この世界でも勇者になります。   作:shch

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26.血路を開け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇へ

 

今日は仮免試験があった、2次試験まであったんだが、無事合格することができた。

 

でも試験中に俺のことを知ってる奴が別の学校にいて、そいつと少し揉めてしまった。どうやら雄英高校の推薦入試の頃の…俺がお前にしか心を開いていなかった時期、あの時期に俺はそいつに嫌な思いをさせてしまっていたらしい。

 

でも安心してくれ、ちゃんと話して和解できた…と思う。試験の時もソイツは風の個性だったんだが、勇のバギを何度も見てきたから俺の火と相性の悪い風でも落ち着いて連携ができた。合格できたのは勇のおかげだ、改めてありがとう。

 

あと、爆豪が試験に落ちた、それもB組含めて雄英の1年の中で一人だけだ。前から言っているが勇が居なくなってから爆豪の様子がおかしい、すごく焦っている感じだ、もし良かったら連絡を取ってやってくれ。

 

 

焦凍より』

 

 

 

 

「………爆豪が…一人だけ落ちた?」

 

俺は焦凍とのチャット画面に長々と書かれた文章に目を通すと、一言小さく呟いた。

 

その呟きは、俺一人には広すぎる病室に響き渡りゆっくりと消えた。

 

 

 

 

あの日………俺が『個性』を失った日。

 

あれからそこそこの時間が流れた、俺はその間ずっと入院して治療を受けていた。

 

だが、医者の話によれば明日には退院できるらしい。

 

まだ完治はしていないみたいだけど、リカバリーガールやこの病院の最新治療のおかげで、不自由なく日常生活を送れるくらいには回復したようだ。

 

入院している間はまあ…色々あった。

 

プレゼントマイクを始めとした雄英高校の先生たちがお見舞いに来てくれたり、警察の事情聴取や自称個性専門家の個性カウンセリングを受けさせられたりと…

 

でも、ホークスさんとエンデヴァーさんが一緒にお見舞いに来てくれた時は驚いたな…あの二人って仲良かったんだ。

 

母や父もよく来てくれて、敢えてだろうが何も言わずにこれまで通りに俺に接してくれた。

 

A組の皆ともそこそこ連絡を取ってた。爆豪だけは何回メールを送っても返信が来なかったけど。

 

…まぁとにかく色々な人が俺を気にかけてくれたようで、メンタル的な面で言うとかなり安定していたと思う。

 

そのおかげか、最初は受け入れられなかった現実が少しずつ受け入れられるようになってきた。

 

『個性』が無い生活と自分にも段々と慣れてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………

 

 

 

「さて…勇間、お前は………これからどうしたい?」

 

これは少し前に夕暮れの差し込む病室で窓際の椅子に腰掛けた相澤先生が俺に向かって言った一言。

 

「………」

 

いつもとは違う優しい声色の相澤先生の問いかけに俺は明確な答えを出せなかった。

 

個性を失った俺にできること。ヒーロー科にいる意味。みんなと同じ未来を歩ける保証は、もうどこにもない。

 

何も言えずに視線を下げる俺に相澤先生は言った。

 

「悪いが勇間、ここで即答できない奴を俺はヒーロー科に置いておくつもりは無い」

 

厳しい言葉だった、でも言い返すことなどできない、俺が自分の道を決められないのは紛れもない事実なんだから。

 

「…『除籍』だ、勇間………退院した後、お前は普通科に行ってもらう………以上だ」

 

覚悟はしていた、していたけどやはり悔しい。

 

「…すいません…先生」

 

そんな失意のどん底の俺に相澤先生は構うことなく椅子から立ち上がり、カーテンの隙間から差し込む夕日を背にして病室の扉へと歩いていく。

 

しかし、先生が扉に手をかけた、その瞬間。

 

「……ただな」

 

背を向けたまま、低く静かな声が落ちる。

 

「俺は……お前をいつまでも待っている、勇間、お前が自分で答えを出すその日までな」

 

言い残し、扉が静かに閉まった。

 

