暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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鉱山の街エルトナは外部から身を守るように扉で入口を塞ぎ。閉鎖的な生活を住民がしている街です。

何故そのような事をしているのか。

簡単な話です。過酷すぎる世界では、この街の住民が生きて行くには力が足りなさすぎるからなのです。

そしてそんな弱者の街に。
恐るべき、世界を変革するほどの力が迫りつつありました。


青い空と茶色の大地
プロローグ、世界の現実


リアーネ=ミストルートは腕利きのヒト族戦士であり、狩人でもある。

 

閉鎖された鉱山の街エルトナにて、数少ない外へ出ることを許された戦士の一人。長い髪をたなびかせる彼女は、狩人となる時は容赦もしないし、冷酷である事を心がけている。

 

家に帰れば家族が待っている。

 

妹は鉱山の街に絶対に必要な存在で。

 

だが、いつも外に出たいと嘆いている。

 

鉱山の街は入り口を分厚い扉で封鎖され。

 

空を見る事が出来るのは一箇所だけ。

 

だから、外に夢を見てしまうのだろう。

 

分かる。

 

だからこそに、リアーネは。

 

愛する妹の夢を壊したくないから。

 

外に出したくは無かった。

 

今、リアーネは岩陰から、獲物を狙っている。角が生えた兎で、一矢を当て損ねれば、此方に突貫してくるだろう。その時の突進力は凄まじく、小さな岩なら砕いてしまうほどである。

 

矢を番え。

 

狙う。

 

此方は風下。

 

相手はエサを頬張るのに夢中。

 

そして妹の好物は兎肉。

 

外す訳にはいかない。

 

ひょうと、音を立て。

 

矢が放たれた。

 

吸い込まれるように兎の急所に突き刺さった矢は。

 

兎の命を情け容赦なく奪った。

 

小さく嘆息すると。

 

周囲を確認。

 

最近どういうわけかいなくなってしまったが。この辺りにも匪賊が出る事があった。

 

匪賊にとって、街の人間は食糧に過ぎない。

 

子供なんてごちそうだし。

 

リアーネみたいに武装している場合は、装備品を身ぐるみ剥がれた後、焼かれて喰われてしまうだろう。

 

尊厳を奪うだけ奪って逃がしてくれるなんて優しい匪賊なんていない。

 

匪賊に捕まったら、即座に殺される。それがこの世界だ。

 

そしてその匪賊がどうしていなくなったのかは分からない。

 

リアーネも何度か匪賊とは交戦し、十人以上を射殺してきた。

 

だからこそ、不可思議なのだ。

 

この荒野が拡がる世界で。

 

今までしたたかに生きていた匪賊どもが、どうしていなくなったのか。

 

近隣との交流は殆ど持てない。

 

一応街に来る商人に話を聞くことはあるのだが。

 

各地で匪賊が減っているという。理由はよく分かっていないそうだ。

 

仕留めた兎を拾い、処置をする。

 

皮を剥ぎ。血を抜き。内臓を取り出し。燻製にしていく。

 

兎ならすぐに終わるが。

 

これが猪などの大物だと、こうはいかない。火を熾して、少し休む。溺愛する妹は、今日もその特殊能力を買われて、鉱山の奥で働いている筈だ。あんなに小さくて細いのに。鉱山しかしらない。

 

陽の光を浴びていないから。

 

肌も病的に白い。

 

可哀想だなとは思うけれど。

 

弱肉強食という言葉ですら生ぬるいこの乾ききった茶色い世界を見せたら、あの子はきっともっと悲しむ事になる。

 

幸い能力からも、あの子は今後も街で大事にされる。

 

だから、このままで良いのだ。

 

「エルトナの人、みぃーつけた」

 

不意に至近距離で。

 

人の声がした。

 

反射的に飛び退き、ナイフを引き抜くが。其処には誰もいない。

 

逆に、後ろから。肩を叩かれた。

 

振り返りつつ斬り付けるが、やはり誰もそこにはいない。

 

リアーネの背筋が凍る。

 

世の中には、非常識な使い手が存在することは知っていたが。相手が匪賊だったら、もはや万が一も勝ち目は無い。逃げ延びることさえ不可能だろう。力量が、あまりにも、違いすぎる。

 

それでも、最後まで生きあがかなければならない。

 

リアーネが帰らなければ。

 

あの子が。

 

フィリスが。

 

どれだけ泣くか、分からないからだ。

 

「んー、良い動き。 小さな街の戦士にしてはやるね」

 

「誰っ! 匪賊だったら容赦しないわよ!」

 

「あれ? この辺の匪賊だったらこの間全部処理したけど、まだ見かけた? 取りこぼしがいたっけかな。 だったら処理しにいかないと、怒られちゃう」

 

「っ!?」

 

至近からの声に振り返ると。

 

其処には吃驚するほど冷徹な目をした。リアーネが愛する妹と同じか、ちょっと年上くらいの女の子がいた。

 

しかもこの実力で、ヒト族である。

 

剣を腰にぶら下げているけれど。この様子だと、剣術云々関係無く異次元の実力者だ。弓と剣の間合いがどうのの問題ではない。今のリアーネではどうにも出来ない。

 

匪賊ではないとすると。なんだ、この生物は。本当に人間か。

 

アダレットの騎士か。この近辺の街をまとめているライゼンベルグが雇っている凄腕の傭兵か。

 

冷や汗が止まらないリアーネに。冷たく暗い笑みを浮かべたまま、その女の子は歩み寄る。以前商人の護衛をする傭兵の魔族を見た事があるが。ヒト族の倍も背丈がある傭兵の魔族よりも、更に目の前にいる奴の方がプレッシャーが凄まじい。エルトナには今ボケかけた老魔族しかいない。もはやその人とは、比べるのも不可能だ。

 

そのヒト族の女の子のような存在は。

 

戦闘態勢を取ったまま、しかし蛇に睨まれた蛙も同然に動けないリアーネに言う。

 

「私はティアナ。 ある錬金術師に雇われて仕事をしているんだ」

 

「錬金術師……」

 

知っている。

 

魔術師の上位互換。世界の理にも触れられる存在。

 

ドラゴンや邪神に打ち勝てる、この世で唯一の者達。

 

一部では、こうとさえ呼ばれているという。

 

神の力を借りる者。

 

理不尽に満ちたこの世界で。

 

荒野を緑に変えるすべを持った唯一の存在。

 

大都市には、請われて住み着いた錬金術師が必ずいるとか。

 

その錬金術師が中心になって、全てが動いているとか。

 

商人が持ち込んでくる医薬品や爆弾は。

 

錬金術師が作っているという噂もある。

 

いずれにしても、リアーネにはまったく縁がない存在。見た事はあるし、話くらいならした事もある。だが少なくとも、エルトナのような閉鎖された小さな街には、何の関係もない話の筈だ。

 

「この街で取れる鉱石の質が嫌に良いって話があってね。 ひょっとして、鉱石の声が聞こえる人間とか、いない?」

 

「……っ、知らないわ!」

 

「そう、知ってるんだ。 と言う事は大当たりだね」

 

「知らないっ!」

 

リアーネも、外で修羅場を散々くぐってきた。

 

匪賊の集団に追い詰められたときは、自害だって考えた。生きたまま切り刻まれて喰われる位だったら、自分で死んだ方がマシだからだ。

 

自分の力を超える猛獣に、先に見つかってしまったときは。

 

ゆっくり周囲の時と光景が流れていくのが見えた。

 

あの時は、本当にまぐれ当たりで矢が相手の眉間を貫かなければ。

 

死んでいたはずだった。

 

だが、今の相手は。

 

そんな連中が、ゴミかカスに見える程のレベルの、人型の凶獣。

 

そしてあからさまに。

 

フィリスの事を狙っているのが確実だ。

 

最悪な事に。

 

リアーネの反応から。

 

相手は全てを察したようだった。

 

この年で、どれだけの修羅場をくぐってきたのか。

 

文字通り、血で血を洗い。

 

剣でどれだけの命を絶ちきってきたのか。

 

想像も出来ないほどの修羅が、目の前に立っていた。

 

「大丈夫、悪いようにはしないから。 近々、私の雇い主が、其方に行くと思うから、歓迎してあげてね」

 

「何も分からないって言ってるでしょう?」

 

「顔に書いてあるよ、知ってるって。 ひょっとして家族? それも同性だね。 娘……というには体のラインがおかしいか。 お姉さん、子供いるとは思えないもの。 そうなると妹かな? 姉とは思えないし、ふふ、多分妹だね。 私と同じ年くらいだといいなあ」

 

全てが見透かされていく。何も此方は喋っていないのに。こんな凶獣が、頭まで良いのか。

 

リアーネは恐怖で、全身が動かなくなるのを感じる。

 

冷や汗が流れる、事すら無い。

 

至近距離でドラゴンと顔を合わせたよりも。

 

凄まじい威圧感かも知れない。

 

「私の雇い主ね、とっても頭がおかしいの。 だから大好き。 私が強くなるのに色々力を貸してくれたし、復讐するのにも力を貸してくれたからね。 この世から匪賊を皆殺しにするまで私は止まれないけれど。 貴方の妹さん、私と同じようになってくれると嬉しいなあ」

 

リアーネは。

 

もはや口を押さえるので必死だった。

 

恐怖どころでは無い。

 

吐き気を抑えるので精一杯だ。

 

フィリスが。

 

愛する妹が。

 

こんな風になる所を想像したら、もはやそれは地獄と言うのも生ぬるい。

 

そして、逃げる事も出来ない。

 

エルトナは閉ざされた街だ。

 

そもそも自衛能力がないから、鉱山に閉じこもり、入り口を分厚い扉で塞ぎ。

 

選ばれた一部の精鋭だけが外に出て、食糧を枯れ果てた大地から集め。

 

商人ともやりとりしている。

 

そんな程度の力しか無い、辺境の中のど辺境だ。

 

それでも、自衛能力がない街の中ではまだマシな方。

 

他の街は常に匪賊の襲撃に晒されていたり。

 

ネームドと呼ばれる強大な猛獣に襲われていたり。

 

或いはドラゴンの恐怖に常に怯えていると聞く。

 

あのか弱いフィリスが、地獄も同然の外の世界に出る事を。リアーネは、想像もしたくなかった。

 

この外の世界では。

 

弱い生物は。

 

あっという間にバラバラに食い散らかされてしまうのだから。

 

「そうだ、貴方の妹さん、私の友達になってくれるといいなあ。 同じ年くらいの友達、ほしかったんだよねえ。 一緒にネームド狩ったり、逃げ惑う匪賊を焼き払ったりしたいなあ。 匪賊を殺して首を串刺しにして並べるの、楽しいんだよ。 一緒にやりたいなあ、処分した数を競いたいなあ」

 

青ざめて震えているリアーネの前で。

 

勝手な妄想を垂れ流すティアナ。

 

まずい。

 

此奴をエルトナに入れたら。

 

多分それだけでエルトナは滅ぶ。それくらいの、でたらめな実力を感じる。

 

家族は皆殺しにされ。

 

フィリスも連れて行かれる。

 

此奴と同じようになるフィリスを想像するだけで、吐き気が止まらなかった。

 

不意に。

 

至近距離に、ティアナがいて。

 

顔を近づけていた。

 

「じゃ、そういうことで。 近々私の雇い主が行くから、よろしくね。 その人、私なんかの比じゃないくらい強いし、怖いからねえ。 一人で邪神を倒すくらいなんだから」

 

精一杯の抵抗。

 

ナイフを振るって、残像を斬る。

 

そう、残像。

 

けらけらという笑い声だけがその場に残っていた。

 

呼吸が荒い。

 

恐怖で、心臓が胸郭の中を飛び回っていた。

 

その場にへたり込む。

 

失禁しなかっただけで、自分を褒めてやりたかった。

 

世の中には凄まじい強さの持ち主がたくさんいる。邪神などは、大きな街を単独で滅ぼすと聞いているし。錬金術師の中でも、ごく一部の超一流でしか相手に出来無いとも聞いている。

 

ドラゴンだってそうだ。

 

魔術師がどれだけ束になっても絶対倒せない。

 

魔族が混ざっていても同じ事。

 

屈強な獣人族の戦士でも、歯牙にも掛けない空の王者は。

 

小さな集落なら、瞬く間に滅ぼしていくという。

 

そんなバケモノ達を。

 

錬金術師は倒すという。

 

錬金術師は本人の性能を上げる道具類なども作り出すと聞いている。

 

あのティアナという、リアーネより少し年下の女の子に見えた存在は。

 

そんな錬金術師によって、体でもいじくられたか。

 

或いは何かの装備を貰ったのか。

 

剣がそうなのか。

 

或いは、何かもっと別のものなのか

 

そしてティアナは言った。錬金術師は自分の比では無い実力だと。邪神を一人で倒すのだと。

 

はったりだとは思えない。

 

どんなバケモノが、エルトナに迫っているというのか。

 

恐怖で動かない全身を叱咤して、立ち上がろうとして、一度失敗する。

 

乾いた大地に、汗がこぼれ落ちた。

 

否、汗か。

 

涙では無いのか。

 

乱暴に目を擦ると。

 

次こそ、無理矢理立ち上がる。

 

歯を食いしばれ。

 

リアーネは自分で自分を叱咤した。

 

フィリスは。自分にとっての唯一の宝だ。

 

正直エルトナなんてどうなってもいい。リアーネ自身だってどうだっていい。

 

フィリスさえ無事であれば、リアーネは。

 

だが、今のままでは、フィリスを守る事なんて、到底出来そうにもない。かといって、短時間で腕なんて上がるわけもない。

 

身を守ることくらいなら出来るつもりでいた。

 

だが、はっきり分かった。

 

錬金術師の関係者は、本当に人外の猛者なのだと。

 

リアーネが知っている人間。魔族や獣人族の猛者達でさえ、及びもつかない存在なのだと。

 

ならば、どうすればいい。

 

自分も、錬金術師と知り合いになって、装備を作ってもらえば良いのか。

 

だが、相手がいつ来るかも分からない。

 

自分がいないときにエルトナに錬金術師が来て。

 

フィリスがさらわれでもしたら。

 

それこそリアーネは。

 

生きていくための目的を、全て失ってしまうだろう。

 

足がまるで自分のものとは思えないほど弱々しい。

 

外で多数の獣と戦い。

 

わずかに生えている栄養のある植物を集め。

 

此方から如何にむしるかしか考えていない商人と渡り合ってきたのだ。

 

如何に相手が桁外れのバケモノであっても。

 

冷静になれば、少しは立ち回る方法だってある筈。それを、来るべき時までに、考えておかなければならない。

 

どうにか街まで戻り。

 

合い言葉を扉の前で言う。

 

街と言っても。

 

扉があるだけ。

 

それも、古い時代に錬金術師が作ったらしい、特注の扉。ドラゴンの炎でも破れないと、その錬金術師は言っていたそうで。鉱山の一年分以上の収入にあたる金額を、むしりとっていったそうだ。

 

後は枯れ果てた山だけ。

 

その中に、リアーネの住む街。

 

エルトナがある。

 

扉を内側から開けて貰い。

 

中に入ると。門番である壮年の戦士が、驚いたように言う。

 

「リアーネ、どうした。 匪賊にでも追われたのか」

 

「いいえ、恐らくもう匪賊の心配はないわ」

 

「どういうことだ」

 

「長老と話します。 すぐに連れていって」

 

ただ事では無いと門番は判断したのだろう。すぐに扉を閉めると、内側から厳重に鍵を掛ける。

 

外に出られる戦士は、エルトナに十人といない。

 

そしてこの薄暗い鉱山の街は。

 

魔術による灯りに頼り。

 

昼も夜もない。

 

自宅に戻って、妹を抱きしめたいが。

 

そうもいくまい。

 

今は、まず。

 

街に迫りつつある、脅威について、長老と話し合わなければならない。

 

下手をすると街が滅ぶ。

 

その恐怖は。

 

もはや間近に迫っていると言っても良かった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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