この世界でも勇者になります。   作:shch

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28.この道わが旅

 

 

 

 

「…来たか、勇間」

 

「……お久しぶりです、相澤先生」

 

俺が先生に電話をかけた次の日、土日でプチ帰省の予定をキャンセルし、俺は相澤先生の呼び出しに応え、雄英高校の談話室まで足を運んでいた。

 

「ああ、数週間振りと言ったところか…まぁ座れ」

 

「はい」

 

静かな空間に深いコーヒーの香りと若干の埃の匂いが漂う中、俺は相澤先生の正面のソファに腰掛けた。

 

正面に座る相澤先生の鋭い視線が俺に飛んでくる。

 

「…確認だが、勇間…今のお前は『無個性』何の力も持たないただの生身の人間…それでもお前は『ヒーロー』を志すのか?」

 

そう言って相澤先生は俺の瞳をじっと見つめていた、まるで俺の中の何かを探っているかの様に…

 

だがそんな相澤先生の視線に俺は怯まず、はっきりと答える。

 

「はい…『個性』が無くても、どれだけ弱くても、俺は人を救いたい、『ヒーロー』になりたい…どんなに険しい道でも道があるのなら俺は進みたい」

 

俺は相澤先生の瞳から目を離さずにそう答えた。

 

「……」

 

「……」

 

俺の答えに相澤先生は何も言わずに俺を見つめる、俺も負けじと相澤先生の鋭い瞳からなんとか視線を逸らさない様に頑張る。

 

すると…

 

「……ふっ…良い表情をする様になったな…勇間」

 

そう言って相澤先生が軽く笑った。

 

「…えっ」

 

その笑顔が普段の仏頂面からは想像もできないほど柔らかい笑顔で、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまった。

 

「みっともない顔を晒すな勇間、本題に移るぞ」

 

だが、俺が驚くのも束の間、すぐに元の仏頂面に戻った相澤先生は淡々と話を進める。

 

俺もそれに合わせて、慌てて背筋を伸ばして、ソファに座り直した。

 

「心操から話は聞いたか?」

 

「…ええ、まぁ…まさか先生が普通科の生徒に訓練をつけているなんて驚きましたよ」

 

あの電話の後、相澤先生に言わて心操と少し話をした、そこで知ったのは、心操が相澤先生が暇な時間にヒーローになるための訓練をつけてもらっているという事実。

 

いやぁ…びっくりしたね。

 

「心操にはヒーローになれる素質がある…オールマイトがいない今、少しでも見込みのある奴は普通科からでも引っ張ってこないといけないからな」

 

相澤先生の言う通り、俺も心操にはヒーローの素質があると思う、『個性』も強力だし、C組に入ってからずっと一緒にいるから分かるが、心操は見かけに寄らず中々にアツい奴だ。

 

「心操は頃合いを見て、ヒーロー科の訓練にも参加させていくつもりだ、その訓練の内容次第ではヒーロー科への編入も視野に入ってくる」

 

「……まぁ、それは分かります。心操ならやれますよ」

 

「それで勇間、お前にも心操と同じ様に訓練をつける、ヒーロー科の訓練に混ざれるようになるかはまだわからん」

 

「…え」

 

単純に嬉しかった、心操の話を聞いて、今日呼び出された時点で心のどこか期待していたことだけど、相澤先生がまた俺に訓練をつけてくれるなんて…

 

でも…疑問は残る。

 

「でも……先生、訓練をつけてくれるのは嬉しいんですが、今の俺には心操みたいに強い個性があるわけじゃない。無個性の俺をわざわざ訓練するなんて……合理的な先生の基準じゃ、俺は素質なしって事になりませんか?」

 

単純な疑問だ、合理的でこれまで様々な生徒を除籍処分にしてきた先生が無個性の俺を鍛えるのは少しおかしい様な気がする。

 

だが、疑問をぶつけた俺を相澤先生は無言で見つめるだけだった。

 

「……?」

 

沈黙が少し続いたあと、相澤先生はゆっくりと立ち上がった。

 

そして談話室の片隅のロッカーのようなところから何かを取り出す。

 

相澤先生はそれをゆっくりと運び、俺の前のテーブルに置いた。

 

「……これ……!」

 

テーブルに置かれたそれを見て、俺の目は大きく見開かれた。

 

そこにあったのは、俺がかつて使っていた、「天空の剣」を模したデザインの剣。

 

脳無との戦いで手放して、個性が失われてから二度と手にすることはないと思っていた、俺の象徴のような武器。

 

「……先生、これ……どうして……」

 

震える声で尋ねると、相澤先生は淡々とした声で言った。

 

「持ってみろ」

 

「…はい」

 

促されるままに両手でそのかつての相棒の柄を握り、グッと持ち上げる。

 

「なっ……!?」

 

(重っっっ!!!コイツ!!こんなに重かったの!?)

 

なんとか持ち上がったものの、あまりの重さに思わず腕が下がりそうになる。

 

(俺はこんなのを片手でブンブン振り回してたのか…!?)

 

俺が驚いていると、相澤先生が静かに言葉を重ねる。

 

「周囲に気をつけて……一度、振ってみろ」

 

「……ええ?ここ室内ですよ」

 

「………」

 

「…やります」

 

相澤先生の無言の圧に負け、俺は慎重にそのべらぼうに重い剣を頭の上まで持ってくる。

 

(…重すぎて…手がプルプル震えるよぉ…)

 

心の中で弱音を吐きながらも、俺は呼吸を整え、神経を剣に集中させる。

 

両腕にありったけの力を込め、ゆっくりと振りかぶる。

 

…そして、一閃。

 

(…あれ?…この感覚は…)

 

ブンッ!!

 

鈍い風切り音と共に、剣が綺麗な弧を描く。

 

「……っ!!」

 

ゴゥッ!!!

 

重さでヘロヘロな鈍い一振りになると思っていたのに、剣が空を裂いた瞬間、爆ぜるような衝撃波が談話室を襲った。

 

俺の一振りから発生した風圧にカーテンは千切れんばかりに舞い、壁際に置かれた書類の束が一斉に宙を舞った。テーブルの上のカップがカチャカチャと震え、熱いコーヒーが跳ねてこぼれる。

 

全身に感じる暴風に思わず足を踏ん張り、両腕に走るピリピリとした痺れと共に重い剣をなんとか握り締める。

 

…俺は驚く、とても無個性の常人がただの剣の素振りで出していい風圧では無かったからだ。

 

だが…それ以上に。

 

「……懐かしい」

 

目を丸くしながらそう呟いた俺に対し、相澤先生は腕を組み、口角をわずかに上げた。

 

「…正直、最初は個性を失ったお前のことを…俺は見てられなかった、心配をかけない様に必死に取り繕っていたつもりだろうが、一応これでもお前の担任だ…お前の考えてる事なんてすぐ分かった」

 

相澤先生はそう言いながら立ち上がって剣を下ろした俺の方に歩いてくる。

 

「…『全部無駄になった』病院にいた時のお前はそんな顔をしていた、まあ無理もない、レベルアップで強くなるという『個性』の性質上、個性を奪われる前のお前の圧倒的な強さはお前の途方もない努力の結晶なんだから」

 

「……」

 

「だが、そんな必死で培ってきた努力と経験が一晩にして奪われ、全てが無に帰してしまった、お前はそう思ってたんじゃないか?」

 

「………はい」

 

俺は素直に頷く。

 

実際そう思っていたからだ。

 

小さい頃からこの力を使いこなせる様に、より強くなれる様に頑張ってきたつもりだ。

 

毎日手が血まみれになっても木刀を振るって、声が掠れても倒れるまで呪文を唱え続けて、足が棒になるまで走った。

 

あの日々は一体何だったんだ…と。

 

…あの日々が全部、オールフォーワンに嘲笑うかの様に踏み潰されたような気がして、俺はずっと悔しかったんだ。

 

「でも、今分かっただろう?確かに前ほどの圧倒的なパワーは出せないかもしれない、なんでもできる万能な魔法も使えないかもしれない…だがお前には…お前の肉体には…」

 

その時、俺の持つ『天空の剣』の赤い宝玉がどこかきらりと輝いた様な気がした。

 

「お前の体には…これまでの経験、そして努力が確かに刻み込まれているはずだ…だから安心しろ。お前の努力は決して無駄にはなっていない」

 

相澤先生はそう言いながら、俺の頭にポンと優しく手を置いた。

 

「その経験と刻み込まれた努力こそがお前の『個性』だ…ここで断言しといてやる…自分がなりたいものをはっきりと自覚したお前なら…」

 

 

 

 

 

「きっと良い『ヒーロー』になれる」

 

相澤先生はそう言うと、笑った。

 

先ほどと同じ様な柔らかい、俺を安心させるような笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

(……ああ…俺って…)

 

 

胸の中の小さな種火が煌々と…少しずつ大きくなるのを俺は感じていた。

 

 

(周りの人に…恵まれすぎてるな……)

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ…俺の指導についてこれなかったらすぐに切り離すがな」

 

「ヒエッ…」

 

 

 

いや、やっぱこの人こわっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から、俺と心操の相澤先生による地獄の特訓の日々が始まった……

 

 

…というわけでもなく、相澤先生は普通に今すごく忙しいらしい。

 

通常のA組の授業や訓練は勿論だが、プロヒーローとしてもどうやらかなり大きめの事件の捜査に協力している様だ。

 

詳しい内容は機密情報の為教えてくれなかったが、簡単に聞いた感じ、ヤクザがどうのチンピラがどうのと、かなり面倒くさそうな案件だった。

 

なんか、緑谷もチームアップで切島や梅雨ちゃん、麗日さんと似た様な感じの事件の捜査をしてると聞いたが…もしかして同じ事件だったりするのだろうか…?

 

…話が逸れたけど、兎に角相澤先生は忙しいらしく、そこまで訓練を見てくれたりはしていない。

 

だが、相澤先生は俺に「お前は取り敢えずその剣を簡単に振り回せる様になっとけ」と言っていたので、未だに重たいこの天空の剣を俺は自主練として放課後や早朝に毎日振り続けている。

 

自主練中は隣で心操もなんか捕縛布とわちゃわちゃやっていたりして、一緒にできているので、まあなんだかんだ楽しく訓練ができていたと思う。

 

そんなこんなで新しい日常と共に月日は流れていた。

 

 

でも…そんな日々の中で俺に一つだけ悩みというか…引っかかる事があった。

 

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、爆豪」

 

「あァ…?」

 

西日の差し掛かる、雄英高校の正門前…待ち伏せしていた俺の前に現れたのはかつてのライバルの姿であった。

 

爆豪は俺の顔を見るなり、パチクリと目を見開いて驚いている様だ。

 

今日のコイツは仮免講習の帰りで、この時間に正門を通ると相澤先生から聞いていたのだ。

 

焦凍も心配してるし、なんなら相澤先生だって、爆豪をなんとかしてやってくれと言っていた。

 

俺だって爆豪のことはずっと気にかかっていた。

 

だから今日、話をつけるために待ち伏せをした。

 

「…なんでずっと連絡返してくれないんだよ爆豪、寂しいじゃんか」

 

「……」

 

「それともあれか?もう普通科に成り下がった雑魚の俺とは話してくれない感じ?一応友達と思ってたのは俺だけだった?」

 

「うるせェ…邪魔だ…」

 

俺の言葉に、掠れた声でそう言った爆豪はコツコツとブーツの音を鳴らして無言で俺の隣を素通りしようとした。

 

「まぁ…待てよ爆豪」

 

そんな爆豪の肩を俺は掴んで止めた。

 

だが…

 

「るせェなァ…!!ジャマだっつってんだろうが…!!!」

 

爆豪はそう叫んで、俺の手を力強く振り払う。

 

「…いって」

 

爆豪に勢いよく弾かれた右手の痛みに俺は思わず声を漏らし、顔を顰める。

 

「……ッ!!」

 

そんな俺の声を聞いた爆豪は大きく目を見開いて、その場で足を止めた、俺の顔色を伺うその額には大量の冷や汗が見える。

 

「なに?心配してくれてんの?ちょっと掠っただけだから大丈夫だ」

 

「…ケッ…ちげェわ…!」

 

俺の言葉を聞いた爆豪はそう言うと、すぐに踵を返しそそくさとA組の寮の方向に歩いていく。

 

俺はその背中めがけて大きく口を開いた。

 

「…爆豪!!1時間後!!グラウンドβで待つ!!そこで色々話そうぜ!!」

 

「……」

 

返事は返ってこず、こちらを振り向く素振りも見せないまま爆豪は歩いていく。

 

「俺!…待ってるから!!絶対来いよー!!絶対だぞ!!」

 

 

どこか小さく見えるその背中に俺はそう叫んで、自分の寮へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後…グラウンドβ。

 

 

 

 

 

「…時間ピッタリじゃん」

 

「……」

 

爆豪は勇間との約束通り、きっかり1時間後にグラウンドβに現れた。

 

そんな爆豪に勇間は嬉しそうな表情で駆け寄り、軽い調子で口を開く。

 

「来てくれたんだな爆豪、絶対来ないと思ってたけど」

 

「……」

 

「それで最近どうなんだ?なんか調子悪いんだろ?仮免落ちたって聞いたし、緑谷と喧嘩したって聞いたぞ?それで謹慎になったんだって?」

 

「……」

 

「笑えるよな……ああ安心していいぞ、今日のこの場は一応相澤先生に許可取ってもらってるからさ」

 

「……」

 

「……爆豪?」

 

一方的に喋り続ける勇間に対し、ずっと黙ったままの爆豪。

 

そんな爆豪の顔を勇間は心配そうな表情で覗き込んだ。

 

その時…

 

「…ンでだ…」

 

「え?」

 

爆豪が小さな声で呟いた。

 

爆豪の呟きに勇間が首を傾げると、今度は爆豪がゆっくりと顔を上げ、勇間の蒼い瞳をしっかりと見つめながら、口を開いた。

 

「…なんで…テメェは…俺を責めねェんだ…」

 

声を荒げるわけでもなく、冷静な様子で爆豪は勇間にそう言った。

 

「…責める?俺が爆豪を?なんでだよ?」

 

キョトンとした様子の勇間に爆豪はゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

 

「…分かってんだろテメェも…なぁ…テメェが個性を失ったのも…普通科へ行っちまったのも…「勇者」になるっつう夢を諦めさせちまったのも……全部…全部俺のせいだろうが…!!」

 

「……」

 

言葉の後半になるにつれ、言葉が荒れる爆豪を勇間は何も言わずに優しい目線で見つめていた。

 

そして爆豪に向けて、ゆったりとした口調で言葉を返す。

 

「……言いたいことがあるなら全部言ってくれ爆豪、全部言った後…俺が話す」

 

「……っ!…こい」

 

勇間がそう言うと爆豪は短く言葉を吐き、踵を返して淡い月明かりに照らされるグラウンドβの街中をゆっくりと歩き始めた。

 

「……」

 

勇間はそんな爆豪のすぐ後ろについて歩く。

 

真後ろを歩く勇間から爆豪の表情は見えない。

 

しばらく無言で歩くと、爆豪がゆっくりと語りかける。

 

「…初めて会った日…覚えてるか…ピアス?」

 

「…もちろん…河川敷だろ?」

 

「…そうだ…あんときの俺は…クソだった」

 

「…ああ、クソだったね、急に喧嘩ふっかけてきて……別に今とそこまで変わらないと思うけど」

 

「……」

 

「……」

 

月明かりが、コンクリートに2人の影を落とす。

 

「…あん時の喧嘩の勝敗…覚えてるか?」

 

「…引き分けだっけ?」

 

勇間は爆豪と出会った時のことを思い返しながら口を開く。

 

『今回は引き分けってことにしてやるよ、実際俺も何回か攻撃まともに食らってたしな』

 

だが…そんな勇間の言葉を爆豪が否定する。

 

「…ちげェ…あれは俺の負けだ」

 

「……そうだっけ?」

 

「テメェのそういうとこがウゼェんだよ……とにかく、俺はあの日負けた…初めてだった、同年代の奴にガチでやって完膚なきまでに負けんのは」

 

「……お前は俺にとって、初めての『対等』な存在だったんだ」

 

「……爆豪」

 

「あの時、周りの奴らはみんな俺を持ち上げてた……ウゼェぐらいにな。けどテメェだけは違った。ムカつくぐらい真正面からぶつかってきて、平然と俺に軽口を叩いてきやがる……あん時の俺は…それが嬉しかったんだ」

 

爆豪は月明かりの下、拳を強く握りしめる。

 

「だからこそ、俺は……負けを認めたくなかった。もし認めちまったら『対等』じゃなくなる気がした。お前に置いてかれるんじゃねェかって……勝手にそう思った」

 

「……」

 

「入試ん時も……体育祭の時も……職場体験の時も……期末試験の時も……林間学校の時も……」

 

一つひとつの言葉に、爆豪はまるで喉の奥から絞り出すように感情を乗せていく。

 

「……俺はずっと、お前に勝ちたかった。勝って、隣で走って……同じ景色を見ていたかったんだよ」

 

爆豪の声は震えていた。 

 

それが怒りか悔しさか、それとも別の何かなのか、勇間には分からない。

 

「そんなちっぽけなプライドを捨てられなかったせいで……林間合宿で、俺は飛び出しちまった」

 

爆豪の声はかすれていた。

 

振り返らない背中から、それでも必死に隠してきた想いが漏れていく。

 

「……自分の力量と……テメェと、あの脳みそ野郎の力量差なんて……本当は、どっかでわかってたハズなのによ」

 

「……」

 

「それでも……テメェの隣で戦いたかったんだ……2人で並んで、あの脳みそ野郎をブッ飛ばしたかった…」

 

勇間は歩みを緩め、ただ黙ってその言葉を受け止める。

 

「でも結果はあの様だ……俺のせいで、テメェは俺を庇って戦闘不能。敵に連れ去られて……挙げ句、個性まで奪われちまった」

 

その瞬間、爆豪の拳がギリッと音を立てる。

 

爪が掌に食い込むほど強く握りしめていた。

 

「……俺は……オールマイトのヒーロー人生だけじゃなく……初めてできた対等な…ライバルの未来までも奪っちまったんだ」

 

月明かりに照らされたその背中は、いつもの傲岸不遜な爆豪のそれではなく、ひどく小さく、頼らない背中に見えた。

 

「ベットの上で、苦虫を噛み潰した様な顔をしたテメェを見た時、俺はわからなくなっちまった…」

 

「ずっと見てきた、追ってきた背中が突然、自分のせいでどっかに行っちまったんだ、テメェはもう走れねェのに…テメェを走れなくした俺が…このまま走って行っていいのか?」

 

「…なぁ」

 

爆豪はそう言いながら、その足を止めて、ゆっくりとこちらに振り返った。

 

「…教えてくれや…勇」

 

爆豪の赤い瞳が、月明かりに照らされ輝いて、揺れていた。

 

憎しみでも、怒りでもない。

 

ただ、真っ直ぐに…答えを求める視線だった。

 

「……」

 

そんな…爆豪の視線に対し…

 

 

 

勇間は…

 

 

 

「はああぁ……」

 

 

 

ゆっくりとそれでいて大きなため息を吐き出した。

 

月明かりの下、グラウンドβの静寂にその音が響き、爆豪の赤い瞳が一瞬ピクリと動く。額に青筋が浮かぶのが見えた。

 

「…テメェ、なんだそのクソデケェため息!? …こっちは真面目に…」

 

爆豪が声を荒げ、拳を握りしめて一歩踏み出す。

 

だが、勇間はそんな爆豪の反応に構わず、軽く首を振って笑みを浮かべる。

 

「何でお前の中で勝手に俺が夢を諦めた奴になってんだよ?」

 

勇間の声は静かだが、どこか鋭く、爆豪の心を突き刺す。

 

爆豪の瞳がわずかに揺れ、言葉を飲み込むように口を閉ざした。

 

「確かにさ、最初は絶望したよ。個性なくなって、ヒーローになる夢が全部パーになったって…病院のベッドで、毎日そんなことばっか考えてた……でもな、爆豪、今は違う」

 

勇間はそう言いながら一歩踏み出し、爆豪の真正面に立つ。蒼い瞳が月明かりに照らされ、翡翠の炎を宿したように力強く輝く。

 

「俺はまた走り出したんだ。相澤先生や心操、A組の皆、ファン第一号の人…色々と助けてもらいまくってるけど、なんとかまた走り出せた」

 

勇間は右手を握り、拳を軽く胸に当てる。

 

久しぶりに剣を振った時のあの重い感触と、爆ぜた風圧がまだ掌に残っているようだった。

 

「俺は前を見てる… それに対してお前はなんだ? 過去ばっかり、後ろばっかり見て、グチグチ『俺のせいだ』って…そんなのさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺の()()()()の『爆豪勝己』らしくねぇよ」

 

勇間はそう言って挑発的な表情で笑った。

 

爆豪の肩がピクリと動く。

 

その赤い瞳が大きく見開かれた。

 

「心配すんなって、後ろばっかり見てなくても、俺はちゃんと走るし、すぐに追いつくから」

 

勇間はそう言いながら爆豪の右肩にポンと手を置いた。

 

「だからさ、お前はこれまで通り、前だけ見て周りを圧倒するくらいの速さでぶち抜いていけ……今度は俺が追いかける番なんだからさ、ちゃんと背中を見せといてくれよ?」

 

そんな勇間の言葉に、爆豪は肩を震わせた。

 

握りしめた拳が、爪で血を滲ませるほどに強く力んでいる。

 

「……クソが……ッ」

 

爆豪は顔を背け、声を震わせながら吐き捨てた。

 

「……なんでテメェは……そんなこと言いやがんだよ……ッ!」

 

喉の奥が掠れて、今にも声が潰れそうだった。

 

「……俺がッ……どんだけッ…テメェに…!」

 

爆豪の叫びが、グラウンドβに反響する。

 

勇間は、ただ優しく笑って言う。

 

「知ってるよ。俺も同じだ」

 

爆豪が驚いたように勇間を見返す。

 

その赤い瞳と、蒼い瞳が、月明かりの下で交わった。

 

「爆豪と出会ってから、お前がずっと横にいてくれたから俺はここまで走ってこれたんだ……だからさ、これからも頼むぞ、俺のライバル」

 

「……!」

 

爆豪は一瞬言葉を詰まらせ、そして鼻で荒く息を吐く。

 

「……ハッ……上等だ……ッ! テメェが這い上がってくんのを待っててやる……その代わり……」

 

爆豪は拳を突き出した。

 

「テメェは二度と諦めるとか言うんじゃねェ…約束しろ」

 

勇間も迷わず、自分の拳を突き出し、爆豪の拳とぶつけ合う。

 

「……ああ、約束する」

 

重なった拳の衝撃が、小さく空気を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

28.『この道わが旅』

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁでも、今の爆豪って学年で唯一仮免落ちた落ちこぼれなんだったっけ?」

 

「うるせぇ黙れピアス、あん時はちょっと調子が悪かっただけだ!!すぐに補講終わらして!インターンでバリバリ名を上げんだよ!!せいぜいそこで指咥えて俺様の活躍を見てやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ドラクエ7リメイク
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