この世界でも勇者になります。   作:shch

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前話久しぶりだったのにたくさんの感想や評価、本当にありがとうございました。


長いです。


林間合宿編
21.メラゾーマ


 

 

 

「…メラゾーマ」

 

そう呟いた瞬間、俺の掌から一瞬にして猛烈な炎が湧き上がった。

 

まるで熱に引き寄せられるかのように、炎は空気を震わせ、瞬く間に巨大な火球となって膨れ上がる。

 

燃え盛る炎が俺の周囲を包み込み、熱気と共に闇に満ちていた路地裏を明るく照らし出す。

 

俺の正面には絶望の表情を浮かべる豪勢なスーツを着た男が居た。

 

「ゆ、許してくれ…な、何でもする…!!…分かった…金か?金が欲しいのか?」

 

目の前で情けなく命乞いをするその男、こいつは裏社会において優秀な個性を持った子供を誘拐し、売り飛ばす人身売買の組織のボスだ。

 

正真正銘のクズ。

 

コイツを生け捕りにするのが俺の今日の「先生」からの指令。

 

「……」

 

俺は無言でその男にメラゾーマの火球を打ち出した。

 

「あ…ああ…ああああ!!」

 

ゆっくりと…だが確実にその火球は男へと迫る、その男の足元は氷塊で固められて逃げることはできない。

 

迫りくる火球に対して、男はただひたすらに怯え、叫ぶ。

 

そしてその火球が男に直撃するその手前、俺はメラゾーマを打ち出した掌をグッと握る。

 

パァン!!!!

 

そう音をたてて男の目の前で火球は爆散した。

 

「…ああ…あぁ…」

 

カクン…と音を立てて男の首元から力が抜ける。火球の破裂の衝撃で気を失ったようだった。

 

あくまでも目的は生け捕りだ。殺してしまっては意味が無い…

 

それに俺はこんな救いようのないクズでも、命を自らの手で奪いたくはなかった。

 

コツコツ…

 

俺は気絶をしたその男の元まで歩き、男の襟元を掴んで唱える。

 

「ルーラ…」

 

俺とその男の姿は暗い路地裏から消えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

先生が俺を施設から連れ出したあの日からかなりの年月が流れた。

 

あの日、先生は俺に言った。

 

『僕の勇者になってくれ』

 

そう言って俺に手を差し伸べた。

 

俺の夢を肯定し、手を差し伸べてくれた人は両親以外に先生しかいない、そしてその両親はすでに他界している……俺の手によって。

 

あの時の俺には先生の手を取る以外に選択肢は無かった。

 

あの日から先生には色々な事を教えてもらった。

 

この世界のこと、ヒーローのこと、ヴィランのこと、俺の個性のこと、そして先生のこと。

 

俺は先生に何もかもを1から教わった。俺の世界は先生が全てだ。

 

先生は俺の『個性』を褒めてくれた、どうやら俺の個性は特別で俺以外には使いこなすことができない個性らしい。

 

でもそんなことよりも、親を殺してしまった、周囲から蔑まれたこの『個性』を先生は肯定してくれたことが俺は何より嬉しかった。

 

先生から『個性』の正しい使い方も教わった。

 

俺が個性をある程度使いこなせるようになってからは、先生から『指令』として指定された人物を捕獲し先生の元に届けるという仕事を与えられた。

 

そして、理由は分からないが生きたまま先生の元に持っていくのがルールだった。

 

その日から俺は色々な相手と戦ってきた。

 

そのへんのチンピラからどこぞのヒーローまで…どの相手でも負けることはなかった。

 

そして戦う度に俺の『個性』もどんどん強くなっていく。

 

レベルが上がり、炎、氷、爆発、風…覚える呪文も増える、俺が強くなる度、先生が嬉しそうだったのを覚えている。

 

昔から『勇者』になりたかった。

 

仲間と共に世界のために『剣』と『魔法』でどんな強大な敵にも立ち向かう。

 

そんな『勇者』に…

 

でも、俺が今していることは俺のなりたかった『勇者』とは程遠い行いだということはどこかで気が付いていた。

 

先生の指令が所謂「悪い事」ということを知りながら、思考を停止し、感情を殺し、ただひたすらに自分を肯定してくれる先生の言うことを聞く俺は…

 

『ヴィラン』だ。

 

俺はそんな俺が嫌で嫌で仕方がなかった。

 

でも、孤独だった俺を拾ってくれた、俺を育ててくれた、俺を強くしてくれた。

 

そんな先生のためになるのなら、もはや俺はもうなんでもよかった。

 

先生の『勇者』になれるならなんでもする。

 

俺には…

 

 

先生しかいないんだから…

 

 

 

 

先生は、労働の対価として金や家を与えてくれていた、それゆえに、生活に困ることはなかった。

 

仕事をして、飯を食い、眠る、ただそれだけの繰り返し。

 

退屈で、味気なく、色のないモノクロの日々を、俺は生きていた。

 

…まあそれでよかった。

 

ヴィランの俺にはそれくらいがお似合いだ。

 

でも、ある日から俺の日常は一変する事になる。

 

とある日の何の変哲もない仕事からの帰り道。

 

ふと視線の先で、ひとりの女性が小さな物を落とすのが見えた。

 

黒革の財布だった。

 

俺はそれを拾い、早足で彼女に追いついて声をかけようとする。

 

「……す……」

 

…声が、思うように出なかった。

 

考えてみれば、俺は先生以外の誰とも、ろくに言葉を交わしたことがない。

 

いつの間にか、他人への声のかけ方すら忘れてしまっていた。

 

でも財布なんて大事なもの、渡さなければ彼女が困るだろう。

 

