お久しぶりです。
「俄然…燃える!」
自分の現時点での最高攻撃呪文である『バギクロス』をいとも簡単に打ち消してしまったオールマイトを前にして勇間はそう言って口角を上げる。
それはこれからの戦いに対する楽しみからくる笑みか、それともオールマイトの圧倒的なパワーを前にしても戦意を失わないように自分を鼓舞するための笑みなのか。
それは本人にもわからなかった。
そんな中、オールマイトが口を開く。
「…笑っている暇はあるのかな?ヒーローよ!!」
ドン!!という大きな音と共にオールマイトが地面を蹴りつけた。
その刹那、オールマイトの拳が勇間の目の前まで迫る。
振りかざされたオールマイトの拳が勇間の顔面に衝突するその直前、ギリギリのところで勇間は膝を折ってしゃがみ込み、それを回避した。
さっきまで勇間の顔があった位置を物凄い風圧と共にオールマイトの拳が通過する。
なんとかオールマイトの初撃を回避した勇間はすぐさま口を開く。
「ピオリム!」
(やっぱり速いなオールマイト!!しかも威力もとんでもない!あんなのもろに喰らったら一発KOだ!とりあえずピオリムで回避に専念しないと…)
勇間がそんなことを考えているのも束の間、しゃがみ込んだ勇間に対してオールマイトは先ほど拳を繰り出した方とは違う方の腕でチョップを振り下ろした。
しかし、ピオリムで素早さを上げ、回避に意識を集中していた勇間はその攻撃をヒョイと横跳びをして躱す。
ズドン!!
さっきまで勇間がいたところに土煙が舞う。
(危ないな…やっぱりこの怪物との接近戦は極力避けた方が良い…幸い俺には遠距離からの攻撃手段はいくらでもある…)
そう考えた勇間はオールマイトから距離を取るべく、後ろ方向に飛んだ。
しかし、距離を取りたいという勇間の考えはオールマイトにもお見通しなのか、後ろ方向に飛んだ勇間を追うようにオールマイトも地面を蹴りつける。
(やっぱ追ってくるよな…それなら…)
自身を追ってくるオールマイトに対し剣の先端を向けて勇間は口を開く。
「メラミ!」
勇間がそう唱えると、杖代わりの剣の先端から煌々と燃え滾る中規模の炎の玉が発生し、その炎の玉は勇間を追うオールマイトを牽制するようにオールマイトに襲い掛かった。
しかし…
「フン!!」
という声と共にオールマイトは走りながら自身の拳をその炎の玉に向けて突き出す。
その一突きによって発生した風圧は勇間の放ったメラミを消滅させるには十分な威力だった。
ボッ!という音と共に牽制のメラミがあっけなく相殺される。
(…まあそう簡単には距離を取らせてくれないよな……どうしたもんか……それなら逆に…)
勇間は走りながら思考を巡らしていると、一つの案が浮かぶ。
(これしかない!)
勇間は心の中でそう言うと、オールマイトから逃げるように走っていた足を止めて、先ほどとは全くの逆方向…つまりはオールマイトのいる方向、逃げていた先ほどとは対照的にオールマイトに立ち向かっていくように勇間は駆けだした。
「…む!?」
追っていた勇間の急な方向転換にオールマイトはほんの一瞬だけ驚いたような表情を浮かべて、体が硬直する。
ピオリム状態の勇間ならオールマイトが見せたその一瞬の隙も突くことができる。
勇間は地面を蹴りつけ、その一瞬でオールマイトの懐に潜り込んだ。
そして両手に持ったそのつるぎをオールマイトめがけて振りかぶる。
「かえんぎり!!」
勇間がそう叫ぶと振りかぶった両のつるぎから炎が発生し、その炎と共につるぎを振りぬいた。
ギャキン!!
辺りに金属音が鳴り響く。
(か、硬すぎる!!なんで人体とつるぎが衝突して金属音が鳴るんだよ!手ぇジンジンするって!)
振りぬいたそのつるぎは確かにオールマイトに当てることができた。
しかし、流石はNo.1ヒーロー、勇間に懐に入られたその時、攻撃が来ると読んで咄嗟に腕をクロスに組んで防御の体勢を取っていた。
ガードに阻まれた剣越しに見えるオールマイトは白い歯を見せ、いつものように余裕の笑みを浮かべて口を開く。
「HAHAHA!!まだまだ甘いな!!勇間少年!!………ちょっと熱かったけど…」
(くそっ…バイキルトでもかけないと…このガードは崩せそうにないぞ…)
「そんで…」
勇間がそんなことを考えているその刹那、オールマイトは一瞬でガードを解いて、さきほど自身に振りかざされた勇間の2本のつるぎをガッチリとそれぞれ両手で掴んだ。
「やっと捕まえたぞヒーロー!!さっきからちょこまかと逃げていたがこれでもう逃げられまい!」
オールマイトはそう言うと、つるぎを掴んでいる両手に力を込め始めた。
オールマイトに力強く握られた勇間の2本のつるぎはミシミシ…と悲鳴をあげ始める。
(やばい!このままだと剣が折られる…剣が折られたら俺の攻撃手段は大幅に減る!!そんで何よりも相棒を失うのは普通に悲しい!!折れたら俺のメンタルがブレイクする!)
