアカンヤツが、初心者の洞窟におるの?」

「今日、会えるかもしれないぜ? フフフ、怖いか?」

 赤い石を顎の下から照らし、思い切り邪悪な顔でミスズを振り返る。

 

「おおぅ、武者震いしてまうな。んはは」

 それは本当に武者震いなんだかな。

「そう言えば、今、怖いか?」

 

「そう言われたら、怖ないな。なんでやろ?」

「…やっぱり、あの虫みたいな置物が関係しているかも知れないな。ここから持ち出したから、ここは安全地帯になったとか」

 

「ウチら、アレを怖がってたっちゅーんか? けど、持って帰るときは全然怖なかったで? 今は家にあるのに、家は怖ないし」

「それだ。それがどうも、よく分からんところだ」

 

 怖いものを外に持ち出したから、ここが怖くなくなった。

 それは分かる。だが、それを持ち帰った家は、怖くなってはいない。

 あの祭壇と虫オブジェを合わせると怖くなるのだろうか?

 

 確かに、なにか訳アリそうな祭壇だったからな。

 なにかしらの反応があるかも知れないから、明日はアレを持って来てみよう。

 とまぁ、色々考えている間に、例のホールに着いた。

 

 二階が開放されたことと、関係あるのかないのかは分からないが、ここまでの道中、バケモノには一切出会わなかった。

 単に狩り尽くしてしまっただけなのかも知れないが。

 

「いよいよやな、腕がガランゴロン鳴るで!」

「じゃあ行くか」

 俺は例の魔関門をミスズに渡し、魔関門ごとミスズを抱き上げて緑の石を踏み砕いた。

 

 足元から巻き上がった風が、俺たちの身体に纏わり付き、上階に押し上げた。その感覚はまるで、見えないつる草に持ち上げられるようなものだ。

 周囲を警戒しながらミスズを降ろすと、正面には例の祭壇が見えた。

 

 背後ではミスズが魔関門を置く気配がしている。

「よっしゃ、おっちゃんオッケーや」

 ミスズが付いて来ているのを確認して、俺は歩を進めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。