一瞬の躊躇の後、俺はそっと、彼女の肩を叩いた。

 

「……ん? なんですか?」

 

彼女はそう言いながら足を止めて、俺の方に振り向いた。

 

俺は彼女と目が合った。

 

滑らかに流れる綺麗な緑の髪、吸い込まれそうなその瞳、世間一般ではこういう人のことを「美しい」と言うのだろう。

 

女性は「何の用だ?」と問うような眼差しで俺の目をジィーっと見つめる。

 

俺はそれに対して、右手に持った財布を彼女に突き出して、今度は声が出るように注意しながら…

 

彼女の目をしっかりと見て、確かに言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……綺麗だ(これ、落としたぞ)」

 

 

 

 

 

 

その日からだ…その日から俺の…

 

退屈だった、単調だった、先生しかいなかった、感情の無いモノクロの世界に…

 

一筋の色彩が差し込み始めた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

オールマイトとの激闘からしばらくの日時が経過し、夏休みが始まっていた。

 

あの日から色んなことがあった、林間合宿にみんなで行けることが確定したり、皆で買い物に行ったら緑谷が死柄木に絡まれたりと…

 

…まあ本当に色々あった。

 

 

 

…そんなわけで今日は林間合宿当日だ。

 

 

俺たち一年A組は林間合宿へと向かうバスの前に集合していた。

 

なんだかんだ合宿へと同行することができるようになった補習組と謎にテンションの高い麗日さんのよくわからんダンスを俺はぼんやりと眺める。

 

「どんなテンションだよ…まあでも色々あったけど全員で合宿に行けて良かったな」

 

俺は隣にいる緑谷にそう話す。

 

「へへ…だね、それにしてもテンション高いなあ麗日さんたち」

 

「まあそんだけ嬉しいってことじゃ…「おー!!勇間じゃねえか!!」

 

そんな風に俺と緑谷の2人が会話をしていたその時…

 

俺の言葉を遮るように後ろからガバッと誰かから肩を組まれた。

 

俺と緑谷は反射的に後ろを振り返り、緑谷が声を上げる。

 

「あ!B組の!」

 

そこには俺の肩を組んでいる鉄哲を先頭に俺たちの隣のクラスである1年B組の面々がズラリと揃っていた。

 

俺は鉄哲に向かって口を開く。

 

「おお、久しぶりだ鉄哲!体育祭の時以来か?」

 

「そうだな!あの時は世話になった!」

 

「いやいや世話になったのは俺の方なんだけど…まあ今回はお互い合宿頑張ろうぜ」

 

「おうよ!!」

 

鉄哲はそう言うと右の拳を俺に向けて突き出してきたので、俺もそれに応じて右の拳を鉄哲の拳にコツンとぶつけた。

 

そんなやり取りをしていると鉄哲の後ろからさらに別の声が聞こえてくる。

 

「お!勇間じゃん!」

 

「お久しぶりです、勇間さん」

 

そう言いながら近づいてきたのは、拳藤さんと塩崎さん、いずれも鉄哲同様体育祭の元騎馬戦メンバーたちだ。

 

そして俺たち4人が集まると拳藤さんが口を開く。

 

「お!騎馬戦優勝メンバー集まっちゃったじゃん!」

「…なんか俺一人だけA組だから妙に気まずいんだけど…」

「んなことねえよ!!なんだったら勇間!B組に来いよ!」

「そんなんできるわけないでしょ!!」

 

そんなこんなでしばらく談笑していると、バスに乗り込む時間が近づいてくる。

 

時間になると拳藤さんが俺に手を振りながら口を開く。

 

「それじゃあ勇間!また合宿所で!皆ーバス乗るよー!」

 

拳藤さんがそう言ってバスに乗り込んでいくと、他のB組の面々も拳藤さんに続いてバスに乗り込んでいく。

 

拳藤さんって学級委員長だったんだ…まあ適任か。

 

そんなことを考えているとバスに乗り込むB組の女子たちの後姿を眺めていた峰田が口を開いた。

 

「…よりどりみどりかよ」

 

…コイツの期末試験で爆上がりした株がどんどんと自分の中で暴落してくのを感じる。

 

コイツはいつかやらかすんじゃないだろうか…ちゃんと見張っとかないと…

 

そんなことを考えていると

 

「俺たちも行こう!!」

 

そんなウチの委員長の声が聞こえてきたので俺はバスに乗り込んだ。

 

(久しぶりに騎馬戦組と話せて良かったなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

バスに乗ってから数十分後…

 

 

俺は…

 

 

「ああ…頭が割れるように痛い…クラクラする…」

 

林間合宿へと向かうバスの中で未知の病に侵されていた。

 

ぼんやりとする頭、乱れる呼吸に止まらない冷や汗、これはただ事ではない。

 

俺は隣の席に座っている梅雨ちゃんに言う。

 

「…梅雨ちゃん…俺はもうだめだ…短い間だったけど…本当にありがとう…梅雨ちゃんと友達になれて俺はほんt…「勇間ちゃん…多分それ、ただの乗り物酔いよ?」

 

俺の言葉にかぶせるように梅雨ちゃんがそう言った。

 

「…良いこと言おうとしてたのに」

 

「そういうのはもっと雰囲気があるところで言ってちょうだい」

 

ついこぼれた俺の文句も一言で一蹴された。

 

…というか割とマジにしんどい、なんか小学生くらいの頃からずっと乗り物には弱いんだよなぁ…なんで酔い止め持ってこなかったんだろ?

 

そんなことを考えていた俺に梅雨ちゃんは鞄から何かを取り出して渡してきた。

 

「これ飲むといいわ、酔い止めのお薬よ」

 

…神か?梅雨ちゃんの後ろに後光がさして見えるぞ?

 

「あ、ありがとう梅雨ちゃん」

 

俺はそう言いながら薬を受け取り、水筒の水と共に喉に流し込んだ。

 

「そのお薬、睡眠作用もあるみたいだから、もし効いてきたらちょっと寝たらいいわ、合宿所に着いたら起こしてあげるから」

 

「え…ああ…うん…ありがとう…」

 

梅雨ちゃんのありがたいお言葉に俺はそう返した。

 

それからしばらくの時間が過ぎた…

 

最初こそ症状は変わらなかったものの、どんどんと俺の瞼が重くなる、睡眠作用とかいうやつのせいだろうか?

 

…だめだ…眠気にあらがえない…

 

…梅雨ちゃんには悪いけど…少し寝よう…

 

俺はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「………んん…ん?」

 

俺が気が付いた時にはバスはもうすでに止まっていた。

 

もう合宿所についたのだろうか?

 

「……あれ?皆は?」

 

寝ぼけまなこを擦りながら、バスの中を見渡すが一緒に乗っていたA組の面々の顔が一人も見えない…

 

なんかおかしいな…梅雨ちゃんだって起こしてくれるって言ってたのに…

 

「とりあえず外に出てみるか…」

 

俺はそう呟きながらバスの席を立ち、バスの扉から外に出た。

 

グーっと背中を伸ばして、辺りを見渡す。

 

……うん…なんかよくわからん何もない広場だ。少なくともパーキングでも合宿所でもないだろう。

 

てかなんか土砂崩れみたいなの起きてるし…これやばくない?舗装しないの?

 

だが俺はその広場の中央に見慣れた黒装束の猫背の男と、ヒーローコスチュームのようなものを着た女性2名、あとは変な帽子をかぶった子供の姿を発見した。

 

色々と聞きたいことのある俺はその人たちの元に軽く走って行き、声をかけた。

 

「…あの!先生?これは一体どういう状況ですか?」

 

俺がそう声をかけると大人3人が同時に俺の方を振り返った。

 

一人はもちろん相澤先生、あとの2人はどこかのヒーローだろうか?見たことがあるような無いような…

 

俺がそんなことを考えていると相澤先生が声をかけてくる。

 

「ん?起きたのか勇間?」

 

呑気な声で俺にそう言ってくる相澤先生、俺はそれに対して返す。

 

「起きたのかって…他の皆はどこですか?……というかそもそもここはどこですか?」

 

俺が相澤先生にそう聞いたが、俺の問いに答えたのは相澤先生ではなく、その隣に立つヒーローコスチュームを着た女性だった。

 

「ここはまあ休憩所ってとこかな、そんであなたの合宿所はあの山のふもと」

 

その人はそう言うと、ピッと遥か先の大きな山を指さした。

 

え?遠っ!まだまだ先じゃないか?

 

…てかそれなら益々皆はどこへ?

 

俺が首をかしげると先ほどとは違う女性が俺に声をかけてくる。

 

「君の友達たちは今、あそこの合宿所までお散歩中よ!」

 

その女性はそう言いながらなにやらポーズを決めてウインクをかましてきた。

 

…あ、思い出した。確かこの人たちそこそこ歴の長いヒーローチームの人たちだ。

 

緑谷から聞いたことがある気がする、十年ちょいくらい活動してるんだったよな…ベテランさんだ…尊敬しなくては…色々と…

 

…ってそんなことよりも

 

「お、お散歩??……まさか…!」

 

俺の中に嫌な想像が浮かび上がる。

 

そんな俺に相澤先生が言う。

 

「そのまさかだ。言葉通りにお前以外の連中にはあそこの合宿所まで自力で向かわせてる」

 

マジか…そりゃ大変だ…まぁ流石雄英って感じか…

 

「…まあ…それは分かったんですが…なんで「俺以外」なんですか?」

 

俺が相澤先生にそう聞いた。

 

「…まあお前寝てたし…お前が居たら空飛んでヌルゲーになるからな…それにお前は他の連中と比べて脳無を一体単独で倒してる、自衛の術は既に持っているだろう、参加させなくてもいいと判断した」

 

…確かに…俺なら合宿所までトベルーラで飛んで行って、ルーラの飛び先として登録してから何往復かすれば簡単に皆で合宿所に行けるな…

 

でもなんだ?この仲間外れにされた感は?嫌なんですけど?

 

…というか、疑問に思ったことがまだある。

 

「…まあ分かりました。…ところで自衛の術ってのは?森の中歩くだけじゃないんですか?熊でも出るんですか?」

 

俺がそう聞くと、青色の女性が答える。

 

「ただの森じゃないよ!ここは私たちの私有地…そして私の土魔獣たちがそこらじゅうに蔓延る…」

 

「『魔獣の森』なんだから!!」

 

「…ま、魔獣の森!?」

 

……魔獣の森だって?

 

なんだよその『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』とかに出てきそうな名前は!?

 

しかも土魔獣だって!?なんか無性にワクワクする名前じゃないか!

 

なんでそんな楽しそうなイベントに俺を参加させてくれないんだ!?

 

俺はバッと勢いよく相澤先生の方へ首を回す。

 

そして無言で相澤先生に視線を向けた。

 

「………」

 

俺のキラキラした目を見て何かを感づいた相澤先生は軽くため息をつきながら俺に言う。

 

「…はあ…全く…別に行きたきゃ勝手に行け…まだアイツらもそんなに遠くに行ってないはずだ」

 

やった!!

 

相澤先生のその言葉に俺は歓喜して、言葉を返す。

 

「流石相澤先生!ありがとうございます!!じゃあ行ってきます!!」

 

俺はそう言うと、軽くアキレス腱を伸ばして、走る準備を始める。

 

「まあ、待て」

 

しかし、そんな俺を相澤先生は一度引き留めた。

 

俺は振り向いて相澤先生に?マークを浮かべながら首をかしげると、相澤先生はバスの方を指さして言った。

 

「バスのトランクにお前の武器が入ってる、持ってけ…あと飛ぶ呪文は禁止な」

 

ああ忘れてた、あと『トベルーラ』と『ルーラ』は禁止ね。まあそうだよね。

 

俺は相澤先生に対して笑顔で言う。

 

「了解です!」

 

俺はそう言うと、バスのトランクから『天空のつるぎ』を引っ張り出し、その鞘を腰に装着した。

 

そしてグッグッと再び軽くアキレス腱を伸ばして、一度深呼吸。

 

準備は満タン、さあ早く皆に追いつくぞ!

 

「ピオリム!!」

 

俺はそう唱えて、地面を勢いよく蹴りつけた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「5%…デトロイトスマッシュ!!」

 

緑谷がそう叫ぶと、強烈な一撃が空気を切り裂いた。

 

『グワァァァ!!!』

 

土でできた魔獣は緑谷のスマッシュを受け、その身を粉々に砕かれながら、断末魔を上げて崩れ落ちていった。

 

「ふう…」

 

その光景を見ながら、額に浮かんだ汗を制服の袖で拭い取って一息ついた緑谷だったが、その表情には疲労の色が浮かんでいる。

 

「デク君、ナイス!!」

 

そんな緑谷に麗日が笑顔で駆け寄り声をかけた。

 

「…あ、麗日さん!そっちの魔獣はどうだった?」

 

「うん!梅雨ちゃんと一緒に倒したよ!」

 

会話を交わしていると、背後から別の声が聞こえてきた。

 

「おー!緑谷ー!!こっちもあらかた片付いたぜ!!」

 

切島の声だ。それに続いて、他のA組の面々がちらほらと集まってきた。

 

皆、連戦続きなこともあってか、緑谷同様、表情に疲労の色が見える者が多いようだ。

 

その中で、声を上げたのは委員長の飯田天哉だった。

 

飯田は委員長としてA組の指揮を取るべく大きな声で言う。

 

「うむ!このあたりの魔獣はほとんど討伐できたようだ!!だが、油断は禁物だ。皆疲労はあるだろうが、今こそ皆で再び一丸となり、周囲に警戒を怠らず、先へ進もう!!」

 

「「「おー!!」」」

 

A組の皆が一斉に応え、飯田の指示に従い、足を踏み出した。

 

ザッザッザッ…と音を立てながら足を進めていくA組一同。

 

そんな中、上鳴がポツリと呟く…

 

「…ん?……てか勇間いなくね?」

 

「え?上鳴マジ?今気づいたの?」

 

「え!?何?これもしかして俺以外皆気づいてた感じ!?」

 

上鳴は驚きの表情でA組の面々を見回す。

 

「あ!おめー森入ってすぐアホになってたから気づかなかったのな」

 

「えー!!マジかよー!!てか普通に勇間ズルくね!?なんで!?」

 

「なんか梅雨ちゃんによるとバスで普通に寝たままらしいぞ」

 

「なんだそれ!?」

 

歩きながらそんなやり取りをする瀬呂と上鳴。

 

その脇で峰田が呟く。

 

「ちぇ…あのお昼寝王子が…オイラも寝ておけばよかったぜ」

 

そんなことを言う峰田に緑谷が口を開く。

 

「まあまあ…流石に寝てたからだけじゃなくて…多分だけど勇間くんがいたらルーラとかできて簡単になっちゃうからとかじゃない?」

 

「うーん…まあそうだけどよお…」

 

まあ文句もでるだろう、自分たちは苦しい思いをしながら合宿所に向かっているのに、勇間一人スヤスヤ寝ているだけなのだから。

 

ブツブツと文句を言う峰田を苦笑いしながらなだめる緑谷。

 

すると、緑谷の隣を歩いていた轟が突然口を開いた。

 

「…いや…多分勇はこの森に来てる」

 

突然の轟の言葉に固まっていた一同はピタリと止まって轟の言葉に耳を傾ける。

 

「え?なんでわかるの?」

 

緑谷がそう聞くと、轟が話し始めた。

 

「…いや別になんとなくだ、勇はこういう森とか魔獣とか昔から好きだったからな…特に『魔獣の森』とかいう名前とかな…そういうのに惹かれて俺たちの後を追ってきていてもおかしくはねえ…」

 

「「「なんだその小学生みたいな理由!!」」」

 

A組の面々の総ツッコミが入る。

 

「流石の勇間でもそんなよくわかんねえ理由でこんな森に来ないだろ」

 

「子供じゃあるまいしな!」

 

「しかも私たちと違って勇間は一人でしょ?」

 

そんな意見が飛び交う中、蛙吹がふと口を開く。

 

「…でも勇間ちゃんなら…「一人だと経験値がっぽがっぽだぜ!」とか言って嬉々として入ってきそう…」

 

「「「………(ありえるな…)」」」

 

しばしの沈黙。

 

そんな中、蛙吹に続くように緑谷も口を開く。

 

「…確かに…よく考えると魔獣を倒しながら「『魔獣の森』楽しすぎるだろ!!」とか言ってそうかも…」

 

「「「………(ありえるなあ…)」」」

 

緑谷の言葉の後には少しの沈黙。

 

「「「………」」」チラリ…

 

そして、そのままA組の皆の視線は流れるようにある男に向けられていた。

 

「「「………」」」

 

目線の先にいたのは…

 

「……アァ?」

 

「…ンで俺の方を見るんだてめェら!!半分野郎と蛙とクソデクが喋ったからって俺も喋る訳じゃねぇんだよ!!」booom!!

 

全員から視線を注がれた爆豪はそう言いながら掌を爆破してキレ始めた。

 

「えー、だって爆豪も勇間の「わかりて」じゃん」

 

「流れ的に…な?」

 

「黙れ黒目としょうゆ顔!!別に「わかりて」じゃねえコロすぞ!!」

 

爆豪がそう言って再び掌で爆発を起こす中、他の面々が口を開く。

 

「…まあでも流石に来てないんじゃない?」

 

「…今回ばかりはな…来るメリットがちょっとおかしすぎる」

 

轟や緑谷たちの意見を聞いても、今回ばかりは否定はの意見が多いようだ。

 

「…まあこんなこと話してても仕方ねえし、俺たちはとにかく進もうぜ!このペースじゃ昼飯は確実に抜きになっちまう!!」

 

「だな!」

 

そんな中、切島がそう言うと、勇間の話題は打ち切られて、A組の面々は再び全員で足を進め始めた。

 

…その直後だった。

 

『グオォォォォ!!!!!!』

 

これまでの魔獣よりも一回り大きな魔獣が森全体に響き渡るような大きな雄たけびを上げて、A組の前に姿を現した。

 

「全員戦闘態勢だ!!!」

 

飯田がそう言うと全員が各々戦闘態勢を取って構える。

 

「なんかデカくね!?」

 

「うるせえ!ぶっ飛ばせばいいだけだ!!」

 

爆豪がそう言うと、魔獣に威嚇するように軽く掌を爆破させ、飛び上がろうと足に力を込めたその瞬間…

 

ダッ…!!

 

A組の全員の背後から爆豪ではない何者かが地面を蹴りつける音が聞こえた。

 

その直後、A組達の頭上を何者かの影が一瞬で通り過ぎる。

 

そしてその影は目にもとまらぬスピードで魔獣の頭上に突っ込んでいった。

 

…その影は叫ぶ

 

「しんくう斬り!!!!」

 

そう叫んで持っていたつるぎを魔獣の頭めがけて振り下ろした。

 

すると…

 

ビュォォォォ!!!

 

凄まじい音を立てながらその場所に大きな竜巻が発生し、その竜巻はみるみるうちに土でできた魔獣の体を崩壊させていき、土やら砂やらが竜巻に吸い上げられていく…

 

竜巻がおさまった頃には、魔獣のいたはずの場所はきれいさっぱり何もなくなっており、そこには一人の男だけがポツンと立っていた。

 

そしてその男は口を開く。

 

「いや~なんか『魔獣の森』とかいう名称に惹かれて入ってきたけど、魔獣の森楽しすぎるだろ!しかも一人だと経験値がっぽがっぽだぜ!!来てよかった~!!」

 

 

 

「「「……」」」

 

(((「わかりて」達が言ってた事…全部そのまま当たってら…)))

 

土魔獣を倒した男の背中を少し離れたところから無言で見つめるA組一同。

 

そして、男は大勢からの視線に気がついたのか、A組の方を振り返った。

 

「ん?あれ?皆いるじゃん!おーい!!」テヲフリカケヨリ

 

 

 

 

 

 

 

この後、新戦力である『勇間勇』を加えたA組一行は大幅な戦力増強によって『魔獣の森』踏破のスピードが格段に上がるのであった…

 

 

 

 

 

 

「勇間くん!!そっちは合宿所の方向じゃないぞ!!なんで定期的に外れた道を行くんだ!?」

 

「え?だって最初から正規ルート行ったら行き止まりとかにある宝箱とかアイテムを見逃しちゃうぜ?脇道から攻略しないと…」

 

「いやそんなもの(宝箱やアイテム)はない!!」

 

 

…いや、やっぱりそこまでスピードは変わってなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

PM 04:20

 

 

 

 

 

太陽が少しずつ傾き始め、出発した時は青かった空が茜色に染まりかけている。

 

目の前には、A組一同がずっと目指していた合宿所が見える。

 

(…ああ…やっとついたぜ…思ったよりも遠かった…)

 

勇間はぼんやりとそんなことを考えながら目元を擦り、A組の皆と一緒にゆっくりと歩いていった。

 

最初こそ楽しそうに土魔獣を薙ぎ倒していた勇間も流石に疲れが溜まり、MPを使いすぎたせいで、今にも眠ってしまいそうな状態だ。

 

そんな勇間を含めたA組の面々がゾロゾロと魔獣の森から顔を出すと、合宿所の前に待っていた先生たちの顔が見えた。

 

その中で真っ先に口を開いたのは、ピクシーボブだった。

 

「やーーーっと来たにゃん」

 

ピクシーボブが腕を組みながらそう言っている。

 

(…語尾に『にゃん』つけてるんだこの人…)

 

A組の面々はその言葉を聞きながら疲れきった足取りでピクシーボブの元に向かって歩いていく。

 

全員、もれなく疲労困憊であり、足取りはかなり重く、みんなそれぞれの疲れ方をしていた。

 

かく言う勇間も、少しでも気を抜けば眠ってしまいそうな状態だった。

 

(まあでも…土魔獣のおかげで経験値はかなり稼げたな…いい感じだ……でも眠い)

 

その時、瀬呂が口を開いた。

 

「何が『三時間』ですか…」

 

そう瀬呂が不満を漏らすと、それを聞いたマンダレイが口を開いた。

 

「悪いね、私たちならって意味アレ」

 

笑いながらそう言うマンダレイにぐったりとした様子で砂籐が口を開く。

 

「実力自慢の為かよ…」

 

その呟きにピクシーボブが反応し、笑いながら言う。

 

「ねこねこねこ…でも正直もっと時間かかると思ってた」

 

(…ああ…「ねこねこねこ」って笑うんだこの人……ま、まあそれはそれでいいと思います)

 

眠い頭でぼんやりとそんなことを考える勇間。

 

そんなことを思われているとはつゆ知らず、ピクシーボブは続ける。

 

「私の土魔獣が思ったよりも簡単に攻略されちゃった…いいよ君ら…特にそこ4人」

 

ピクシーボブはそう言いながら爆豪、轟、緑谷、飯田の方を指さした。

 

「躊躇いの無さは経験値によるものかしらん?」

 

ピクシーボブはそう言いながらその4人に詰め寄る。

 

「三年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!」

 

そしてそう言いながら本当に4人にツバをかけ始めた。

 

(なんか色々とすごい人だなあ…)

 

ぼんやりと他人事のようにその光景を傍から見ていた勇間。

 

しかし、ピクシーボブは4人にあらかたツバをかけ終えると、ぐるりと顔を勇間の方に向けた。

 

「そんで君も!途中参加だったけど君が一番私の土魔獣を倒してくれたね!多分君がいなかったら全体の到着は一時間くらい遅れてたんじゃない?」

 

ピクシーボブはそう言いながら勇間に詰め寄る。

 

「…ツ、ツバは勘弁してください」

 

勇間はタジタジとそう言いながら詰め寄るピクシーボブから後ずさっていた。

 

そんな様子を見た相澤が隣にいるマンダレイに声をかける。

 

「…彼女、あんな感じでしたっけ?」

 

「焦ってるのよ…ほら、適齢期的なアレで」

 

そんなマンダレイと相澤の会話を聞いていた緑谷が突然口を開く。

 

「適齢期と言えば…」

 

「と言えばて!!」

 

NGワードを口にした緑谷の元にピクシーボブが引き寄せられ、勇間はほっと一息つく。

 

そんな中、緑谷はピクシーボブに顔面を掴まれながらも口を開く。

 

「ずっと気になっていたんですが…その子はどなたかのお子さんですか?」

 

そう言った緑谷の目線の先には、先ほど勇間が魔獣の森に出発する前の広場に相澤先生やマンダレイ達と一緒にいた変な帽子をかぶった少年が立っていた。

 

緑谷の問いにマンダレイが答える。

 

「ああ違う、この子は私の従甥だよ」

 

マンダレイはそう言いながらその男の子を手招きする。

 

「滉汰!ホラ挨拶しな、一週間一緒に過ごすんだから…」

 

どうやらその男の子の名前は滉汰というらしい。

 

しかし、マンダレイの言葉を滉汰は聞く様子が無く、黙ったままだ。

 

そんな滉汰の元に緑谷は歩いていき、手を差し伸べた。

 

「あ、えと僕雄英高校ヒーロー科の緑谷、よろしくね」

 

そう言って笑顔で握手を求める緑谷。

 

しかし…

 

滉汰はそんな緑谷の手を無視して、突然そのまま真っ直ぐに自分の拳を正面に突き出した。

 

どうやらその拳は緑谷にクリティカルヒットしたようで…

 

「きゅう…」

 

という言葉と共に緑谷が倒れた。

 

「緑谷くん!おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!」

 

倒れた緑谷の元に駆け寄って、スタスタとその場を去ろうとする滉太に向けてそう叫ぶ飯田であったが、滉汰はそれに構わず、足早に合宿所に向けて歩いていく。

 

そしてその去り際

 

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」

 

「つるむ!!?いくつだ君!!」

 

滉汰のマセた言動にそういう飯田。

 

そしてその様子を見ていた爆豪が言う。

 

「マセガキ」

 

その発言に爆豪の隣の勇間も口を開く。

 

「だな…爆豪友達になって来いよ、気が合うんじゃない?」

 

「あ!?何言ってんだコロすぞ!このお昼寝サボりピアス野郎!!」

 

(それ俺?)

 

あなたです。

 

2人がそんなやり取りをしていると、相澤が口を開く。

 

「茶番はいい、バスから荷物を降ろせ」

 

「部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ、本格的なスタートは明日からだ」

 

「さァ早くしろ」

 

相澤の指示に従って、A組の面々は疲れた体に鞭を打ち、バスに荷物を取りに行った。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

翌日…

 

 

AM5:30

 

ワシャワシャと寝起きでボサつく髪を手櫛で直しながら、俺はA組の皆と相澤先生に伝えられた集合場所へと足を進める。

 

昨日は合宿所についてから眠すぎて食事中に寝てしまったり、温泉の中でも寝てしまって溺れかけたりするなどのアクシデントもあったが…まあそれはいいだろう。

 

そんでその後泥のように眠ったのでそこまで眠くはない。

 

俺たちが相澤先生の元に足を進めると、相澤先生が俺たちに口を開いた。

 

「お早う諸君」

 

おはようございます。

 

「本日から本格的に強化合宿を始める」

 

何やるんだろ…

 

「今合宿の目的は全員の強化及びそれによる『仮免』の取得」

 

仮免か…仮免もってたらルーラで登校しても怒られないのかな?

 

…いや怒られるな普通に。

 

「具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ、心して臨むように」

 

そんな相澤先生の説明。

 

すでに昨日の魔獣の森での戦いで一つレベルが上がっているため、何をするのかわからないが今日は一つでもレベルを上げることを目標に頑張ろう

 

俺がそんなことを考えていると、相澤先生が懐から何かを取り出して爆豪にポンと投げた。

 

「爆豪、こいつを投げてみろ」

 

相澤先生が投げたのは入学当初の『個性把握テスト』にて使用したソフトボールだった。

 

「前回の…入学直後の記録は719.4m…どれだけ伸びているかな」

 

相澤先生がそう言う。

 

なるほど…この三ヶ月でどれくらい伸びたのかか…

 

多分俺はあの時の3倍の飛距離は出せる自信があるな。あの時まだバギマだったし。

 

「この三ヶ月色々濃かったからな!1kmとか行くんじゃねえの!?」

 

「いったれバクゴー!!」

 

そんなヤジを背中に受けて、爆豪はブンブンと腕を回してアップしている。

 

そしてゆっくりと右腕をおおきく振りかぶった。

 

「くたばれ!!!」boom!!!

 

爆豪はそんななぞの掛け声とともに爆風をソフトボールに乗せて空にボールを打ち出した。

 

ボールは放物線を描いて、どんどんと伸びていきやがて森の奥に落ちた。

 

ピピッ…

 

相澤先生の持つ端末から音が鳴ってその画面に爆豪の今回の記録が表示される。

 

そこには…

 

『720.1m』

 

の数字が表示されていた。

 

あれ?案外伸びてないもんだな…

 

俺がそんなことを考えていると相澤先生が口を開く。

 

「約3ヶ月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している、だがそれはあくまでも精神面や技術面、多少の体力面的な成長がメイン…」

 

相澤先生は言葉を続ける。

 

「『個性』そのものは今見た通りでそこまで成長していない、だから…今日から君らの『個性』を伸ばす」

 

…なるほど。

 

「死ぬほどキツイがくれぐれも……死なないように」

 

相澤先生がそう言った。

 

『個性』を伸ばす…か、俺は何をすればいいんだろうか…

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

相澤先生のありがたいお言葉から数時間後…

 

 

「ヒャド!」

 

俺がそう唱えると右腕の魔力が冷気へと変換され、それが集約しグルグルと円状に廻る白色の冷気の塊が俺の右の掌の上に発生する。

 

俺はその冷気の塊を右手で維持したまま…左手に意識を移す。

 

そして唱える…

 

「メラ!」

 

俺がそう唱えると左手の掌の上に小さな火球が湧き上がる……ことは無く。

 

テレレレッ…♪

 

というドラクエ特有のミスをした時のSEが辺りに響いた。

 

「…うーん…やっぱしダメだ…」

 

俺は右手にあったヒャドの魔力を掌をグッと握って一旦打ち消す。

 

…やっぱり難しいな…

 

そもそもバイキルトとかピオリム以外の攻撃系の呪文を唱えている最中はどうしても体の魔力の巡りがその唱えている途中の呪文に集中して、他の呪文が使えない。

 

「はぁ…どうしたもんかねぇ…」

 

そんな事を呟く俺は今、これまでの訓練で倒してきた大量の土魔獣の残骸で作り上げた山のテッペンに胡座をかいて座っていた。

 

「みんなやってんのかな?」

 

そう言って俺は高く積み上げた土魔獣達の上から訓練場を見渡した。

 

ひたすら空に最大火力をぶっ放す爆豪、風呂の温度を調節する轟、どでかいバッテリーに放電し続ける上鳴、黒影と喧嘩してる常闇、スポッチャとかにありそうなヤツに入って転がってる麗日さん、古臭いダンスをしてる緑谷、その他諸々…

 

まぁ皆それぞれ色々な方法で個性伸ばしをしている。

 

そんな中、俺に課された訓練はただひたすらに土魔獣達を倒してレベルを上げると言うシンプルなものだった。

 

まぁ個性の性質上、戦闘をし続ければわかりやすく強くなれるのでこれが最適なんだろう。

 

だが、ピクシーボブが出してくれた土魔獣達を俺が想定よりもかなり早く全部倒してしまったらしく、今は追加の土魔獣をピクシーボブが作ってくれるのを待っている。

 

そして待っている間暇なので、呪文の同時打ちを練習していた。

 

呪文を同時に放てるようになることは、あらゆる方面でメリットが大きい、一番わかりやすいのは『メドローア』だろうか。

 

あれはメラ系呪文とヒャド系呪文をピッタリ同じ威力で同時に唱えて、それらを合成して打ち出すというもの。

 

メラ系のプラスの魔力とヒャド系のマイナスの威力を掛け合わせることで全てを消滅させる極大消滅呪文が完成するらしい。

 

しかし、この『メドローア』はメラ系とヒャド系の呪文を同時に、そして全くの同じ威力ではないといけない、2つの呪文を同時にすら唱えられない俺にはまだまだ先の話になるだろう。

 

ただ、呪文が同時に使える事のメリットは『メドローア』を使える事以外にも多くある。

 

真っ先に思いつくのは、トベルーラだ。

 

俺は今、トベルーラで飛んでいる最中に呪文を唱えられない、即ち空中戦では剣での攻撃しかできないのだ。これでは空中では近距離の戦闘しかできない、空中でも呪文を使えるようになれば、かなり戦略の幅は増えるだろう。

 

前オールマイトと戦った時の『ベタン』は落下しながら唱えてたし…

 

そしてそれ以外にも、ホイミで回復しながら呪文で牽制できたり、バギでメラ系やギラ系の呪文を放った後で自由自在に操っても良いだろう。

 

…まあ全然上手くいく気配がないんだけどね。

 

いかんせん魔力の操作が難しすぎる。

 

今更だけど体に流れる魔力がなんとなくしっくりこないんだよな…

 

今でこそ慣れたものの最初は普通に呪文をすぐに出すのも苦労した記憶がある。

 

こんなもんなのかな?

