暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
イルメリアは街の復興が一段落したため、フルスハイムにアリスと共に出向いていた。
新しい街、ライゼンベルグ西の城塞都市は、ライゼンベルグから役人を派遣して管理して貰うことにしたが。
それはそれとして、イルメリア自身が公認錬金術師として、地盤とすることも決めている。
両親の。
いや、家族の影響を受けないイルメリアの地盤だ。
既にかなりの数の錬金術師や商人が、この城塞を通って、ライゼンベルグに行き来している。
ライゼンベルグ西にある、安全ではあるが不便な道に比べ。
フルスハイムと直結路にあるこの道。そして休憩を取ることが出来る宿場町は大きな意味を持っており。
ライゼンベルグから越してきた人間も、既に数百名に達していた。
その殆どが商機を見た商人とその家族で。
ホムが非常に多いため、護衛の戦士を割り増しで雇わなければならなかった。
森でガチガチに守りを固めているこの城塞都市。
ドラゴンに襲撃されるようなことは早々はないとは思うが。
それでも念には念を入れ。
以前作ったシールドを、城壁に幾つも仕込んでいる。
ドラゴンのブレスにも、一度や二度なら耐え抜くはずだ。
今の時点で、街の周辺にドラゴンは姿を見せていないが。
いずれ現れたときに備え。
準備は幾らでもしておかなければならない。
今回、フルスハイムに出向き。
フルスハイムの湖を機能不全状態にしたドラゴンを葬るのも。
安全確保の一環であり。
今後の戦略に組み込んだ行動の一つでもあるのだ。
装甲船で、フルスハイムに移動。
途中、沿岸の街を軽く視察したが。
南側は既にドナからの街道がつながっており。インフラが更に強固になっているのが分かる。
ドナは更に湖を東に進み、幾つかの集落を道で繋ぎながら。最終的には湖の周囲を緑化して、道でつなぐ事を考えているらしい。
ドナには人が流れ込んでいるらしいが。
それはそうだ。
仕事が幾らでもあるだろうし。
あの有名な公認錬金術師オレリーが指揮をしているのだ。
戦士も商人も、職人も農民も。幾らでもなり手が必要なはずで。
行きさえすれば、生活出来る。
そう思えば、貧しい街を離れて、ドナに向かう人が増えるのも、色々な意味で納得できる。
フルスハイムに到着。
相変わらず雨が降り続けていて。
その中で、二番艦。
フィリスが言っていた、ドラゴンを倒すために湖底に行くための装甲船が建造され始めていた。
アリスに指示して、馬車は先に停めさせに行く。
さて、フィリスはまだ来ていないようだし。
レンの所に出向いて、此方で出来そうな作業を受け持つとするか。
かってに作業を始めてしまうと、スケジュールが狂うどころか、色々と不具合を生じさせてしまう。
一番艦の時もかなり大変だったのだ。
今回はノウハウがあるとはいえ。
潜水し。
更に浮かぶというギミック。
戦闘を想定した造りと。
色々と難しい。
レンのアトリエに出向くと、フィリスは来ていなかったが、パイモンは来ていた。
久しぶりだ。
少し若返っているように見えるが、恐らくアンチエイジングの錬金術を行使したのだろう。
まだ死ぬわけには行かない、と言う話をしていたし。
止めるつもりは無い。
摂理には反するかも知れないが。
イルメリアに言わせれば、この世界の摂理そのものがおかしいのだ。
「久しぶりだなイルメリア。 壮健にしていたか?」
「此方は。 パイモンさんは?」
「わしはアンチエイジングも使っているしな。 それに体内の病巣もあらかた取り除いたし、かなり元気になっておるよ」
落ち着きは相変わらずだが。
確かに感じる魔力が更に強くなっている。
何でも体に巣くっていた悪性の病巣も錬金術で取り除いたらしく。しばらく寿命を考慮する必要はなくなったそうだ。
故郷の村も一気に改善を進め、貧しくどん詰まりだった状態の改善にも成功。
フィリスの使っていた技術などを取り入れ、活用した結果。
一気にインフラなどの改善に成功し。
街に新しい風を吹き込むことに成功したという。
周辺の匪賊もあらかた討伐し。
厄介な獣も駆除し。
ただ、まだまだ問題が残っているとかで。このドラゴン退治と造船が終わったら、またすぐに故郷に戻るそうだが。
「現在、二つの炉をプラティーンを用いて作っています。 お二人にはこの設計図通り部品を作っていただきたく。 プラティーンはフィリスが提供したものだけではなく、私も提供します」
「うむ、承った」
「此方もよ。 それはそうと……」
設計に、自分のシールドが組み込まれている事を見て、なるほどと思った。
炉で増幅したシールドなら、イルメリアが血を吐きながら展開したものよりも、更に強力な火力を出せる。
推進関連はもう一つの炉で行うとして。
攻防は此方の炉で行う、と言う事か。
だが、個人的には、もう一工夫欲しい。
「炉をもう一つつける事は可能かしら?」
「炉をもう一つ?」
「ええ。 予備の炉として、他の炉の補助をする炉よ。 もしつける事が出来たら、安定性が抜群に増すと思うのだけれど」
「……ふむ、確かにそうね」
フィリスがこれから来るとして。
公認錬金術師が四人集まる。
ソフィーは最近までいたらしいが、既にこの土地を離れているらしいので。助力には期待出来ない。
もともと助力には期待出来なかったが。
それはもういい。
いずれにしても、それなりの腕がある公認錬金術師が四人だ。全員がかりなら、それくらいの工夫も出来るだろう。
「分かりました。 少し考えて見ましょう。 ただプラティーンが少し足りませんね」
「私が提供するわ。 ライゼンベルグ西の街を開拓する過程で、嫌と言うほど鉱石は入手できたから」
「分かりました。 フィリスさんには私から説明します」
「お願いするわ」
一礼すると。
受け取った設計図を手に、馬車に戻る。途中、パイモンと話しながら歩いた。
「馬は……」
「ああ、満足そうに逝ったよ。 文字通り天寿を故郷で全うできたのだから、これ以上ない事だっただろうな。 わしもあのように、満足して果てたいものだ」
「そういえば、どうして錬金術師に」
「わしはたまたま本を手に入れてな。 貧しい中少しずつ機材などを手に入れて、少しずつ調合を覚えて。 まともな薬を初めて作れたのが三十過ぎだった。 後は金も安定して稼げるようになり、この年でようやく街に余裕を作れて、公認錬金術師試験に出られた、というわけだ」
そうか。
自分は恵まれているんだなと、イルメリアは思う。
家族にプレッシャーをかけ続けられてきたが。
それでも才覚は最初からある事が分かっていたし。
地盤もあれば。
金もあった。
ただ、それでも。家族のために、下手をすれば人生を捨てなければならなかった。
今、独立できたのは、とても嬉しく思っているが。
パイモンの苦労話を聞くと、とてもではないが、自分の人生は苦労に満ちていたなどとは言えない。
馬車の前でパイモンと別れると。
調合を開始。
フィリスほどの鉱物加工技術は無いが。
ハルモニウムなら兎も角、プラティーンなら充分な品質のものを幾らでも作り出す事が出来る。
素材も有り余っているのだ。
荷車に材料を乗せると、アリスにレンの所へ届けさせる。
これで更に作業の進展は早くなるだろう。
後は、フィリスが来たら、一度話し合いをして。
船の建造について、しっかり練り直す。
出来れば装甲や炉の一部にはハルモニウムも使いたい。
仮想敵がドラゴンなのだ。
更に、拡張性も欲しい。
三番艦を作るよりも、二番艦に拡張機能をつければ、更に長持ちするだろうし。他の使い路も見つかるかも知れない。
無心に調合を続けていると。
アリスがタイミングを見て、声を掛けてきた。
「フィリス様が到着為されました」
「そう。 ちょっと待っていて」
「はい」
今のプラティーンをインゴットに仕上げたら向かう。
炉から出したプラティーンは、美しい白銀色の輝きと、強い魔力を秘めている。
フィリスが作る物ほどではないが。
これを使えば、大体の獣は倒せる武具に替えられる。
勿論そのまま塊にしても駄目だ。
錬金術で加工し。
相応の装備品に作り替えてから、の話になるが。
溜息。
ギフテッド持ちには、どうしても得意分野ではかなわないか。数ヶ月前にフィリスは、もっと良いプラティーンを作っていた。
他のものに関しては、イルメリアに一日の長があったが。
それでも、金属加工はどうしても勝てる気がしない。
ものの声が聞こえる。
そんな錬金術師は、一握りの中の一握り。後天的に才能が開花するケースもあるらしいが。それはあくまで例外。
歴史に残るような錬金術師でも、声が聞こえなかった者はいると聞いている。
ならば、自分なんて。
嘆息すると、インゴットを清潔な布で包み、リュックに入れる。
そしてアリスを促して、一緒にレンのアトリエに出向く。
途中、かなり雨が強くなってきた。
別に竜巻が大きくなっている訳では無いから、ドラゴンが湖底で力を増している訳では無いだろう。
だが、この雨、少しばかり鬱陶しい。
アリスが無言で傘を差してくれた。
小柄なイルメリアからすれば、大概の相手が長身だが。
これから多分背が伸びないだろう事を考えると。この関係は一生続くのだろうとも察してしまって。
色々と腹立たしい。
だがアリスは命がけで自分を守ってくれたこともある。
あまりアリスに対して不快感をぶつける事も、好ましいとは思えなかった。
レンのアトリエにつくと。
フィリスが来ていた。
過保護な姉のリアーネもいる。
既にパイモンはいたので。
レンのアトリエに皆で移動。
机を囲んで、話をする。
一階部分では外の雨音が凄かったのだけれど。地下に入ると、流石に雨音は一切気にならなくなった。
「炉を三つにするのって、本当ですか?」
「ええ、イルメリアちゃんの提案なのだけれど、不満?」
「いいえ、良い案だと思います。 確かに三つになったらより安定しますね。 ただ間に合うかな……」
ドラゴンが力を取り戻し始めるまでに二ヶ月弱。
それはイルメリアもソフィーに聞いている。
それまでに倒さなければ、勝ち目は無くなる。
それどころか、フルスハイムが力を取り戻したドラゴンに、竜巻によって蹂躙されるかも知れない。
それだけは、許してはならない。
中核都市を失うと言うことが、どれだけのダメージになるかは、イルメリアも良く知っているつもりだ。
「船の建造は」
「現在六割という所ね。 プラティーンがまだまだ足りないわ」
「それなら、わたしが装甲含めて作ります。 炉の方はお願い出来ますか」
「それなら、三人で分担して炉については対応しましょう」
流石にこの大規模都市で公認錬金術師をしているだけのことはある。
レンの手際は良く。
すぐに作業の手分けが行われた。
フィリスは一番の得意分野であるプラティーンの鋳造。
そしてフィリスが作ってきたインゴットを用いて、炉を作り上げる。
これでかなり時短出来る筈だ。
イルメリアは更に提案。
「要所にハルモニウムを使いたいのだけれど、フィリス、頼めるかしら」
「確かにハルモニウムを使えば、更に安定するとは思うけれど……」
「素材なら私が出すわ。 どうせドラゴンを殺したら、また鱗は手に入るでしょうし、そうで無かった場合も、いずれドラゴンを倒す事になるんだから、つけでかまわないわ」
「ほう、剛毅なことだ」
パイモンが笑うが。
いずれにしても、このくらいの貸しは作っておきたい。
フィリスには負けたくないのだ。
勿論、卑怯な手で勝ちたいとも思わない。
短時間でイルメリアと並ぶところまで腕を伸ばし。
ギフテッドを持っているから得意分野では絶対に勝てない。
そんな相手にも、何処かで勝ちたい。
貪欲な欲求が、イルメリアを動かしていた。
それはモチベーションにつながっていたし。
何よりも、ソフィーに悪意たっぷりで見せられた、世界の終焉を終わらせるための力を欲する原動力にもなっていた。
フィリスが破壊衝動の強い子だと言う事は何となく分かっていた。
採る手段は基本的に力押しだし。
この間、フルスハイムの西に、岩山を破壊しながら街道を作ったと聞いた時にそれは更に確信を帯びた。
フィリスは破壊神と呼んでも良い性格の持ち主だ。
普段はそれほど過激では無いが。
思考回路がまず破壊につながっている。
だったら、イルメリアは違う方向でこの世界のどん詰まりを打破していきたい。
それがソフィーに誘導された結果の思考だとしても。
やはり、フィリスには負けたくないのだ。
細かい打ち合わせが終わった後、竜の鱗をあるだけフィリスに譲渡。まだかなり残っているから、ハルモニウムを結構作れるはずだ。我ながら太っ腹だが、まったくかまわない。これで貸しになるなら安いものだ。
後は、ひたすら炉の部品を作る。
フィリスのインゴットは、頭に来るくらい品質が高い。
だが、今はそれに嫉妬している場合では無い。
黙々とイルメリアは。
インゴットの加工を続けた。
少しでも、自分の錬金術師としての力を伸ばすために。
(続)
フィリスが竜巻を突破するために作りあげた装甲船。
その改良型の二番艦の建造が始まります。
しかも今度のは更なる高性能艦。
文字通り神域の戦闘艦が、生まれようとしています。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
-
このままでいい
-
一日で一章がいい
-
更に分割して欲しい