萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

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第五十二話 相手にとって不足はないっちゅーヤツや!

「おまっとさーん! いっくでえぇ!」

 帰ってきたミスズの左手のひらから、極太の炎が発せられ、動死体の塊を焼いた。

「もういっちょう!」

 

 ボクシングのワンツーのように、間髪を入れずに右手から炎を出した。それは最初の炎で脆くなった場所を直撃し、動死体の塊が弾けた。

「おお、連発も出来るのか!」

 

「よっしゃあ!」

 思わずガッツポーズをとるミスズ。

 

 ミスズが穿った穴に風が吹き込み、その中心に居る人影の銀髪が靡いた。そこに抜け目なく蠱龍が突入する。

「おっ、タイミングを計っていたな」

 

 少なくとも犬猫以上の知能はあると思っていたが、もしかしたら人間並みか、それ以上なのかもしれない。龍だしな!

 

 蠱龍は魔女に肉迫したが、奥から巨漢の動死体が緩慢な動きで現れ、携えていた巨大な斧を振り下ろした。

 

ガイィィィィン!

 

 火花を散らして、真正面から両者はぶつかった。巨漢はよろけて後退し、蠱龍は弾き飛ばされた。

 

「ひゃあ、あのおっかない砂ちんちんをいてもうたコリュンを打ったんか。ボテボテのゴロやけど、なかなかやるやんあのでかいの…って、あれ金髪チリ毛の仲間ちゃうん?」

 偶然“ノリ突っ込み”のようになったミスズが叫んだ。

 

 まさしくそうだ。あの巨漢は、五日前、勇者アレクスと一緒に旅立った斧戦士に違いない。あいつも動死体にされてしまったのか。

 

『それだけではありません! 一瞬見えたあの影は…』

 アリアの言うそれは、ミスズよりさらに小柄で、一瞬あらわになったものの、すぐに巨漢の動死体が隠してしまった。

 

「なんやちっこいのんが見えたな。なんやアレ」

「子供ではなかったか? 魔女は子供なのか?」

『違います、アレは聖森人の…』

 

 取り乱したアリアが、前に進み出る。

「…わかったで、あの女や! 金髪チリ毛と一緒におった、あの女や!」

「なんだって? リサとかいう、あの女が魔女だったのか?」

 

「現にあっこに居るやん!」

 ミスズはこぶしで手のひらを打ち、後を続けた。

「あん時のアレは、こーなるっちゅーことやってんな?」

 

 あの時のアレとは、城門で眼が合ったときのことだ。

「…本当にそうなのか? アレクスの仲間については、大神官が身元調査をしたと言っていたが…」

 

『分かりません。…分かりませんが、今は!』

 その通りだ。魔女が誰であろうと、攻撃してくるなら敵だ。選択肢は“倒す”か“倒される”かしかない。

 

 そして選択すべきなのは“倒す”だけだ。

「聞こえたかミスズさん!」

 

「あぁ、よう知らんけど聖森人やて? 相手にとって不足はないっちゅーヤツや!」

 ぺロリと舌を出して唇をなめた。

「ワレに恨みはないけど、長いこと溜め込んだウチのなんだかんだ、ぶつけさしてもらうでぇ!」

 

 “恨みはない”確かにそうだろう。

 そしてミスズには、この国に思い入れはない。恩義もない。

 

 むしろ魔女の存在は、ダンプカーに轢かれて死ぬはずだったミスズが、こちらの世界に来ることになった原因であったのかもしれない。

 

 ならば自分が今、生きていられるのは、魔女のお陰なのではないか。

 自分には、魔女を倒す理由はないのだと、ミスズは気付いていたのだ。

 

 俺は神官たちが明確な意思を持ってこちらに呼んだ。

 ならばミスズも、誰かの苦しみが、怒りが。そういった不明確な意識が、自分に何かをさせようとして招いたのではないか。

 

 敵でもあり恩人でもある相手に、恨みではなく恩義でもない理由で戦いを挑む。

“ワレに恨みはないけど、長いこと溜め込んだウチのなんだかんだ、ぶつけさしてもらうでぇ!”

 

 それは、言葉にしにくい意識が綯い交ぜとなった、感情の発露であっただろう。

「お待ちかねのぉ、魔法の時間やぁ!」

 叫んで“棒”を魔女に向けると、ビームのような炎が伸びた。

 

「知ってるで! なんぼ魔法抵抗力ちゅんが高ぅても、これは防げひんのやろ?」

 炎ビームを食らった動死体は、鎧はびくともしなかったが、そこからはみ出した手足や頭が蒸発した。胴体入りの鎧が、硬い石の床にゴロンと転がった。

 

「んっはは。見たかや! オロクは焼いたるのが供養や!」

 こぶしを突き出してミスズが叫んだ。

「まあその通りだが、凄いこと言うなぁ」

 