 

ドラクエの世界の人達って皆器用だったんだなあ…とか思う今日この頃。

 

……でも…ただ一回だけ、一回だけ自分にピッタリと合った魔力が体に流れた事があった。

 

たしかあれは『あの時』だったかな…

 

『グアァァァ!!』『ギャィィィィ!!』

 

俺が思考を巡らしていると、前方からそんな魔獣達の雄叫びが響いてくる。

 

『勇間くん!追加の土魔獣出来たってさ!!』

 

そして脳内にそんなマンダレイのテレパスが送られてくる。

 

前方に目をやると、大量の土魔獣達が俺の方めがけて迫ってくるのが見えた。

 

俺は思考を中断し、口を開く。

 

「バイキルト!!」

 

立ち上がって、バイキルトを唱え剣を構え直す。

 

「いくか!」

 

そう言って俺は土魔獣の山を蹴り付け、魔獣達の元へと駆け出した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

さらに数時間後…

 

俺は先程よりもはるかに高く積み上げた土魔獣たちの残骸の上に座って、次の土魔獣を待っていた。

 

…ただ問題なのは…

 

「……ね、眠い」

 

MPが普通に枯渇しそうな事だ。

 

ひたすらに土魔獣を倒していく中で、土魔獣一体はそこまで強いわけではないが倒すのに流石に魔法は必要になる。

 

それが無限に湧いてくるのだ、そりゃ有限である俺のMPは枯れる。

 

もう何体倒したのかはわからない、でも高く積み上げたこの土魔獣タワーが俺の今日の戦歴を物語っている。

 

正直今のMP状態では、次の土魔獣集団を乗り切れる自信はない。

 

多分途中で魔力切れで普通に力尽きるだろう。

 

でも、さっき相澤先生にそのことを伝えたら…

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

『先生、俺そろそろMPがなくなりそうなんですが…俺、何か別の訓練とかになるんですか?』

 

『おお…やっとMP切れか…』

 

『やっとって…このままじゃ俺普通に途中で寝ちゃって、アイツらに踏み潰されちゃいますよ??』

 

『何言ってんだお前、今日のお前の訓練はそっからが本番だろ、ほらさっさと次の土魔獣を待ちにいけ、助けに行くかは知らん』

 

『…ええ』

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

そんな会話があった。

 

だから今俺はめちゃくちゃな不安に駆られながら、次の土魔獣集団を待っている。

 

MP切れてからが本番って…普通に寝るけど?大丈夫なのか?

 

そんな事を考えていると…

 

『グアァァァ!!』『ギャィィィィ!!』

 

『追加来たよ!勇間くん!!』

 

ああ…追加来ちゃったよ…

 

「…了解です」

 

俺は一言、マンダレイのテレパスにそう返事し、剣を抜いて構える。

 

MPに余裕は無いため、バイキルトは唱えない。

 

『グオオオ!!』

 

まず剣を構えた俺に襲いかかってきたのは翼のある土魔獣。

 

「いくか!」

 

ダッ!!

 

俺はその土魔獣に向けて地面を思いっきり蹴り付けて跳躍した。

 

そしてその顔面に目掛けて剣を全力で振り下ろす。

 

ギィン!!

 

しかし、その剣は頭に直撃したものの弾かれる。土魔獣の頭にはヒビが入った程度だ。

 

やっぱ硬いんだよなあ…それに疲れてるからシンプルな斬撃の威力も減ってる。

 

バイキルトかけてたり、コイツらの弱点のバギ系を剣に纏わせたら1発で倒せるんだけど…

 

「バギマ!」

 

俺は仕方なくバギマを唱えて、目の前の土魔獣を吹き飛ばす。

 

だが…

 

…ガクッ!

 

「…ああ…クソッ…!」

 

今のバギマで俺のMPがほとんど無くなったのか、俺の意思に逆らって体から力が抜け、膝から体勢が崩れた。

 

地面に膝をつきながら、再び立ち上がろうと体に力を入れるが、うまく力が入らない…

 

……MPはほぼ0、今の俺はロクな攻撃呪文も打てないし、ピオリムやバイキルトなどの補助呪文も打てない。

 

思い返せば、俺がこれまでMP切れで倒れた時はほとんどが戦いの後だった。

 

運が良かっただけかもしれないが、今のように戦いの最中に呪文が打てないほどMPが無くなったことなどほぼ無かったのだ。

 

………いや、一度だけ…本当に一度だけ戦いの真っ最中にMPがほぼゼロになった事があった…あれは…

 

確か『あの時』の一戦だけだ。

 

俺はもう一度、なんとかグッと体に力を入れる。

 

相澤先生も助けに来る気配ないし…絶体絶命ってやつですかこれが…?

 

でも…

 

「……まぁ諦めないんですけどね…」

 

俺はそう呟きながら剣を杖代わりにヨロヨロと力なく立ち上がる。

 

「…なんてったって」

 

そして疲労で震える体に鞭を打ち、カチャリ…とその天空のつるぎを構えて迫り来る前方の土魔獣たちに目線を向ける。

 

 

「…こちとら『勇者』なもんで」

 

俺がそう呟くとほとんど空っぽだった俺の体にわずかに魔力が流れ出した。

 

その蒼い瞳は闘志に燃え、チリンと俺の左耳の瞳と同じ色のピアスが揺れる…

 

そう…まるで…『あの時』のように…

 

 

 

 

 







今回も読んでいただいてありがとうございます。

洞窟とかの攻略は正規ルートじゃない道からですよね。

よろしければ感想や評価などいただけると踊り狂って喜びます。嘘じゃないです本当です。

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