暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それをついに根本から排除するときが来ました。
鉱石の申し子、フィリスが皆と連携して作りあげた高性能装甲艦。
装甲船二番艦、出港です。
序、実験
装甲船二番艦が完成すると、港では喚声が上がった。とはいっても、まだまだ炉は搭載していないし。あくまで出来たのはガワだけだが。
また使い路も説明を受けていない者が多いらしく。
これを使って湖底に行き。
ドラゴンを始末するという話については、知らされていないようだった。
わたしは、大量のプラティーンを作りつつ。
それに続けてハルモニウムも生成する。
船の装甲だけではない。
プラティーンには使い路がいくらでもあるのだ。
現状では、ガワだけ出来た船が、港に置かれている。進水式はまだしていない。後は炉を仕上げるだけだが。レンさんの所にインゴットを納入しに行くと、難しい事を言われた。
「何度かシミュレーションをして見たのですが、どうにも幾つか改良しなければならない点があります」
「お願いします」
「炉のこの点です」
設計図を見せられる。
レンさんの話によると、浮力の確保が難しいという。予備の炉から魔力を注ぎ込んでも、だそうだ。
つまり、水中では立体的に動き回りながらドラゴンと戦う、と言うわけには行かないと言う事だ。
「一度浮かぶのは大丈夫ですか?」
「ええ、それならば」
「ならば、ドラゴンとは正面からの殴り合いをします」
「ええ……」
レンさんが青ざめるが。
わたしは本気だ。
前にドラゴネアを仕留めた場合にも、同じような戦い方をした。辛勝だったが、それでも倒した。
ましてや今回は、今まで以上の高出力での攻撃が出来る。
前のドラゴネアが相手だったら倒せるし。
一回り強くても倒せる。
今回は相手が弱体化しているのだ。
例え相手のホームグラウンドだとしても。
真正面から殴り勝たなければならない。
場合によっては、炉に外からわたしが魔力を注入してもいい。
そのための準備は、幾つかしておく。
それと、ハルモニウムのインゴットを幾つか渡す。
これを使えば、部品の幾つかを更に強化し、炉の出力を更に上げる事が出来る筈だ。説明すると、レンさんは頷いた。
「これだけあれば、そうですね。 基幹部分の部品を幾つか変えて、出力を……三割、いや四割は上げられるでしょう」
「仕事の振り分けはお願いします」
「ええ。 チャートとタスクの修正はしておきます」
礼をすると。
レンさんのアトリエを後にする。
かなり夕立が酷い。
待っていたお姉ちゃんが傘を差してくれたので、一緒に歩く。竜巻が来てから、フルスハイムの街の痛みが早くなっているらしい、と言う話は聞く。特に木造の建築についてはそれが顕著だそうだ。
それはそうだろう。
年がら年中雨が降っていたら、そうなってもおかしくはない。
至近にあんな巨大な竜巻があるのだ。
雨だって降り続けるだろうし。
それを止めるには、ドラゴンを殺すしかない。
ソフィー先生の思惑通りに動かなければならないのは、何処か悔しいというか、釈然としない部分もあるけれど。
それでも、今はそれが一番理にかなっている。
この世界がどん詰まりなのは分かっている。
未来に希望の火を灯す。
いや、未来を塞いでいる壁を壊すためにも。
この程度の事で、躓いていてはいけないのだ。
アトリエに戻ると。
黙々と作業に戻る。
期日までは、着実に近づいているが。
パイモンさんもレンさんもイルちゃんも。
みんな着実に炉を仕上げている。
他の部品類もだ。
わたしは、得意分野を最大限に生かして、出来る事を補助し。そして最終的な完成につなげる。
それで勝てるのなら。
安い話だ。
残った竜の鱗を全て使って。
ハルモニウムを作る。
やはりまだ品質が十分ではない。
そうなると、空間を操作する錬金術を習って。更に精度の高い錬金術を行える空間を作るしかない。
実は。
最初にソフィー先生に貰った本。
これに、記載があったのだ。
最初の頃はあまりにも難しすぎて理解さえ出来なかったのだけれど。
多分ソフィー先生は、わたしがここまで来るのを見越していた。
散々「繰り返した」という話なのだ。
それくらいは見越していてもおかしくは無い。
そして今見ると。
まだ実現には手が届かないけれど。もう少し知識と技術がつけば、或いは出来るかもしれない。
そう思えるところまで、実力がついてきている。
現段階では、この素晴らしい錬金釜を使っても、現状の品質のハルモニウムが限界点だ。皆に渡している錬金術の装備品にしても、これ以上強力なものは作る事が出来ないだろうし。
何より、これ以上の高品質な素材を扱う場合も。
力を生かし切る事は難しいだろう。
炉を使っている間を利用して。
本を読み進め、勉強をしておく。今のうちに、少しでも理論を理解しないといけない。
ハルモニウムのインゴットを作る合間に。
理論を勉強する。
空間の操作は極めて危険な技術だ。
ソフィー先生も、いきなり出来たわけではないだろう。
そんな技術に触るには、慎重に慎重を重ねなければならない。
どれだけの準備をしても、しすぎると言う事は無いだろう。
相変わらず、ドラゴンの鱗から「鉱物の声」は聞こえないが。
流石に繰り返しているだけあって、品質を上げられないにしても、一定の品質は保てている。
一度、レンさんの所に、気分転換を兼ねて出向き。
手持ちにあるハルモニウムを全て納品した。
レンさんは頷くと、現在のチャートを見せてくれた。
タスクがかなり潰されている。
船そのものはほぼ完成。
炉も、完成度は8割。
要所にハルモニウムの部品を組み込んで、強度を上げれば完成だ。
潜水と浮上の仕組みは、魔術を使って行う。
これはかなりパワーがいるので、炉を使用する。
一方、空気で船を覆う事については、別に大した魔力は必要ないので、術者が乗れば充分だ。
フルスハイムで術者を見繕ってくれるという。
フルスハイムは一万の住民がいる都市。
その程度の魔術、使える者は珍しくもないのだろう。
幾つか打ち合わせをした後。
タスクの幾つかを受け取って戻る。
プラティーンを加工する。
今作っているのは、最悪の事態が発生した場合の脱出艇の部品だ。それほど大きな船ではないので、単純に頑丈にして、浮上も魔術で行う。そのため炉も積んでいない。
黙々と装甲板と、脱出艇の部品を作っている内に。
服の袖を引かれた。
休憩の時間の合図だ。
ツヴァイちゃんは非常に正確に時間を把握していて、必ず教えてくれる。頷くと、一段落まで作業をし。
それから食事にする。
どうやらツヴァイちゃんは、わたしがやっている錬金術の具合から逆算して、後どれくらい時間が掛かるかも把握しているらしく。
わたしが一旦作業を切り上げて休憩に入ると。
レヴィさんかお姉ちゃんが。
必ず料理を作ってくれていた。
しかも料理が温かい。
これは嬉しい。
「リア姉、アングリフさんは?」
「ドロッセルさんとカルドさん、それにアリスさんと自警団を連れて、街の西の獣狩りに出ているわよ」
「ネームドに遭遇しないかな」
「遭遇しても大丈夫よ。 もしもヤバイ相手だったら引き際もわきまえているわ」
それに、イルちゃんの作ったシールドや。
わたしの作ったブリッツコアも渡しているという。
魔術師も自警団員にはいるし。
これらを使えば、多少のネームドなど蹂躙可能だろう。
気にするほどの事も無い。
わたしが岩山をブチ抜いて作った安全経路。
事実上、入り口と出口だけを警備すれば良い。
だが、そのほかにも。
資源を安全に入手するために、フルスハイムの西の魔境は、少しでも掃除を進めておいた方が良い。
食事を終えると、睡眠までの時間を確認。
もう一つくらい、インゴットを作れる。
頷くと、インゴットの作成に取りかかり。そしてそれを終えた後、しっかり眠りに入る。
どれくらい、プラティーンのインゴットを作っただろう。
ハルモニウムは材料がとことん足りていないので、どうしようもない。
更には、これ以上品質を上げようが無いという事情もある。
だがプラティーンは、材料が潤沢にある上、腕を上げれば上げるほどそれに答えてくれる。
インゴットを造り。
装甲に加工する。
起きた後は、軽く体を動かして、また錬金術に注力。
しばしして、アングリフさんが帰ってきた。
荷車には、肉と毛皮を満載していた。
「あー、参ったぜ。 明らかに獣が強くなっていやがる……」
「ブリッツコアとシールドを。 修復するのです」
「ああ、頼むぜ」
「アングリフさん、そんなに状況が良くないんですか?」
憂鬱そうにアングリフさんが頷く。
わたしが強行突破を諦めた辺りから、フルスハイムの西歩いて一日くらいの地点まで、例の森から出てきたらしい強力な獣が相当数徘徊しているという。その種類も様々で、猪や熊と言った何処でも見かけるものから、人型の石の塊だったり、キメラビーストだったりと、千差万別。
中には、大型のトカゲもいるという。
ドラゴンほどの戦闘力は無いが。
それでも超大型のトカゲは、非常に戦闘力が高く、厄介な獣として知られている。
そんなのが中核都市の近くにまで現れているなんて。
「あの森、いずれ気合いを入れて調査しなければならねえぞ。 邪神が潜んでいるかも知れないな」
「アングリフさん、それをフィリスちゃんにやらせるつもり?」
「錬金術師以外の誰が邪神に対抗できるってんだよ。 まあ順番通りにやるなら、先にフルスハイムの湖にいるドラゴンをどうにかしないといけないけどな」
「それと、気になる事がありますね」
カルドさんが言う。
獣を解体していて分かったらしいのだが。
どうも、強力すぎるほどの魔力を体内に秘めているらしい。
内臓などは魔力が籠もりすぎていて熱いほどで。
同行した魔術師が驚いていたという。
思わず腕組みして考えてしまう。
やはりそれは、邪神か何かが潜んでいるのではないのだろうか。
後は、アングリフさんとも船の状態について情報を共有。そして、タスクの処理に取りかかった。
