萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

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インターネットを知らないのか

「ほんで、おっちゃんもダンプに轢かれたん?」

 魚を小動物のように両手で持って食べながら、大きな眼をきょろりと向けてミスズが言った。

「ダンプ…? いや、そうじゃなくて…」

 

「ウチが薬草採ってたら、おっちゃんがビューって、金色に光って落ちてきたんや。ほんでな、追っかけてたらあっこの岩にガーンてブチ当たって、岩の裏へ落ちたんや! ほたら、偶然なんか知らんけど、ちょうどウチが住んでるとこやってん。なぁ、どやってここ来たん?」

 

「どやってと言われても…」

「ほたらおっちゃん、ギフトってなにもろたん? ウチのは“宵越”っていうんや。ギフト言うてもお歳暮とちゃうからな? んはは」

 質問のたびに、しゃがんだままミスズは、にじにじと距離を詰めてきた。

 

 質問されるたびに頭の中にハテナが重なり、逆に後ずさる俺。

「ちょっと待て! いっぺんに聞くな」

 ついに爆発した俺は、ミスズの顔をアイアンクローのように掴んで押し戻した。

 

「とと、ごめんなぁ。日本語で話すの久しぶりやさかい、がっついてしもた。ウチはあっちでダンプに轢かれて、死んだと思ったら金色の光にくるまれててん。んでから、いつの間にかこっちに来てたんや」

 

「なるほど。だから俺にも“ダンプに轢かれたのか”って聞いたのか」

 得心が行った俺は、胡坐を組み直して頷いた。

 

「せや。おっちゃんもウチと同じ、金色の光に包まれて落ちて来たんやで。あっちの空から、びゅーんって」

 軌跡をなぞるように、空を指差す。

 

「ウチと同じことが起こったんやって思うやん?」

「まぁそうだが。俺の場合は、悪ガキを殴っていたら頭の中に女が現れて、声が聞こえてきた。なんと言われたのかは分からないのだが、急に気分が悪くなって、ふらふら歩いていたら目の前が暗くなった。で…」

 

 言葉を切って地面を指差す。

「気付いたらここだ」

「なかなか豪気やなー」

 

 なぜか眉間にしわを寄せるミスズ。

「まずな、間違えんといて欲しいんやけど、その女とやらはウチやないで? 確かに誰かが来るんを待ってたけど、おっちゃんをこっちに呼ぶようなこと、ウチにはできひんからな?」

 

「頭の中に現れた女はミスズさんじゃないから、そこは疑ってはいないよ。しかし、俺は金色の光に包まれた記憶もないから、その記憶があるミスズさんの場合とは、ずいぶん違うな」

 むしろ違いすぎるほどの違いで、まったく接点が見つからない。

 

「もしかしたら、ウチはあっちからほり出された感じやけど、おっちゃんはこっちに呼ばれたって感じやないかなぁ。知らんけど」

 ミスズのその言葉は、すとんと腑に落ちた。

 

「…なるほど。色々違うが、そこが一番の違いか」

「そやな。ぜんぜん、違うわなぁ…」

 

 判りやすく肩を落とすミスズ。俺の言葉のどこに、がっかりする要素があったのだろう?

「違うと、なにか都合が悪いのか?」

 

「…ウチはあっちに生きて帰りたいんや。絶対に。せやから、ウチと同じように、こっちに来るヤツをずっと待ってたんや」

 言葉を切って、俺の方に顔を向ける。

「…おっちゃんがウチと同じようにして来たんやったら、帰る方法も分かるんちゃうかなって、思うたんやけど…」

 

「ああ、そういう…」

 俺は何も言えなくなった。

 そもそも、俺には“死んだ”という実感はない。

 

 だから多分、生きたままこっちに来たのだろう。

 仮に、俺が帰ることができたとしても、死んでこっちに来たミスズは、俺と同じ方法で、生きて帰ることができるのだろうか?

 

「うーむ…」

 落胆したミスズを眺めつつ、所在無げにボリボリと頭を掻くしかなかった俺だが、とあることに気づいた。

 

「ミスズさん、がっかりするのはまだ早いぞ。考え様によっては、新たなサンプルができたって事でもある!」

「…サンプル?」

 

「つまりミスズさんと俺は、二種類の違う方法で来てしまったわけだ。だったら、帰る方法も二種類あるかも知れないだろう?」

 ミスズの顔がぱっと輝いた。

 

「せやな! おっちゃん、めっちゃカシコやん!」

「だが、その方法をどうやって探せばいいのかが分からん」

 

「なに言うてんねん。おっちゃんを呼んだ女探して、なんで呼んだんか、なにをさせたいんか聞いたらええやんか!」

 

 確かに、わざわざ異世界から呼ぶくらいだから、呼んだやつが到着しなければ、どこに行ってしまったのか探すはずだ。

“行方不明だけど、まぁいいや”で済ませることではないだろう。

 

「ああ、それで依頼をこなしたら…」

「送り返してくれるはずや!」

 互いに相手を指差して、なぜか少し悪い顔になった。

 

「…おぉ、無理のない計画…だが、依頼というのがわからんな」

「おっちゃん、悪者をどついとったときに呼ばれたんやろ? せやったらやることは決まってるわ。ズバリ正義の味方や!」

 

「正義の味方…!」

 男子なら誰でも心が浮き立つ言葉だ。

 

「ほんで、ウチも手伝うたら、一緒に帰してくれるはずやん? わざわざ他所から呼ぶようなヘタレ揃いやし、帰してくれんかったらシバくぞ言うて、居直ったったらええねん!」

 

「正義の味方…?」

 浮き立った心に“疑問”という名の杭が刺さったが、俺の疑問などどこ吹く風で、頬を上気させるミスズ。

 

「ミスズさん? 重要なことなんだが、この辺りで”正義の味方”などを呼びそうな国はあるか? 要するに、悪いやつに攻められているとか、そういう困りごとがあって、俺を呼びそうな国だが…」

 

「…うーん。ウチ、この国のこともよう知らんし」

 考え込むミスズ。

「ごめんなぁ。知ってそうなふいんき出してもうて」

 

「いや、気にしないでくれ。テレビもネットもない世界のようだし」

 向こうの世界でも、殆どの情報はテレビやネットから伝わる。それらが無ければ、隣の国の一大事だって分からないものかもしれない。

 

「おっちゃん? ネットってなんやの?」

「インターネットを知らないのか。…えーと、物凄く説明しにくいが、簡単に言うとテレビの凄いヤツ、だな。世界中の誰でも出られるテレビで、色々なことが学べるが、嘘と本当がごちゃ混ぜに放送されている、使い方の難しいテレビだ」

 

 インターネットの説明をしている間に、俺は“あのこと”に気付いた。ネットでも、ただ目立ちたいだけの奴が居たりするじゃないか。あれを真似すればいいのではないか?

 

「はー、ウチがこっち来てる間に、なんや凄いモンができたんやなぁ」

「使い方次第では、凄く便利なものだ」

 

 言葉を切った俺は、先ほどの気付きを伝えた。

「ミスズさん、ふたりで色々目立つことをしていれば、口伝えで、呼んだ人とやらの耳に届くんじゃないか?」 

 

「そ…そやな! ふたりってのがエエな! ひとりじゃないって素敵なことやん!」

 瞳をキラキラさせるミスズ。

「なんやろ、こんなワクワクすんの、こっち来て初めてや! おおきにな、おっちゃん!」

 

 うまくいくとは限らない。

 だが、自分の存在が、この少女に笑顔を与えたのは事実だ。

 向けられた笑顔を、俺は面映い思いで見つめた。

 

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