暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、湖底へ

ぐっと船首を下向きに。

 

船が水面下へと向かう。

 

緊張の瞬間だ。

 

これだけの巨大船。

 

もしも浮上に失敗したら、どれだけの損失になるか知れたものではないし。何より湖底のドラゴンの実力は上級。

 

軛が解かれたら。

 

前に戦ったドラゴネアの比では無い化け物と、相手のホームグラウンドで勝負しなければならなくなる。

 

残り日数は多くない。

 

焦りを感じながらも。順番に、作業をこなしていく。

 

潜水していくと、濁りきった湖の惨状が分かる。

 

まああんな巨大な竜巻が好き放題に湖を掻き回し、水を空へとまき散らしているのだ。湖がどうなっているかは、言うまでも無いだろう。

 

渦は水中深くにまで達していて。

 

巨大な獣以外は、ほとんど魚も見かけなかった。見かけるとしても、薄暗い中、湖底などの水の流れが緩やかな場所で、身を潜めるようにして静かにしていた。

 

大きな獣の中には、悠々と湖底を泳いでいるものもいるが。

 

それでも、たまに渦に巻き込まれそうになると。

 

必死に離脱するべく動いているのだった。

 

あの渦が如何に凄まじい代物か。

 

竜巻による影響がどれだけ凶悪か。

 

一目で分かる。

 

「浮上開始」

 

「よっしゃ! 浮上ー、開始ー!」

 

レンさんの指示で。

 

カイさんが、舵を動かす。

 

かなり特殊な舵のようだけれども。カイさんは平然と、自由自在に動かしていた。わたしも側で見て、動かし方を習う。

 

実は今、あるものを考えていて。

 

それを作るためには、この船を改造するか。三番艦を作るか。悩みどころなのだ。

 

ぐっと船が斜めになり。

 

浮上を開始する。

 

緊張の一瞬だ。

 

周囲の水は泥のように濁っているが。これも竜巻が無くなれば、恐らくは大丈夫。問題はドラゴンだが。

 

それについても、恐らくは平気だろう。

 

今この船が搭載しているシールドは、前にドラゴネア戦でイルちゃんが使ったものとは比較にならない出力が出せる。

 

弱体化しているのなら。

 

上級のブレスにも、一撃陥落はしないはずだ。

 

ほどなく、船はしっかり上昇し。

 

水面に出た。

 

喚声が上がる。

 

すぐに炉を停止し、皆でチェックに掛かる。

 

緊張の瞬間だが。

 

強力なプラティーンの装甲で守られた船は、暴風雨にもびくともせず、小揺るぎもしなかった。

 

「ふむ、オーバーヒートはしていないな」

 

「次は戦闘用の機能試験ね」

 

「またもぐれば良いか?」

 

「お願い」

 

カイさんが頷くと。

 

炉にまた火を入れ。

 

すぐに潜水を始める。

 

水中でまずはシールドを展開。イルちゃんがシールドの状態を確認し、問題ない事を此方に告げてきた。

 

次はブリッツコアだ。

 

炎は水中では役に立たない。氷も自爆する可能性があるから避けた方が良いだろう。

 

そこで雷撃と物理衝撃を搭載してある。

 

雷撃に関しては、火力が薄まってしまう可能性もあるが。逆に広域に攻撃が出来るという利点もある。

 

そこで衝撃波が主力になる。

 

前を泳いでいる、巨大な頭足類に狙いを絞り。

 

ブリッツコア発動。

 

炉が目に見えて強い魔力の光を放つ。

 

強烈な負荷が掛かっているが。

 

炉がダメージを受けている様子は無い。

 

一瞬おいて。

 

ばつんと、凄い音が船の中にまで響いた。

 

収束した衝撃波が、前の方を泳いでいた、船と同サイズもある巨大な頭足類を直撃。一撃で内側から破裂した頭足類は、血を流しながら、渦に巻き込まれていった。

 

無言になる皆。

 

わたしは冷静に、ブリッツコアと炉を確認。

 

炉に使われている金属の声を聞く。

 

「……連続使用は控えた方が良いと思います」

 

「そうね。 一旦港に戻りましょう」

 

「よし、浮上する」

 

今のはフルパワーではなかった。だが、鉱物達は警告してくれた。フルパワーで使う事は勧めないと。

 

そうなってくると。

 

かなり考えて戦わなければならないだろう。

 

一旦水面まで出ると。

 

皆に乗り込んで貰う。

 

アングリフさん。カルドさん。レヴィさん。お姉ちゃんとツヴァイちゃん。ドロッセルさんとアリスさん。

 

オリヴィエさんら、フルスハイムの自警団員も乗りたがったが。

 

もしも彼女らまで死んだら、この街の避難誘導が出来なくなる。

 

最悪の事態に備えて。

 

彼女たちは残らなければならないのだ。

 

何人か乗り込んだ魔術師達は、青ざめている。

 

これからドラゴンと戦う。

 

錬金術によって作られた強力無双な装甲船とはいえ、この世界に住まうドラゴンの実力は、誰もが恐怖の権化として心に焼き付けている。

 

怯えないのは蛮勇だ。

 

それは決して良いことではない。

 

ドラゴネアと戦った時と比べて、今わたしと、周囲のみんなは。かなり戦力を上げているけれど。

 

それでも楽勝とはいかないだろう。

 

まして相手は弱体化しているとは言えドラゴン。

 

どこまで油断していいものか。

 

ふと気付くと。

 

足をぷらぷらさせながら、荷物の一つに。

 

ティアナちゃんが座っていた。

 

いつの間に。

 

だれも気付かなかった。

 

「はろー、フィリスちゃん」

 

「! いつの間に!」

 

お姉ちゃんがわたしとツヴァイちゃんを庇う。

 

だけれど、ティアナちゃんはによによしたまま、荷物から降りる。

 

「雇い主からついていくようにって言われてね。 保険だって」

 

「保険? 監視の間違いでしょう?」

 

「リア姉、大丈夫」

 

「……」

 

わたしが前に出る。

 

ティアナちゃんは満面の笑顔である。そういえば、腰に帯びている剣。声が聞こえる。間違いなくハルモニウム。

 

それもわたしが作ったのとは、比べものならない品質のものだ。

 

それほど長い剣では無いけれど。

 

多分この場の誰が持っている武器よりも破壊力がある。

 

何というか、のろわしい声が聞こえるのだ。

 

剣の威力を極限まで上げるために、様々な摂理を完全に越えた錬金術を施している形跡がある。

 

なるほど、人斬り包丁か。

 

今までティアナちゃんが帯びていた剣とは違う。

 

これが実戦用。

 

あまたの匪賊を「鏖殺」してきた、本物の人斬り剣というわけだ。

 

レンさんが咳払い。

 

彼女も公認錬金術師だ。

 

ティアナちゃんの禍々しい気配は分かるのだろう。

 

「良いのかしら?」

 

「はい。 湖底の調査を……開始してください」

 

さて、此処からだ。

 

ドラゴンがいつ現れて戦闘になるか分からない。

 

潜水できる時間は二日ほどと既に試算が出ている。それ以上になると、空気が悪くなるので、一旦浮上して空気を入れ換えなければならない。

 

アングリフさんが、ティアナちゃんに話しかける。

 

「なるほど、気配で分かったぜ。 お前が……鏖殺だな」

 

「ふふ、どうでしょ。 ただ今ちょっと戦闘モードに入ってるから、出来るだけ話しかけないでくれる、おじいちゃん」

 

「ふん、化け物が」

 

「人間なんてひ弱な存在じゃないし、化け物ってのは褒め言葉だね」

 

さらりと言うものだ。

 

確かに錬金術師の中には、アンチエイジングを駆使して、人間を超越している者もいる。ティアナちゃんは錬金術師では無いが、何しろソフィー先生の懐刀だ。どんな風に体を弄られていてもおかしくないだろう。

 

それに分かる。

 

今までによによとしていた、彼女じゃない。

 

全身から発している凄まじい殺気。

 

みんな強くなっているはずなのに。

 

それでも総掛かりでも勝てる気がしない。

 