右手に持つ『天空のつるぎ』と左手に持つ『破邪のつるぎ』をオールマイトから救い出すべく、勇間もその手に力を込めてなんとかオールマイトの拘束から抜け出そうとする。
しかし、案の定今の勇間のちからではビクともしない。
(くそ!…このままじゃ………あ!)
その時、勇間の頭に一つの案が浮かぶ。
そして目の前のオールマイトに目を向ける
(…オールマイトは俺の剣を両腕で掴んでいる…一見お互いに両腕がふさがっていて一方的に俺の剣が折られようとしている状況だ…でも俺はこの状況からでも攻撃できる手段が一つだけある…それに今のオールマイトはさっきの防御体勢では無く無防備…)
勇間の首元にかかっている十字架のペンダントがキラリと光る。
(体力消耗が激しいから…あんまりやりたくはなかったんだけど…やるしかない!…それにこれなら…)
勇間は覚悟を決めて、意識を集中させて口を開く。
「グランドクルス!!」
そんな声と共に勇間のペンダントがパァァ…と光始める…
やがて、その白く眩い光は無防備なオールマイトを包み込む。
ズオオオ!!
響き渡る轟音と共に眩い光が質量を持ち、オールマイトを飲み込んだ。
グランドクルスをモロに受けたオールマイトは空中に吹き飛ぶ。
(…よし!!オールマイトを空中に浮かした!!)
その時。
「勇間!!準備できてるぜ!こっちだこっち!!」
そんな声が辺りに響いた。
「いいタイミングだ峰田!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
試験開始前…
「んで、作戦なんだけどまず前提として峰田、俺はお前をクジで引けたことをめちゃめちゃラッキーだと思ってる。それだけ分かっておいてくれ」
「オイラはめちゃくちゃアンラッキーだと思ってるよ!」
凄く嫌そうな表情でそう言う峰田に勇間は言う。
「いやいや俺とお前なら勝ち目あるって」
「じゃあどうやって勝つんだよ?相手はあのオールマイトだぞ!」
「勝ち方は簡単だ、オールマイトをちょっとでも宙に浮かせれば俺たちの勝ちだ」
「はあ?」
何言ってんだこいつとでも言うような顔で峰田は声を上げる。
そんな峰田に勇間は説明をする。
「まず、峰田お前は試合が始まったらすぐに身を隠せ、そしてどこか近くのなるべく大きな建物の壁一面にもぎもぎを貼り付けといてくれ。」
「それくらいなら別にやれるけど、勇間はどうすんだよ」
「俺はその壁になんとかオールマイトを突っ込ませる。」
「無理だろ!」
「無理じゃない、最初から諦めんな、なんとか意表をついてオールマイトを1ミリでも宙に浮かすんだ。そこに勝機がある。」
「宙に浮かせられたところでどうすんだよ?」
「オールマイトは飛べない、でも俺は飛べる。流石のオールマイトも空中では踏ん張りが効かないだろ?だから宙に浮いたオールマイトに俺が全速力のトベルーラで突進してぶっとばすんだ」
勇間は続ける
「トベルーラの全速力はまだ制御できてないけど、真っ直ぐ突っ込むくらいならできる。峰田はそのタイミングで声を出して方向さえ教えてくれたら俺はそっちにオールマイトと一緒に突っ込む。それで壁にオールマイトを貼り付けようって作戦だ」
トベルーラの速度はMPを制御しないで使うとかなりの速度になる。勇間の脳内イメージであればいくらオールマイトと言えど、体重の半分の重りが付いているんだ、勇間の手数を駆使すればなんとかそれくらいならできるはずだ。
作戦を話し終えた勇間に峰田が言う
「で、でもよその作戦、ちょっと勇間の負担がデカくないか?オイラなんて建物にモギモギ貼るだけだぜ、それに対して勇間はその壁にオールマイトを持ってくるとか…」
そんなことを言う峰田に勇間は真面目な顔で顔で言う。
「適材適所ってやつだよ峰田、俺の個性は戦闘特化だし…それにお前モギモギを貼るだけとか言ってるけど、それも普通に重要な役割だぞ?あのオールマイトを拘束するんだぞ?この作戦は俺とお前のどっちかがミスったら終わりなんだから負担なんて気にするなよ」
「確かにそうだけど…」
言い淀む峰田、それに対して勇間は少しからかうように言う。
「なんだ?それともあれか?あのオールマイトとの戦闘を峰田が手伝ってくれるのか?」
「ま、まあオイラはもう試験クリアしてるし??おいしいところは全部勇間にくれてやるよ!!」
(分かりやすいやつだ…)
・・・・・・・・・・・・・・・
常闇からこの厨二くさい十字架のペンダントもらっといてよかった…
十字のクロスされた形のものさえ体に身につけていればノーハンドでグランドクルスは放つことができる。
ありがとう、常闇…そして、ごめんなちょっとダサいとか思っちゃってて…
「はあ…はあ…はあ」
気を取り直して、俺はグランドクルスを放ったことで乱れた呼吸を整えながら、吹き飛んだオールマイトと俺を呼んでいる峰田の方向を瞬時に補足する。
オールマイトには飛行手段が無く、俺にはある、これは唯一と言っていいほどの俺にとってのアドバンテージだ。
流石のオールマイトも空中では踏ん張りがきかないはずだ。
「トベルーラ!!」
俺はそう叫んでその場から飛び上がり、作戦通り全速力でオールマイトに突進をしようとする…がその前に思いとどまる。
突進するということは即ちオールマイトに接触するということだ…
もしそれでオールマイトに拘束されでもたらどうする?いくら空中では踏ん張りがきかないからと言ってその場での行動はできるかもしれない…
そのリスクを考えると俺のすべき行動は…
俺はオールマイトの目の前でトベルーラを辞め、一瞬空中で静止する。
そしてオールマイトに剣先を向けて唱えた。
「バギマ!!!」
相当なMPを注ぎ込んだバギマを空中にいるオールマイトめがけて放った。
ビュォォォ!!
空中にいるオールマイトは踏ん張りがきかないため先ほどのように相殺のパンチを打てるはずもなく、風音と共に背後のモギモギがびっしりとついている建物の壁へと吹っ飛んでいく。
そして俺は空中で他の呪文を使ったため、トベルーラの効果が無くなっており、そのまま地面に落下する。
ズドン!!
「…痛て…どうだ!?」
音を立てて地面に落ちた俺はそう言いながらガバッと勢いよく顔を上げる。
俺がオールマイトを吹き飛ばしたところには土煙が舞っておりまだ状況は確認できない。
だが作戦通りであれば、オールマイトの背中がモギモギで壁と引っ付いて身動きが取れなくなっているはずだ。
土煙の向こうからオールマイトの声が聞こえてくる。
「……なるほど、考えたな勇間少年」
土煙が少しずつ晴れて、オールマイトの姿が見えてくる…
そこには俺たちの作戦通りに見事に壁に張り付いたオールマイトの姿があった。
(よし!!作戦通りだ!…でも)
しかし、不可解なのはモギモギによって拘束されているはずのオールマイトの表情がやけに余裕そうなことである。
そんなことを考えている俺に対し、オールマイトが話し始める。
「確かにこれだと、私は自由に身動きが取れない…だが!」
オールマイトがそう言うと、オールマイトの背筋がボコッ!と勢いよく隆起する。
「私を拘束するには少しこの壁は薄っぺらすぎるようだな!!むん!!」
オールマイトがそう言って背筋にもう一度力を籠める、するとオールマイトを捕まえていた建物の壁がボロボロ…と音を立てて崩れ始めた。
迂闊だった…ここは倒壊エリア、周囲の建物は劣化していて崩れやすい、いくらモギモギと言っても、そんなところにオールマイトを拘束しておけるはずが無かった!!
「くそっ…バケモンかよこの筋肉達磨が!!」
俺がそんなことを考えながら声を上げる。しかしそんな場合では無かった。
「んで…!隙だらけだ勇間少年!!」
オールマイトがそう叫ぶ、気が付いた時にはオールマイトの拳は目の前に迫っていた。
避けられない…
「フン!!」
オールマイトがそう言って拳を振りぬく。
その拳は俺の腹部にモロに入った。
「カッ……ハッ!!」
オールマイトの拳が腹部に当たったと認識したその瞬間、とてつもない衝撃と肺に入っていた空気が全て抜けるような感覚が俺を襲った。
そして俺は勢いそのままあらぬ方向へと吹き飛ばされ、壁に激突する。
ゴンッ!!
と鈍い音を立てて、壁に激突した俺、背後の壁にヒビが入っていることから自分がかなりのパワーで吹き飛ばされたことが分かる。
(いてェ!!背中と腹が滅茶苦茶いてェ!……クソっ!)
痛みをこらえながら、なんとかヨロヨロと俺は立ち上がる。
「HAHA!やっと良いのが入ったな!勇間少年!」
俺の目線の先にはそのように言って余裕の笑みを浮かべるオールマイトの姿。
「おい!大丈夫かよ勇間!!」
もろに攻撃を受けた俺を心配したのか、俺の元に走って来ようとする峰田。
だが…そんなことをしたら…
「バカ峰田!!俺は大丈夫だからオールマイトから目を離すんじゃねェ!!」
「えっ……」
俺がそう叫ぶがもう遅い、オールマイトは峰田の方に向けて駆けだしていた。
(クソっ……間に合え!!)
「ピオリム!!」
俺はそう叫び、オールマイトの攻撃から峰田を守るために峰田の元に駆けだした。
ギャキィン!!
峰田にオールマイトの拳が当たるその直前、何とか峰田の正面に割り込むことに成功した。俺の剣がその拳と衝突し、凄まじい金属音と共に寸のところで峰田を守った。
「ヒィィ!」
悲鳴を上げる峰田を背にギリギリと俺を立てて俺の剣とオールマイトの拳がせめぎ合う。
「…ぐっ!」
なんとか攻撃を止めることはできたものの体勢がすこぶる悪い、踏ん張りが効かない…
このままだと長くはもたないだろう。
俺は叫ぶ
「峰田すまん!!作戦は失敗だ!!でもまだ大丈夫!さっき破られたのは壁が脆かったからだ!次はもっと丈夫なところにこの筋肉達磨を引っ付けよう!!」
「え?」
戸惑いの声を上げる峰田に俺は続ける。
「長くはもたない!俺がこらえている間に逃げろ!もう一回仕切り直しだ!」
「でもお前…グランドクルスを撃った後は体力が…」
「もたもたするな!俺を信じて準備をしに行くんだ!」
「…分かった!やられんじゃないぞ勇間あ!!」
峰田はそう言うと、その小さな体を活かして瓦礫の中に姿をくらました。
すると俺とせめぎ合っていたオールマイトが口を開く。
「長いお話は終わったかな?勇間少年?」
「待っていてくれるなんて、ちょっと優しすぎるんじゃないですか?オールマイト?」
「HAHA!まずはキミを行動不能にした方が手っ取り早いと思ってね!峰田少年は戦闘はしないようだしな!」
「峰田があのままエリア外に逃げたら俺たちの勝ちですよ?」
「ここはエリアの隅だ、相当ゴールからは離れている、その前に私が勇間少年を倒すさ!!それに…」
オールマイトの拳から伝わる力がどんどんと増していく…
「勇間少年!キミは
オールマイトはそう言うとさらに力を増していく。
このままだと押し切られる!
(一旦この競り合いから抜け出す!)
「ギラ!」
俺がそう唱えるとオールマイトの拳と接していた俺の剣から炎が溢れ出す。
「あ、熱っ!!」
オールマイトはそう言うと後ろ跳びで俺と距離を取った。
少し間ができた俺はオールマイトから目を離さずにオールマイトに話しかける。
「オールマイト…一つ聞いても良いですか?」
「なんだヒーロー?」
「…どうして俺が逃げて勝つ方法を取らないと思っているんですか?」
「HAHA!!そんなことか!そんなことはキミの表情を見ているとすぐにわかるよ…」
「『勝てる』と思ってるんだろう?この
「…」
「自信があるのは良いことだ!…だが!今日の私の仕事はそんな若者の自信を一度へし折ることなんだよな!!」
オールマイトはそう言うと、再び俺の元に駆けだす。
(…全部バレてるんだな…流石先生だ!…でも!!)
「バイキルト!!からの…」
「かえんぎり!!」
俺はそう叫んで向かってくるオールマイトめがけて火炎を纏った剣を振り下ろす。
「フン!!」
オールマイトもそれに対抗するように拳を突き出し、ぶつかり合う。
ギィン!!
その風圧で火炎は吹き飛ぶが今の俺はバイキルト状態、押し負けることは無かった。
再び俺はもう片方の剣をオールマイトに向けて振るう。
オールマイトはそれも拳で弾き、反撃しようとするが俺もそれに合わせて剣で応戦する。
一進一退の攻防が俺とオールマイトの間で繰り広げられる。
(…やっぱりそうだ…活動限界の影響か、オールマイトのスピードが試験開始直後に比べて落ちている…これならピオリムを使わなくてもなんとか着いていける)
ピオリムを使わなくて良くなったということはバイキルトの性能をフルで活かせるようになったということ。
俺はバイキルトを使用し、ギリギリではあるがオールマイトとの殴り合いに食らいついていく。
(…ぼちぼち峰田の準備ができているかな?)
俺がそう考えていると、ベストタイミングといったところかやかましい声が後方から響く。
「勇間!!準備できてるぜ!!三時の方向!大体そこから50mくらいの位置だ!!」
(ナイス峰田!あとは俺がなんとかしてオールマイトをそっちに持っていくだけ…まあそれが一番難しいんだけど…)
「作戦が丸聞こえだぞヒーロー共!それにこの状況でさっきのように私をモギモギの元まで持っていけるかな?」
オールマイトの言う通りだ…オールマイトと俺はさっきから変わらずに剣と拳で攻防を繰り広げている。
それに手一杯で峰田が指定したところにオールマイトを持っていけるような余裕はない。
(多分無理ぽよなんだよなあそれが…オールマイトはもうさっきみたいに油断はしてくれないだろうし…)
さっきのような手は2度と通用しないだろう。
俺がそんなことを考えながらオールマイトの攻撃をなんとかさばいていたその時だった。
ピシッ…
左手に装備していた『破邪のつるぎ』から不穏な音が聞えた。
しかし、オールマイトの攻撃を防ぐにはそんな音を気にしている場合ではない、俺は間髪入れずに襲い掛かってくるオールマイトの拳を防ぐため『破邪のつるぎ』を構える。
そしてオールマイトの拳が俺の『破邪のつるぎ』にぶつかった。
パキィィン!!
目の前で大きな音を立てて『破邪のつるぎ』の刀身が折れた。
「なっ!!」
無理もない、あのオールマイトの拳を何回も受け続けたのだ、耐久値に限界が来たのであろう。
俺は慌てて折れたつるぎを手放し、右手に持っていた『天空のつるぎ』両手に持つ。
しかし、まずい…これまで2本の剣を使って手数の多さでギリギリオールマイトの攻撃をいなし、攻撃できていたのだ。
それが一本になったのだ…これでは必ず、綻びが出る。
その一瞬の綻びをオールマイトは見逃さないであろう。
「そこだ!!」
右の拳を剣で受け止めたその時、無防備な俺の顔面にオールマイトの左の拳が迫る。
手元に剣が一本しかない状態の俺がこの攻撃を防げるはずがなかった。
(くそっ…顔面にこれ喰らったら流石にまずい!…でも…防ぐ手段が…)
眼前に迫るその拳に、俺は覚悟を決めて歯を食いしばる。
しかし、その時
「勇間ァァ!!!」
俺とオールマイトの間にとんでもないスピードで割って入ったのは…
「み、峰田!?何でお前!」
「うるせぇ!!勇間ばっかしにやらせる訳にはいかねぇだろ!!オイラだってやる時はやるんだ!!」
峰田はそう言うと迫るオールマイトの拳に対して、モギモギのたくさんついたマンホールを盾のように構えた。
「グレープバックラー!!」
バインッ!!
峰田の構えたマンホールにオールマイトの拳が衝突する。
モギモギの効果で衝撃を吸収できるといっても、オールマイトの攻撃の全てを受け止めるなんてできるはずもなく…
「ひょえええ!」
となんとも情けない声と共に峰田が後方へと吹っ飛んでいく。
「み、峰田!?大丈夫か!?」
思わず吹っ飛ぶ峰田に声をかけるが、峰田は吹き飛ばされながらも俺に叫ぶ。
「バカ勇間!!オイラは大丈夫だ!!目を離すな!!勇間はオールマイトに集中しろおお!!」
峰田はそう叫びながら、壁に激突した。
峰田が俺に言ったのはほんのさっき俺が峰田に言ったこととほとんど同じ事だった。
…俺は無意識に峰田のことを甘く見ていたのかもしれない…戦いには参加できない、勝手にそう決めつけていた。
でも結果はどうだ?俺はちゃんと峰田に守られた。さっき峰田が来てくれなくてオールマイトの攻撃をもろに食らっていたらもしかしたらもう立ち上がれなかったかもしれない。
…いや、反省会は後だ。
俺は顔を上げて、オールマイトを見据える。
「よくも峰田を吹き飛ばしてくれましたね…オールマイト!」
俺はそう言って剣を振るう。
オールマイトの左の拳には先ほど峰田が防御に使ったマンホールがモギモギによって引っ付いている。
その大きめのマンホールはオールマイトの左腕を封じるだけでなく、全体的な動きにまで支障をきたすだろう。
「ぐっ…」
オールマイトは俺の剣を右腕で受け止める…が腹部ががら空きだ。
さらにマンホールのおかげで動きもやはり鈍くなっている。
これなら唱えられるだろう…あの呪文を…!!
俺は剣を受け止めているオールマイトに言う。
「オールマイト…一緒に頭を打ちに行きましょう」
「え?」
俺の言葉の意味が分からないのか、オールマイトが戸惑いの声を上げるがそれに構わず、俺はオールマイトの腹部に空いた左手を触れて唱えた。
「ルーラ!!」
そう唱えた瞬間、俺とオールマイトの両方の体が宙に浮かぶ。
ここはドーム、屋根がある、ドラクエ3のHD-2Dリメイクの世界とは違って現実なので普通に頭を打つだろう。
でもそれでいい…俺がしたいのは有利な空中戦だ。
物凄い勢いで俺たちは上昇していき、やがて…
ゴンッ…!!
勢いそのままにドームの天井に仲良く頭を打ち付けた。
「「痛っっっ!!!!」」
俺とオールマイトの声が重なる。
あ、あれ?い、痛い!!結構痛いぞコレ!?
チラリとオールマイトの方を見ると俺と同じように、「想像より痛かった」と言いたげな表情をしていた。
なんか申し訳ない…
というかそんなことを考えている場合ではない、俺たちは今空中にいる。ここで勝負を決めるんだ。
俺は咄嗟に下を向いて、峰田がしっかりと俺の言葉を理解して仕事をしているか確認をする。
上空から見下ろした地面には、おそらく俺とオールマイトが戦ってできたであろう少し広めの空き地があった。
そしてその広々と空いた大地そのものに無数につけられた紫のモギモギの絨毯があるのを発見した。
……ナイスだ峰田!!
さっきなんで失敗したのか…それは崩壊しかけの壁なんかにオールマイトを引っ付けようとしたから、だから俺は峰田に「もっと丈夫なところでもう一回やろう!」と言ったのだ。
崩壊エリアの中でさっきの壁よりも丈夫なところ…もう大地そのものしかないだろう。
そんな俺の意図をあの少ない会話の中で峰田は汲み取ってくれていたようだ。
あとはオールマイトをあそこに落とすだけ…
今の位置的にそのまま自由落下してもオールマイトはあのモギモギのところに落ちるだろう…だがオールマイトも下にモギモギがあるのにはすぐに気が付くはずだ。
そう簡単に落ちてくれるとは思わない。
例えば地面に向けてスマッシュを放たれたりすれば地面にくっついているモギモギたちは吹き飛んでしまうだろうし、身動きが取れないと言っても、別方向にスマッシュを打って落ちる位置を調整することも可能であろう。
だから今から、手を打たないといけないわけだ。
そんなことを考えていると、一緒に自由落下していたオールマイトが下にあるモギモギの絨毯に気が付いたのか口を開く。
「ふむ…考えたね勇間少年…あそこに私を落とそうってわけだ…でもそう簡単に行くかな??」
オールマイトはそう言うと、空中で右腕を振りかぶり、地面に目掛けてスマッシュを放とうとする。
今しかない!!
俺は下にスマッシュを放とうとするオールマイトに向けて、左手の親指を突き出して、それを下に向ける。
…そして叫ぶ
「
俺がそう叫ぶと、俺と一緒の速度で落下したいたハズのオールマイトの周囲の空間が歪む…
そして…
ズン!!!
という音と共にオールマイトの落下スピードが急激に増加した。
「何!?」
オールマイトは意表をつかれたのか、驚きの声と共にそのまま落下していく、そしてスマッシュを放つ間も無く…
ズドン…!!
大きな音と土煙を上げながらモギモギが大量に敷かれてた地面にオールマイトが落下した。
『ベタン』は指定の範囲に超重力場を作り出す呪文。
オールマイトは俺の作り出した重力場に入ったため、飛行手段を持たないオールマイトはなす術なく落下速度が急速に上がり、スマッシュを放つ間を与えずに地面に叩きつけられた。
「…ふう」
俺はオールマイトが落下したのを見届けると、トベルーラで空中にとどまって一息ついた。
そして、オールマイトがどうなったのかを確認するべく、土煙が漂うオールマイトが落ちた所に向けて飛んでいく。
周囲でその様子を伺っていると、やがてその土煙が晴れて、地面のモギモギに引っ付いて身動きがうまく取れていないオールマイトの姿が目に入る。
「よし!!」
俺は嬉々としてそのオールマイトの元に飛び、着地する。
「動けますかオールマイト??」
「…まんまとしてやられたよ…それにこの粘着力…想像以上だ、ちょっとしばらくは動けそうにないな…」
オールマイトはそう言うと、苦笑いを俺に向けてくる。
俺はそのオールマイトの声を聞いて、オールマイトが本当に身動きが取れないのを確認した。
(よし!!勝った!!二人がかりでハンデあり、全盛期ではないにしてもあのオールマイトに俺たちは勝ったんだ!!……ダメだ…嬉しすぎて普通に泣きそう…)
内心で滅茶苦茶に喜びながらも、俺はそれを表情に出ないように注意しながら、ゆっくりと確実に敵確保のための手錠をオールマイトの手首にかけた。
ガチャリ…と音を立てて手錠はオールマイトの手首を拘束する。
そして、その直後…
『はい終了…勇間、峰田ペア…合格だ、おつかれさん』
いつもの無気力な自分の担任の声がドームに響き渡った。
「よし!」
俺は嬉しさのあまり、思わずガッツポーズをして声を出してしまった。
「よっしゃあああ!!勇間あああ!!」
そしてどこかに飛んでいってしまったであろう峰田の喜びの声も、姿は見えないがどこからともなく聞こえてくる。
(おお…ほんとに勝ったんだ…!)
俺が1人、喜びを噛み締めていると…
「やるじゃないか!勇間少年!」
オールマイトがモギモギにとらわれたままの状態で俺にそのように声をかけてくれた。
「は、はい!ありがとうございます!」
俺は嬉しさを抑えられずに笑顔でオールマイトにそう答える。
オールマイトとの戦い…俺がこの戦いで学んだのは圧倒的なパワーがいかに強いのか…だ。
開始直後の全力のオールマイトには俺のちまちました呪文での小細工は一切通じなかった。
これがオールマイトの…No1の強さなのだろう…
戦えてよかった…
俺がそんなことを考えて、しみじみと今日の戦いに浸っていると…再びオールマイトが俺に話しかけてくる。
「…それで勇間少年…このモギモギはいつ取れるんだ?活動限界来そうだし…早く取ってほしいんだけど…」
「あ」
オールマイトのその言葉で俺は峰田が試験前に言っていたことを思い出す。
『今日は快便だったし!今日のモギモギは多分一日中くっついたままだぜ!!』
…俺はゆっくりと口を開く。
「……………わかりません」
「……………どうしよ勇間少年…」
「…………とりあえず活動限界来たらダメなんで、ホイミしときますね」
「あ、ありがとう」
「ベホイミ………あっ…」
俺は呪文を唱えると自分の中のMPが底をついたのを感じる。
あれだ新呪文の『ベタン』が想像以上にMP消費がやばかった。なんせあのオールマイトを地に落とす威力だからな…
てか『ベタン』って勇者が覚える呪文だったっけ?
そんな事をぼんやりと考えているとグラリと視界が揺れる。
どうやら限界のようだ。
(というか…なんか俺…戦いの度に意識失ってない?…気のせいか?)
そんなことを考えながらも、俺の瞼は重く垂れ下がってくる…
やがて、例のごとく、俺のMPは枯渇し意識が暗転した。
・・・・・・・・・・・・・・・
「はい終了…勇間、峰田ペア…合格だ、おつかれさん」
A組の面々が勇間と峰田の戦いを見守っていたモニタールームに相澤の試験終了の声が響き渡る。
その声と共に静かに戦いの行く末を見ていたA組たちはざわざわと騒がしさを増す。
「やっぱり勇間やるなあ!!峰田も見直したぜ!!」
「な!あのオールマイトとサシであんだけ戦えるの…俺たちの中じゃ勇間くらいなんじゃね??」
「ま、また知らない呪文だ…ノートに書いておかないと…」
騒がしく勇間と峰田を称えるA組の面々…
「………」
しかしそんな中、一人の男は無言で勇間の映っているモニターをじっと見つめていた。
「おう爆豪!やっぱ勇間もちゃんと合格してきたな!!でも今回はお互いオールマイト相手に合格したわけだし、引き分けってとこじゃね??」
上鳴はそう言って、無言でモニターを見つめていた爆豪の肩に手を回してそう言った。
「うるせえ黙れ…あんま触んじゃねェ…」
肩を組まれた爆豪は静かにそう言って、上鳴の手を払いのける。
「な、なにピリピリしてんだよ爆豪?」
「……」
問いかける上鳴に爆豪は返事を返すことなく、再びモニターに目を向ける。
そこには地に伏したオールマイトと楽しそうに談笑する
(……『引き分け』なんかじゃねえ…俺はオールマイトに『逃げて』合格した…それに対してアイツはオールマイトに『勝って』合格した…俺たちはオールマイトから逃げることしかできなかった…でもアイツはそれどころかほとんど逃げる素振りを見せなかった…正面から戦って…勝ちをもぎ取った…その差は歴然…完膚なきまでの俺の『負け』だ…)
「クソがッ…」
全員が勇間たちの勝利を褒めて喜ぶ中、爆豪は一人、拳を握りしめその悔しさを噛みしめていた…
・・・・・・・・・・・・・・・
勇間の試験から数日後…
「すいません、急に呼び出してしまって」
「いや構わないよ、それにしても珍しいじゃないか…相澤くんが私と話をしたいだなんて」
雄英高校のとある一室、そこでオールマイトと勇間の担任である相澤が2人で向き合って座っていた。
「それで、なんだい話って?」
オールマイトが自らを呼び出した相澤に対してそう聞いた。
すると相澤はそれに答えるように口を開く。
「…他でもありません、ウチの勇間の『個性』についての話です」
「勇間少年の?」
オールマイトがそう疑問符を唱えると、相澤はポケットからスマホを取り出してとある映像をオールマイトに見せながら喋る。
「ええ、まずはこれを見てください」
「ああ…」
スマホに映っていたのは先日行われた、期末試験の演習でオールマイトと勇間が戦闘を繰り広げている映像だった。
映像の中の勇間は圧倒的なパワーで戦うオールマイトに対して、様々な呪文を駆使して応戦している。
スマホを見せながら相澤が口を開く。
「オールマイト、この時…実際に勇間と戦ってみてどう感じましたか?」
「…どうって…まあ手数の多さにはもちろん驚かされたが…素の身体能力の高さにも驚かされたね…あの強さなら既に並大抵のプロヒーローよりも強いだろう」
オールマイトがそう言うと相澤はスマホをポケットに戻してから再び口を開く。
「そうです。そしてアイツの強さは既に学生の域を遥かに超えている」
「そしてその強さはもちろん勇間自身の努力によるものでもありますが…1番の要因はその『個性』の強力さにあると思っています。さっきオールマイトが言っていた素の身体能力の強さだって本人によると個性由来の力だそうです」
「…ふむ…確かに強力な『個性』ではあるが…」
そう言うオールマイトに対して相澤は続ける。
「『個性』って言うのはご存知の通り、親から遺伝します。父と母のどちらかの個性を引き継ぐ、もしくは両方の個性が混合することもある。だから轟の家のように個性婚なんてものが生まれる」
「…まあそれくらいなら知ってはいるが…」
「では勇間のあの複雑で強力な『個性』はどこから来たんでしょうか?」
「…どこからって両親からの遺伝じゃないのかい?」
オールマイトがそう言うも、相澤は深刻な表情をしながら言葉を返す。
「俺もそう思って、勇間の両親の『個性』を調べました」
「…どうだったんだい?」
「父親のは『小さな火の玉を口から出せる』個性、そして母親の方は無個性です…火の玉は確かに少し勇間の個性と被る所はありますが、勇間の個性はもっと複雑で出来ることが多い、ご両親の家系を辿っても勇間のような個性をもった人物はいなかった…要するに遺伝とは考えにくいと言う話です」
「…なるほど…じゃあ突然変異なんじゃないかい?ほら最近多いじゃないか」
「それが一番有力ですが、俺はどうにも…あんな複雑な、色々な個性が入り混じったような『個性』が突然変異で生まれるとはどうしても思えません」
「…個性が…入り混じったような…」
オールマイトは相澤の言葉が少し気になったのか、小さな声で相澤の言葉を反復する。
そんなオールマイトに相澤は再び話しかける。
「…アイツがヒーローの精神を持っているのは担任である俺が誰よりも良く知っているつもりです…でもだからこそアイツの『個性』の歪さがひっかかる…俺のヒーローとしての勘が何か裏があると告げているんです…俺の杞憂であればいいのですが…とにかく今日はそれをNo1ヒーローの貴方に伝えておきたかった」
「…そうだったか…ありがとう相澤くん、心の隅に置いておくよ」
「ええ、お願いします…じゃあ俺はこれから授業があるのでこれで…今日はありがとうございました」
相澤はそう言って軽くオールマイトに頭を下げると部屋を去っていった。
1人部屋に残されたオールマイトは思考する。思い出すのはグラントリノからされた『呪文使い』の話。
(勇間少年の『個性』と類似の『個性』を持った人物が初代の時代にいた事は分かっている…私はてっきり勇間少年がその人物の子孫だとばかり思っていたが…相澤くんの調べによるとそうでも無いようだ…むう…難しいな…やはり突然変異としか…)
「…はっ」
(個性が入り混じる…脳無…)
その時、オールマイトの頭に自分の師匠がいつか言っていたある言葉が浮かび上がる。
『あの脳無…「呪文使い」の可能性がある!!』
その言葉と同時に頭に浮かぶのは勇間と同じような『個性』を使用してきたあの脳無。
その瞬間…オールマイトの頭に嫌な想像と共に悪寒が走る…
だが…
(…いや…所詮こんなのは私の妄想だ…違うに決まっている…関係ないさ…)
そう考えたオールマイトは頭を振って、自分の中に浮かんできた想像を綺麗さっぱり頭の中から消した。
この時、オールマイトは心のどこかで認識していた。
しかし、オールマイトはあえてそれに気が付かないふりをした…
今回もこんな長い話を読んでいただきありがとうございました。
かなり久しぶりなので、おそらくもう話の展開を覚えている人はいないと思います。ほんとすいません。
今回はほとんどが戦闘描写の話だったので難しかったです。
不定期ではありますが今後も更新は続けていくのでよろしくお願いします。
更にもしよろしければ感想や評価などお願いします。くれると泣いて喜びます。
誤字脱字もあれば報告してくださると嬉しいです。
後、最近のドラクエのルーラの屋内で唱えても頭を打たない仕様に疑問を抱いているのは自分だけでしょうか。