念のため今回から「残酷な描写」タグを追加してます。
「…はあ…またオマエかよ…!!」
赤毛の脳無を前に漏れた俺の言葉が静かな夜の森に響く。
「グギャオォォ!!!」
そんな俺の言葉に答えるように脳無が声にならないおぞましいおたけびを上げた。
キィィィン…
さっきまで静かだった森にその爆音の雄叫びが響く、その音の大きさはあまりの大きさに耳鳴りを起こしてしまうほどだ。
その声圧と脳無から発せられる途轍もない威圧感をビリビリと感じる。
(こ、この雄叫びは…)
そして俺は背後にいる緑谷たちの様子をチラリと見やる。
「……あ、ああ」
そこには顔を青ざめて体を硬直させる緑谷たちの姿。
やはり脳無の威圧感とその不気味な叫び声にあてられて足がすくんでしまっている、ドラクエ的に言えば相手のおたけびによって1ターン動けなくなる的なアレだ(テンションとかもリセットされるからだるいヤツ)。
「…な、なんだコイツ…」
あの焦凍でさえ、目を見開いてかなりの動揺が見受けられる。
(無理もない…)
俺自身はコイツとの邂逅は今回で3回目、1回目はUSJ襲撃時、そして2回目は職場体験で保須に行ったときだ。
不本意ではあるが言ってしまえばコイツの雄叫びと威圧感には慣れて、ある程度耐性があるのだ。
それに比べてこの場にいる俺以外はこの脳無とは初めて相対した、あのホークスでも身構える威圧感を緑谷たちが感じないわけがない。
USJの時のオールマイトと脳無の戦いを援護していた時とは違い、面と向かって立ちはだかるその強敵…このままじゃ俺たちはコイツに蹴散らされて爆豪を連れていかれる。
俺がやるしかない!!
俺は天空のつるぎの切先を此方を見据える脳無に向けて口を開く。
「初手から全開だ!バギクロス!!!」
ギュォォォ!!!!
俺は大量のMPを込めてそう叫ぶと、その剣先から大きな竜巻が発生し前方の脳無を飲み込んでいく。
そしてバギクロスを出しながら俺は再び口を開く。
「焦凍!!!!」
「…はっ!」
俺がそう叫ぶと先ほどまで固まっていた焦凍が我に返る。
そんな焦凍に俺は言う。
「氷!デカいの頼む!!俺たちとアイツを分断するようなヤツ!!」
「ああ…!任せろ!」
俺の言葉に焦凍が答えると、バギクロスを放つ俺の隣に並んで、前方に左足を突き出した。
ズオオオ…!!!
そして生成される大氷壁、俺たちの視界から脳無が完全に消える。
俺は再び声を上げる。
「今だ!皆もう一回集まれ!!」
俺は今、とにかくこの場から離脱することを最優先に考えていた、怪我や寝ていたりして動けないヤツが多い今、脳無と戦うのは得策じゃない。
一度合宿所にもどって、相澤先生やブラドキング先生と協力すべきと判断した。
そのため風の最大火力のバギクロスで脳無を近寄らせないようにし、その隙に焦凍に氷壁を作ってもらうことで一旦は完全に分断することに成功したはずだ。
これで皆でもう一度集まってルーラをする時間くらいは稼げる。
流石のあの脳無もこの大氷壁は簡単には壊せないだろう。
「もう一回ルーラする!早く!」
「お、おう!」「わ、わかった!」
俺がそう言うと、ようやく脳無の雄叫びによって怯んでいた皆も正気にもどり、俺の下に集まってくる。
よし…これで一旦この場は離脱できる…
と、思ったその時、俺の正面にいた梅雨ちゃんが口を開く。
「勇間ちゃん!上よ!」
梅雨ちゃんはそう言って上空を指差した。
「上??」
俺はそれにつられて上を向く、そこには…
「グギャオォォォ!!!」
宙に浮かぶ脳無の姿があった。
「なっ!?」
(し、しまった!!アイツまさかトベルーラを!?)
俺がそんなことを考えているのも束の間、空を飛ぶことのできる脳無に焦凍の大氷壁など意味をなさない。
ドスン!!
と驚き固まる俺の目の前に脳無は凄まじいスピードで降り立つ。
その想像以上の飛行スピードにも俺は戸惑ってしまう…
「速っ…」
(コイツなんてスピードで…!)
トベルーラはかなり繊細な呪文だ、俺も未だに使いこなせているわけではない、それをコイツはかなりの精密さで使えている。
その図体でかなり繊細な魔力操作…やっぱコイツヤバいぞ…!!
俺がそうやって心の中で嘆いているその時、目の前の脳無が俺に向かって両腕を広げた。
そして…
ギュムゥゥゥ!!!
とそのデカい図体で俺と俺が背負っている爆豪の二人を両腕で抱え込んだ。
「は?」
まるで抱擁のように俺たちを拘束してきた脳無に俺はまたしても驚き、咄嗟にその拘束から逃れようと体に力を入れる…が。
ギュウウウ!!
(クソッ…力が強すぎて拘束が解けねえ!!)
脳無の馬鹿力により、俺たちは脱出ができない。
そして脳無は俺たちを抱え込んだそのままの状態で…
ダッ…!!
と地面を蹴りつけた。
そしてその直後に訪れる浮遊感。
脳無が俺たちを抱えたままトベルーラを使って宙に浮いたのに気が付くのには十分だった。
「勇間くん!!」「勇!!」
焦凍や緑谷の心配の声が下から聞こえるのを感じるが、その声は徐々に遠ざかって行く。
そして脳無は空中をどんどんと加速してどこかに向かう。
コイツ…!!
(俺もろとも爆豪を抱えてそのままトベルーラでどっかへ連れてく気か!?)
敵の狙いは緑谷曰く爆豪、そんな爆豪を背負っていた俺諸共拘束した方が、俺から爆豪を引き剥がすよりも手っ取り早いとでも考えたのだろうか??
俺がそんな事を考えているうちにも、脳無は空を飛んで、ぐんぐんとどこかへ向かっている。
(だがこの脳みそ野郎、俺を一緒に連れてきたのは悪手だな…)
「俺だって魔法使いだ…」
脳無に拘束されながらボソリとそう呟いた俺は、体全体をめぐる魔力を一点に込める。
そして、唱える…
「ベタン!!」
ズンッ!!
俺が『ベタン』を唱えたその瞬間、円状の超重力場が俺たちの周囲に発生する。
俺が使う『ベタン』は範囲呪文だ、作った重力場に入った物体すべてがベタンの対象だ、そしてその重力場を大きくすればするほど、消費するMPは増える。
今俺が唱えたベタンの範囲には空を飛行する脳無とそれに抱えられている俺たちが対象、自身にいつも感じている重力の何倍もの力がかかるのがわかる、そしてこれを感じているのは俺だけじゃなく、俺たちを抱えてトベルーラを使っている脳無もこの超重力を感じているハズだ。
そして今俺たちがいるのは空中、すなわちどれだけの馬鹿力を有していてもこの超重力場には抵抗できない。
つまり…
「ギュオォォ…!!」
俺たちは脳無もろとも地面に向けて急降下することとなる。
脳無はその重力場を受けた拍子に抱えていた俺たちを手放し、俺と俺が背負っている爆豪は空中に放りだされ、一時的に自由の身となる。
…だが、空中にいる俺自身も自身が生み出した重力場には逆らえずに地面に向けて急降下する。
ゴォォォ!!
耳元で響く大きな風の音とともにどんどんと地面に向けて落ちていく俺と爆豪。
地面に大衝突することは免れないだろう…
俺は咄嗟に背中に背負っている爆豪を正面に抱え、爆豪にダメージが行かないように背中から地面に落下できるように体勢を変える。
そして体勢を変えたその瞬間…
ズドン!!ズドン!!
と大きい音を立てて、俺とその近くで脳無が地面に叩きつけられた。
「…かはっ…!!」
背中に受けたその衝撃に内臓が全部飛び出るのではないかと思うほどの感覚が俺を襲う。
「…はあ…はあ…背中いてえ…」
俺はそう言いながら、正面に抱えていた爆豪にダメージがはいっていないかを確認すべく、目線を下に移す。
「………zzz」
(…こいつはいつまで眠ってんだ…こんなに大変な時に……まあ怪我はなさそうでよかった)
俺は心地よさそうに眠る爆豪に心の中で悪態をつきながらも、その体にダメージがない事に安心する。
俺はそんな爆豪を丁寧に地面に寝かすと、じんじんと痛む背中をかばいながらゆっくりと立ち上がり、意識を集中する。
あんな上空から地面に叩きつけられて背中が痛む程度で済んでいるのはレベルアップによるみのまもりの強化によるものだ、多分普通の一般人ならひとたまりもないだろう。
でも考えれば俺が無事ということはすなわち俺と一緒に近くに落ちた脳無はほとんど無傷の可能性が高い。
この暗闇の中、どこからアイツが襲ってきても対応できるように、俺は寝ている爆豪を守るように立ち、剣を構えて周囲に意識を集中する…
「………(どこから来る…)」
すると…
ガサッ…!!
左の方から物音が聞こえた、意識を研ぎ澄ませていた俺はすぐさまその物音がした方に向き直り、剣を振るった。
ギャキィィン!!!
鳴り響く金属音と俺の剣と脳無の拳がぶつかり合った衝撃で弾ける火花…
やっぱり襲ってきやがった…!!
茂みからの不意打ちを俺に防がれた脳無はバッっと後ろ方向に飛んで俺と距離を取った。
数メートルの間合いで脳無はそのギョロりとした瞳で俺を見据えて佇む、そして俺も脳無からは決して目を離さず、爆豪を背中で守りながらジャキンと天空のつるぎを構える。
正真正銘の1on1、だがしかし敵の目的は爆豪…爆豪を守りながらこの強敵とサシで戦わなければいけない。
救援はおそらく望めない…森の中ではあるが、脳無の飛行のせいでさっきみんながいたところからは少し距離がある。
そして、おそらくルーラで逃げる隙も無い…一瞬でもアイツに背を向ければその圧倒的なパワーと呪文で致命的な一撃を受けるだろう。
つまり、俺に残された選択肢は…
(…ぶっ倒すしかない…か)
俺は剣を構えながら心の中で呟く。
相手は同じ呪文使いでありながら、俺を優に超える馬鹿力を持ち、さらには再生能力も併せ持つ、俺の上位互換のような存在。
そんなヤツを一人で爆豪を守りながら行動不能にしなくてはいけないこの状況…
「…ふぅ…」
だが不思議と絶望はしない、思い出すのはアイツと初めて戦ったUSJの時の記憶、たしかあの時も同じような状況だったが絶望はしなかった。
怖いという恐怖の感情も全く無い。
今俺を突き動かしている感情は一つだけだ。
それは…
「…さあ経験値にでもなってもらおうか…!!」
この数ヶ月の成長をこのバケモノに試せるという『期待感』だけだ。
ダッ…!!
俺は脳無にめがけて地面を蹴りつけ、その一歩を踏み出した…
・・・・・・・・・・・・・
「ピオリム!!」
脳無めがけて駆け出した勇間はその途中でピオリムを唱えた。
すると、走る勇間のスピードはグンと上がり、そのまま脳無に突っ込んでいく。
「ギュォ…!!」
脳無は勇間の急激に上がったスピードに戸惑ったのか、一瞬だけ体を硬直させる。
その隙を見逃す勇間では無かった。
「かえんぎりィ!!!」
勇間はそう叫んで煌々と燃え滾る炎をまとったそのつるぎを脳無めがけて振るう。
「ギャォォォ!!」
隙を突かれた脳無は防御をする暇もなく、勇間のかえんぎりをその身に受けて、言葉にならない悲鳴を上げた。
(よし!効いてる!でもこのままほっといたら、再生の能力で自動で与えたダメージは回復される…それなら…!!)
かえんぎりを放った勇間は悲鳴を上げる脳無に向けて間髪入れずにもう一度剣を振るう。
(自動回復が間に合わないほどにダメージを与えていくだけだ!!)
「しんくうぎり!!」
ギンッ!!
しかし、腐っても相手は脳無、その持ち前のタフネスを生かして、自らを苦しめるかえんぎりの炎をもろともせずにその太い腕を使い、勇間のしんくうぎりを受け止めた。
ザンッ!ザンッ!!
しかし、防御したと思われた脳無だったが、勇間のつるぎがまとっていた風の刃によって防御した腕に傷が入っていく。
だが…
「グギャオオ!!!」
その風の斬撃すらも関係ないと言わんばかりにダメージを受けながらも脳無はガードした方とは別の方の腕を勇間目掛けて振るった。
「なっ…!」
これには流石の勇間も予想外だったらしく、驚きの声を上げる。
(タフすぎるだろコイツ…!?)
ギィン!!
「くっ…!」
咄嗟に剣を盾がわりにしてなんとかその攻撃を防ぐことには成功した勇間だったが、脳無の拳の威力はかなりのもので踏ん張り切れずに勇間の体は宙に浮いて、そのまま吹き飛ばされる。
宙に吹っ飛ばされた勇間は空中でクルリと一回転し、そのまま地面に着地した。
「ふう…」
無事に着地でき、安心する勇間だったが、すぐに今の状況の不味さに気がつく。
(…まずい!爆豪が…!)
勇間の着地した所は爆豪がいた所と反対方向、守るべき爆豪とは少し距離が空いてしまった。
今は勇間より脳無の方が位置的には爆豪に近い、緑谷によると相手の標的は爆豪、この距離を利用されて爆豪を連れて行かれたなら勇間の実質的な敗北だ。
「……」
(…あれ?)
……が、しかしその脳無は自分達の標的であり、眠っていて無防備な爆豪には目もくれずに勇間の方をじっと見つめていた。
(狙いは…爆豪じゃないのか…??)
そんな事を考えている間に、脳無は勇間の方に右手を突き出して口を開く。
「メ゛ラゾーバァ!!!」
そして生成される巨大な火球、それは暗い森の中に突然太陽ができたと錯覚するほどに眩しく、猛々しく燃え上がっていた。
ゴオオオ!!
音を立ててその火球はゆっくりと勇間へと迫る。
(…なんだこのメラゾーマ!?スピードは遅いが、規模がでかい!こんな大きさ見た事ないぞ??)
だが、いくら威力が高かろうがスピードが無いのなら避けてしまえばそれで良い…
と考えた勇間であったが、避けようと脚に力を入れたその瞬間にあることに気がつく。
(…これは…避けられない!!)
そんな事を考えながら、チラリと周囲を見渡す勇間。
いま自分達がいるのは夜の森の中、周囲にはいかにも燃えやすそうな木々が立ち並んでいる。
(俺が避けて、これが木にあたれば普通に山火事だ…もしかしてあの脳無…俺が避けられない事を知ってて、わざとスピードを落として、火力特化のメラゾーマを…案外頭良くないかコイツ?)
そんな事を考えている間にもその火球は勇間に迫ってくる。
「…いいぜ…それなら…」
勇間はそう呟くと、チャキ…と地面に剣を置いて空いた両手を脳無の放ったメラゾーマに向けて突き出す。
ダッ…!!
そして勇間は逆に、迫り来るメラゾーマに突っ込んだ。
燃え盛る火球の中に両腕を突っ込んだ勇間は口を開く。
「イオラ!!!」
BOOOM!!!
勇間が呪文を唱えたその瞬間、大きな爆発音と共に脳無の放った巨大なメラゾーマは内部から爆散した。
ビュオオオ!!
そして巻き起こる強烈な爆風に周囲の木々が揺れる。
その爆風の中心で、素早く剣を拾い直した勇間は剣を構えて数メートル先の脳無に向けて声を荒げる。
「もう今の無し!!服燃えるから!!」
どうやら先程の爆発で勇間が着ていた「ゆうしゃ↑」という文字が胸元にデカデカとデザインされていたTシャツが吹き飛んだようだ。
「あれオキニだったんだぞ!」
怒りの声を上げる上裸の勇間は脳無目掛けて走り出す。
「グギャオオ!!」
そしてそれに応えるように脳無も雄叫びをあげて駆け出した。
お互いに走り出した脳無と勇間が重なり合おうとするその瞬間、脳無は迫りくる勇間めがけて渾身の右ストレートを繰り出す。
それを見た勇間は一瞬口角を上げて、脳無の拳が目の前まで迫っていた所で口を開く。
「イオ」
勇間がそう唱えると剣を持っていない方の地面に向けていた左手から小さな爆発が起こる。
小さな爆発と言ってもその爆風は勇間を空中に浮かせるのには十分な威力であった。
フワリ…と爆風により飛び上がった勇間は脳無の拳を躱し、さらには拳を振りぬいた後の無防備な脳無の背後に回り込み、空中で体を捻ってその背中を捉えた。
どこの爆発頭からパクった技かわからないが脳無の背後を取った勇間は自信満々に笑いながら、その背中に剣を振りかぶる。
(もらった…!!)
死角からの意表を突いた一撃、勇間は確実にクリーンヒットさせられる確信があった。
「いなずまぎり!!」
そう叫んでキラキラと眩く輝く稲妻を纏った剣を振り下ろそうとした勇間。
だがしかし…
ゴンッ!!!
勇間の剣が当たるその直前、勇間の左の脇腹に強い衝撃が走った。
「…がっ!」
勇間を襲ったのはノールックで放たられた脳無の後ろ蹴りであった。
その一撃は攻撃が決まると確信していた勇間にとっては完全に予想外、身構えずにモロにくらった後ろ蹴りは見事に炸裂し、勇間を横方向に吹き飛ばした。
脳無の馬鹿力による蹴りの威力は凄まじく、かなりのスピードで勇間は森の大木に勢いよく叩きつけられた。
「…がはっ…!!」
その叩きつけられた衝撃に勇間は思わず木にもたれかかって座り込む。
(…クソ痛え…てかノールック?…完全に死角だったはずなのに…後ろに目玉ついてんのか??)
そんな事を考えながら座り込む勇間は痛みですぐには立ち上がれない。
その隙を見逃す脳無ではない。
ダッ…!
座り込む勇間目掛けて駆け出した脳無は一瞬で勇間の下にたどり着き、座り込む勇間の顔面に目掛けて拳を突き出す。
「…おお!!」
そしてそれを間一髪のところで頭を下げて回避する勇間。
バキバキバギ…!!
先程まで勇間の顔面があった所に拳が突き刺さり、勇間がもたれていた大木が音を立てて崩れる。
(なんて威力だ…あんなのモロにくらったのか俺は…)
その威力にビビる勇間であったが、頭を下げて脳無の拳を回避していた勇間の目の前には無防備な脳無の腹部があった。
「バギマ!!」
その腹部目掛けて勇間は呪文を唱える。
「グギャ…!!」
勇間のバギマを至近距離でモロに受けた脳無は数メートル程度吹き飛び、未だ痛みに苦しんでいた勇間との距離が生まれる。
その間に勇間はなんとかヨロリと立ち上がり、体勢を立て直す。
(…ちょっと考えたけど…さっきのノールック…もはや『そういう個性』を積んでてもおかしく無いくらいだぞ…さっきみたいな死角からの攻撃はやめた方がいいな…)
勇間がそんな風に分析をしていると、吹き飛ばされた脳無も体勢を立て直しており、再び両者は数メートル越しに見合う形になっていた。
そして先ほどと同じように両者は駆け出し、その拳と剣がぶつかり合う。
剣を振るい、呪文を唱え、攻撃を躱して、またしても剣を振るう。
それの繰り返し…
キィン!キィン!キィン!
拳と剣の衝突する金属音が静かな夜の森に響く。
脳無と勇間の一進一退の攻防が繰り広げられていた。
そしてその戦いの最中、勇間はあることに気がついていた。
「ライデイン!!」
「グギャアア!!!」
勇間の雷撃を受けた脳無が声にならない悲鳴を上げ、それに対して間髪入れずに勇間は攻撃を仕掛ける…
そのある事とは…
『自分が意外と戦えている』という事だ。
勇間にとって、今戦っている脳無のイメージは『自分の上位互換』『ホークスでも恐れる敵』『USJでボコられた相手』と基本的には自分より数段格上の相手だという認識があった。
だが、勇間と脳無が今回のように正真正銘の一対一で戦ったのは入学直後のUSJの時。
あれから勇間は日々の訓練のみならず体育祭での持久戦や職場体験でのホークスの指導、期末試験でのオールマイトとの戦闘、そして今回の林間合宿での地獄の訓練…といった様々な経験を通して、かなりの成長を見せていた。
使える呪文の数が増えただけでなく、単純な自身のスピードや体力、魔力の増加、そして得た大量の戦闘経験と戦闘技術。
それら全てを踏まえて、今の勇間は仕上がっていた。
「バイキルト!!」
ギァン!!
バイキルトで上げた力によって、勇間の剣は脳無の腕によるガードを崩す。
「ギガ…スラッシュ!!」
そして無防備な脳無に放つ光の斬撃。
そう…まさに…
「グギャアアァァ……!!」
その光の斬撃は脳無に直撃し、これまでとは比べ物にならないほどの大きな悲鳴を脳無はあげる。
「はあ…はあ…はあ…どうだ!!」
激しい攻防に息を切らしながら、渾身のギガスラッシュを炸裂させた勇間は声を上げて、悲鳴をあげる脳無を見つめる。
すると…
「…ギィヤゥ…ガッ…」
ガクンッ!とその無限とも思えるスタミナを持っていた脳無が遂に地面に膝をついた…
そう、仕上がっていたのだ…まさに…
(…よし!このままいけば勝てる!!勝てるんだ!)
『魔王のいるラストダンジョンに挑める程度』には勇間のレベルは仕上がっていた。
「今日こそ!オマエに勝つ!」
膝をついた脳無がヨロヨロと立ち上がるのを見て、勇間はとどめを指すべく、声を上げて再び剣を構える。
その頬は上気し、一種の興奮状態、今の勇間には目の前の脳無しか見えていない。
確かに無理もないだろう、ずっと倒したかった、自分では敵わないと思っていた因縁の相手、それを今まさに倒せるのだ。
メラ、ヒャド、バギ、イオ、デイン、ビオリム、バイキルト…
かえんぎり、マヒャドぎり、いなずまぎり、しんくうぎり、ギガスラッシュ…
様々な呪文と剣技を使い、最初は倒せなかった強敵を打ち倒す。
その姿ははまさに…
勇間は口を開く。
「…俺は…『勇者』だ…!!」
……あの時の俺は…
『なりたいもの』をちゃんと見れていなかった…
目の前の敵に夢中になって…
ずっと夢見た『ゲームの中の勇者』みたいな戦いができて…
あろうことか戦いが『楽しい』なんて思ってしまった…
『ヒーロー』としての戦いが、できていなかった…
…だからだろう…
俺は…
『本当に守るべきもの』を見失っていた…
そして…
それに自分で気がつくのは…もう少し先だ…
BOOOM!!
脳無にとどめを刺そうと剣を構えていた勇間の耳に聞き覚えのある爆発音が響き渡る。
「……あ」
その爆発音が極限の集中力で脳無と対峙していた勇間の意識を脳無と二人だけだった世界から現実の世界へと引き戻す。
脳無しか見えていなかった勇間の視界に脳無以外の様々な物が映し出される。
森の木々や差し込む月の光、自分と脳無の戦いで荒れた地面、そして…
脳無の背後から脳無に攻撃を仕掛ける爆豪の姿…
そんな光景を見た勇間は様々な思考が頭を駆け巡る。
(…あ、え、は…?…な、なんで爆豪が?…寝ていたんじゃ…?てかいつ起きた…?…それで何で脳無に攻撃を…?)
?マークで埋め尽くされる勇間の脳内。
そう、勇間は敵に夢中なるあまり、敵の標的が爆豪だったのにも関わらず、爆豪の存在を今回の戦闘において途中から完全に意識の外へと追いやってしまっていた。
勇間の中で戦いの目的がいつの間にか変わっていたのだ。
『爆豪を守るための戦い』だったはずの目的が『脳無を倒すための戦い』に…
「よ、よせ…爆豪…」
突然の出来事に勇間の体は硬直し、喉元からはか細い声しか出なかった。
…実のところ、爆豪は少し前から目を覚ましていた。
そして伺っていたのだ、脳無が完全に勇間に意識を向け、自分に無防備な姿を晒すその時を…自分が死角となって攻撃できるその瞬間を…
そして爆豪の高い戦闘センスは脳無が勇間に弱らされて、勇間に全意識が向いたこの瞬間を見事に察知し、行動に移す。
…だが、勇間は知っていた、その『瞬間』は…
『…まるで「そういう個性」を積んでいるみたいに……』
「…くっ…ま、待て!!爆豪!!」
「くたばりやがれ脳みそ野郎!!!」
勇間の静止の声なんか、聞こえるはずもなく…
勇間に意識を向けて無防備になっていた脳無の背後に回り込んだ爆豪は、その死角から爆破を叩き込もうとした…
そして…
グルン!!
爆豪の爆破が脳無の背中に当たるその直前…脳無は物凄いスピードで爆豪の方を振り返った。
まるで…
「なっ!?」
そんな脳無に爆豪は驚きの声を上げ、その体勢が崩れる。
そして…脳無は…体勢が崩れ、無防備になった爆豪の体に…
ブォン!!!
全力の拳を振り抜いた。
「かはっっ………!!!!」
その拳は爆豪の腹部に炸裂し、爆豪は拳の勢いそのまま体が宙に浮いて後方にふっ飛ばされる。
そして…
ドサッ…!
と爆豪は地面にそのまま倒れこんだ。
そんな光景を見ていることしかできなかった勇間は目を見開いて、声を荒げる。
「ば、爆豪!!!」
「………はぁ…はぁ…く、クソ…がァ………!」
しかし、そんな勇間の声にも倒れこんだ爆豪は反応することなく、その痛みにもがき苦しんで立ち上がれそうにもなかった。
「…かほっ…はあ…はあ…」
腹部に受けた衝撃による内臓の損傷か、血反吐をはいている爆豪。
無理もない、脳無のパワーは大木を拳一突きで粉々にできるほどの凄まじいもの。
勇間とは違い、肉体になんの強化もされていない爆豪がモロにくらってとても耐えられるような威力では無かった。
そしてそんな満身創痍の爆豪にさらに追い打ちをかけるように脳無は倒れこむ爆豪に向けて右手をかざす。
脳無は口を開く。
「ヴェラゾーバァ!!」
テレレレレレレ♪
そして響き渡る最悪の音。
『魔力暴走』だ。
そうして生成された巨大な火球が爆豪目掛けて打ち出される…
「や、やめろ!!!!」
そんな勇間の静止の声も虚しく、その火球は放たれた。
魔力暴走のメラゾーマということでその火球の大きさはかなりのもの、勇間が一度爆散させた火力特化のメラゾーマよりも大きく、そしてスピードも速い。
(どうする!?バギで軌道をずらす!?さっきみたいにイオで爆発させる!?メラで相殺!?………いや…)
「全部…無理だ…」
勇間の言う通り今の勇間には爆豪に迫る魔力暴走のメラゾーマを無効化できる手段なんて無かった。
だがあれがもし今の爆豪に炸裂するのなら、もう…爆豪は…
勇間は悔しそうに口をつぐんで、呟く。
「…クソがッ…!!」
勇間はそう呟く。
そして…
ダッ…!!
地面を蹴りつけ、走り出した。
目指すのはもちろん爆豪の下、もはや何かを考える余裕もなく、ただひたすらに全力で足を動かす。
ゴォォォ…!!!
「………はぁ…かはっ………くそっ……よけ…らんねえ…」
迫りくるその火球に爆豪はどうすることもできずに小さく声を漏らす。
そしてその時…
「爆豪!!!!!」
爆豪に自分の名を叫ぶ勇間の声がようやく耳に入った。
「…い、勇…間……?」
何とか首を動かして声のする方を倒れたまま確認する爆豪。
「間に合ええええ!!!!」
そこには声を荒げながら自分の方へと無我夢中で走る、
「…く…来るんじゃ……ねえ……い…さま…」
走ってくる勇間に爆豪は息も絶え絶えそう言うが、そのか細い声は勇間には届かない。
ゴォォォ!!!
そして、その火球が爆豪に着弾するその直前。
「……ッッ!!!!」
爆豪と火球の間に勇間が体を滑り込ませ、背後の爆豪を守るように大きく両腕を広げた。
「…や…めろ……勇…間ァ……!!」
自分を庇い、メラゾーマの前に立ちふさがるその背中に爆豪が言葉を漏らす。
だがその瞬間…
爆豪の視界は弾ける閃光によって一気に真っ白へと染まる、そしてその閃光に勇間は飲み込まれていく。
ボォォォ…!!
その眩さに爆豪は反射的に目を瞑ってしまう、暗くなった視界と耳に残る轟音…
メラゾーマが…勇間に炸裂した。
「………」
その直後に訪れる静寂、先ほどまで響いていた轟音のせいでキィィン…と耳鳴りが起こる。
バタンッ…!
そんな静寂の中、何かが倒れこむような音が爆豪の耳に入った。
恐る恐る、爆豪は閉じていたその瞳を開くと、目の前の光景が視界に飛び込んでくる。
メラゾーマによって抉れた地面と、燃える草花、そして自分の目の前の…
「………」
倒れ込んだ勇間の姿。
地面にうつ伏せで倒れている勇間の表情は見えないが、その体はピクリとも動かない。
「………い…さま…?」
その光景に爆豪は言葉を失い呆然とするしかなかった。
勇間の倒れる姿を爆豪はこれまで何回か見てきた、しかし今回は様子がいつもとは全く違っていた。
それもそのハズ、勇間は人生で初めて、MPではなくHPがゼロになったことで倒れたのだ。
ザッ…ザッ…ザッ…
そして、そんな倒れた勇間と呆然とする爆豪の下に
状況は最悪、先ほどまで完全に勇間の優勢だったはずだったが、爆豪の介入によって戦況は一気に脳無へと傾いた。
「…かほっ…はあ…」
脳無による殴打で吐血した影響によって爆豪の視界はゆがみ始める。
「…クソ…がァ………この脳みそ…野郎ォォォ…!!!」
だが爆豪は迫りくる脳無に対抗するようにその体に鞭を打ってなんとか立ち上がろうとするが、その体に与えられたダメージは相当なもので体に力は入らず、血の不足によって意識は薄れていく。
そんな中、爆豪と勇間の下にたどり着いた脳無は未だ立ち上がろうとする爆豪に追い打ちをかけるように左手を向けて、口を開いた。
「…ラ˝リボォー」
発生する青白い波状をなすすべなく受けた爆豪の意識は抵抗ができないほどに急激に薄れ、瞼が重く垂れさがる.
そして…薄れゆく意識の中…呟く…
(……俺の…せいだ…)
そして爆豪の意識は…
(………勇間…………ごめん…)
まどろみのなかへ…
・・・・・・・・・・・・・
林間合宿に参加していた雄英生徒41名。
内15名が謎のガスによる意識不明の重体、重・軽傷者11名、無傷で済んだのは13名だった。
そして…
行方不明…2名。
・・・・・・・・・・・・・
「……んん……あ、あれ…ここは…??」
目が…覚める。
真っ暗な部屋、そのど真ん中で一筋の光に照らされて目を覚ましたのは勇間 勇だった。
(…体が…動かない…)
椅子に座らされていた勇間は立ち上がろうと体に力を入れるが起き上がることはできない。
そんな勇間は目線を下にして自分の身体を確認する。
(拘束されている…)
勇間の身体はベルトのようなもので椅子に縛り付けられており、手元には大袈裟なほど大きな手錠がはめられていた。
(……俺は確か…)
途方もなく長い眠りから覚めたような感覚でぼんやりとしていた勇間の意識が徐々に覚醒していく…
(…………あ!そうだ!!あの時俺は脳無にやられて…!じゃあ…)
「爆豪!!!爆豪どこだ!!無事なのか!!」
状況を思い出した勇間はそう叫ぶが、その叫びは虚しくも部屋に響いてそのまま消えていく。
(くそ!!一体あれからどうなった!?ここはどこだ!?爆豪は無事なのか!?)
色々な思考が勇間の頭の中を駆け巡る。
そしてその時。
「おや…やっとお目覚めか…『勇者』くん」
真っ暗な部屋の奥からそんな声が聞こえた。
しかしその声の方を見やっても、闇が深く、何も見えない…のだが…
(…なんだ…この…感覚………あの時と一緒だ……USJの時と…)
その声から底知れない闇を感じ取った勇間、そしてこの感覚は初めてではない。
勇間が思い出していたのはUSJの時、プロヒーローの登場によって追い詰められていた脳無が何者かに回収された時だ。
…つまり…
勇間の中で色々なパーツが組み合わさっていく。
そして一つの結論へとたどり着いた。
「…まさか…そこにいるのか………オール…フォー…ワン…!!!」
勇間がそう言うと、暗闇の中からさらに声が聞こえてくる。
「ほう…僕のことを知っているとは……オールマイトからの入れ知恵かな?」
コツコツ…
足音と共にその声はゆっくりと勇間のいる方へと近づいてくる。
「でも…挨拶くらいはしておこうか…」
(…なんだ…なんなんだ…この威圧感は…!!)
コツコツ…
さらにその足音は近づき、遂に勇間を照らす光によって、その姿が徐々に明らかになる。
「初めまして『勇間 勇』…僕は『オール・フォー・ワン』…」
オールフォーワンはそのまま続ける。
「…この世界の『魔王』になる者だ」
オールフォーワンはそう言って、拘束されている勇間の正面で立ち止まった。
完全に明らかとなったオールフォーワンのその姿はかなりの巨体に頭部に着いた複数のパイプ、そして顔面には本来ついているはずの目や鼻などのパーツが無い…
そんなおぞましい姿を目の当たりにした勇間は息をのむ。
(…途轍もない緊迫感と威圧感…そして恐怖…呼吸も忘れてしまうほどの存在感……これがオールマイトの言っていた……『巨悪』…!!)
自分よりも格上の敵を相手取っても勇間がこれまで感じることのなかった、明確な『恐怖』を勇間は目の前の巨悪に感じていた。
…だが今の勇間にはそんな『恐怖』なんかよりも重要なことがあった。
勇間に対し、オールフォーワンは再び口を開く。
「今日君をここに連れてきたのは…ある『提案』をするたm「爆豪はどこだ」
オールフォーワンの声を遮り、勇間はそう言った。
そう、『恐怖』なんかよりも勇間にとって大切なのは
そんな口を開いた勇間の目には恐怖なんて感情はもう一切なくなっていた。
オールフォーワンはそれに対して口を開く。
「…ふふ…そんなにお友達が気になるか……彼なら弔たちの所で仲良くやっている」
「弔…?死柄木か!?」
「そうだ…
「……」
勇間に責任を感じさせるような口調でそう言ったオールフォーワン、それに対して勇間は下を向いて黙ったままだ。
オールフォーワンは続ける。
「キミが彼を無視して戦ったから…こうなった…キミがもし彼を…「わかってる」
オールフォーワンの言葉を再び勇間が遮った。
そして勇間が言葉を続ける。
「わかってるさ…俺が…一番…!!…あの時ちゃんと爆豪のことを考えて戦えていればこんな事にはならなかった…!!」
「なんだ…わかってるんじゃないか…そうだ…全部キミが悪いんだ…だからキミは…「だから!!」
またしてもオールフォーワンの言葉を遮って勇間が声を荒げる。
「ここでお前を倒して…俺が爆豪を助けに行く…!…それで全部解決だ…!!」
勇間はそう言うと、顔を上げて正面のオールフォーワンを睨みつけた。
しかし、それに対してオールフォーワンは余裕の笑みを浮かべて言葉を返す。
「ふふ…それは大きく出たな…とてもじゃないが拘束されている男の言うセリフとは思えない」
…だが、オールフォーワンがそう言ったその時…
バキンッッ…!!!
と大きな音を立てて勇間の手錠が壊れる、そして…
ブチンッ…!!!
椅子に拘束していたベルトもちぎれ始めた。
勇間は素の身体能力でその拘束を破ったのだ。
そして拘束を解いた勇間はゆっくりと椅子から立ち上がり、口を開く。
「…俺も…挨拶くらいはしておきます…」
バチバチッ…と勇間の右の手元に稲妻が発生し始める。
「初めまして『オールフォーワン』……俺は『勇間 勇』…」
目の前には強大な悪の力を持った世界を支配しようとする『魔王』の姿。
「この世界の『勇者』になる者だ!!!!」
そして…そんな魔王に挑む『勇者』の姿。
そう…それは…まさしく…
23.『勇者の挑戦』
今回も読んでいただきありがとうございます。
ドラクエでボスとかにボコられた時「こんなんどうやって勝つの??」って思うときありますが、案外ちょっとレベリングしただけであっさり勝てるようになって「こんな弱かったっけ?」ってなる時ありますよね。
それでそのまま調子乗って次のボスに挑んだら瞬殺されるみたいな。
これなってるのは自分だけじゃないはず。
急いで書いたので誤字脱字などありましたら教えていただけると幸いです。