だが、積極的にドラゴン狩りをしに来たようにも思えない。

 

本当に監視だけが目的なのか。

 

湖底にもぐる。

 

灯りの魔術を使用し、周囲を照らしながら移動開始。

 

何しろ湖底の上に水が濁りきっているのだ。

 

殆ど前が見えない状態である。船の進行速度も落とす。

 

至近距離でドラゴンと遭遇するかも知れない。

 

その場合、まずは一撃を叩き込まないといけないだろう。

 

「強い気配は感じないな」

 

アングリフさんが不可解そうに言う。

 

レヴィさんも無言で頷いていた。

 

ティアナちゃんはまた荷物の入った木箱に腰掛けると、足をぶらぶらさせ。ツヴァイちゃんと何か話している。

 

ツヴァイちゃんは頷いて応じているが。

 

多分あれは、相手の恐ろしさを理解出来ていない。

 

ただ、前からツヴァイちゃんとティアナちゃんは色々話をしていたようだから。

 

二人はある程度既知なのかも知れない。

 

とはいっても、あのティアナちゃんだ。

 

もしソフィー先生が、ツヴァイちゃんを殺せと命令したら。

 

一瞬の躊躇も無く手に掛けるだろう。

 

それがひたすらに怖いが。

 

それでも今は、これだけの強力な戦力を、計上して戦いに赴かなければならない。相手は何しろドラゴンなのだ。

 

渦の真下に到達。

 

いきなり巨大な魚に出くわす。

 

殆ど船と同等か、それ以上のサイズだ。口はそれそのものがくちばしのような巨大な牙状の構造で。

 

あれに噛まれたら、大概の生物なんてひとたまりもないだろう。

 

魚と一瞬のにらみ合いになったが。

 

やがて相手は、興味を無くしたのか、或いは未知の相手との戦いを避けたのか。そのまま体を翻して、去って行った。

 

つくづく思う。

 

直接もぐらないで良かった、と。

 

直にもぐってあんなのと遭遇していたら。それこそドラゴンとの戦いの前に、どれだけの打撃を受けていたか。知れたものでは無い。

 

「水の中は未知の世界ですね」

 

カルドさんが嬉々として今の魚のメモを取っていた。

 

この人はある意味マイペースで羨ましい事だ。

 

遺跡だけでは無く、珍しいものにも興味津々なのだろう。

 

わたしも、錬金術師である以上。

 

そのあらゆるものに興味を持つ姿勢は、見習わなければならない、とも思う。一方お姉ちゃんとレヴィさんは、ティアナちゃんを警戒しながらも、あの魚なら何人分の料理になるかとかを話していた。

 

そうする間にも。

 

ゆっくり船は進んでいく。

 

時々やはりとんでもなく巨大な獣と出くわす。

 

この湖の深部には、化け物が幾らでも住んでいる。

 

さっきの魚にしても。

 

連続で遭遇している獣たちにしてみても。いずれもが。弱めのネームドと同等か、それ以上の力はあると見て良いだろう。

 

呼吸を整える。

 

まだだ。

 

戦闘は最小限に。

 

ドラゴンと戦う事を前提に、戦力を保持しろ。

 

自分に言い聞かせる。

 

カイさんが舵を切る。

 

ツヴァイちゃんが、カイさんに告げる。

 

「半日経過なのです」

 

「……よし、一度浮上して、空気を入れ換える。 後五日だったよな」

 

「ええ。 湖の全土を回るとなると、かなりギリギリですね」

 

「そうだな。 なら一度浮上して空気を入れ換える間に、交代で休んでくれ。 この船は対ドラゴン戦を想定しているんだろう? 生半可な獣の攻撃程度じゃびくともしないし、安心して休んでくれよ」

 

判断が速い。

 

即座に浮上を開始し。

 

そして湖面で魔術を使い、纏っている空気の入れ換えを実施。その間、順番に睡眠を取る。

 

渦の中心から、ゆっくり回るようにして周囲を調べているのだが。

 

ひょっとすると、ドラゴンは意外に浅い所に潜んでいるのでは無いのか。

 

そんな不安も感じる。

 

だが、今まで装甲船(一番艦)が攻撃を受けたという話はない。

 

だとしたら、一体。

 

ドラゴンは、何処に潜んでいる。

 

一眠りして、次に。

 

この船には生活スペースもある。トイレなども当然完備されているし。排泄物などは後でまとめて処理出来るようにもしてある。

 

これは、外に出て排泄、などと言うことをしている余裕が無いし。

 

そのタイミングで襲われる可能性もあるからだ。

 

調理場もある。

 

お姉ちゃんが食事を作ってくれたので、皆で食べる。その間に潜行を再開し。そして、ゆっくり湖底を進む。

 

最初にパイモンさんが疑念を呈した。

 

「妙だな。 ドラゴンにして見れば、一番安全な場所がこの辺りだろう。 竜巻を起こすにしてもこの辺りが最適の筈だ」

 

「或いはフルスハイムを襲撃するつもりだとしたら、フルスハイムのすぐ側の湖底にいてもおかしくないんですけれど。 そこにもいませんでしたね」

 

「……フィリス。 そなたならどうする。 もしドラゴンで、フルスハイムを壊滅させるつもりならどう考える」

 

「ドラゴンは知性が無いという話ですし……でも」

 

ちょっとまて。

 

知性は無いかも知れないが。

 

ドラゴンは魔術を使いこなすし、戦術も知っている。

 

それはドラゴネアで確認した。

 

多分それは知性では無く。

 

この場合にはこう動くという、本能に起因するものだろう。

 

だとすると、考えられる可能性は幾つかある。

 

例えば、ドラゴンがいきなりフルスハイムに乗り込んだ場合。人間の激しい抵抗を受ける上に、大半を取り逃がしてしまうだろう。

 

ましてや湖底に住むドラゴンだ。

 

陸上性のドラゴンとは、性質が違う可能性が極めて高い。陸上で好き勝手に動き回れるとは思えない。

 

或いは動けるかも知れないが。

 

それにしても、いきなり真正面から襲うというのでは、「たくさん人間を殺す」という戦略上の目標を達成出来ないだろう。

 

更に言えば、だ。

 

この湖底に住むドラゴンは、まず竜巻を起こして、人間の動きを封じるという行動に出ている。

 

インフラの存在を知っているのだ。

 

多分本能だとは思う。

 

ドラゴンが人間を効率よく殺す方法を本能で知っているのなら。

 

どうやって襲えばいいのかは、把握しているのだろう。

 

それならば。

 

「まさか……」

 

「何か思いついたの?」

 

「ねえイルちゃん、もしも湖の水が、まとめてフルスハイムに襲いかかったら、どうなると思う」

 

全員が絶句する。

 

それはそうだろう。

 

わたしも気付いてしまった今、戦慄しているほどだ。

 

この巨大湖の水を武器として利用し。

 

津波なりなんなりを起こして、一気にフルスハイムに叩き付けたら。それこそ住民はひとたまりも無く全滅だ。

 

今までそれをしなかったのは、ソフィー先生が奴の力を押さえ込んでいたからだろうけれども。

 

それも時間切れが近い。

 

これはひょっとしてだが。

 

予想以上に状態はまずいのかも知れない。

 

アングリフさんも、冷や汗を掻きながら、パイモンさんに聞く。

 

「じいさん、もしも最大規模の津波を起こすのなら、起点となる場所は何処だと思う」

 

「そうさな。 フルスハイム反対側の対岸、フルスハイム東の湖底だろう」

 

「カイ!」

 

「おう、任せておけ!」

 

レンさんが立ち上がり、カイさんも冷や汗を掻きながら舵を切る。

 

船の速度は上げない。

 

湖底には訳が分からない巨大生物が多数住み着いているのだ。此奴らは爆弾を沈めて、衝撃波を叩き込んでやってもびくともしない可能性が高い。この船なら対抗できるだろうが、それでも消耗は避けられない。

 

すぐに移動開始。

 

そして、予定の地点に到着。

 

其処を起点に、周囲を探していく。

 

あっと声が上がったのは、それから半日後。

 

巨大な構造物が見つかったのだ。

 

湖底に沈んでいるそれは、神殿のようにも見えた。フルスハイムの信仰に関係する何かだろうか。

 

ともかく、船を近づける。

 

総員戦闘用意。

 

アングリフさんが叫び。

 

全員が緊張する中。

 

神殿らしきものは近づいてくる。

 

中からは、恐らくはどんぴしゃだろう。凄まじい魔力を感じ取ることが出来る。中に何か、凄まじい者がいる。

 

間違いなく。

 

ほぼ間違いなく例のドラゴンだ。

 

「神殿を空気の泡が包んでいる」

 

「……周辺を確認。 あの中にドラゴンがいる事は間違いないでしょう」

 

「よし……」

 

カイさんが、慎重に船を動かし、神殿の周囲を調べていく。

 

入り口を発見。

 

まるで入ってこいと誘っているかのようだ。

 

その間にわたしはイルちゃんとパイモンさんと一緒に測定を実施。そうすると、あの神殿はかなり深い所まで続いていて。その深部にドラゴンらしき魔力反応がある事が分かってきた。

 

なるほど、これだけ深い所にいれば。

 

湖の中に入っても、すぐには見つけられないわけだ。

 

それにしても戦慄する。

 

ソフィー先生は何度も繰り返したと口にしていた。

 

つまりその過程で、或いはフルスハイムが凄まじい大津波に押し流される「未来」も見たのかも知れない。

 

その時にはわたしも犠牲になったのだろうか。

 

勿論ソフィー先生が、ドラゴンに遅れを取るとは思えないけれど。

 

それでも、こんな所に潜んでいるドラゴンが起こした凶行を、最初の一発で阻止できたとは思えない。

 

知っていたとしても。

 

一度や二度でどうにか出来たかどうか。

 

わたしをけしかけたのは、この場所に気づけるからと信頼していた、というよりも。

 

気づくのを統計で知っていたから、ではないのか。

 

背筋が凍りそうになる。

 

まるで神の掌の上で踊らされている気分だ。それも邪神なんかではなくて、この世界の全ての理を司る本物の神。教会で信仰されているような創世の神。

 

まさか、ソフィー先生は。

 

本当にそれに近い力まで得ているのではあるまいか。

 

「どうする、そんなに深くに潜んでいるなら、主砲も届かないぞ」

 

「だったら、乗り込んでぶっ潰すしかねえだろうな」

 

アングリフさんが立ち上がる。

 

笑っているが。

 

凄惨な笑みだ。

 

これは、勝てるか分からないぞ。そう顔に書いている。

 

一応前回より遙かに格上の装備、戦闘用の物資は持ってきているが。それでもこの船で主砲を叩き込む事を最初から前提としていたのだ。

 

かといって、主砲を叩き込んだ後、相手が反撃してきた場合の事を考えると、あまり好ましい事態になるとは思えない。

 

ましてや神殿の奥に引きこもっている相手となると。

 

其処に何かしらの形で封印されている可能性もある。神殿が空気の泡で包まれている所からしても。

 

神殿そのものが封印の可能性は低くない。

 

それを主砲で撃ち壊すと言う事は。相当なリスクを背負うことになる。

 

気は進まないがやるしかない。

 

肉弾戦だ。

 

わたしも立ち上がる。

 

フルスハイム自警団の魔術師達も青ざめたまま立ち上がったが、彼らには残って貰う。最悪の場合に備えて貰う必要があるからだ。

 

レンさんは来るという。

 

フルスハイムの未来のため、だろう。

 

心強い。

 

「カイ。 半日待ってください。 もし我々が戻らなかったら、フルスハイムの全住民の避難を即時開始してください」

 

「いや、絶対に戻れ」

 

「勿論そのつもりです」

 

「……戻るんだぞ」

 

何となくだが。

 

カイさんがレンさんに気があることは前から分かっていた。アトリエにメアちゃんが出入りしていることからも、昔から親しい仲だったのだろう。

 

邪魔してはいけないな。

 

そう思ったわたしは、先に降りる。

 

神殿の中の空気はよどんでもいない。むしろ澄み切っているほどだった。

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