無言で作業を続け。
ひたすらに装甲を仕上げていく。
仕上がった装甲は荷車に乗せて、誰かしらに運んでいって貰う。
お姉ちゃんがいるなら頼む。
ツヴァイちゃんが運びたいという場合は、護衛を誰か頼む。
港の方から、装甲について相談が入る場合もあるので。
その場合は自分で足を運んで。
ハンマーやつるはしを振るい、微調整を掛けたりもした。
なおプラティーンの強力な強度ゆえ、素人には扱えないという判断から、だろうか。
造船所にロジーさんが貼り付きになっていて。
鍛冶屋の方は開店休業状態らしい。
在庫はエスカちゃんが売っているそうだが。
ロジーさんはしばらくお店に戻っていないそうだ。
わたしが足を運ぶと。
ロジーさんに言われる。
「プラティーンの品質にばらつきがある。 平均して高いんだが、どうにか完全に均一化出来ないか」
「ごめんなさい、そればかりは素材が均一ではないので……」
「そうか、確かに。 それに四人の公認錬金術師が連携しているとなると、これ以上の贅沢は言えないか……」
ロジーさんは溶接とねじ止めで装甲を固定しているようなのだけれど。
いずれにしても、この装甲そのものではドラゴンのブレスを防ぐ事は出来ない。主に防御は内部に格納する炉によるシールドで行う。
レンさんは船とアトリエを行ったり来たりしながら、炉の調整を行っているらしく。
ロジーさんも、溶接を手伝うことがある様子だ。
「三つもあんな強力な炉を使うのか。 俺はドラゴンとの戦闘は見たことがないんだが、余程ヤバイ相手なんだな」
「ドラゴンが巨大な獣だとすると、他のネームドが子猫に見えるくらい強いです」
「それほどか」
「噂によると、ドラゴン並みの実力を持つネームドもいるらしいんですが……」
残念ながら、まだわたしはそんなのは見た事がない。
ともあれ、幾つかの注文を受けた後。
すぐにアトリエに戻る。
インゴットの加工はお手の物だ。
プラティーンはあまりにもたくさん加工したからか。声はこれ以上もないほどにクリアに聞こえる。
時間は瞬く間に過ぎていき。
膨大な量のインゴットから、大量の装甲板を造り。
やがて、貰っているタスクが全て完了したときには。
ソフィー先生から貰った期日まで、残り一週間にまでなっていた。
さて、予定通りなら。
これで船を動かせる筈だ。
港に出向いて、装甲板を納入する。
船はあらかた出来上がっていて。
イルちゃんとパイモンさんが、レンさんと一緒に船に入って、炉の最終作業をしているようだった。
装甲板を納入した後。
内部に入らせて貰う。
炉は三つ、連結するように並んでいて。船の内部は心持ち狭い。
前の装甲船は輸送が主任務だったのに対して。
此方は戦闘が主任務だ。
まあ当然だろう。
炉にシールドと、ブリッツコアが直結している。
ブリッツコアは複数を団子状に連結していて。
炉の大出力を利用して、一気に瞬間火力を出せるように調整してある。
魔術師も既に乗り込んでおり。
わたしが作った錬金術の装備を纏って、空気を操作する魔術を展開する予行演習をしていた。
シールドは船の前面に配置されているが。
これも炉から出力を供給できるようになっている。
炉稼働の予行演習を今何度か繰り返しているようだが。
まだブリッツコアの試運転は出来ずにいる。
まあそれはそうだろう。
造船所で、これだけ増幅したブリッツコアをぶっ放したら、それこそ跡形もなくなってしまう。
「何か手伝うことはありますか?」
「……そうね。 ちょっとこれを見てくれる?」
イルちゃんに呼ばれたので、様子を見に行く。
炉の部品の一つに、何となく不安を覚えるという。
見てみると、即座に理由が分かった。
鉱物が教えてくれたからだ。
「これはね、ちょっと圧力が掛かりすぎてるよ。 補強用に、部材を仕込んだ方が良いかも知れない」
「一目で当てたわね……」
「教えて貰っただけだよ」
「そうだったわね」
呆れたように頭を掻くと。
イルちゃんは、予備らしい部品の一つを取り出して。
魔法陣に影響を与えないように、炉に組み込む。
わたしも声を聞いて、問題が無いことを確認。圧力も、充分に分散させることが出来た。なお、原因はロジーさんが指摘していた品質の不安定さだ。だが、こればかりは仕方が無いとも言える。
炉があらかた仕上がった。
後は試運転だ。
潜行、浮上、それにそれぞれの機能確認。
全てが仕上がったら、ドラゴンとの決戦である。
気合いを入れて、最後の微調整に取りかかり、そして二刻ほどで完了させた。
まずは進水させる。
わっと声が造船所で上がる。
二隻目の装甲船だ。
無理もない。これほどの見るからに強そうな船、見た事も無いから、だろう。
さあ、此処からだ。
カイさんが舵を取り。
何人か乗り込んだ魔術師が、それぞれ術を展開する。
周辺がパノラマのように見え。そして船を空気が包む。
「よし、発進する!」
カイさんが、心底嬉しそうに言った。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい