暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
嫌に足音が大きく響く。
神殿の中は非常に単調な構造で、長い長い坂が下に向けて続いている。こんな構造体が、どうして湖の底にあるのか。
どう見ても人工物だが。
錬金術の産物なのだろうか。
レンさんも知らない様子だし。
カルドさんも、興味津々の様子で周囲を見ている。
獣はいる。
だが、そもそも湖底で。
しかも空気がある場所。
本来なら、湖底に住むに相応しい巨大獣がいてもおかしくはないのだが。此処は本来の湖底とは環境が違いすぎる。
故にと言うべきか。
自然発生したらしい小物の獣ばかりが目立つ。とはいっても、あくまで湖底にいる化け物と比較しての話。どいつもこいつも、かなり強そうだ。
ツヴァイちゃんを内側に庇い、ゆっくり進む。最前列をアングリフさんが。最後列をアリスさんが固め。
イルちゃんはアングリフさんのすぐ後ろ。
真ん中にレンさんとわたし。
最後列にパイモンさんと、錬金術師は少しずつ離れて配置。
お姉ちゃんが、此方に興味を示して寄ってきた獣に威嚇射撃。追い払った。獣は、矢の威力を見て、一瞬だけ怯むと。
後は距離を取る。
逃げはしない。
つまるところ、弱るのを待つつもりか。
「片っ端から倒す?」
「止めとけ。 今は時間がない」
アングリフさんの声が上擦っている。
まあ当然だろう。
わたしにもびりびりと感じられるのだ。
凄まじい気配である。
湖底に住まう上級ドラゴン。
どうして空気がある神殿に入り込んで、神を気取っているのかは分からないが。封じられているとは言え、その実力は間違いなく上級。
本来力が落ちていなければ、この戦力で勝てる相手では無い。
わたしの右を歩いているティアナちゃんを一瞥。
単に見届け役として来ただろうこの子が。
少しでも働いてくれれば、楽にはなるだろうが。
どうせこの子は、単に言われて結果を見に来ただけだろう。
ティアナちゃんは少し皆から離れて歩いていて。
そして、皆の隙を突いてティアナちゃんに襲いかかった大きな蛇が、一瞬で首と胴体を泣き別れにされるのを見た。
振り向きさえせず、今の一閃をティアナちゃんは放った。
殺し慣れているのだ。
首から上を楽しそうに取り出した何かの袋に放り込むティアナちゃん。
袋が膨らんでいる様子は無い。
ソフィー先生に渡されている、何かの道具かも知れない。
「回収の時間はないわね。 もしも帰りに余力があったら」
「リア姉。 そろそろ……」
「ええ。 アングリフさん」
「ああ。 先に言っておくが、そろそろ敵も此方に気付く。 以降はハンドサインで指示を出す」
全員が頷く。
レンさんにもハンドサインについては打ち合わせている。
勿論ティアナちゃんも。
後は、無言になった。
空気が、徐々に重くなっていく。
迷いようがない単調な構造だ。周囲に獣はいるが、此方に仕掛けてくる相手は、問答無用で追い払う。
カルドさんは周囲の様式や、神殿の造りなどに興味津々だったが。
残念ながら、これを残したまま戦いを終えられるかは分からない。
とにかく、生き延びた後は、必死に装甲艦まで脱出するしかない可能性も高い。まず、全員生還。
それ以外、今は考えられなかった。
ひたり、と音がした。
吃驚するほど冷たい水が、床を流れている。
嫌な予感がする。
巨大な扉が、小さな流れの先にあって。
その扉は、近づくだけで、ゆっくり横にスライドしていった。
スライドするときに、かなりの量の水が、流れ込んできて、水たまりを作る。
そして、見る。
見てしまう。
奥には、巨大なそれがいた。
前に見たドラゴネアとは根本的に違う。
全身は蛇のように長く。
手足がある場所にはそれぞれひれがあり。
翼がある場所には一対の背びれがあり。
全身は傷だらけ。
そして、鎖のようなものが周囲から伸びて、ドラゴンの動きをある程度拘束しているようだった。
そして感じ取ることが出来るほどの魔力。
足が竦むほどの眼光。
弱っていてなおこれか。
「行くぞ……」
アングリフさんが言い。
そしてハンドサインで指示。
全員が頷くのと。
湖底のドラゴンが雄叫びを上げるのは同時だった。
その声は、猛々しいというのとも。禍々しいというのとも違う。
聞いた瞬間、戦意を根こそぎに奪っていく、というのが一番近いかも知れない。ともかく、体が理解させられる。
まともにやり合っても、勝てる相手じゃない。
本来は、だ。
だが、今は。
兎に角やるしかない。
最初にしかけるのはわたしだ。パイモンさんと連携して、同時にブリッツコアと雷神の石で速攻を仕掛ける。
空を走る紫電が、湖底のドラゴンの頭上から、周囲を漂白するほどの光と。薙ぎ払うほどの爆風を発しながら、打ち据える。
だが、湖底のドラゴンの青黒い鱗と。
それが纏っている桁外れの魔力が、貫通を許さない。
戦いが、始まった。
速攻。
最初から策は決まっていた。
お姉ちゃんが矢を連続で射掛け、カルドさんが巨大な長身銃で射掛ける。
同時にアングリフさん、ドロッセルさん、アリスさんが仕掛け。レヴィさんとイルちゃんは守りに入る姿勢を見せつつ。だがそれだけではなく、イルちゃんは叫ぶ。
雷撃を纏った巨大な大剣が六つ、うなりを上げながら回転し、巨大な竜へと襲いかかるが。
それでも、小さなナイフくらいに、相対的に見えてしまう。
邪悪なるドラゴンは、かあと口を開くと。
息を吸い込んでいく。
ブレスか。
違う。
吐いた息が、全員を押し返してくる。
それと同時に、強烈な倦怠感が全身を襲うのが分かった。
膝を突きそうになる。
今のは、恐らく魔術。
そもそも桁外れの力を持つ上級ドラゴンだ。
まともにやりあっても人間では勝てない。
勝つためには、錬金術の道具で武装したり。錬金術の道具で攻撃していくしかない。
つまりパンプアップをガチガチに掛けなければならない訳で。
それを殺しに来ている、と言う事だ。
ツヴァイちゃんは。
大丈夫、踏みとどまっている。
攻撃のタイミングは任せる。
ここぞの一発しか撃てないのだ。
わたしは続けて、衝撃波のブリッツコアを発動。
ドラゴンの顔面が、強烈な衝撃波に打ち据えられて、のけぞる。ほんのわずかだけ。
その間に接近したアングリフさんが、最初の一太刀を入れるが。
湖底のドラゴンは鎖に縛られながらも、ある程度は動けるようで。
ぐるうりと泳ぐようにして衝撃波を発生させ。
刃が鱗に食い込んだ直後、アングリフさんを吹っ飛ばす。
だが続いてドロッセルさんが、アングリフさんの影から切り込み。
同じ箇所に、斧を食い込ませた。
ハルモニウム製の武器ならば。
多少の傷はつけられる。
そしてそも傷だらけのあの様子。
再生能力は追いつかない。
立て続けにアリスさんが仕掛けるが、再び息を吸い込み始める邪竜。双剣が傷を更に深くしても、気にしている様子が無い。
連続して斬り付けて更に傷を抉っていくアリスさん。
お姉ちゃんとカルドさんが立て続けに矢を射掛け。
目を狙うが、いずれも眼球を貫通できていない。
この破壊力でもだめか。
レンさんが、束にしたオリフラムを放り投げる。
わたしも、イルちゃんも、それに合わせて大量のオリフラムを投げつけた。
全てがドラゴンの傷口付近で炸裂。
流石に身をよじるドラゴンだが。
次の瞬間、ついにブレスを放ってきた。
それは前に戦ったドラゴネアの、閃光そのもののブレスではなく。水のブレスだったが。
その代わり、水がとてつもない圧力を伴っていることが分かった。
イルちゃんとレヴィさんが展開したシールドが、一瞬で押し込まれ、その余波でツヴァイちゃんを抱きかかえたわたしはすっころばされる。
お姉ちゃんとカルドさんはバックステップしたが、イルちゃんとレンさんは間に合わなかった。
何だ、今のは。
水をただ圧縮して撃ち出すだけで。
あんな火力が出せるのか。
ドラゴンの下に、魔法陣が出現。
