萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

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第三十九話 偽物…ということですか?

 大神官に話しかけた金髪青年は、俺たちに気がついて言葉を切った。

「こちらは?」

「…その、…こちらも勇者御一行です」

 

 大神官が言いにくそうに答える。

「偽物…ということですか?」

 金髪青年が表情を硬くした。

 

 その言葉で腑に落ちたが、金髪青年は勇者一行その一で、俺たちはその二ということのようだ。居酒屋の予約じゃあるまいし、なんで勇者がオーバーブッキングしているのだ?

 

「いえ、決してそういうわけではないでしょう。召喚時に事故がありましたし、こちらの方々が本物だという証拠もありますので、どちらも本物だということになります」

 金髪青年を制した大神官は、事情を語り始めた。

 

 勇者召喚は、異世界に生贄の魂を飛ばして行う。要するに人間を餌にした釣りのようなものだ。魂を飛ばす先はあらかじめ魔道具で座標を固定しているのだが、今回はトラブルが発生して魔道具の一つが倒れ、アリアはふたつの座標に飛ばされた。

 

 ひとつは当初から設定されていた座標で、恐らくこちらからは金髪青年アレクスが呼ばれ、城の中庭に衆人環視の中現れた。危機的状況にも関わらず、街が賑わっていたのも、めでたく勇者を迎えることができたからだったのかも知れない。

 

 そして、倒れた魔道具の座標は、多分俺を指し、そいつが現れたのは砂漠の向こうの国で、今頃のこのこやってきた。

 誰がどう見ても、俺が間違いではないか。

 

『ふたつの座標って、そんなことになっていたのか?』

『私が関知しているのはシオン様だけです。アレクス様という方は存じません』

 魂がふたつに分かれるとは、どういう状況なのだろう?

 

 アリアの言から推測するに、別れた片方は、もう片方を認識できないようだが。そもそもふたつに分かれたという自覚もないようだ。

 確かに、生まれてすぐに生き別れた双子は、自分が双子の片割れだとは思わないだろう。

 

「そういうことでしたか。私はアレクスと申します。シオン様、偽者だなどと疑って、申し訳ありませんでした」

 そう言ってアレクスは、深めに頭を下げた。

 

 まぁ、若いのに如才ないヤツだな。同じ年頃の俺なら、即殴りかかっているところだ。

「ほんまやぞコラぁ! そのチリ毛毟ったろ…」

 血の気が多い、同じ年頃のヤツがいた。暴れるミスズを抱え上げて、口を塞ぐ。

 

「すまんな、気にしないでくれ」

「そうですか。元気なお嬢さんですが…ん?」

 言葉を切ったアレクスは、真剣な顔で熟とミスズを見つめた。

 

「これは驚いた…。魔法力はリサと互角かそれ以上。よほど神に愛されているようですね」

 そう言うとアレクスは、俺に視線を移した。褒められたのはミスズだが、我がことのように嬉しい。

 

「…シオン様も…詳しくは分かりませんが、不思議な力を感じます。少なくとも只者ではないようですね」

「そ、そうか。ありがとう」

 

 只のお世辞なのか、アリアの存在を察知したのかは分からない。

『どうやらアレクス様は、他者の強さを視ることができるのですね』

『そのようだな』

 

 それが勇者アレクスのギフトということか?

 “彼を知り己を知れば百戦危うからず”とは言うが、そんな地味なのがギフトだとしたら、そこらの喧嘩巧者はギフト持ちということになってしまうぞ。

 

「先着順、というわけでもありませんが、我々は明日出陣の予定ですので、先に行かせて頂きます。もしも我々が失敗したなら、後はよろしくお願いします」

 言葉を切ってこちらに歩き始め、すれ違いざまに後を続けた。

 

「…二の矢が必要だと、思ってはいませんが」

 振り返ってアレクスを見送った後、捕まえていたミスズを降ろす。

「…いけ好かん奴っちゃな!」

 

 面白くないという気持ちは分からないではないが、この世界に来て何度肝に銘じたか知れない名言。曰く、“命あっての物種”だ。

 

「まぁそう言うな。彼らが魔女を討ち果たしてくれれば、彼らは死なずに済むし、俺たちは危険を冒さずに帰ることができるし、いいコト尽くめだ。成功を祈ろうじゃないか」

 

 勇者一行に視線を戻すと、アレクスに続き、俺をそのまま一回り大きくして顔を厳つくしたような、黒髪の巨漢が通り過ぎた。

 背中には車を輪切りにできそうなほどの、巨大な斧を背負っている。

 

 続いて通りかかったのは、袖のない空手着のようなものを着た男。

 道着から伸びた褐色の腕は、鋼のように硬そうだ。帯には三鈷杵のような物を二本挟んであるが、短い杖のように使うのだろうか。

 

『斧戦士と武闘修道士ですね。中々の手練れのようです』

『武闘修道士?』

『近接戦闘と法術の達人です。負傷しても回復しながら攻撃できますから、非常に継戦能力が高いです』

 

 そこでアリアは言葉を切ると、少し躊躇った後、続きを口にした。

『…因みに申しますと、私の父も武闘修道士です』

  なるほど、あの体格の良さはそういうことかと得心がいった。

 

 最後にやって来たのは、ミスズより一回り小さい少女である。

 銀髪金眼、肌は抜けるように白く、俺が以前仕えていた令嬢と遜色ない、規格外の美少女だ。この子が、アレクスが言っていたリサか。

 

「なんやアレ…」

「子供ではないのか? 勇者一行には子供もいるのか…?」

『子供ではありません。あれは若い聖森人です。聖森人は人間のおよそ十倍の寿命を持ちますので、若いと言っても優に百歳は超えていると思われますが…』

 

「百歳! そんな長生きなヤツがいるのか?」

「んぇ? なにが百歳なんや?」

 急に大声を出した俺を、怪訝そうにミスズは見上げた。

 

「あぁいや、イマフさんがな、あの子は百歳を超えてるとさ」

「ほえー、ガキにしか見えんけど、偉いもんやな」

 

 少女は何事にも興味なさそうな顔で、ぼんやりした眼で俺たちの前に差し掛かったが、ミスズに気がつくと眼に光がさした。

 

 瞳が上下の目蓋から離れるほどに見開かれ、金色の瞳には稲妻が輝き、口元には軽く笑みが浮かんでいる。

 

 だが、不意に真顔になって前を向くと、立ち止まりもせず、口を開くこともなく、そのまま通り過ぎていった。

 

「…なんやったんやろ、アレ?」

 ミスズが俺を見上げて問う。それは俺の方こそ聞きたかったことなのだが、ミスズ自身にも意味は分からなかったようだ。

 

「魔法使い同士、なにか感じるところがあったのかもな」

「なるほどなぁ、分かるでぇ。ダバダ~てヤツや。アイツも、違いが分かる女やっちゅうことやな」

 

「それにしても、物凄く綺麗な子だったな」

「ウ、ウチも磨けばあれくらい…」

 

『シオン様、私は見たことはありませんが、精霊種聖森人という存在も居ます。稀に年経た亜人種聖森人が、自らの意思で肉体を捨て、それになることがあるのだとか。こちらの寿命は、ほぼ無限といわれています』

 

 百歳でも充分驚いたのに、更に無限とは開いた口が塞がらんが、魔法があって魔界がある世界なのだから今更だろう。

 自らの意思で肉体を捨てるなんて、まるで即身仏だな。

 

 即身仏はこれ以上死ぬことはないし、管理がよければ寿命も無限と言えば無限か。

『つまり、あの子は亜人種聖森人というヤツか』

『はい。精霊種ほどではありませんが、高い魔法力を持っています』

 

 なるほど、本物の勇者一行の魔法使いとしては、打って付けの人材ということか。まぁ、勇者をして彼女に比肩すると言わしめたミスズも、仲間ながら恐るべしだが。

 

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