相澤先生の言葉の真意は今の俺には分からない、ただ俺は悔しさと情けなさを噛み締めながらベッドのシーツを握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュン……チュン…

 

 

薄く揺れるカーテンの隙間から、木漏れ日がそっと差し込んでいる。

 

窓の向こうには、梢を揺らす朝の風、耳に入る小鳥の囀り、光はレース越しに柔らかく砕け、床にまだら模様の温もりを落としていた。

 

「……朝か」

 

まどろみの底から、ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。

 

「ふあぁ……ねみ……」

 

俺は大きな欠伸を一つ吐き出しながら、まだ温もりの残る自室のベットから立ち上がる。

 

そして、自室から出て、ふんわりと焼いた食パンの匂いが漂うリビングへと足を運んだ。

 

「あら、おはよう、勇。朝ごはんできてるから」

 

「おはよう母さん」

 

俺は母に朝の挨拶を返しながらテーブルに着き、バターの塗り込んだ食パンを手に取った。

 

「いただきます…」

 

大きく口を開け、手に取ったパンに齧り付く。

 

「早く食べちゃいなさい、退院してから初めての登校なんだから、ちょっと早めに出ないとダメなんでしょ」

 

もしゃもしゃと咀嚼をしていると母が俺にそんな事を言ってきた。

 

俺は口に含んだ食パンを牛乳で流し込むと母の言葉に答えるように口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、早めに学校に行って、職員室で()()()担任の先生と少し話さなきゃいけないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々の校舎の匂いに胸がざわつく。

 

緊張で足取りが少し重くなりながらも、俺は指定された新しい教室の前に立っていた。

 

プレートには「1-C」の文字。

 

あれから俺は無事に退院することができ、新学期を迎えていた。

 

(やべー……くそ緊張する……)

 

俺は例のごとく、バカみたいに緊張していた、普通科に知り合いなんていないし、こんなの転校生と変わらないじゃないか。

 

………そう考えると転校生って凄いな…このプレッシャーを乗り越えてるんだもんな。

 

てかなんで退院の日が夏休み終了の次の日なんだよ…夏休み終了日に退院できてたら始業式に合わせて目立たずにクラスに紛れ込めたかもしれなかったのに。

 

「おーい、勇間!入ってこーい!」

 

「あ、はい…!」

 

しょうもないことを考えていると、新しい担任の先生の俺を呼ぶ声がドア越しに聞こえてきた。

 

俺はその声に反射的に返事を返し、目の前の扉に手をかける。

 

(……あーやば…自己紹介なんて言うか考えてなかった………)

 

ここでの第一印象はかなり大事だと言うのに…

 

…というのも雄英高校は今回の事件を受けて、全学科全寮制になったのだ、そんでその寮はクラスごとに分かれている。

 

つまり、ここで最低限の友達を作らなければ、普通に寮生活に支障をきたすことになるのだ。

 

しかし、考えてなかったものはしょうがない……アドリブでいくしか無い!

 

大丈夫だ勇間勇!お前ならやれるぞ!!

 

俺はそんな風に自分を鼓舞しながら、半ばやけくそ気味で扉を開いた。

 

(友達100人できますようにっ!!)

 

ガララッ……

 

音を立ててドアを開けた瞬間、教室にざわついていた声がピタリと止んだ。

 

数十の視線が一斉に俺へと注がれる。

 

……けど、その目はどこか冷ややかだった。

 

小馬鹿にするようなニヤつき。

 

「へぇ、あのヒーロー科から落ちてきた奴か」と言わんばかりの嘲り。

 

あるいは、完全に興味を失った無機質な視線。

 

胸の奥がギュッと縮む。

 

まあ分かってた……雄英においてヒーロー科は特別扱いされる存在で、だからこそ妬まれ、嫌われることも多い。

 

そこから弾き出された俺が良い反応で迎えられるわけない。

 

(……あー…これは無理なヤツだ)

 

入って数秒で悟ってしまった。

 

友達を作るどころか、下手すりゃ敵ばっかり増える、てか体育祭とかやらかしてるから既に敵が多いことだろう。

 

相手の反応に一喜一憂してたら、心が擦り切れるだけだ。

 

「ほら、勇間。前に出て、自己紹介だ」

 

担任が俺にそう言った。

 

(………適当でいいか)

 

胸の内で小さく溜息をつきながら、俺は教壇に立った。

 

「………えー…勇間 勇です。元はA組だったんですけど、色々あってC組に来ました。………好きな食べ物は高い蕎麦と辛めの四川麻婆です。よろしくお願いします」

 

教室に入る前に感じていた緊張など、どこかへ飛んで行ってしまっていた。

 

淡々と語った俺の自己紹介に拍手も笑い声もなく、静まり返る教室。

 

(………ああ……A組に帰りたい)

 

俺は心の中でそう嘆いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

昼休み……

 

 

 

 

俺は窓際の一番後ろの席で、一人静かに母さんの作ってくれた弁当を広げていた。

 

昨日『明日、食堂で一緒に食べよう!』と緑谷からメールが来ていたが、今日は母さんに弁当を作ってもらうと決めていたから断った。

 

何故そんな事を決めていたのかは…今日から寮に入るということもあり、母さんの弁当は当分食べられないからである。

 

(おかず…なんだろ?)

 

そんなことを考えながら包みを開き弁当のふたを開けると、見慣れた卵焼きに子供の頃から好きなチーズハンバーグ、白いご飯。

 

そして、弁当の蓋には小さな紙切れが挟まっていて『新クラスファイト!』という丸っこい母さんの手書きの文字が見えた。

 

……正直、ちょっと泣きそうになるからやめて欲しい。

 

(母さん…友達の一人も作れない情けない息子でごめんね……)

 

俺がそんなことを考えながら箸を進めていると、近くに座っている数人のクラスメイト達がわざとらしくヒソヒソ声を漏らす。

 

「……あいつ、ヒーロー科だった奴だろ?」

 

「入試一位だって聞いたけどな。落ちぶれて俺らと同じ普通科とか、恥ずかしくね?」

 

「体育祭でも調子乗ってたよな、やっぱ勘違いエリートってやつ?プライドだけ高そう」

 

そしてクスクスという笑い声。

 

(……あーそういうこと言っちゃうんだ…まぢむりなんですけど)

 

最初から分かってた。

 

俺がここで歓迎されるはずがない。

 

(まあいい…俺はこのクラスでは孤高の一匹狼クール系キャラとしてやっていこう…中々にカッコいいだろ?案外モテるんじゃないか?)

 

そんなバカなことを心の中で呟き、自分を慰める。

 

……でも、やっぱり。

 

箸を動かしながら、心のどこかで思ってしまう。

 

(……寂しいな)

 

カリ、と卵焼きを噛んだ瞬間。

 

ガタリ……

 

俺の目の前、空いていた席に椅子を引く音が響いた。

 

反射的に視線を上げると………そこには一人の男が何の躊躇いもなく俺の前に腰を降ろしていた。

 

そして目の前の眠そうな目をした男は特に表情を変えずに口を開く。

 

「うっす、お前、体育祭で準優勝した勇間だよな?俺、『心操』っていうんだけど…分かる?」

 

その言葉に俺の思考は完全に停止した。

 

(……え?え?これ俺に話しかけてくれてる!?)

 

口を開こうとしても、声が出ない、多分パクパクと口を動かすだけの金魚みたいになってる。

 

「……なんつー顔してんだお前」

 

心操がそんな俺の顔を見て半眼のまま、呆れたように眉をひそめる。

 

その一言で正気を取り戻した俺は、気付いたら机越しに勢いよく手を握っていた。

 

「し、心操だろ!?体育祭で緑谷と一回戦で戦ってた!もちろん覚えてる!!」

 

「お、おう……」

 

「………そんなことより話しかけてくれてありがとう!」

 

「はぁ?」

 

「俺、もう朝から不安で不安で…こうして人と話してるだけで落ち着くんだ…ほんとに」

 

言いながら視界がじんわり滲む。

 

ああ…また泣きそう………今日は涙腺が緩むぜ…

 

「………お前、意外と変な奴なんだな…」

 

心操は軽く笑いながらそう呟くと、ちらっと俺の横の方向に視線を流す。

 

その方向はさっき俺の悪口を言ってクスクス笑ってた連中の方だった。

 

「なぁ、お前ら」

 

ぼそりと落ちる声。けど、その声はよく響いた。

 

「……そんなに勇間が気になるのか?ヒーロー科妬んで陰口言うくらいなら、素直に『羨ましいです』って言っときゃいいのに」

 

一瞬で空気が固まる。

 

「強い奴を下げて、一緒になって陰口言って安心しようとするの、正直ダサいぞ……俺はそういうの嫌いだな」

 

その言葉に、さっき笑ってた連中は顔を赤くし、互いに目を逸らしてそのまま立ち上がり、教室から出て行ってしまった。

 

「ははっ……言い返す度胸もないなら最初からやめときゃいいのに…つくづくダサい奴らだなぁ」

 

退散していくその背中を見た心操はソイツらを心底バカにするような笑みを浮かべる。

 

「……まあ、このクラスにはあんな奴らもいるけど、そこまで悪いヤツばっかっていうわけじゃないから安心していいぞ」

 

次いで、心操は俺を不安にさせないためか、どこか優しい声色でそう言ってきた。

 

(………な、なんだ…コイツ…カッコよすぎないか?俺が女の子だったら間違えなく惚れてんぞ!?)

 

……と俺が心操のカッコよさに心の中で畏怖しながらも、恐る恐る口を開く。

 

「あ、ありがとうな心操、お前って意外とかなり良いヤツなんだな」

 

爆豪の眠たいバージョンみたいな目つきをしてる癖に…

 

と俺が考えていると、俺に礼を言われた心操が口を開く。

 

「別に礼を言われるまでもないけどな」

 

そう言いながら、わずかに顔をそらし、頬を指でかきながら言葉を続ける。

 

「……俺はヒーロー科に行きたいんだ。前からずっとな、そのために元ヒーロー科、しかも主席様のお前と話してみたかっただけで、アイツ等はお前と会話する上で邪魔だったから、ちょっと追っ払っただけだ」

 

どこか照れくさそうに吐き出したその言葉に、俺の胸はぐっと熱くなった。

 

(…そっか、心操もヒーローになりたかったんだっけか…)

 

一瞬だけ、自分が失ってしまったものを強く思い出す。

 

けど同時に、心操の瞳の奥で静かに燃える炎を見た気がして、心のどこかで嬉しくなっていた。

 

「心操…お前カッコいいな…絶対良いヒーローになれるよ」

 

自然に俺の口から出たその言葉に、心操は驚いたように俺を見返し、すぐにふいっと視線を逸らした。

 

「……別に…お前に言われても嬉しくねーよ」

 

「…ははっ…またまた照れちゃって」

 

「…………勇間お前…全然見た目のイメージと性格違うのな…」

 

「心操には言われたくないな」

 

俺たちはそう言って笑い合った。

 

ついさっきまで孤独で押し潰されそうだったのに、不思議と気持ちが軽くなっているのに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしかしたら…普通科での生活も…案外楽しくなるのかもしれないな…)

 

心操の表情を見ながら俺はそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇へ

 

 

今日もインターンとしてエンデヴァーの所へ行っていた。いつもと同じ様にアイツのパトロールの後ろをついて回っているが、視野や移動速度、判断能力…戦闘能力はもちろんだが、他の面でもまだまだアイツの足元にも及んでいない。

 

アイツよりも速く事件を解決するのが当分の目標だ。精一杯がんばろうと思う。

 

それと、俺以外のインターン組の緑谷や切島たちの事務所がチームアップで何かの事件を一緒に追っているみたいだ。俺も一緒に行きたいがオールマイトが引退してからアイツも忙しいらしいから無理そうだ。

 

あと、爆豪が仮免の補習に行き始めた、一次試験は突破してたから講習とテストを受ければ仮免を取得できるらしい、爆豪は講習の後いつも傷だらけで帰ってくるから「大丈夫か?」と声をかけるんだが、毎回無視される、正直すごく悲しい。

 

 

焦凍より』

 

 

 

 

 

「………これに対して俺は何て返せばいいんだ?爆豪に文句を言いに行けばいいのか?」

 

入院してから毎日届く、焦凍の日記メールを眺めながら俺は呟いた。

 

「何見てんだ勇間?」

 

隣に並んで歩いていた心操が俺の呟きに反応した。

 

「A組の友達からのメール…毎日届くからアイツらの近況が知れて助かるんだよこれが」

 

「ニュースかよ」

 

俺の発言に心操がそうツッコミを入れた。

 

まぁホントにニュースみたいな感じだ、雄英BIG3に腹パンされて痛かった話とか、緑谷と爆豪が喧嘩して謹慎になってて可哀想だった話とか…色んな事を焦凍は教えてくれる。

 

そんな会話をしながら俺たちは今、授業が終わり校舎から寮へと歩いている途中だ。

 

俺が普通科に入ってから、少しの時間が経っていた、心操のおかげか俺はクラスでもそこまで孤立することは無く、少ないが友人と呼べるようなヤツもできてきていた。

 

俺はなんとなく、再び焦凍のメールの文章へと視線を移す。

 

(……もうインターンか…なんだか皆、随分と遠い存在になっちゃた気がするな…)

 

まぁでも俺が病院で皆に伝えたように、A組の連中は脱落してしまった俺の事など気にせずにしっかりと前に進んでくれているようだ。

 

その事実が俺は何よりも嬉しい。

 

 

でも…

 

 

焦凍の報告メールやA組の皆と連絡を取るたびにどうしても考えてしまう。

 

『もし俺が個性を奪われてなかったら、どうなっていたんだろう』

 

………と。

 

仮免試験を受けに行ったら、皆と一緒に合格できていただろうか?

 

もしかしたら爆豪と一緒に戦って、あいつを合格させることもできたかもしれない。

 

そんで、もし合格できていたら、インターンにも行ったりしたんだろうな…

 

 

行き先は職場体験で行ったホークスの事務所かな…それならまた常闇と一緒に行くのかな?

 

 

…いやもしかしたら焦凍と一緒にエンデヴァーさんのとこに行ってた可能性もあるな。

 

 

 

まあいずれにせよ、そこで事件を解決したりして…

 

 

そんで、いっぱい色んな人を救って……

 

 

 

それで……また……A組の皆で……

 

 

 

 

 

 

皆で…

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

…いや、そんなの考えるだけ無駄か。

 

俺はブンブンと頭を振って、浮かび上がった妄想を吹き飛ばす。

 

そんな時、隣を歩きながら俺の表情を伺っていた心操がふと口を開いた。

 

「……なあ…勇間……お前さ、今でもヒーローになりたいって思ってんの?」

 

「………っ」

 

………まただ、俺はまたこの質問に即答できない。

 

歩く足が止まりそうになった、けど、すぐに誤魔化すように笑って返す。

 

「……なりたいよ……正直、ずっと。けどさ」

 

俺は空を仰ぎ、ポケットに突っ込んだ手をぎゅっと握りしめた。

 

「調べれば調べるほど…鍛えれば鍛えるほど…解ってしまうんだヒーローという職業において『個性』がないってことが、どんだけ致命的か……」

 

言葉を区切りながらも、必死に自分を納得させるように続ける。

 

「だからさ、俺は警察とか公安とか……世の中の役に立つけど、個性が必須じゃない道を目指そうかなとか…最近は考えてる」

 

そう言い切った瞬間、自分の声が少しだけ震えているのがわかった。

 

心操がじっと俺の顔を見ている、まるで俺の考えていることを見透かすように。

 

俺は思わず視線を逸らして、歩くスピードを速める。

 

その時だった。

 

「なあ…もしさ…お前の力が……!」

 

顔を見られたくなくて、少し前を歩こうとしていた俺に心操が声をかけてきた。

 

その内容に俺は反射的に心操の方を振り返る。

 

「……俺の力が……どうしたんだよ?」

 

俺がそう聞くと、心操は少し焦ったような表情で口を開く。

 

「……い、いや…すまん、なんでもない」

 

「なんだそりゃ…」

 

俺が肩をすくめて歩き出そうとした、その時だった。

 

「……いや、やっぱりちょっと待て、勇間」

 

心操が再び俺の背中に声を投げてきた。

 

振り返ると、どこか覚悟を決めたような表情をしている心操の姿。

 

「…実はある人から、お前に伝言を預かってる」

 

「……え、伝言?」

 

心操から?俺へ?誰が?皆目見当もつかないぞ?

 

「『もしもう一度、本気でヒーローを目指す覚悟ができたら、この番号に電話しろ』……だってさ」

 

困惑する俺に構わず、心操はそう言って、ポケットから一枚の紙を取り出し、俺に手渡してきた。

 

受け取ってみると、そこには見覚えのない電話番号が書かれている。

 

「いや、これって誰からだよ?」

 

思わずそう聞くと、心操はわずかに目を伏せて、短く答えた。

 

「……誰かは言えない。言ったら意味が無いらしいから、でも、信じていい人だ」

 

「ええ…なんだよそれ、てかなんで今…「確かに渡したからな、じゃあ俺こっちだから」

 

状況が飲み込めない俺の声を遮って心操はそう言うと、踵を返して、寮と反対の方向に走り出そうとした。

 

「おい、どこ行くんだよ?寮はこっちだぞ?」

 

「いや、ちょっと用事を思い出したんでね、先帰っといてよ」

 

そう言うと心操は俺の返事を待つこともなく、「また明日」とだけ言い残し、そのまま駆け出して行った。

 

「……ええ、急すぎないか?どこ行くんだよ?」

 

追いかけて聞こうとしたけど、心操は振り返りもせずに手をひらひらさせて、結局遠ざかってしまった。

 

(……心操、最近こういうの多いんだよな)

 

気付けば、一人でどっかに消えていくことが増えてる。

 

しかも寮に戻ってくる時は、腕とか膝にすり傷つけてることも珍しくない。

 

ふと、走り去った方角に目を向ける。

 

 

そこは…俺がかつて、ヒーロー科で散々使っていた、いろんな種類の訓練場がある方向だった。

 

 

(…心操?)

 

 

 

胸の奥でざわつく何かを抱えながら、今度は心操から渡された番号の書かれた紙切れに視線を移す。

 

 

「………『本気でヒーローを目指す覚悟』…か」

 

 

俺は小さく呟きながら、その紙を折りたたみ、大事に制服の胸ポケットに入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだまだだな…心操」

 

「………うぅ」

 

 

とある訓練場の森林エリアにて…

 

首に巻いた捕縛布が体中に絡まって身動きが取れなくなった心操を見下ろすのは1年A組の担任『イレイザーヘッド』…相澤先生だった。

 

「これ…難しすぎませんか?」

 

「練習あるのみだ…お前の個性でそれを使いこなせるようになれば…お前はヒーローに大きく近づける」

 

相澤はそう言いながらポケットからスマホを取り出して時間を確認する。

 

「…まあ練習あるのみと言っても…今日はここまでだ、今結構面倒そうな事件の調査をしていてな、色々やらないといけないことがある」

 

相澤がそう言いながら地面に転がる心操の元に歩み寄る。

 

そして心操をじぃーっと見つめながら口を開く。

 

「……はよその捕縛布を解け、はやく帰りたい」

 

「…えっ?先生が解いてくれないんですか?」

 

「アホか、解くのも練習だ…実戦で絡まったら誰かに解いてもらうまで今みたいに転がってるのか?」

 

相澤にそう言われながら睨まれた心操は少し体を硬直させながらもモゾモゾと体に絡まった捕縛布を外そうと動き始める。

 

その様子をしばらく無言で見ていた相澤がボソリと呟く。

 

「…最近…勇間はどうだ?」

 

「…まぁ至って元気ですよ、アイツがC組に入ってきたばかりの頃よりは全然…それに、ついさっき先生に言われた伝言を伝えました」

 

「そうか、ありがとう」

 

相澤は短くそう返すと、再び口を結んだ。

 

そんな相澤に今度は心操から声をかけた。

 

「…あと先生…あの話は本当なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勇間の力が戻るかもしれないって話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇間の個性については、アイツを入学試験で見つけた時からずっと考えていた、かなり複雑な個性であると。

 

いつか、オールマイトにも相談したことがあったが、まず、アイツの個性はできることが多すぎる、火を起こせれば風も起こせる、氷、雷、さらには重力まで操り出した。

 

そして次に…これはオールマイトにも誰にも言っていない、俺だけが知っていること。

 

 

 

俺の『抹消』が勇間の『個性』にどう作用するかだ。

 

 

 

結論から言うとアイツの力は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が見ても()()()()

 

俺の『抹消』は異形型には効かない、だから勇間が実は異形型だったと言われればそれまでのことだ。

 

…だがおかしいのはアイツに『抹消』を使った時、確かに個性を消したという感覚は残ることだ。

 

それなのに、アイツは俺が見ている間、個性を使えなくなるどころか寧ろ動きが良くなったり、呪文の威力が上がっているような気さえした。

 

だから、正確に言い換えるなら『個性が消えない』のではなく『個性は消えているのに何故か力は使えている』となる。

 

これは明らかに異質、勇間の『力』は俺たちが持つ『個性』と根本的に何かが違う、そう感じていた。

 

そして、今回の事件でその疑問はさらに深まった。

 

『勇間が個性を奪われた』と聞いた時、俺はもしかしたら普通にあの力がまだ使えるのでは無いかと思っていた。

 

なぜなら『抹消』で個性を消した時も問題なく力を使っていたからだ。

 

だが、そんな俺の予想に反して、勇間は力を使えなくなっていた。

 

魔法も出せなければ、以前までの驚異的な身体能力も無くなっていた。

 

…そんな中、俺は個性を奪われる前と後の勇間を見て個性の有無以外で明確な違いを見つけた。

 

それは…

 

 

『…すいません…先生』

 

 

勇間の瞳に宿る猛々しく燃え上がる、意志の炎の有無だった。

 

抽象的な違いだと言われるかもしれないが、個性を奪われる前の勇間の瞳には常に猛々しく自信満々に揺れる闘志が見えた。

 

だが、今の勇間の瞳には全くそれを感じない。

 

 

 

オールマイトという平和の象徴が無き今、強力なヒーローが数多く必要な事は明白…勇間という人材がヒーローにならずに朽ち果てるのはあまりにも惜しい。

 

 

『抹消』の個性を持たない俺以外は勇間の個性を完全に諦めていることだろう……だが俺は思う。

 

 

アイツのあの瞳に……もう一度あの闘志が…燃え盛る炎が戻れば…或いは…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと終わった…」

 

…雄英高校の職員寮にて、エネルギー飲料を片手にそう呟いた相澤は自分が処理した書類の山に目をやると深いため息を漏らした。

 

(まぁ作業的に処理できる書類だったから、『考え事』をしながらできたのがまだマシだな…)

 

そんな事を考えながら相澤はエネルギー飲料を煽る。

 

「…寝るか」

 

相澤はそう言いながら立ち上がると、自室の作業用机から離れる。

 

 

 

…相澤が立った後の作業用テーブルの上、彼が処理した書類の山の側にまた別の書類が散乱していた。

 

その中の一枚…どうやら『個性』に関する文献のようだ。

 

その文献の下の方に荒々しくシャープペンシルで波線が引かれている文章があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臓器、細胞に記憶が宿っていると言われるように『個性因子』には意識……まさしく『個性(その人)』そのものが宿ることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

26.『血路を開け』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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