まずい。
でかいのを撃つつもりだ。
アングリフさんが仕掛け、後頭部に一撃を入れる。
剣が食い込むが、ドラゴンは体を振るうだけで、アングリフさんを吹っ飛ばしてみせる。
確実に傷は増えているのに。
ドラゴンは余裕綽々。
体が大きすぎる。
いや、それだけではない。
多分何か理由があるのだ。
ドロッセルさんとアリスさんは執拗に最初につけた傷に攻撃を仕掛け、傷を拡げていくが。
何しろ前に戦ったドラゴネアより三倍はある巨体だ。
どれだけ傷口を抉っても、切り裂いても、爆破してもきりが無い。既に肉が見えていて、何度も其処にわたしとパイモンさんが雷撃を直撃させているのに、少し怯む程度だ。肉を体内から焼かれても、気にもしていないのか。
再び、あの体を押し潰すような声をドラゴンが発する。
今度は、さっきより圧力が強い。
シールドを張っていても関係無い。
そうか、神殿の閉鎖空間が。
音を反響させているのか。
ソフィー先生は此奴を一人で黙らせて、今までの時間を作ったようだが。
どれだけの超絶的な力を持っているというのか。
お姉ちゃんとカルドさんが、口の中に攻撃を切り替え、連射。カルドさんは、まだハルモニウム弾を使わない。
敵がまだまだ余裕を持っているこの状況。
切り札を先に切るのは、負けを宣言するようなものだ。
わたしも続いて炎のブリッツコアを発動し、傷口を焼いてやる。ドラゴンの下にある魔法陣が、光り、何かの魔術が始動し始める。
まずい。
あんな巨大なドラゴンが、全力でぶっ放してくる魔術だ。
それこそフルスハイムを津波で潰しかねないような相手である。
弱体化しているとは言え、何をやらかすつもりか。
アングリフさんが、再び斬り付ける。
眼球に切りつけたが、目を傷つけられても湖底の邪竜は気にする様子も無い。体を振るって、反撃をするだけだ。
まてよ。
まさかとは思うが。
わたしは、威力を落とした閃光弾を放り投げる。
目を閉じて。
そう叫びながら。
炸裂する閃光弾。
だが、邪竜は、まるで平然としている。
それで分かった。
此奴、目なんて見えていない。音も恐らくは聞こえていない。痛みも感じていないのではないのか。
回復か何かに全力を注いでいて。
それで魔力波動か何かで、此方を察知しているのではあるまいか。
だとすれば。
イルちゃんの剣が、敵の傷口を抉っているが。それでも殆ど痛みを感じている様子が無いのも納得である。
お姉ちゃんの矢とカルドさんの大口径銃が、何度も口の中を抉っているが。それでも平然としているのも理解出来る。
痛みを感じていないのだから。
だとすると、あの魔法陣は。
わたしは、イルちゃんにハンドサイン。
困惑しながらも、イルちゃんは一旦大剣を引き上げ、まとめ上げると、それに魔力を集中させた。
反応する湖底のドラゴン。
大剣に、最大火力のブレスをぶっ放す。
一瞬にして、回転する大剣が押しのけられ、壁に叩き付けられた。
流石にハルモニウム製、一瞬で粉砕とは行かなかったが、へし曲がっている。凄まじい圧力だ。
「奴は此方を魔力で見ています! 目も耳も役に立っていません!」
「そういうことか」
アングリフさんが指示を切り替えてくる。
アリスさんとドロッセルさんは、傷口を深く深く抉れ。
他の全員は頭を、特に口の中を集中攻撃。
わたしも頷くと。
レンさんが用意したらしい、オリフラムの束を投げつけるのを見ながら。荷車に飛行キットを取り付ける。
ねじでセットするだけだ。
時間は掛からない。
「お姉ちゃん、カルドさん! レヴィさんも!」
周囲を見回すが。
ティアナちゃんはいない。
だが、後ろで激しい戦いの気配がある。
ひょっとして、邪魔が入らないように、後方を遮断してくれているのか。
荷車が敵に向かって飛ぶ。
ドラゴンの魔術が、そろそろ完成しそうになるが。
させるか。
わたしは前に作った、空中からばらまく誘導弾。はじけるおくりものを、荷車から一斉にぶちまける。
それは魔法陣に炸裂し、神殿を揺るがせるほどの大爆発を巻き起こす。
足下から爆破されたドラゴンは、今までに無いほど身をよじらせ、凄まじい雄叫びを上げるが。
何とかレヴィさんが防いでくれる。
だが、こっちをドラゴンが見る。
今の魔術を潰したのを、察知したか。
お姉ちゃんとカルドさんが立て続けに連射するが、口の中にどれだけ矢が突き刺さっても、奴は気にしない。
首筋を派手に切り裂いたアングリフさんにさえ、目を向けないほどである。
そのまま湖底の邪竜は。
まるでバネのように体を丸める。
アングリフさんが、全力で下がれとハンドサインを出す。
だが、遅い。
回転しながら、衝撃波を放ってくるドラゴン。
全員が吹っ飛ばされ。
或いは壁に叩き付けられ。
わたし達の乗っている荷車も、天井に激突、飛行キットが破損しかけ、更に壁にも叩き付けられた。
直接体当たりしなくても、この火力か。
ブリッツコア。
まだいける。
ドラゴンは此方を見て、ブレスの態勢に入っている。
だが、その口を、雷神の石から放たれた雷撃が貫く。
ドラゴンがわずかに体を反らし、ブレスが天井を叩く。
凄まじい衝撃に、天井に亀裂が走る。
やはり分かっていたが。
此奴に暴れさせ続けると、多分この神殿が崩落する。
それにだ。
また、足下に魔法陣を展開。
さっき以上の速度で、魔術を練り上げ始める。
まずい。
体をどれだけ傷つけても意に介する様子も無い上に。
何よりも反撃がいちいち重い。
そうなると、手段は一つしかない。
一撃で黙らせる。
これだ。
荷車を必死に操作しながら、アングリフさんに叫ぶ。聞こえていないのなら、言っても言わなくても同じだ。
「最大火力を、急所に叩き込むしかないです!」
「分かっているっ!」
さっきから、皆の攻撃は確実に効いてはいるのだ。
だが、ここぞという決定打が入らない。
奴は回復さえしている様子はないが。
その代わり、何をしても動きが殆ど止まらない上に、攻撃がどれもこれも一撃必殺級ばかりだ。
またブレスを放ってくる。
イルちゃんのシールドが、粉砕され。
血反吐を吐いたイルちゃんが、吹っ飛ばされて床に転がる。
立て続けに衝撃波を放ってきて。
わたしが荷車を動かし盾になって、レヴィさんがシールドを展開。だが、ツヴァイちゃんやパイモンさん、レンさんは守れたが。荷車の飛行キットは完膚無きまでに破損、吹っ飛ばされた。
地面に投げ出されそうになるが。
傷だらけのお姉ちゃんが抱えて、受け身を取ってくれる。
わたしはその状態のまま、フルパワーでブリッツコアを発動。
湖底の邪竜の傷口に、雷撃が立て続けにねじ込まれるが。
それでも奴はまだまだ余裕を見せて動いている。
流石は上級か。
傷口の肉は焼けている筈なのに。
イルちゃんが立ち上がりながら、叫ぶ。
「アリス!」
「分かりましたお嬢様」
着地したアリスさんが。
何か外す。
同時に、剣が稲妻を帯びた。
多分、生体魔力を雷撃に変えて、剣に纏わせる道具だ。つまり消耗を考えず、一気に攻めると言うことだ。
だが、衝撃波を連発してきているドラゴンに、アリスさんもアングリフさんも、ドロッセルさんも満身創痍。
いや、だからか。
もう時間がないから、一気に決めるというわけだ。
わたしも、覚悟を決める。
ブリッツコアを複数まとめる。
全て雷撃で行く。
それを見て、パイモンさんも、残る全魔力を雷神の石に投入し始める。
レンさんは、頷くと、恐らく最高傑作らしい巨大なオリフラムを取りだし。
ドラゴンが、濁りきった目で、じっと此方を見た。
吠え猛る。
足が竦みそうになる。
だが、耐え抜く。
アングリフさんの全身から、凄まじい闘気が迸っている。
ドロッセルさんも、呼吸を整える。
総員、総攻撃だ。
これで勝負を付ける。
もし倒せなかったら。
此方が敗れるだけだ。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい