恐怖狩人 ~クトゥルフ神話ガチ勢が恐怖小説を書いてみた~ 作:セラニアン
間章 ~Interlude~
晴天の元で見る墓地は、まるで都会の縮図のようだった。
乱立する石作りのビル群。ところどころに緑が見られるものの、きっちりと区画整理された墓場は、どこかコンクリートジャングルを彷彿とさせる。まさしく都会の縮図だ。
そんな中、一人の青年が佇んでいた。
「悪いな。なかなか来られなくて。色々と忙しかったんだ」
青年は語りかける。正面にあるのは、『緋瑞家代々墓』と銘打たれた墓石だ。墓石周辺はよく手入れされており、頻繁に人が訪れていることが分かる。
「とにかく久しぶりだな…………父さん、母さん……それと」
青年はやるせなさそうな、泣きそうな表情を浮かべ、そっと墓石を撫でた。
「……柚姫」
両親の名の横には、『緋瑞柚姫 享年十六歳』と刻まれていた。
※
「お前が死んで一年……早いもんだったよ……」
結論から言えば、柚姫の身体は、安全に子供を身籠もれるほど成熟してはいなかった。
織斗は、一年前の事を思い出す。柚姫のお腹が目立ち始めたその日、彼女は突如腹痛を訴えた。そのまま搬送先の病院で流産。もともと身体の弱かった柚姫は、流産の際の出血と感染症によって、命を落とすことになった。
享年十六歳。短い生涯だった。
「なぁ、俺は、お前をどう思ってたんだろうな……」
織斗はつぶやく。
妹の死と同時に、織斗にかけられた呪いは徐々に綻びていった。一つ、また一つと記憶は蘇り、偽りの感情も消え去っていった。真実は織斗の手に舞い戻ったのだった。
――己が『死人』である、ということも含めて。
もちろんそれは、織斗を苦悩させるのに十分なものだった。剣印を己の額に突きつけ、尾の句によって己を『塩』に戻そうと思ったことも、一度や二度ではない。
しかし織斗は未だ、かりそめの肉体とともに現世にとどまっていた。
「なぁ、柚姫。父さんも、母さんも聞いて欲しい」
宣言するように、織斗は言った。
「俺は、父さんの跡を継いで抵抗者になる」
無言の墓石に向かって続ける。
「知識は今、父さんの残した本で勉強している。魔道に詳しい専門家と、パートナーになる約束もした。それに……」
手の平で、左のこめかみを押さえる。
「こいつが、現実に潜む『狂気』を教えてくれる」
幻痛。それは織斗にとって、異常を知らせてくれるセンサーの役目を担っていた。霊的感覚の鈍い織斗にとって、無くてはならない存在だ。
「もちろん、本当は俺も墓に入るべきだと思う。俺はもう、死んでいる。抵抗者が実は死人だなんて、本末転倒だ。だけど俺は、永遠に眠るのが怖い。だから、やれるところまでやってみようと思う。邪悪でしか倒せない邪悪があるなら、死人でしか駆逐できない理不尽も、きっと在ると思う。だから俺は、抵抗する」
おそらくそれは、困難な道になるだろう。確かに死人である織斗は、これ以上、死ぬことはない。しかし痛覚や感情は生者と変わらないし、そもそも身体を構成している《塩》を失えば、それで終わりだ。二度と蘇ることは出来ない。
けれど、織斗は知ってしまった。この世界にはびこる、邪悪な存在があることを。生を冒涜し、死の絶対性すら歪める理不尽が在ることを。
そして知ってしまった以上、見て見ぬふりは出来ない。
「俺は、抵抗する」
今一度宣言し、そして織斗はフッと表情をゆるめた。
「じゃあな。柚姫、父さん、母さん。またくるから」
踵をかえし、来た道を戻る。墓石のビル街をぬけ、墓地の入り口へ。
ようやく姿を現した青年を見て、彼のパートナーとなる少女は、口の端を歪めた。
「待たせすぎじゃな、オリト。そんなことでは、女子にはもてぬぞ」
「悪い」
織斗は苦笑でかえす。純白の髪に、チョコレートのような肌。ラピスラズリを彷彿とさせる碧緑の瞳。
異国の死少女は、笑みと共に言い放った。
「それで、もう良いのか? 今生の別れになるやもしれんぞ?」
「別れは、もう一年以上前に終わらせた。今日はただの報告だ」
「なかなか義理堅いの、オリト。そういうマメなところは、お主らしい」
「それは褒めてるのか?」
「ふふ」
少女は心底愉快気に、くつくつと笑う。
「どうした?」織斗は首をかしげる。「何が面白いんだ?」
「いやなに、不思議なものだと思っただけじゃ。お主と妾。共に死人である者が、抵抗者として手を取り合おうというのじゃからな」
「なるほど、それは確かに」
「それで、お主は良いのじゃな、オリト? 妾を伴侶にすると言うことは、仄暗い闇と共にあることを選択するも同時じゃ。今ならば、まだ引き返すことも出来よう」
「俺はもう、戻れない」織斗は首を振る。「そして戻れないなら戦うしかない。違うか?」
「いや、至言じゃ」
少女は楽しげに笑うと、ダンスを誘うように手を伸ばした。
「ようこそ、宇宙の真実を知ってしまった憐れなる者、死人の抵抗者、ヒミズオリトよ。お主が狂いきらぬ限り、妾はお主を歓迎しよう」
「よろしく頼む、イース」
青年は、古の神官の手を取る。
いずれ『極東最強の