萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

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第五十三話 生きて帰れたらそうしよう

「オゴッ…!」

 巨漢がびくんと痙攣し、同時に胸の中心から血を吹いた。

 

「うぉ! なんだ…?」

「グゥオオォ…」

 呻きながら俺の横を通り過ぎた巨漢、見ると背中の真ん中に蠱龍が突き刺さっていた。

 

 鍔迫り合いになって動きを止めた巨漢を、これ幸いと貫いたわけか。まったく頼りになるヤツだ。

 

 蠱龍は六本の脚をワキワキ動かして抜け出すと、さっさと戦線に復帰した。背骨を断たれた巨漢は、数歩歩いたところでぐにゃりと曲がって、その場に倒れて動けなくなった。

流石に動死体でも、背骨は弱点なのだろう。

 

「…悪いな正々堂々タイマンとか、拘っている場合じゃないんだ」

 一度会ったきりの名も知らぬ巨漢に感傷など湧きはしないが、多少の罪悪感を覚えつつ、俺もまた戦線に復帰した。

 

「燃えてまえぇぇ!」

 ただの村人のような動死体の群れを、魔法屋から戻ってきたミスズの爆炎が吹き飛ばすと、豪華そうな鎧を着た動死体が数体現れた。

 

『鎧を着ているのは、恐らく魔女討伐に向かった方々と思われます。先ほどの方同様に、返り討ちに遭って、動死体にされてしまったようです』

「動きは遅いが、めちゃくちゃ硬いってわけか」

 

『それだけではありません。彼らが着ている鎧は、魔女対策がされた、魔法抵抗力の高いもののはずです。いかにミスズ様の魔法でも…』

「んっはっはー! 嘗めたらあかんで! ウチかて捨てたもんやないからな!」

 

 魔法を買いに行ったらしく、ミスズの動きが止まった。

 この時間は詠唱よりははるかに短いが、眼が開いているだけで何も映っていないらしく、完全に意識が飛んで無防備になる。

 

「そうだぞ、アリア。ミスズさんは凄いんだ」

『は、はい。申し訳ありません』

 

 そんな会話をしている間に、重鎧集団がジリジリと近付いてきた。その中心には、柔道着のような着物を着た男。

「やっぱり出たな、今度はあの武闘修道士かい…」

 

『破魔魂聖!』

 俺たちの周囲に半透明のドームが形成された。

 俺には、あの数の鎧集団を捌くのは無理だ。

 

シュゴゴァアァ!

 

 重鎧集団に向かって、蠱龍が高温ガスを噴射した。高温ガスは魔法ではないので、いくら魔法耐性が高い鎧を着ていても防げない。数体の鎧騎士の身体が燃え上がったが、彼らはもがくこともなく歩き続け、中身が焼失した鎧が転がった。

 

 その間も集団自体は接近し続けた。

 少し距離をとった蠱龍がホバリングを始めた。恐らく同じ攻撃を仕掛けるために、例のガス的なものを体内で精製しているのだろう。

 

 武闘修道士が変なポーズを取ると、半透明のドームが瞬時に広がった。アリアが使ったものと同じ、魔法防御の破魔魂聖だ。

 そこに蠱龍が二度目の攻撃を仕掛けたが、高温ガスはほぼ完全に防がれてしまった。

 

「動死体のクセに、魔法まで使うのか!」

 動死体になっても流石勇者一党、先ほど蠱龍に焼かれた雑魚重鎧騎士とは明らかに違う。

 文字通り腐っているが、腐っても鯛というわけだ。

 

 買い物が終わって、ミスズが動き出した。

「戻ってきたでぇ! なんやあいつら、えらい近寄られてるやん!」

 

 素っ頓狂な叫びを上げて、熱線を打ち込む。それは武闘修道士の破魔魂聖によって八割は拡散したが、残り二割は内部を焼いた。

 結果を確認する前に、ミスズは再び魔法屋に行った。

 

「焼かれながら近付いて来るのが、実に不気味だな…」

 はっとした顔でアリアが叫んだ。

 

『いけません。破魔魂聖同士が触れ合うと、繋がってしまいます!』

 なんと、そういう仕様になっているのか。

 

 敵味方の破魔魂聖が接触するなんて状況は滅多にないだろうし、味方同士が接近したら繋がった方が便利だろってことで、こういう仕様になったんだろうが、便利なんだか不便なんだか分からんな。

 

 奴らがただ無策で近付いてくるわけはないと思っていたが、破魔魂聖のドームを繋げて無効化する作戦だったとは。

 

 繋がった穴から、がちゃがちゃと重鎧騎士が踏み込んできたので、重くて硬い剣で力任せに押し戻す。穴はそれほど広くないため、押し戻された重鎧騎士が、破魔魂聖の壁に触れて焼滅していく。

 

 武闘修道士は自分が張った破魔魂聖の奥に収まって、障壁を保持している。雑魚は動きが動死体特有の緩慢さで、さっきの巨漢と違って、普通のそれなのはありがたい。

 

「おあ! まだ攻め込んで来とんのか!」

 魔法屋から帰るなり叫ぶと、ミスズは正面に向けて棒を構えた。

「おっちゃん、上手いこと避けてや! 焼けてもうたら泣くで!」

 

「オッケーミスズさん、遠慮せずにやれ!」

 繋がった穴に、ミスズがさっきよりも太い炎ビームを打ち込んだ。

 継ぎ目で奮戦していた俺は、焼かれる直前に踵を返し、ミスズの足元に転がり戻った。

 

 それと前後して武闘修道士は、両手の三鈷杵を前に出して、破魔魂聖を張るべくさっきと同じポーズを取った。

 しかし、なぜかドームは展開されなかった。

 

「…ウゴ…?」

 自分の身に何が起こったのか、分からなかったのだろう。焼滅する刹那、武闘修道士は戸惑いの表情を浮かべたように見えた。

 

 ミスズの炎ビームは、ノーガードの武闘修道士と重鎧騎士を焼き焦がし、その後に続く雑魚動死体をも消し炭にした。

 後には赤熱した三鈷杵と鎧、焼け残った身体の一部が残った。

 

「えぇ…? なんでだ?」

 武闘修道士は、どうして破魔魂聖を張らなかったのだろうか?

『あの方は、お祈りを欠かせてしまったようですね…』

 

「…あぁ、そういうことか!」

 アリアが言っていた、“得てして、とても大事な局面で使えなくなったりする”というのが、実際に最悪の。俺たちにとっては最高のタイミングで起こってしまったようだ。

 

「いくら魔法が使えても、脳が腐ってしまったから、毎夜のお祈りもままならなかったってことか…?」

 

 目の当たりにすると、突然梯子を外されることのヤバさがよく分かる。自戒して、今後お祈りは欠かさないようにしよう。

 生きて帰れたらそうしよう。

 

 ここで戦い始めてどれくらい経つか忘れてしまったが、倒しても倒しても、魔女に召喚された動死体が湧いてくる。

 

 ミスズは直線的に飛ぶ普通の魔法攻撃に加え、時折風を纏わせた赤い石を魔女の死角から打ち込んでいたが、動死体が組み体操のように積みあがって壁を作り、それらを防いでしまう。そのため、魔女まで攻撃が通らないのだ。

 

「けっこう、疲れてきたな」

 本来ならこの部屋の前で休憩時間も、意を決する暇も欲しかったのに、そのままボス戦に突入してしまった。戦闘回数自体は多くなかったが、緊張を強いられてきたので、疲れが溜まっていたのだ。

 

 準備不足での最終決戦は、魔女にとってもそうだったと思いたい。でなければ俺たちが不利に過ぎる。

 

『この人たち、どこから出て来るのでしょう?』

「まぁ、人だがな。さぁて、どこだろうな」

 

 冒険者姿の動死体は別として、村人姿の動死体は、墓場から無理やり起こされた死者なのか、魔女によって人生を断たれた生者なのか、それは分からない。そんなことに関係なく、焼くしか救いがないのだから、とことん救いがない。

 

「ウチの魔法力はまだまだ残ってるけど、おっちゃんはおっちゃんやしキツいやろ。そろそろ限界ちゃうか?」

「あぁ、ひとりで走り回るのは、しんどいな。歳だしな!」

 

 アプリを入れて剣を振って魔法石を投げて、八面六臂の活躍だぞ俺。勝って帰ったら、存分に褒めてもらいたいものだ。

 …冗談はさておき、俺よりも、いつ消えてしまうか分からないアリアが心配だ。

 

 三人で手一杯なのに、そこからひとり欠けてしまえば敗北は免れないが、それよりなにより、消える前に国が救われたことをアリアに実感させてやりたい。

 国のために身を捧げた気高き聖女の魂に、安らぎを与えたい。

 

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