彼は信号無視で走る車の脅威から犬を助け、己の生を終わらせてしまう。
けれども次に彼が目を覚ました時、目の前には神……ではなく天使が居て、なんでもは無理だけど、可能な限りひとつだけ願いを叶え、転生させてくれるという。
そこで彼が願ったこととは……!?
そんな小さな、肉好きのサラリマンのお話。
個人的に1.25倍速で見るのがテンポがいい感じ。
リアル視聴した時は、グウウ~~~~ッ! となんか動きが、というかテンポが遅い感じがしたので、ネフリで見た時にそんな感じに落ち着きました。*1
では0話の感想! ……森川さんの地獄の断頭台の声が素晴らしかった……!
ギキィイイキキキキキキッ!! ドゴォッシャアッ!!
「ウギャアキン肉マーーーン!!」
道路で轢かれそうになった犬を、テリーマンのように……は無理だから、普通に掬って投げるような動作で助けた途端だった。
俺の体は「ヘイヘーイ!」とばかりにチョーシに乗って爆走していた信号無視スポーツカーによってベゴォと弾き飛ばされて、地面に落ちて、潰れた。
驚いたのは、車に激突した時の痛みより、地面に……アスファルトに激突した時の方が痛みが強いって感じだこと。
「……ゲボッ!」
しかし超人レスリングを愛する者、地面に落ちたのならフェイバリットホールドをぶつけられた時のようにリアクションを取らねば、と、わざと咳き込んでみたらマジで吐血してビビった。
だ、だがまだだ~~~~~っ! 当然のように轢き逃げしやがったクズどもを地獄の淵に叩き落すまで、お、俺は死なん~~~っ!!
「火事場のっ……クソ力~~~っ!!《ズキーン!》オギャワァーーーッ!!」
ぁダメだわ、これ力入れるどころか体の向きを変えることさえ無理だわ。こうなったらどうしようもねぇわ。大人しく病院送りにされるしかねーわぁ。
なので、いろんな人が騒いで近づいてきて、こちらを労わる声をかけてくれる中、俺は「ネバー……ギブアップ…………」と呟いて、意識を落とした。
───……。
……。
───気づけば、真白な世界に居た。
「オ、オオ~~~ッ! こ、ここは~~~~っ!!」
……どこだろ。とりあえず肉チックに驚いてみた*1けど、見覚えなんぞありはしない。
「ここは天使が仕切るあの世とこの世の境目です。雨露田朝顔さん」
「ヌァンーーーーッ!!」
誰か居るとは思わなかったため、わたしは大変驚きました。なんかギロチンキングに即攻仕掛けられたロビンマスク*2くらい驚いた。
ちなみに雨露田朝顔は俺の名前だ。
うろた・ともかお*3、と読む。新学年の挨拶のたびに間違われてきたが、あさがお、ではない。
「己の命を賭して、他の命を救ったあなたに褒美をあげたいと思います。といっても、他の世界への転生は決まっていて、元の世界には帰れません。その上で、欲しい能力、褒美などがあれば、ひとつだけ、可能な限りを叶えましょう」
「転生!? なんとまあ……こんな一般肉男子な俺でいいのですか!?」
「よいのです(……に、肉男子?)」
「オ、オオ~~~ッ、なんと心のやさしい~~~っ!」
「さあ、なにを望みますか? 神様ではなく天使であるため、神様のように『なんでも』や『強すぎる』力、装備などは不可能ですが……」
なんでもは無理だけど、多少の無茶は出来る……グ、グウウ~~~ッ……! ど、どうすればいいのだーーーっ! そういうのが一番悩むというのに~~~っ!*4
「ち、ちなみに聖剣エクスカリバーをください、とかは……? ほ、ほらっ、あれって神っていうか妖精がどーとか……」
「昨今、とあるゲームが原因で妙に神聖さが増している所為で無理です。以前でしたら最終装備よりちょっぴり弱い武器、程度の認識で、ぽんぽん渡すことも出来たのですが」
「おのれ型月」
いや好きだけどさぁ! 俺も運命の滞在の夜とか大好きだけどさぁ!
ウムムムーーーッ、つまりはあれらで出るような神話級なものとかは無理ってことか……! じゃあ?
「あ、あのー……じゃあ片っ端から訊いてみますんで、平気なものを教えてもらえますか? その中から選ばせてもらえたらと」
「なるほど、もちろんいいですよ」
にこりと笑うと、天使の金髪のねーちゃんは頷いてくれたのだった。
……。
で。
(………………やべぇ)
訊いてみたことの悉くがだめだった。
それは無理ですが多すぎるんだよこの天使様! いやそりゃケッコーな無茶を承知で言ったけどさぁ! いやそもそもキン肉マン知らないんですよこの天使様! なんで!?
「あ、あの……じゃあ逆に、どんなことならOKで……?」
「え……そうですね。たとえば少しの時間、転生先とは違う別の世界へ飛んでみる、とかは可能です。もっとも、そこで手に入れた武具などを持ち帰ることは出来ませんが、そこで異世界というものを知って、心の準備を恩恵とする方もいらっしゃいましたよ」
「心の準備…………ナルホド! じゃああのっ!」
「……決まりましたか?」
天使のねーちゃんはとてもやさしい笑顔で語り掛けてくれる。結構長い時間ごねているのに、やさしいお方だ。
そんな彼女に俺は、とある世界への転移を恩恵とし───旅立つことを受け入れたのでした。
───……。
……。
───それは……とある日とある場所。
何処にでもあるようなフツーのお外の蛇口にて、たわしを片手にデッケェ物を磨かんとする一人の半裸男が居た。
「す、すいませんっ! どうかお願いを聞いていただけませんか!」
「……? それはわたしに言っているのかのう?」
「はい! そのっ……お腹が空いて、もう倒れてしまいそうなのです……! どうか、その底についているそれを、私にくださいませんでしょうか……!」
「ワハハ、こんなものでよければ好きなだけくれてやるわい」
そんな彼に声をかけた俺は、実際減っていた腹の音を隠しもせず、彼がたわしでべきべきに砕き、下水に流す筈であった球根をいただくことに成功し、武具は持っていけないという言葉への答えとばかりにそれらを軽く水洗いしたのちに、バキベキと食い始めた。
「お、おわ~~~っ!? 調理もせんとそのまま食べるとは何事じゃーーーっ!」
「ウメーウメー……ンブゥッフェ!? ォェ苦っ!? オエエッ! ゴエッ! マズッ! ~っ……ハー、ハー……! ……ウメーウメー……!」
半裸の男性……キン肉マンが心配してくれるけど、とりあえず硬いもの食べる時はこの言葉に限る。ウメーと思えばこの世界では美味いんだ!*5 男達の血と汗と涙を凝縮させた酸っぱさと、そこに土臭さとなんか土の底から香る腐敗したナニカを混ぜたみたいな凄まじい味がするけど。
そして……一口食べれば傷が完治し死人さえもが蘇るその球根*6を、ありったけ食い終えると───
「うぐっ!?」
身体の一部が、隆起した。……名誉のために言っておくと、男のシンボルじゃねーです。
「言わんこっちゃないわーい! ほ、ほれほれ吐き出すなら丁度流せる場所が……!」
キン肉マンが水をばしゃばしゃと流しっぱなしのそこを両手で促してくれるけど、こちらはそれどころではない。あ、でも焦った顔で、両手で行動の先を示してくれるキン肉マン、なんかすっごい安心する……! 行動がモロ漫画っぽい……! 好き……! などと漫画チックな状況にトゥンクしてる場合じゃなくて。
これは……あれだ。人間にドロップアウトしたロビンマスクが、今まさに超人へと戻ろうとした時のような……か、体のっ! 身体の奥からモリモリという、擬音としてはもう昔の人しか使わないような音が聞こえてくる!*7
「ウギャアア~~~~ッ!!」
「お、おわああ~~~~っ!?」
身体が作り変えられていく! ただの平凡なサラリマンの体から超人へと……そして、
超人の神でもなければ、人間を超人になどできないと思っていた───が、思い出してみたのだ。ジェロニモは超神に力を与えられて超人になったけど、ドロップアウトしたロビンマスクは自分の力を与えられるだけで超人になれた。
じゃあ、様々な超人たちの力や遺伝子がたっぷりつまった
「───!! ヒョハァーーーッ!!」
顔を覆うようにしていた両手を、天を仰ぐと同時に一気にガッツポーズをするように振り下ろすと、胸の中心から体全体にかけて、根のような文様がゴワゴワメリメリと走っていく。
やがてそれが全身を覆う頃には、体全体の筋肉がパンプアップをしたような超人マッスルとして完成しており、ハッとして見た建物の窓には、うっすらながらも確かに、今までの一般サラリマン然とした顔ではなく、超人然とした、活力に溢れた顔が……!
「これは……体が! ハッ! 服も……! なれたんだぁ本当に超人に!」
……サラリマンスーツがビリビリに破れて、なんとなく気分で履いてみてたブーメランパンツだけなのはすさまじく恥ずかしいけど。でも、だからこそ、自分のマッスル加減が理解できた。これが超人の体なんだ……!
「感謝しますキン肉マンさん! ……っとと、もう時間がないみたいですのでひとつだけ!」
「な、なんじゃ……!?」
「……ミキサー大帝、という超人にご注意ください。ヤツは自分のミキサーに入れた超人と、その超人強度をパワー分離という能力で分離させる力があります。もしあなたがそれをされれば、火事場のクソ力と分離されることになる」
「な、なに~っ? なにをわけのわからんことを~~~っ!」
「二世特有の理解が遅いムーブとかいいですから! お願いです信じてください! あなたのクソ力が分離された所為で、ミートくんを始めとした様々な超人が辛い思いをすることになるんです! 今は信じなくてもいい! でも、ミキサー大帝、という存在が本当に居たのなら、その時は信じてください!」
「ミ、ミートが……!?」
言ってる間に、体が……熱弁とともに振るっていた手が透けて見えた。こりゃいかんと、ビリビリに破けた服とともに落下していたスマホを拾い、操作して突き出す。
「あ、消える……! いいですかキン肉マンさん! あなたなら出来る! これを……このスマホの動画を見てください!」
「すまほ!? どうが!? いったいなにを、……!? これは、わたし……? 相手をブリッジで空へと飛ばし……お、おお~~~っ、なんだーーーこの技はーーーっ!」
「これぞキン肉族三大奥義のひとつ、マッスルスパーク! お願いしますキン肉マンさん……いえスグル様! どうか、この先の超人界を、悲しみなどない素晴らしい世界にーーーっ!!」
言ってるうちに、なんか天に召されるみたいに体が宙に浮き、やがて消えてゆく。
なので実はキン肉族ゆかりのものなのでは? みたいなことを匂わせつつ、
「……ありがとうございます、スグル様……! 見ず知らずのこんなわたしに、球根を分けてくださり……!」
などと言って、消えた───というか強制的に戻された。
「待て! 待ってくれーっ! お前は一体ーーーっ!!」
ニャガニャガニャガ、最後にそんな言葉が聞こえただけで、このウロタトモカーオは満足よ~~~っ!!*8
───……。
……。
……で。
「………」
「《どーーーん!》」
強制送還されて、真っ白な部屋でサイドチェストをしながらミヂュゥウウウウンと登場する、麗しき俺。
「あの……確かに武具は持ち帰れないと言いましたが、あの短時間でどうすればそうなるんですか……!」
「肉好きでなければ知り得ない、超最短のパワーアップ方法です。万能のチートを受け取る? 素晴らしい武具をもらい受ける? ……ノン。美しくない。己の五体で戦わずして、なにが超人レスリングかーーーっ!!」
「あなた転生先でなにをするつもりですか!?」
「? なにをそんなものーーーっ、普通に生きるに決まっておろ~~~っ!!」
「いちいち語尾を伸ばさないでください」
「死ねと!?」
「なんで!?」
本気の本気で驚かれた。なんで? だが許しましょう。許すよ、このコンプリートモカーオは。なにせ完全無比ですから。何に対して完全無比なのかは知らんけど。
「あ、ところで転生先に魔王とか魔物とかっております?」
「居ますけど……べつに居るというだけで、率先して人間を襲ったりだとかはありませんよ? お互いが平和であろうと歩み寄った結果です」
「あの……そんな世界にこのコンプリートを送りこんでなにをしろと……?」
「知りませんよ! ただひとつ能力を与えて、楽しく生きてくれればって思っただけだったのに!」
そりゃそうだった。なんかごめん。
「というかどうしてパンツ一丁なんですか!? 服はどうしたんですか!?」
「なにを愚かな……。火事場のクソ力を奪われたキン肉マンとて、クソ力を取り戻した時はなんかいきなりレスリングスーツがビリビリに破けてキン肉族決戦スーツになったでしょうが、そんなこともわからんのか、このたわけが」
「分かるわけがないでしょう!?」
そりゃそうだった。さらにごめん。
あとブーメランパンツが鼠径部に食い込んで痛いです。いきなり完全無比なマッスルになった所為ですごめんなさい。
「はあ……とにかく。あの世界に送ったことを特典として数え、異世界へと転生させます。心の準備はいいですか?」
「もちろんです。肉好きにとって、この上ない無駄を作らない素晴らしい特典だった」
なにせこれで人助けをした、という名目で、キン肉マンが世紀の愚行がどうとか言われることもない。ただテリーと二人で取った記念トロフィーを綺麗にしようとしただけなのに、あの言い方はないよ。あれはほんとひどい。
「……あ。転生、ってことですけど、産まれるところから始まるってことですよね? 完全無比超人状態は解除されるのでしょうか」
「あのですね。あなたは浄化される前の魂の状態で、そのコンプリートバルブ? というのを食べ、魂から超人とやらになったんです。もうどうやっても人には戻れませんし戻せません」
「な、なんと~~~っ!」
最高のお言葉をいただけた……! こんなに嬉しいことはない!
もし
「……はぁ。これからあなたのような子供を授かる現地の方に、心底同情しますよ……。頼みますから、家族を泣かせるようなことだけはしないでくださいね……?」
「な、なにをぬかす~~~っ! 超人とは人々を守ることこそが本懐! 必ずや笑顔の絶えぬ家族にしてみせるぜ~~~っ!!」
「……心底心配ですので、しばらく監視してますからね」
「なんで!?」
なんと心配性な天使だ……! このコンプリートの素晴らしさを以ってすれば、家族の幸せなぞお茶の子さいさいだというのに……!
「あの、ところでヒロアカのお茶子さんの誕生によって、お茶の子さいさいの言葉がちょっぴり使いづらくなった気がしませんか?」
「知りませんよ」
「なんと。お茶の子さいさいとはそもそもお茶のお供のお菓子より簡単なもの、という意味で、お茶を飲むより簡単に胃に入れるもの、って意味での言葉です。さいさいとは諫早ののんのこ節から来てる言葉。さいさい自体の言葉の意味は合の手みたいなものなのか、細々とした、って意味でのさいさいから来ているのかは謎です。のんのこ節ののんのこ、という言葉は“かわいい”って意味で知られているらしいですよ?」
「知りませんよ!」
「つまりお茶の子さいさいなんて、麗日さんの傍で言おうものなら、あらやだお茶子さんたらチョロいんだから! なんて言っているようなもので───!」
「転送」
「《パパァアーッ!》え!? あれ!? なにこの光! 体が勝手に宙に浮く!? ……だが耐えるね、このコンプリートは」
「耐えないでください! ていうかなんで耐えられるんですか!?」
「それは私がコンプリートだからだ───アッ! そういえば超人ネームも考えねばーーーっ!」
わくわくが広がる! そう、超人になったからには超人ネームで生きなくては!
もしかしたら今ここで決めた名前が、転生先の名前になるのかもしれないのだから~~~~っ!!
とかなんとか思っていたら転送されてしまい、名前もなんかいざ考えるとなるとクソダサネームばかりになったので、やがて考えるのをやめた。
来世の両親よ~~~っ、どうか俺に素晴らしいリングネームを~~~っ!!
なお、この後平凡な村に産まれた育ったタボサという少年が、村を襲ったイノシシをキン肉ドライバーでブチノメすことになるのだが、それはまた別のお話。
タボサという名前は、その村では頑強、逞しいという意味だそう。
そう、これは、頑強の名を冠した一人のコンプリートが、村の発展のためにその溢れ出る超人パワーと超人としての矜持とで、村の人たちを幸せに導く物語である……!
なおワルイコトを企むよそ者や、村を襲う魔物や脅威には、その完全無比たる力を惜しげもなく使い、使ってみたかった肉技によって真っ赤な薔薇にしていくのだそう。
……とか格好いいこと言いつつ、人型の魔物の襲撃ばかりを心待ちにしているそうだよ! あとイノシシ。
このお話、語尾を伸ばしてる場面がいっぱいあるけど、原作キン肉マンにおけるブキャナンとマスクドアラジンには普通に負けると思う。
やっぱりあの「どおれ明日は大暴れしてやるとするか~~~~~~~~~~~っ!!」の伸ばしは最高です。
なお誇張ではなく、そのフキダシにおける一文字と波線の長さで計算した結果、この伸ばしになりました。マジで。
その後、サンダーとライトニングに強襲された時の「ギャヒヒィ~~~ッ!」の悲鳴が好きすぎる。