暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
目が覚めると、ソフィー先生はもういなかった。
お別れはいわないよ。
また会う事になるだろうから。
それが言づてらしかった。
そして、メモが残っていた。
幾つかの事が書いてあった。これからどうしたら良いかのアドバイスも多数書き込まれていたが。
一番驚かされたのは。
あの折りたたみ式のアトリエ。
わたしにあのアトリエをくれるというのだ。
色々言葉もない。
ソフィー先生にとって、あのアトリエは大事なものでもなんでもない、それこそいつでも作り出せる事が分かったし。
それに何より譲ってくれたと言う事は。
あのコンテナを切り替えた意味もわかったからだ。
今後は、自力で全てをやっていくように。
そういう意味だ。
そしてわたしは試験も突破した。多分ぎりぎりだったとは思うが、突破は突破だ。
おとうさんが言った三つの事。
お薬の作成。
発破の作成。
それに戦闘での勝利。
全ての条件を満たした。
お父さんは、目を覚ましたわたしをみると。口をつぐんだまま、頷く。お母さんは目をしきりに拭っていた。
「お父さん、お母さん」
「いっておいで」
お父さんはいう。
メモにはこうあった。
錬金術師に正式になるには、ラスティンの首都ライゼンベルグに行き。
其処で公認錬金術師試験を受ける必要があるという。
それまでに、最低でも三人の公認錬金術師から、推薦状を貰わなければならないのだとか。
なるほど、ただでさえ少ない公認錬金術師を探し出して。更に認めて貰わないといけないのか。
それは当たり前すぎるが、大変だ。
そもそも街から街を移動するだけで命がけなのに。
三人もの、それも今聞いただけでも背筋が凍るような条件の試験を突破した錬金術師を探し出し。
認められなければならない。
それにもたついてもいられない。
今、エルトナはソフィー先生の好意で、復興に向かい始めた所だ。やっとこの街は、詰みの状態から解き放たれたと言っても良いだろう。
それがいつまでも続くかと言われれば、分からない。
出来れば、わたしが公認錬金術師になって。
わたし自身で、エルトナを発展させたい。
出来れば一年以内に戻ってきて、エルトナで公認錬金術師として活動したい。それがわたしの願いだ。
外に出るよりも。
今は、それも重要だと言う事が、頭の中に浮かび上がる。
はっきりとしたビジョンとして。
漠然として、お外に出て、冒険してみたいという気持ちよりも。
その心が、より強くなっていた。
二人に、それを説明する。
お父さんは黙って聞いていたが。
お母さんは、涙を拭うばかりだった。
そして、言うのだった。
「今だからいうけれど、フィリス。 ソフィーさんという方の目を見た?」
「目……うん。 凄く怖い目をしていたね。 言葉は優しかったけれど、教え方も優しかったけれど、とても怖かった」
「そうよ。 錬金術師はね、すぐ側に深淵がいるの。 私が知る限り、優れた錬金術師になればなるほど、深淵に引き込まれるの。 あの人は、もう多分人間より深遠に近い存在よ。 いや、もはや深淵そのものかも知れない」
「おかあさん」
お父さんがなだめる。
お母さんは何か知っている。
だけれども、今は聞くべきでは無いと、わたしは判断した。
ベットから出ると、ぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい。 謝っていなかったから。 本当にごめんなさい。 酷い事いって」
「それはもう良いんだよ」
「ソフィーさんが怖い人だったのは、わたしにもわかるよ。 でも、わたしは今、力を手に入れなければならないの。 この滅び掛けた街が救われたのは、ソフィーさんが、いいえ、多分深淵そのものが作り出す破壊の力が要因だと思うから。 今度はわたしが、エルトナを救わないと」
わたしは顔を上げる。
お父さんは、泣いているお母さんの肩を抱き寄せると。
いってらっしゃいと、もう一度言った。
子供じゃないから抱きついたりしない。
わたしは、涙もぐっと堪えた。
家の外に出ると。
メモの通りにアトリエを畳む。
本当に畳めたので驚く。
途中で二回ロックを外さなければならなかったのだけれど、これは多分安全装置か何かなのだろう。
それと、認証の過程もあるらしく。
現在はわたしに切り替わっているようで。
わたし以外におりたたみは出来ないようだった。
お姉ちゃんが来る。
「フィリスちゃん、行きましょうか」
「えっ!?」
「長老の命令よ。 今後街には、ソフィーさんが派遣してくれた腕利きが常駐するようになるから、私はフィリスちゃんの護衛につくようにって」
「……」
心強い。
嬉しい。
でも、お姉ちゃんの目には。
歓喜だけではない。
もの凄く哀しみを帯びた光があった。
ともかく、長老を一とした、世話になった人達みんなに挨拶はすませる。永遠の別れにはしない。
絶対に戻ってくる。
それを誓った上での外出だ。
わたしは死なない。
外で獣のごはんにされたりなんて絶対にしない。
生きて、凄い錬金術師になって、帰ってくる。
呼吸を整えると。
リュックを確認。
杖も大丈夫。
用意しておいたフラムも、必要量すぐに使えるようにしてある。
これなら、何時でも外に出られる。
お姉ちゃんに頷く。
街の人達は、何人か見送ってくれた。みんなに挨拶をもう一度すると、絶対に帰ってくると誓う。
皆、複雑な顔をしていた。
わたしに頼りっきりだった毎日が終わって。
そして今後は、準備が出次第外で暮らせるようになる。
その頃には、わたしも錬金術師になって戻ってきて。
ソフィー先生のようにこの街を破壊的に変えるのだ。
街と外を隔てる門、扉が開く。
光が溢れてくる。
お姉ちゃんに促されて、わたしは歩き出す。
今は、希望を信じよう。
そう思って。
わたしは。
現実を知った。
空は青い。
だが。
地面は茶色。真っ茶色。何処までも続く茶色。生命の気配は殆ど感じられない。エルトナの街と同じ。
風がふくと。
枯れ果てた何かが飛んでいくのが見えた。
完全に硬直しているわたし。
外は緑で溢れていて。
とても希望を感じさせる場所の筈だった。
だけれど、なんだこれは。
初めて見ただけで、分かる。
街道なんてない。
かろうじて、他の地面よりちょっと色が違う、くらいの。何だか曖昧なものしか存在していない。きっと踏み固めることによって出来ただけのものだろうと、素人であるわたしにさえ分かった。
外の世界の冒険は。
本の世界でみんなが幸せそうに暮らしていた世界は。
気がつくと。
わたしは膝から崩れ落ちていた。
戦いに初めて勝ったときの比では無い。
本物の世界を見て。
その現実を知ってしまった衝撃が、わたしの脳を直に揺らしていた。
ここは、わくわくする冒険の舞台なんかじゃない。
この世の悪夢そのものだ。
「リア姉、一つ聞いて良い?」
「なに?」
「ひょっとして、お外、みんなこんな感じなの?」
「基本はそうよ。 緑がある場所もあるけれど、それはあくまで限定的。 緑がある場所では、どんな獰猛な猛獣でも暴れない。 それくらい植物は貴重なのよ」
そうか。
お姉ちゃんは、この現実をわたしに見せたくないから。
外に出すのを反対していたのだ。
わたしが絶望するのを分かりきっていたから。
外に出したくなかったのだ。
でも、わたしはめげない。
緑がないなら。
錬金術でどうにかすればいい。
この辺りを全部緑で埋め尽くせば。
きっとすてきな場所に変わるはずだ。
「大丈夫?」
「うん……」
わたしは目を乱暴に擦ると立ち上がる。
もう、黙ってなんていられない。此処で絶対に生き延びて、そして錬金術師になる。
街の人達が、どうしてエルトナから出られなかったのか、よくよく分かった。
ならば、わたしがこの世界の現実を変えなければならない。
まだひよっこだけれども、いつまでもひよっこでいてはならないのだ。
怖い。
正直言うと、これからどんな恐ろしい存在に出くわすのか、見当もつかない。
でも、わたしは。
踏み出さなければならなかった。
(続)
フィリスにとってあこがれの「お外」。
そこは一面の荒野でした。
これは原作でも同じで、基本的に「不思議シリーズ」の世界は荒廃が酷く、街道も敵だらけ、首都近辺のインフラすら壊滅状態になっています。
現実を知ったフィリスは、それでも前に踏み出します。
か弱い足で。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい