萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部   作:戸ケ苫 嵐

59 / 60
第五十八話 俺の、相棒になってくれないか?

「…しかし、なんだ。ギリギリの勝利と言うか、”最終的にパーティが、乗り移りてきない者だけになる”なんて酷い勝利条件、普通は満たすの不可能だぞ?」

 

「ですから“異世界の人”を頼ったのでしょうね。“頭に他人を宿した者”なんて、普通は居ませんから」

 そんなヤツ、俺の世界にだって普通は居ない。

 

 仮に、動物とかロボットなど、人間以外のものに倒しに行かせたらどうなったのだろう? そいつらは無視して、やはり一番近い人間の所に乗り移りに行くのだろうか? 

 

「だが、殺すと乗り移られる敵なんて、そうは居ないだろう? そんな敵が居たら、記録に残るはずだろうし。俺より前の召還者は、何のために呼ばれたんだろう?」

 アリアは少し考える素振りをして、すぐにこちらに顔を向けた。

 

「恐らく、純粋な戦力として望まれたのだと思います。もうひとりの勇者のような異世界人の、この世界の理に縛られない“爆発力”のようなものが必要とされたのでしょう」

 もうひとりの勇者とは、アレクスのことだろう。

 

「理外の爆発力か…」

 確かにミスズも、規格外の魔法使いだったなと得心した。魔女があんな仕様でなく、只の死人使いだったなら、ミスズの爆発力で簡単に倒せていたかもしれない。

 

 アレクス本人の実力は推測するしかないが、恐らくアレクス隊もそうだったろうし、俺の出番はなかったはずだ。

 

「今回、私がシオン様の世界に飛ばされたのも、シオン様の頭の中に宿ったのも、恐らく偶然なのです。儀式の最中に騒動が起きて、ふたつの転移装置の座標同期が狂い、本来飛ばされるべき場所ではないところに…」

 

「そうだろうな。本来なら、俺なんかに回ってくるお鉢じゃないし、やり遂げられるはずもない。すべてはこの世界にミスズさんが居たからだ。やっぱり勇者はミスズさんだ…」

「そうですね…」

 

 納得しかけたアリアが、慌てて付け加える。

「いえ、あの! シオン様の功績も比類なき物で…!」

「はは、ありがとう」

 

 何かと実力不足を感じるが、今回の敵に限っては、俺でなければ倒せなかった。少しは自分を褒めてもいいと思った。

 

 主を失った洞窟に、ふたりの足音だけが響く。 

「帰ったら大神官も大変だな。死んだはずの娘が、聖森人になって帰ってきて、しかも元魔女だなんて」

 

 しんみりした空気を変えようと、俺は冗談めかして言った。

「ああ、確かにそれは…大変です…」

 

 まっすぐに受け取って、言葉を失うアリア。実際、アリアにとっては、冗談で済む話ではないので軽率だった。

 

「まぁ、戦利品もたくさんあるから、魔女を倒したってことは信じてもらえるだろう。魔女の真実は誰にも話さないか、大神官にだけ伝えればいい…」

“大神官”というワードで、俺はあのことを思い出した。

 

「出掛けに大神官と交わした言葉で、アリアが健在であることを証明できないか?」

「あれ、ですか。なぜ家宝と知っていたか…」

 

 恐らく偶然だろうが、もしかしたら、あのとき口を滑らせてしまったのは、こうなるという予感があったからかも知れない。

 

「そう言えば、ダンコフの城に着いてすぐ大神官に会ったが、あのとき“あなたの娘アリア”と言った気がするな。紹介もされていないのに、なぜすぐに大神官と分かったのか。あれに違和感を抱いてくれていたら、非常に都合がいいんだが」

 

「確かにそうですね。でも、そうでなくてもお父様ならきっと信じて下さいます。…ただ、この身体の知り合いが居たらどうしましょう?」

「アリアは心配性だな」

 

 そうは言ったものの、確かにそれは問題だ。

 そもそも、俺たちは魔女の正体を知らずに来た。国の命運を背負った俺たちが知らないのだから、殆どの人間は魔女の生態を知らないはずだ。だから、俺たちが言わなければ、アリアは元勇者パーティの聖森人リサとして生きていけるだろう。

 

 だが、リサの関係者が居たとしたらどうだ。パーティメンバーは全員死んでしまったが、他にも知人くらいはいるだろう。

「…シオン様?」

 

 考え込んでしまった俺を心配して、アリアが問いかけた。

「ああ、えっと、アレだ。記憶喪失で通すしか…」

「えぇ…」

 

 アリアは苦笑いして絶句した。

「シオン様は元の世界に戻られるのですから、心配させてはいけませんね。父も居ますし、なんとかなります。ふふ」

 

「…俺は帰ることができるのかな?」

 できてもできなくても、どちらでも良かったが、話の流れで聞いてみた。

「それは…それがお望みなら、そのように…」

 

「そうか」

 俺はいったん前を向いたが、ふっと気になり、アリアに向き直った。

「ちなみに、どうやって帰すんだ?」

 

「お呼びしたときと同じです。乙女をひとり、生贄にします」

 言葉を切ったアリアは、軽く自分の胸に触れた後、言葉を続けた。

「この身体が乙女であれば、私がそのお役目を仰せつかると思います」

 

 あまりにも簡単に発せられたアリアの言葉に、一瞬理解が追いつかない。

「…は? なんだって? 俺が向こうに帰るには、アリアが犠牲にならなくちゃいけないっていうのか?」

 

 俺は、細い眼を極限まで見開いた。

「そうです」

「そうですって、お前、そんな簡単に、ふざけるなよ…!」

 

 眩暈がしそうだ。

「別にふざけてなど…」

「だって、死ぬのだろう? せっかく身体を貰って生き返ったのに、また死ぬのだろう?」

 

「それは、そうですが。シオン様はこの国の、この世界の恩人ですから、不義理は許されないことです」

 アリアは、ここまでを俺の眼を見て言い、俯いて後を続けた。

 

「…それに、これは魔女の身体ですし…」

「お…」

 言葉を失った俺は、床の石畳を思い切り踏みしめた。そして吐き出すように言った。

 

「…はっきり言うぞ、俺は帰らない!」

「えっ…?」

 アリアは驚き、慌てて顔を上げた。

 

「俺は元々、それほど帰りたいとは思ってなかったんだ。だから、アリアを死なせてまで…いや、アリアじゃなければいいってわけでもなくて。要するに、誰かを犠牲にしてまで帰る理由なんか、俺にはないんだよ!」

 

「で、ですが、元の世界でミスズ様がお待ちになっているのでは?」

「…ミスズさんとは、そんな関係じゃない。あの子のことは大好きだし、命よりも大切に思っていた。だが、向こうに帰ればただのおっさんと若い娘だ」

 

 頭皮に急速な痒みを覚えた俺は、言葉を切って頭を掻いた。

「…俺はただ、あの子だけでも無事に帰すことができれば、それでよかったんだ」

 

 最初は変な女の子だと思っていたミスズが、その人生を知るにいたって尊敬するようになり、最後には崇敬の対象のようになっていた。

 

 もしも向こうでミスズに会ったら、俺は自分を抑えることができないだろう。力尽くででも妄想を実現させようとするに違いない。

 だから、俺はもうミスズには会わないほうがいいのだ。

 

『…ごめんよ、ミスズさん。俺は帰らないけど、彼と幸せにな』

 仮にミスズが生き残っていたとしても、誰かの命と引き換えにしてまで帰りたいとは言わないだろう。だから、俺の気持ちは分かってくれるはずだ。

 

「整理するから、ちゃんと答えろよ」

 念を押してから、咳払いをひとつ。

 

「俺を帰すために、アリアは死ぬつもりだったんだよな?」

「は、はい」

 

「ということは、俺が帰らなかったらアリアは死ななくて済むんだよな?」

「えっ? …はい」

 

「ということは、アリアの命は俺のものってことだよな?」

「は? はい?」

 

「正直に言うぞ。…俺は二度も相棒と守るべき対象を失って、とても寂しいんだ。強制はしない。ここ、大事なところだからな?」

 アリアに念を押して、俺は息を整えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。