『死者は生き返りませんから、ミスズ様の仰る通りです。死んだ直後ならまだしも、時間が経つと身体はどんどん腐り、壊れていきます。そうなったら私にも、恐らく誰にも蘇生は出来ません!』

 

「どんどん焼いてくでぇ!」

 

 ミスズが魔法屋に行って、こちらの攻撃が手薄になったのを察知してか、動かなくなった動死体を踏みしだきながら、件の巨漢が突撃してきた。

 ドスドスという振動が伝わってくる。

 

「走る動死体か、もっとそれらしく振舞えよ…」

 動死体と言えば、呻きながらフラフラ歩くのがお決まりだが、流石勇者の仲間とでも言うのか。やはり一味違う。

 

 走り寄ってきた巨漢は、その勢いのまま斧を振り下ろした。

 俺はそこに、直角に交差するように剣を打ち込んだ。

 

ガイィン!

 

 蠱龍のときと同じように、巨漢はよろけて後退し、俺はたたらを踏んで前進した。

 同じ石によるものかは分からないが、この剣と蠱龍は、同程度のテーテクカとカンセイギヨの能力を持っているようだ。

 

 真っ向からぶつかれば圧し勝つことができるというのは朗報だが、向こうは完全ナチュラルパワー、こちらは下駄を履かせてもらっている状況。

 対応を誤れば、戦いの天秤はすぐに不利に傾いてしまう。

 

 “重くて硬い剣”は“合”の瞬間に重く硬くなる剣だ。

 なので、攻勢時は剣を振る速さに重さが加わり、相手の得物を弾き飛ばすことができるが、守勢時は単に重い剣として俺の身体に圧し掛かってくるのだ。

 

 立ち直った巨漢が、再び斧を振り下ろしてきた。こちらも同じように剣を合わせる。

『強力殺!』

 

ゴイン!

 

 アリアの強力殺のお陰で、さっきより楽に斧を弾くことができた。

 立ち直った巨漢が、再び斧を振り下ろしてきた。

 こちらも同じように剣を合わせる。

 

ゴイン!

 

 巨漢はさっきとまったく同じ攻撃を繰り返した。

『んん? この野郎、こっちが疲れるのを待つつもりか?』

 疲れ知らずの動死体なら、ありえる戦法だ。

 

 立ち直った巨漢が、再び斧を振り下ろしてきた。

 相手が何かをしようとしていても、受けないわけにはいかないので、こちらも同じように剣を合わせる。

 

ゴイン!

 

『軽い?』

 その攻撃は、先刻までのものより格段に軽かった。

 

 そのせいで身体が泳いだ俺は予想外に前進し、弾かれるのを予測していたであろう巨漢は、勢いを利用して身体を捻り、横薙ぎに斧を繰り出してきた。

 がら空きの胴に、巨大な斧が迫ってくる。

 

『野郎、動死体のクセに頭使ってんじゃねぇ!』

 理不尽な怒りを覚えつつ、なんとか姿勢を立て直そうとする。

 

 いくら通常は軽いとは言え、体勢を崩しているので剣を引き戻すことは難しい。とっさに身体を捻って腰の予備剣で受ける。

『豪金剛!』

 

ゴッ!

 

 防御力を上昇させる豪金剛のお陰で持ち堪えた。アリアの手助けがなければ、受けた剣ごと両断されていただろう。

 

 巨漢が斧を引き戻そうとしたとき、予備剣に新しく入れたアプリが光を発した。また三つの光が出ているが、例によって意味不明だ。

「なんだか分からんが、俺を助けろ!」

 

 光がひとつになった。何かが起こったはずだが、まだわからない。

「…ウゴ? …ガァッ!」

 

 巨漢が斧を押し引きするが、どういった塩梅か、剣に吸いつけられているようで離れない。よくやったぜアプリちゃん! 

 …と褒めてやりたいところだが、俺も斧と一緒に力任せにシェイクされている。

 

 この間に姿勢を立て直そうと試みたが思うに任せず、無理して後ろにいる巨漢を剣で突こうとしたところ、刀身を掴まれてしまった。

『くっ。やはり、やんわり掴まれると石は作動しないか…』

 

 鞘の中で誤作動する可能性があるから、それは仕方がない仕様だろう。

 互いに相手の武器を封じた姿勢での鍔迫り合い、というか小競り合いだが、圧倒的に俺のほうの体勢が悪い。

 

 アリアは続けて法術を使ったせいで、一種のオーバーヒート状態になっており、冷却中のようだ。ミスズは魔法屋に行ったままだし、俺はギリギリと巨漢に力と体重で圧されて、膝と腰が悲鳴を上げている。

 

『こいつは、ヤバいぜ…』

 強力殺と豪金剛かけてもらって、その上アプリの助けと反則級の武器を使ってこの体たらくか。情けないにも程がある。

 

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